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2022.03.23
【2022秋冬東京 ハイライト2】人気デザイナーのカムバックで盛り上がるウィメンズコレクション
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今シーズンの楽天ファッションウィーク東京のフィジカルショーが増えたのはウィメンズブランドのフィジカルショーを行うケースが増えたことがあげられる。東京のファッションウィークにおいてウィメンズデザイナーは長らくミセスプレタとユニセックスなストリート系ブランドに分化していた。中堅に育ったデザイナーが、海外に発表の場を移し、東京でのショーを取り止めるケースが多いのものその要因であった。しかし、今シーズンは、フィジカルショー初開催となる「ベースマーク」、ブランドを改名して初ランウェイとなる「タナカフミエ」の他、「ノントーキョー」「ピリングス」らがランウェイショーを行い、盛り上がりを見せた。
各デザイナーが発表したコレクションは独自性を追求するものが多いが、ジェンダーフリーというマクロトレンドによりユニセックスの提案や東京のストリートに広がる70年代風やビンテージミックスなど時代への目配せを感じるコレクションも目立った。アイテムでは2021秋冬シーズンにヒットアイテムとなったニットが引き続き人気。新世代の大人層をターゲットとしているデザイナーでは、エフォートレスから造形的なルックに移行するケースも多く、独特のシルエットを描くドレスやコートなどが魅力的に映るシーズンでもあった。
フミエ タナカ(FUMIE TANAKA)
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「フミエ タナカ」は「恵比寿ガーデンプレイス センター広場」でショーを行った。今シーズンのテーマは“Area 23”。23は、田中文江デザイナーにとって自身の名前を表す(「2=ふ」「3=み」)大切な数字で、この場所にみんなが集まってショーができたこと、そしてコレクションに携わってくれたみんながくれた勇気に対しての感謝をこの言葉に込めたという。
コレクションは荘厳で美しく、見る者の感動をさらった。ブランドらしいエキゾチックでシックな雰囲気はそのままに、よりエレガントに、複雑に、そして華やかに紡ぎだしていた。ハンサムなダブルのセットアップはパワーショルダーで強さを、そしてカットの入ったパンツの肌見せでセクシュアリティを表現。ロングドレスはブランドらしいフラワーパターンやモチーフで、シアーを用いて軽やかさを演出した。印象的なのは髪の毛を用いたようなフリンジアイテム。ストレートヘアと編み込みをミックスさせたフリンジで、スカートやベスト、ドレスを紡ぎだし大きなインパクトを残していた。
ショーのフィナーレではランウェイにそろったモデル全員が夜空を見上げる演出。平和への祈りを込めた。ショー終了後、目に涙を浮かべた田中デザイナーは「今この瞬間、この場所でショーができることの幸せをみんなで嚙み締めたかった。大変な世の中で、何もできない自分がもどかしいけど、一秒一瞬でもみんなで心を一つにしたかった」と語った。
ベースマーク(BASE MARK)
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金木志穂デザイナーがニューヨークで立ち上げた「ベースマーク」がブランド初となるランウェイショーを開催した。会場は東京都千代田区の「レストランアラスカ(RESTAURANT ALASKA)」。キャンドルの光に照らされた暗い会場ではダイニングテーブルにグラスやカトラリーを用いた奇妙な装飾がされ、妖しい雰囲気で、テーマである“シュールレアリスム”を表現した。
コレクションはブランドが得意とするテーラードアイテムのパターンアレンジは残しつつも、よりストリート感の溢れる表現となった。目の錯覚を起こしそうな長い袖やTシャツがデコレーションとしてフロントに取り付けられたプルオーバー、カーディガンをケープやストールのように用いたスタイリングなど、オリジナリティがさらに進化したように見えた。また今シーズンの特徴としてポップなプリントやモチーフ、パターンが挙げられる。ロープを使ったアートのような装飾、迷路や虫のようにも見える曲線のグラフィカルなプリント、アニマルモチーフなど、ブランドとしての新しい表情を見せてくれた。
ハイク(HYKE)
