PICK UP

2022.03.24

【2022秋冬東京 ハイライト3】世界でシンクロするムーブメントをキャッチ 進化と深化を続ける東京メンズ

 世界における優位性が高いと言われて久しい東京のメンズコレクションシーン。2年にわたるコロナ禍による世界との分断はデザイナーの世界進出を阻むものではあったが、皮肉にも東京のローカリティを醸成し、東京のメンズデザイナーたちの成長を促したようだ。欧州メンズで先行して発信された新たなルックが、日本のマーケットにフィットするようなルックに変換された。それは決してトレンド追随ではなく、デジタルなどを通じて世界でシンクロし進化したものだ。

 

 その中で核となるのがユースなエレガンスであろう。欧州メンズのラグジュアリーなエレガンスでなく、ストリートやアンダーグラウンドな視点で再編集したものだ。またエフォートレスなテーラリングも、日本らしいサイズ感とレイヤードで新たなルックに変換されている。そして東京ならではストリート系ブランドも進化しており、アートなテーマやテーラリングアイテムを取り入れて、知的な大人の表情をみせるコレクションも見られた。

 

ベッドフォード(BED j.w. FORD)

 「ベッドフォード」は“ファッションショー”という表現形式の次世代を見据えた。文化庁「日本博主催・共催型プロジェクト」と経済産業省「産業高度化推進事業」によるブランドサポート拡大事業の対象として、ARやVRを活用したショーを実施。クレッセント社の4Dボリュメトリクス撮影技術(世界初の商用ボリューメトリクスキャプチャシステム)を用いたコンテンツとして、ランウェイ横のQRコードで読み取れるAR映像やVRを体験できるブースを用意した。会場となった品川・WHAT CAFÉは、通常のようなファッションショーとは異なり、ランウェイとバックヤードが一体になったようなセッティングで、来場者はその中を自由に歩きまわってAR映像などを鑑賞するスタイルがとられた。

 

 そうした賑やかな雰囲気に包まれる中、おもむろにモデルが集まりフィジカルショーはスタート。“I am rooted but I flow.”をシーズンテーマに登場したルックは、先ほどまでスマートフォンで見ていたものと全く同じものだ。落ち着きのある「ベッドフォード」らしいタキシードスタイルから始まり、ユーズド感のある星形キルティングのパンツや中の素材が透けるスポーティーなナイロンジャケット、ノーカラーシャツまで幅広く提案。下に流れるラフなイメージのピースが目立った。

 

 終盤にかけては刺激的なビビットカラーも多数登場。サーモンピンクの変形ブルゾンのほか、マーブル柄が描出されたファーコートにはブーツカットのレザーパンツを合わせた。今シーズンもフラワーの装飾をあちこちに散りばめ、“変わることを隠さずに、変わらない詩を謳いたい”というデザイナー、山岸慎平のステートメントが垣間見えるファッションショーとなった。

アポクリファ(APOCRYPHA.)

 播本鈴二デザイナーが手掛ける「アポクリファ」はランウェイショーを開催。“THE TWILIGHT”をテーマに彼者誰時(かわたれどき)の妖艶な記憶を表現した。

 

 ショー開始は夜8時。会場の大きな窓から差し込むビル街の灯りだけを頼りにモデルが登場した。洋服はほぼ見えないという斬新なショーの始まりだが、これはデザイナーの「雰囲気やシルエット、夜の艶っぽさのニュアンスを感じ取ってもらいたかった」という意図によるものだった。真っ暗な中登場したのはブランドの定番商品で固めたスタイリングだったという。

 

 その後ランウェイにライトが照らされて新作が登場。バイピングが効いたサテンのような生地のセットアップとガウンはエレガントなパジャマを連想させる。薄明時を表したという対極の色を用いて織ったシャンブレーのトレンチコートは光の加減でゆらゆらと揺らめくような輝きを見せた。シャギーなニットに大胆に描かれた桜は「私を忘れないで」という花言葉からインスピレーションを得た。

 「コレクションの着想は、日本の純文学を読んでいた時の性の描写から得た」という播本デザイナーの言葉通り、テーラードスタイルにハーネスをつけたり素材の落ち感で気だるさを表現したり、Vゾーンを強調することでセンシュアルな雰囲気を出したりと、色気のあるコレクションとなっていた。

