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2016.07.27

VRからフィッティングまで NYメンズを盛り上げる体感型サービスあれこれ

 この7月の開催で3シーズン目を迎えた「ニューヨークファッションウィーク:メンズ」(NEW YORK FASHION WEEK : MEN’S)。今シーズンもニューヨークメンズ・デー(NYMD)をキックオフに、4日間に渡りメンズウエアのコレクションが発表されました。

 今回もスカイライト・クラークソン・スクエア(Skylight Clarkson Square)をメイン会場とし、今年6月にオープンしたばかりのキャデラックのショールームが第二会場となり、ランウェイやプレゼンテーションが開催されました。

デザイナーのサポート・育成を続けるニューヨークメンズ・デー

 インダストリアスタジオで毎シーズン開催されるNYMD。新進気鋭のデザイナーや、主催者であるAgentry PR により選ばれた新たなブランドを中心に合同プレゼンテーションでコレクションを発表しました。

 

  今季は会場に入ると、スポンサーである米国生まれの靴の老舗ブランド「ジョンストン&マーフィー(JOHNSTON & MURPHY)」がユニークな展示を行っていました。160年以上の歴史を持つアメリカの紳士靴ブランド。1850年より米国大統領の靴を作り続けている証を今回展示という形で見せていました。ミラード・フィルモア大統領のために作ったカスタムデザインの靴をはじめ、靴のサイズが14インチ(35.56cm)もあったと言うアブラハム・リンカーン大統領の靴や、もちろんオバマ大統領の靴なども。ファッションを語るに欠かせない靴というアイテム。歴代の大統領のセンスもうかがえ、ちょっとした博物館気分が味わえました。現在、「ジョンストン&マーフィー」のウェブサイトで特設ページが開設されていますので、是非ブランドの歴史のビデオをご覧になってみてください。 NYMDでは、新進気鋭デザイナーや主催者が発掘する新たなブランドを中心に、午前の部、午後の部で12ブランドがコレクションを発表。なかなかショーを開催できない小さなブランドにとって、合同プレゼンテーションという形でも、メディアへの露出、バイヤーへのアプローチが出来る貴重な機会を提供し続けています。

テキサス発「ジェイ・ヒルバーン」のポップアップ店舗も

 直販のビジネスモデルでカスタムシャツやスーツ、ニット類などを展開する、テキサス州ダラスで誕生したメンズウエアブランドの 「ジェイ・ヒルバーン(J. HILBURN)」。 ファッションウィーク期間中にトラックを改造したポップアップストアをスカイライトクラークソンの会場からほど近い場所で開催しました。2007年に創設したこのブランドは、今回のニューヨークでのポップアップを皮切りに、テキサスやシカゴ、ミネアポリス、フィラデルフィア、ボストン、ロサンゼルス、デンバーなど全米30カ所以上をこのポップアップトラックで回るそうです。今回のポップアップでは、「TAPE」と呼ばれる新たなオンライン・フィッティング・テクノロジーを活用し、お客様から提供して頂いた情報をもとにカスタムシャツのサイズを割り出すサービスを導入したそうです。

 

 ジェイ・ヒルバーンでは、全米に広がる専属の“スタイリスト”たちがお客様の自宅やオフィスを訪れ、カスタムのシャツやトラウザー、スーツや装飾雑貨までを販売するサービスを行っています。現在は拠点があるダラスそしてニューヨークのマンハッタンにもショールームを持つまでに成長。ポップアップを開催するたびに新規の客を獲得し、スーツやスポーツコートといった商品が一番人気で売れるのだそうです。

サービスも満タン!アマゾンの販促ブースに注目

 引き続き「ニューヨークファッションウィーク:メンズ」をスポンサーするアマゾン。 昨シーズンのシンプルなラウンジスペースとは異なり、モバイル片手に走り回るエディターたちに嬉しいチャージステーションを用意しました。

 「Fuel Up(燃料補給)」と書かれたガソリンスタンドは、冷蔵庫の機能があり、その下に付いた引き出しには、グルテンフリーのエナジーバーやスナック菓子をストック。豊富に用意されたプラグでスマフォをチャージしながら、無料配布のジュースやお菓子で体もチャージできるというサービスは、アマゾンというしっかりとしたスポンサーが付いているからこそなのだと感じます。

 

 会期中何度も利用させてもらったこのチャージステーション。ドリンクはココナッツウォーターとコーラなどの炭酸水が無料配布されていましたが、チャージしている間に観察していて分かったのは、思った以上にココナッツウォーターを手にする人が多かったこと。男女問わずファッション業界にはヘルスコンシャスな人が多いようです。

 一方、スティック状の専用キーにあるボタンを押すだけで、アマゾンからその商品が送られてくる、便利なサービス「ダッシュ・ボタン(Amazon Dash)」のブースもありました。米国では2015年3月にローンチしたダッシュ・ボタン。いかにスムーズに購入が完了できるか、よく考えられたサービスです。

 

 コレクション会場ではサービスの登録を行うことは目的ではなく、あくまでもサービスを知ってもらう場として設置。サービスについては知っていたけれど、利用するまでに至っていない私の様な人にとっては、改めて使ってみようかなというきっかけを作っていた様に感じます。

旬のウェアラブル「VR」でデザイナーの世界観を体験

 「ファッション」と「テクノロジー」の部分で今シーズン気になったのは、「ニューヨークファッションウィーク:メンズ」の主催者であるアメリカファッション協議会(CFDA)とサムスン(Samsung)がパートナーとなり実現された「Samsung Runway TakeoVR」のブース。サムスンのウェアラブル「Gear VR」を使用して、「ニューヨークファッションウィーク:メンズ」で発表する新進気鋭のデザイナーたちの世界観を360度、リアルな形で知ることでエクスクルーシブコンテンツを体験することが出来ました。

 サムスンと言えば今年2月にマンハッタンのミートパッキング地区に「Samsung 837」と呼ばれるショールームをオープンしている。コレクション期間中には、「Samsung 837」でもイベントを開催するなどしてメンズファッションを盛り上げ、こうした最新のテクノロジーをいかにファッション業界でも取り入れることが出来るのか、良いデモンストレーションになっていたと思います。

 

  「ニューヨークファッションウィーク:メンズ」全体の感想を言うとするならば、バイヤーの来場者は少しずつ増えてきている印象を受けるものの、メディア取材の数はまだまだ集客に苦戦しているように感じます。その代わりに今の時代を感じさせるのは、10代や20代と思われる若い男性の来場者が多かったこと。SNS上でのインフルエンサーとして招待されているのかもしれませんが、最大のマーケットであるミレニアル世代の獲得を意識している米国のマーケットとしては、こうしたファッションに関心の高い若者たちにショーを通じてアプローチするというのは効果的なのかもしれません。 まだまだ課題の多いニューヨークのメンズショーではありますが、世界中でファッション業界がいまひとつ元気がない中だからこそ、ファッションやカルチャーの発信地であるニューヨークらしい、言わばメンズファッションの中心イベントとして今後も頑張って欲しいと願っています。


 

RINA  

R I N A

90年代の米国がネットバブルだった頃に米国にて日本向けのファッションポータル事業にコンサルタントとして関わる。

 

以降、「ファッション」と「インターネット」上で行われるビジネスを中心とした事業に15年ほど携わり、Web製作やディレクション、ビジネスのコンサルタントを行う。現在は米国のファッション事情やトレンド、ファッションとIT関連を中心とした執筆、今までの経験と知識を活かしビジネスサポートも行っている。

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