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吉原秀明デザイナーと大出由紀子デザイナーが手掛ける「ハイク」は、オンラインでコレクションを発表。ブランドコンセプトは“服飾の歴史、遺産を自らの感性で独自に進化させる”。今シーズン、冒頭に登場したのはアート作品のようなスクエアが描かれたシリーズ。ブラックをベースに白い線が印象的なテキスタイルのドレス、スカート、パンツなどを提案した。そして目を引いたのはブランドとしては珍しいチュールのアイテム。深い青を用いたドレスのスリットからのぞくチュールがピュアな女性の美しさを描き出していた。
また、昨シーズン発表されて先日の販売では当日のうちにソールドアウトした「ポーター(PORTER)」とのコラボレーションは今シーズンも継続。今シーズンは巾着型が販売される。カラーはベージュ、カーキ、ブラックと「ハイク」らしいカラーが揃っていた。
ミントデザインズ(mintdesigns)
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ブランド立ち上げから今年で21年目の「ミントデザインズ」は、アメリカ生まれの彫刻家、イサム・ノグチの作品からデザインを着想。彼の制作を後追いしながら、そして楽しみながら、「形」についてのアイデアを得たという。
“NEW FORM”と題したコレクション。まず、イサムノグチの晩年の作品や便座カバーといった日用品まで、あらゆる物に紙を被せて造形物を作る。次に、納得のいく形ができたところでそれをパターンに落とし込む。このようなアプローチで製作したという。
テキスタイルについても抽象的で、”まだ形にならないイメージ”のようなものを求めて、彫刻作品のざらざらした質感だけではなく、アトリエの壁の風合いまでもアイディアリソースとした。
クリーンな世界観が特徴のムービーでは、紙や不織布で制作したモックアップを背後に映り込ませ、“形”が出来上がるプロセスを想起させるものに仕上げた。
チノ(CINOH)
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オンライン発表の「チノ(CINOH)」は、これまでのフラットなデザインから一歩踏み込み“自然の中にある不規則さ”をヒントに表情のあるアイテムを揃えた。色合いや表面感の豊かさは、「最近の効率性重視の考え方と自分のクリエーションを結び付けてしまう部分があった」と話すデザイナー、茅野誉之の心境の変化が大きく影響しているようだ。
プレスイベントでは、シンセティックレザーに刺繍とパンチングを施したレースのような生地、色分けをして先染めをすることで奥行きのある印象を持たせたベルベット、縮絨する接結糸を用いて少し凹凸感のあるブランケットのような仕上がりの生地などを紹介。カラーパレットは土をイメージしたブラウンを基軸に、ターコイズブルー、ピンクをチョイスし、全体を通して畑の畝(うね)を思わせるリラックスした雰囲気に仕上げた。
ピリングス(pillings)
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会場に吊るされた「規律正しい」グランドピアノと「現実」を意味するストレートランウェイ、そしてその間に挟まれる「人間像」。「ピリングス」は、日々生きづらさを感じる愛おしい人たちを応援するためのニットコレクションを発表した。
きっかけは周囲の人たちから得た。「僕、自分でもニットの学校をやっていたり、ここの学校で講師をしていたりするんですけど、その学生の子たちって環境にハマり切れずに居場所を探そうとしているなと感じていた」と話す村上亮太デザイナーは、これまでの「愛おしいニット」を制作するという思いから一転して、「愛おしい人」を作ろうという意識に変わったという。
ラインナップは、アイルランドのアラン諸島発祥のアランセーターが中心。漁に出る夫の無事を願う妻の祈りが込められたセーターと同じく、道に迷わないようにという意味を持たせた。中でもユニークなピースとして、手仕事を感じさせる昆虫のモチーフを付したもの、例えば、社会性昆虫の蟻や名も無いカナブーンなどには全て、メタファーとしての「人間像」を重ね合わせたという。トップスを強調させる変形のボトムスは、引き裾のスカートのように見えるが、実はデニムパンツなどを捻って作ったもので、可動域が狭い中でも前進するイメージを美しく現してみせた。
ノントーキョー(NON TOKYO)