シンヤコヅカ(SHINYAKOZUKA)

 「ヴィンテージというよりかはアンティークのような感覚」と語ったデザイナーの小塚信哉のバランス感覚は、1910年頃に活躍したイギリスの挿絵画家、ヒース・ロビンソンへの徹底したリサーチに基づいたものだ。“IF I WERE HEATH ROBINSON(もし僕がヒース・ロビンソンだったら)”と題したコレクションには、シニカルなものをあえて大袈裟に描出するという、ロビンソンの風刺画のような逆説がいくつも隠されていた。

 

 アンティーク調の少しくすんだ金や銀、赤などを用いたルックは、一見すると小塚デザイナーが言う「ガチャガチャしている」と捉えられてしまうかもしれない。しかし、コートの裏地側にポケットを付けたり、プリーツの中や襟の下などに金色のハンドペイントを施したりと、ロマンティックな仕掛けをいくつも隠し持っている。これまで、“見えない物事をイメージする”行為の豊かさを大切にしてきた「シンヤコヅカ」だからこそたどり着ける境地だ。「結局、一つの物事に情報量がぎゅっと詰まっているのがミニマルだと思う」とも述べた小塚デザイナーのファッション感覚は、ゆっくりと洗練され続けている。

コンダクター(el conductorH)

長嶺信太郎デザイナーが2017年に立ち上げた「コンダクター(el conductorH)」は、品川プリンスホテルのイベントホール「クラブeX」でショーを行った。

 

 タイトルは“LOVE”だが、憎悪や嫉妬、恨みなどの感情がテーマになっている。そのような感情は時として強すぎる愛の裏返しとして表現されたり、一瞬にして愛が憎しみに変わったりすることもある。そんな表裏一体の危うさや儚さ、葛藤や苦しみを美しさとの対比でコレクションに反映させたという。広いホールの天井に吊るされた風船がショーの途中に割れてハート型の紙吹雪が降ってくる演出もテーマを如実に表現していた。

 

 アイテムは、般若や有刺鉄線などをモチーフに取り入れたバロック柄のボウタイシャツや、パールのバイピングを施したスタジアムジャケット、フェイクファーを用いたツートーンのファーコートなど、エレガントながらもパンクっぽさを感じさせる。ブランドが得意とするミックスツイードのセットアップは、今シーズンベルトとジップがついたボンデージ仕様で紡ぎだした。

リトルビッグ(LITTLEBIG)

 先シーズン初のランウェイを開催した「リトルビッグ」。今回は初のRFWT公式参加となった。ショーは渋谷を象徴するスクランブル交差点のすぐそば、東京都渋谷区の「SHIBUYA TSUTAYA」屋上で行われた。

 

 今シーズンのテーマは“ジェネレーション”と“ユース”。渋谷の混沌とした雰囲気と多様性を表現。ショーはモデルだけではなく、渋谷や原宿で働く人をキャスティングするなど、リアルな渋谷と時代の空気感を大事にした。

 

 ヤンキーやスクールガール・ボーイなど、馬渡圭太デザイナーが18歳で上京した頃の90年代から2000年代に流行したキーワードを用いて現代風にアレンジ。ブランドの象徴であるテーラードジャケットは、ショルダーコンシャスで立体感を出したり、クロップドやペプラムを用いたりするなど多様な表現を繰り広げた。

 

 先シーズンショーを開催したことで、海外からの引合いを含めよりビジネスでも広がりを見せたという「リトルビッグ」。今後の活躍が期待される。

シュウマン(SYUMAN.)|アニムス(Animus.)

 デザイナーSYU.が手掛ける「シュウマン(SYUMAN.)」と今シーズンローンチするウィメンズレーベルの「アニムス(Animus.)」がオフスケジュールで合同ショーを行った。会場は渋谷の「or MIYASHITA PARK」。

 

 今シーズンのテーマは両ブランド共通で“Listen to your Eyes”。東京カルチャーを表現するブランドらしく、ショーの音楽は「シラップ(SIRUP)」、「エイミー(AAAMYYY)」、「シン サキウラ(Shin Sakiura)」が手掛け、会場で生演奏を披露した。

 

