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2022.04.15

WEB3時代のファッションブランドは?
コンシューマーではなくプロシューマーブランドと協力者が深く繋がるWEB3時代

アパレルウェブ「AIR VOL. 57」(2022年3月発刊)より

SPECIAL INTERVIEW

 

日本ブロックチェーン協会
(JapanBlockchainAssociation)
事務局長
上野 直彦氏

 

doublejump.tokyoCEO
上野 広伸氏

 今回のSPECIAL INTERVIEWでは、WEB3やブロックチェーン技術の最前線で活躍する識者の方々に疑問をぶつけていきます。1人目は日本ブロックチェーン協会(Japan BlockchainAssociation)事務局長の上野直彦氏です。日本ブロックチェーン協会はブロクチェーンの認知度向上など日本におけるブロックチェーンの普及を目的としている協会です。そして、もう1人はdoublejump.tokyoCEOの上野広伸氏です。doublejump.tokyoはFT・ブロックチェーンゲーム専業開発会社として、MyCryptoHeroesなどのブロックチェーンゲームの開発や、NFTの発行販売やゲーム、メタバース連携を支援するNFT事業支援サービスNFTPLUSを提供するなどWEB3をビジネスとしてサービス提供している企業です。WEB3がファッションビジネスに与える影響は何かをお聞きました。

WEB3×ファッション

変化するのはコミュニティ

最初に、日本ブロックチェーン協会(以下、JBA)の活動や取り組みについて教えていただけますでしょうか。

JBA上野氏:

 JBAの取り組みは、大きく3つに分類できます。1つ目はブロックチェーンの認知度向上です。ブロックチェーンが日本経済の発展を支える仕組みの一つとして普及、発展するために企業、生活者への啓蒙活動に取り組んでいます。2つ目は企業と企業とを繋ぐビジネスマッチングです。例えば、ある業界がブロックチェーン技術をビジネスに転用したい場合、技術面に関する情報を提供するだけでなく、ブロックチェーン技術に長けた会員企業の紹介をするイメージです。3つ目は若手起業家・技術者の育成です。毎年2回「ハッカソン」というエンジニアがチームを組みIT開発技術を競い合うイベントや、「アイデアソン」というビジネスモデルのプランニングを競い合うイベントを開催し、技術者の育成に注力しています。これらは、日本をブロックチェーン技術、ビジネス面で先進国にしたいという目的を達成するためのアクションとして取り組んでいます。

日本をブロックチェーン技術、ビジネス面で先進国にしたいという目的のもと活動しているJBA(日本ブロックチェーン協会)

最近のWEB3に関するニュースの本質や、WEB3を取り巻く環境についての見解をお聞かせください。

doublejump.tokyo上野氏:

 マスメディアでは、“非中央集権”というキーワードでWEB3が表現されているケースが多いですよね。技術的な側面から説明すると、WEB3では、ユーザーのログイン情報や取引内容が、単体企業の機能や仕組みに依存せずユーザー自身による情報管理となりますので、特定の企業から情報が漏洩するなどのリスクが減少します。この仕組みを実現させる手段として、ブロックチェーン技術が活用されています。他にブロックチェーンを活用した技術としては、NFTとメタバースが今注目を浴びています。

 一方、ユーザー目線でどう変化するかというと、WEB3時代に突入することでプラットフォーマーよりユーザーの方が大きな力を持つようになると思います。ユーザーがプラットフォーマーに依存しない仕組み、概念がWEB3なので、プラットフォーマーによるルール設定はありません。まずユーザー側のコミュニティが存在して、そのコミュニティに受け入れてもらうために、プラットフォーマーや企業の方からユーザーへアプローチするという流れになっていくのではないでしょうか。つまり、ユーザー間でのコミュニティ形成がより自由になっていくということです。

ユーザー主体のコミュニティとは、従来のオンラインサロンやクラウドファンディングとどのように異なるのでしょうか?

doublejump.tokyo上野氏:

 ここでいうコミュニティには、全員が意思決定権を持ち、階層のないフラットな組織という特徴があります。また「プロセスマーケティング」の考え方があり、完成品を売るのではなく、完成までの過程もコミュニティに開示し、コミュニティの意見を反映しながら作り上げていくこと自体をブランドの価値とする、という手法が取られますが、オンラインサロンやクラウドファンディングでもよく目にする傾向ですよね。この「プロセスエコノミー」におけるユーザー母体のことを「コミュニティ」と言っているに過ぎず、実は従来と概念は大きく変わりません。ただし、デジタルの方がモノを作る手間が省け、配送コストが圧倒的に安いもしくはゼロに近くなる点が従来と異なるメリットと言えます。また、トークンを介した柔軟なインセンティブも設計しやすいです。

プロデューサーと消費者が融合したプロシューマーが増える!?

doublejump.tokyo上野氏:

 トークンエコノミーは手法としては確立していないのですが、現時点(2022年2月時点)でさまざまなトライアルが行われています。例として、個人でブランドAを立ち上げるとします。ブランドの立ち上げには、商品づくりからプロモーション、WEBサイトの制作まで多くの工程がありコストも発生します。そこで、トークンエコノミーにおいては、ブランドは協力者にリターンとしてトークンを配布します。