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“デビュタント(DEBUTENT)”とは、貴族文化における社交界デビューのことを指すフランス語由来の言葉だが、今回コレクションアイテムを初めて制作した「ノントーキョー」にとってもそれはぴったり当てはまる。下北沢のエンターテインメントスペース、アドリフト(ADRIFT)で行われた“デビュタント”は、ステージ上に整列していたモデルたちが順番にランウェイに降り立つという形で開催され、空間を隔てる透明なフィルムがピュアな心を象徴的に表現していた。
ブランドの哲学として掲げる「ロマンティック ギア(ROMANTIC GEAR)」を具現化するように、登場したルックは総じてボリューミーでサイケデリックだ。透明感のあるシアー素材を多用したティアードや翼のようなスリーブなどが目を引く。同ブランドが得意とするヴィンテージミックス感に加え、エレガントなデザイン、アイテム、部位、シルエットが際立つコレクションだ。今回はコラボレーションアイテムも豊作で、手塚治虫による少女漫画「リボンの騎士」、ストリートブランド「ニューエラ(NEW ERA)」、アイウェアブランド「バディオプティカル(Buddy Optical)」とのコラボレーションアイテムも発表した。
卓越したクリエーションで輝きを放つ実力派新進デザイナー
タナカダイスケ(tanakadaisuke)
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コレクションブランド「タナカダイスケ」は、オーセンティックな服作りでランウェイデビューを果たした。田中大資デザイナーは大阪文化服装学院卒業後に「ケイタマルヤマ(KEITA MARUYAMA)」に入社し、2021年にブランドを設立。現在は衣装制作や刺繍作家としても活躍している気鋭デザイナーの一人だ。
今シーズンは発表した21体のうち6体がメンズルックという構成。全体にわたって大ぶりなジュエリーやティアラ、コサージュなどの装飾具を多用し、フリルやチュールレースで伝統的な女性らしさを演出していた。また、女優の橋本愛がゲストモデルとして登場し、キラードレスをまとってランウェイのラストを飾った。新たに手がけたメンズルックにおいても、クラシカルなパイソン柄を取り入れたセットアップや田中デザイナーが得意とする刺繍をいたる所に施したスーツスタイルなどが登場した。
なお、ショー終了後に田中デザイナーは「今まではルック写真などの点で見せていただけでしたが、今回は線で見せることができました。またショーをしたいと思っています」とコメントした。
ペイエン(PEIEN)
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1日履いた靴下の跡のように、外側から見えないものを見つめ直し、自分の外に表し出すこと。初コレクションとなる「ペイエン」は、“インターナル(internal)”をテーマに現代人の内なる強さを表現。インスタレーションで発表した。
特筆すべきはバラエティーに富んだニットだ。身体が透けほどのローゲージニットを用いた有機的なピースやアームホールのようなディテールを残した肩掛け、凹凸感のあるロング丈スカートからコンセプチュアルなヘッドピースまで。コレクションでは多様なニットをフェイクレザーやエナメル素材と組み合わせて「ペイエン」らしいミックススタイルを提案した。
ニットは伊澤直子デザイナーが一つ一つ編み上げたもので、会場内には実際に使用している編機も展示された。ほかには、一度仕上がったアウターを分解して裏地や芯地、目印といった“インターナル”な部分を見せるデザインなども散見された。
メグミウラ ワードローブ(MEGMIURA WARDROBE)
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アウターウェアブランド「メグミウラ ワードローブ」の三浦メグデザイナーはエスモードジャポン東京卒。2016年にTokyo新人デザイナーファッション大賞入賞、ブランドを設立。2021秋冬シーズンのリブランディングを経て、エイジレス、ジェンダーレス、ボディポジティブをキーワードに、羽織るだけで360度美しいコートを提案している。
今シーズンはさまざまな人々の「色」が交差するイメージからカラーパレットを構成。キーパターンも同じ理由で、伝統的な格子柄をチョイスした。ボンディングウールを中心としたデビューコレクションとは異なり、日本の四季に合わせて、秋の立ち上がりから冬の終わりまで着用できるポップなデイリーウェアに仕立てた。
文:アパレルウェブ編集部、編集:山中健
コレクション 東京
https://apparel-web.com/collection/tokyo