 披露されるアイテムは時代の流れを汲んだエレガントなストリートスタイル。スポーティなフーディーやナイロンパーカー、クロップドのネルシャツからシャツやネクタイまで色を合わせたセットアップまで、オリジナリティあふれる表現で多様性を表現した。メンズ・ウィメンズでブランドが分かれているものの、同生地を使用したアイテム(メンズではシャツ、ウィメンズではドレス)を発表するなど、ユニセックスにも着られる提案が見られた。

アバンギャルドとストリート系は独自性を追求

リコール(RequaL≡)

 「新しさとは何だろうか」の土居哲也デザイナーのそんな疑問から始まった「リコール」の2022秋冬コレクションは、①新品と中古品、②真実と嘘、③機能性の再編集という3つのキーワードから構成した。

 

 ランウェイショーの会場は屋外。スペインの海岸沿いで行われていた雑多なフリーマーケット会場をインスピレーションに、コレクションのテーマでもある“新しいファッションマーケット”を創り上げた。

 

 古着を二次加工し「古さと古さ」を掛け合わせることで、これまでになかった新しさを表現できるのではないかと、土汚れ、青かび、雨染みといった50年、100年と経過したような風合いを敢えて表現した。継ぎ接ぎを大きなステッチで紡いだスウェットやジャケット、使い古した絨毯を服にリメイクしたようなスカートとプルオーバーなど古さの中にある美しさを見事に紡ぎあげた。古着のネルシャツを何枚も何十枚も使用したようなドレスは、ショーの最中にモデルに着させるという演出も行い強いインパクトを残した。

 

 そして「真実と嘘」を表現するハイブランドの「フェイク」アイテム。蚤の市で売られる偽物のアイテムが「その場所の空気感も相まってなぜかかっこよく見えてしまった」と、ロゴを似せたアイテムをあえて作ったという。このシリーズは実際には販売される予定はないが、今後コラボレーションができれば、と土居デザイナーは話した。

 

 そして3つ目のキーワード「機能性の再編集」という意味では、枕は枕、スカーフはスカーフといった固定概念を覆すことで新しいデザインを生み出すことに挑戦した。シャツを何枚も使用したスカートやぬいぐるみのようなセットアップ、帽子とマフラーが一体になったアイテムなど斬新なアイテムも多数見られた。

ネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS)

 BiSHなどの音楽プロデューサーとしても活躍する渡辺淳之介デザイナーが手掛ける「ネグレクトアダルトペイシェンツ」はランウェイショーでコレクションを発表。テーマは“TAKE the NAP(NAPはブランドの頭文字でもある)”。ランウェイには布団が敷き詰められ、何人かの観客がランウェイ沿いに設置したベッドから観覧するというユーモアのあるショー形式となった。

 

 今シーズンはブランドらしいパンクロックの要素と、デザイナーが過ごしてきた80年代や90年代ストリートの要素が組み込まれた。ウォッシュドデニムのセットアップやジャージ上下、制服のようなブレザーなどが登場。そこにポップなプリントのTシャツやロゴアイテムを合わせるのがブランド流。チェックのジャケットやライダースなどはテーマの通り、どこかパジャマを感じさせるようなディテールも見られた。

アヴァロン(AVALONE)

撮影:ウエハラガクト

TOKYO FASHION AWARD 2016 受賞の三浦進デザイナーが手掛ける「アヴァロン」は非公式スケジュールでインスタレーションを開催。“小宇宙-microcosmos-”をテーマに、ブランドらしいスポーツ×ストリートウェアに宇宙服のようなディテールを取り入れた。

 

服の中に空気を含んだような立体的なシルエットが特徴的。ブルゾンはなだらかな肩のシルエットとは対照的に袖口にかけて大きく弧を描いていく。裾に向かって大きな広がりを見せる袴風パンツはコレクションに華やかさを添えた。

 

ドローストリングと立体的なポケットを付けたパンツやヘルメットのようなフードがついたダウンジャケット、肘まである大きなミトングローブは宇宙服を彷彿とさせる。

 

 モノトーンのイメージが強い「アヴァロン」だが、今シーズンは鮮やかなブルーや宇宙服を思わせる艶のあるグレーが印象的であった。

 

文:アパレルウェブ編集部、編集:山中健

 

コレクション 東京
https://apparel-web.com/collection/tokyo

メールマガジン登録