 トークンは将来的にブランドAの価値が上昇した場合、NFTマーケットプレイスで売れて価値が発生する可能性があります。実は、ブランドと協力者は、現金など形あるリターンより価値が変動しうるトークンで繋がる方が、より深く繋がる可能性を秘めているんですね。行動経済学では、友人に引っ越しの手伝いを頼む際、現金を渡すより食事をご馳走する方が、より働いてくれるという実験例があります。現金を渡すと仕事になってしまい「○円分の仕事だからこんなもんだろう」という心理が働くからです。

 トークンを介することで、経済合理性もありながら、ボランティアのような繋がりが生まれます。この両側面を併せ持つことがトークンエコノミーの特徴です。クラウドファンディングの協力者は基本的に出資するだけですが、トークンエコノミーにおいては、デジタル世界でまだ会ったことのない人と共にブランドを創っていくことが可能になります。もちろん、ある程度ブランドが育ってくると単なる消費者も増えてきます。しかし、いわゆるコンシューマー(消費者)ではなくプロシューマー(プロデューサーと消費者を組み合わせた造語)によって形成されるのがトークンエコノミーにおけるコミュニティではないでしょうか。

double jump.tokyoが運営するNFT事業支援サービス「NFTPLUS」。

ブロックチェーンゲームの開発、NFTの発行・販売、ゲームとメタバース連携を支援

WEB3にはメタバースやNFTも関わってくると思いますが、メタバースとNFTは今後ファッション業界においてどのような役割を果たすのでしょうか。

doublejump.tokyo上野氏:

 まずメタバースが台頭することで、今後はリアルファッション市場よりもデジタルファッション市場の方が大きくなると思っています。現時点でも、アート業界やゲーム業界に続いて、1番早くNFTやメタバースを取り入れたのはファッション業界です。リアルのファッションでは、ユーザーの体型や身長によって自分の好きなファッションを存分に楽しめない場合もありますが、メタバースでは、顔と体型はパラメーターに過ぎないですよね。物理的な制限のないメタバースでは、ユーザーはデジタルファッションを通して個性やアイデンティティに沿った好きなファッション、体型、外見を自由に表現できます。一方で、ユーザーが自由に個性を表現できるがゆえに、目立たないと自身のアバターが埋もれてしまう、周りと区別できないという要素もあります。そうした場合にデジタルファッションがカギになると思います。従って、大量に出回っているファッションだとメタバースの世界では区別がつかないため、自分なりのファッションを確立し、それを示し続けることが非常に重要になってきます。これが、リアルファッション市場よりデジタルファッション市場の方が大きいと考える理由です。

 NFTに関しては現在、GAFAを筆頭としたプラットフォーマーが提供するメタバースがあるとして、それぞれのプラットフォームで決められたルールや技術仕様により、ユーザーは購入したデジタルファッションを複数のプラットフォームを横断して使用できません。ユーザーからすると、1つのデジタルファッションをいろいろなメタバースで自身のアバターに着せたいというのが普通だと思いますが、現行の仕組みでは難しい場合もあります。

WEB3時代へのアダプト

まずはNFTからスタート

doublejump.tokyo上野氏:

 そこで、メタバース、NFTに対して、ファッション企業がどちらを先に取り入れるべきか、という議論が発生するのですが、どちらかというとNFTになると思います。前述したように、メタバースを展開しているプラットフォーマーは独自のシステムや仕組みで構築しているため、アバターに着せるデジタルファッションは各プラットフォームの独自の仕様に依存する場合が多いです。利用者が多い人気のメタバースなら、そのメタバースに出店したいファッション企業は指定された仕様に沿ったデジタルファッションを開発するのが理想ですが、メタバースの仕様ごとにファッションデータを開発することは時間や予算の面から現実的には難しいケースも多いです。一方、NFTの場合、特定の企業のメタバースに依存せずに、中立的でセキュリティ性の高いブロックチェーン上で管理されています。そのため、ブロックチェーンに保存されてさえいれば、将来新しいメタバースが登場しても仕組みやデータ形式を合わせることで適応させることができます。海外の高級ブランドも、このようなNFTの技術が持つ柔軟性に可能性を見出し、積極的にNFTに投資していると思います。

ブランドビジネスにおいては、コミュニティが大切という根本的な部分は変わらないですね。

 

doublejump.tokyo上野氏:

 結局、技術的な側面が変化しているだけで、ブランドストーリーやコミュニティをどのように形成していくかという取り組み自体は変わらないですね。特に、メタバースにおける最大の商材はファッションだと思っています。さらに言うと、メタバースの中でデジタルファッションを消費するアバター(ユーザー)ですね。現在、国内のWEB3関連市場はまだ小さいとはいえ、完全にマスアダプションに到達したタイミングの参入ではすでに遅いんです。波に乗るためには波が来る前に沖に出ておかないといけないと言うように、先見性を持ち、デジタルファッション市場には適切なタイミングで飛び込んだほうが良いと思っています。大きな波が数年以内に必ず来ると断言できる業界ですからね。

 

一般社団法人日本ブロックチェーン協会の公式サイト:https://jba-web.jp/

double jump.tokyo株式会社の公式サイト:https://www.doublejump.tokyo/

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