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2016.07.20

個性打ち出す東京 便利さ重視の大阪――東西の商業施設を考える

 今回は少し趣向を変えて、東京と関西で商業施設に共通点があるのかどうか、はたまた違うところだらけなのか、考察してみる。このテーマを思いついたのは単純な理由で、先日、久しぶりに東京・吉祥寺へ行ったからだ。一番住みたい街ランキングで上位に名前が挙げられている場所である。JR吉祥寺駅前の雑多な街中を歩いていると、なるほど適当にカジュアルで住みやすそうだと感じたのだが、そこでふと、この街に似たところが関西にもあるだろうか? という素朴な疑問に思い至った。じゃあ一度、まとめてみようと考えた次第である。

街の個性が明確な東京

 東京の業界仲間に教えてもらったことだが、概して東京の主要な街には個性があり、訪れる客層もある程度、決まっているという。曰く、渋谷は若者の街、原宿はティーンエージャー、銀座や新宿、丸の内はOL・キャリア・・といった具合である。また、街とは言えないかも知れないが表参道はラグジュアリーブランドの路面店が集積しているため、観光客をはじめ幅広い客層が訪れる。秋葉原は言わずと知れた、サブカルの中心地である。二子玉川は高感度でハイソサエティーなイメージだが、上野や池袋は雑多な街という印象が強いし、現に関東の方からそのように聞いている。つまり、何か買いたい、飲食やレジャーを楽しみたいと思った時、東京ではそれに適した街があるということなのだろう。

 

 とあるアパレル企業が出店しようと考えた時、そのブランドの個性とターゲット層に見合った場所を選ぶのは当然だが、こうして街の個性が明確だと、そのブランドをどの街へ出店すればいいのか、簡単な判断基準になる。最近の例では、今春グランドオープンした銀座の「東急プラザ銀座」や新宿の「ニュウマン」がその典型例だろう。これも同じく東京の業界関係者に教えていただいたのだが、いずれの施設も“働く女性をターゲットにした商業施設”とのこと。タイミング良く、オープン直後に両施設を見て回ることができた。「東急プラザ銀座」は高感度でラグジュアリーなテナントを中心に集積していた。一方「ニュウマン」は、ラグジュアリーというよりも高感度とトレンド性、デーリーユース、実用性を重視しているように感じた。両施設に共通した要素は、多様性。飲食や雑貨類もふんだんに盛り込んだ、アパレル一辺倒ではないところである。飲食を見ても、東急プラザ銀座は上質で高級な路線、ニュウマンは「ブルーボトルコーヒー」に代表されるようなトレンド性を重視している。

 

  先ほど触れた吉祥寺は少々異なり、特定の客層を集めるというよりも、住む街として認識されているようだ。都心部から電車で30分ほど離れていて、お買い物に行く街というよりも住む場所といった色合いが強いからだろう、幅広い分野のお店が集まっている。個性派の飲食店も少なくない。・・ちなみに関西では、西宮市(兵庫県)が住みたい街ランキングの常連である。ここは吉祥寺と異なり、山の手で裕福な地元客が多い地域である。中心になっているのは、阪急百貨店をアンカーテナントにする「阪急西宮ガーデンズ」。阪急電鉄・西宮駅から立体の遊歩道で直結されている。

ワンストップショッピングが魅力の大阪

 翻って、関西の主要都市はどうだろう。東京、関東に比べ、コンパクトな関西。大阪から京都まではJRの新快速で30分、同じく神戸(三ノ宮)までは20分で移動できる。20-30分と言えば、東京都内では山手線の端から端まで移動するのにかかる時間である。東京の方がかなり広いのである。そうした環境の影響もあるのだろうか、関東の人は割と長距離移動も、お店で待つことも苦にしない印象がある。“いらち”(せっかちという意味の関西弁)な大阪人はそうはいかない。余談だが、関東人と食事に行った時のこと、「すぐそこ」と言えば大体何分くらいを意味するかという話題になった。関西では大体5分くらいと答えると、関東は10分くらいだった(名古屋人と話しても同じく10分という回答だった)。

 

 閑話休題・・。梅田や心斎橋、なんば、天王寺といった大阪の主要な街は、基本的に“ワンストップショッピング”である。街に個性――梅田はおしゃれ、なんばはカジュアル、天王寺は下町――といったイメージはあるが、訪れる客層=年齢層が決まっているわけでもない。最も分かりやすいのが梅田。JR大阪駅を中心に、東へ行けばヤング・カジュアルになり、西へ行けば高感度・ラグジュアリー系になる。東梅田は原宿・渋谷のような茶屋町で、「エスト」や「ヘップファイブ」といったファッションビルがあるし、大阪駅の北側は「グランフロント大阪」や「イーレ」といった大型商業施設が集積する。西梅田には「ハービス」を主体にラグジュアリーブランドが集まる施設がある。中心を少し外れると、「ヌー茶屋町」や「イーマ」といった個性派商業施設が点在する(といっても徒歩10分圏内だが)。大阪駅ビルには大丸梅田店が入り、駅のすぐ東側には阪急うめだ本店がある。通りを隔てた南側には、現在建て替え工事中の阪神梅田本店が店舗を構えている。梅田の端から端を歩いても、15分もあれば走破できてしまう。おまけに梅田は地下街が発達しているので(導線の80%が地下)、地上出口の場所を把握してしまえば、かなり便利な街なのである。

 

 また、前出の「東急プラザ銀座」や「ニュウマン」のように、特定の客層に絞り込んだコンセプトの商業施設は、関西ではあまり見当たらない。ヤング向け、キャリア向け、ニューファミリー向け、インバウンド向け・・こうした施設は思い浮かぶのだが、明確に働く女性向けと銘打ったところは――私の不勉強もあるが、ないと思う(働く女性もターゲットにした施設は数多い)。しいて言えば、地下街の「ディアモール大阪」か、「阪急三番街」か、「ルクア」の東館か(いずれも梅田地区)。「エスト」や「ヘップファイブ」は対象年齢が若い。これは単純に考えれば、街に個性があり、訪れる客層もある程度、決まっている東京の街だからできることなのかも知れない。もちろん、人口が多いので色々、試せるという面も大きいだろうが。

共通したテナントは多いが、売り場編集とターゲット設定が異なる

 東京は概して、街に個性があり、訪れる客層もターゲット層も明確である。そのため、専門性を高めた売り場編集の商業施設が造りやすいと考えられる。おまけに面積が広いし、人口も多い。大阪では難しいマニアックな編集でも、採算がとれてしまうこともあり得るわけだ。その半面、吉祥寺のようなベッドタウンは大阪的な構成になる。生活に必要な幅広い商材が求められるためだ。

 

 大阪は東京に比べてコンパクトな都市で、移動もそれほど苦にはならない。人口も東京ほど多くはないため、一カ所に集積するスタイルの方が合っている印象を抱く。梅田は地下導線が強く、路面立地が少ないので、路面店を出すなら心斎橋を選ぶケースは多いようだが、基本はワンストップショッピングである。 東京と大阪で――個性派テナントを除けば、共通したテナントは多い。一方で、街の特性が異なるため、売り場編集とターゲット設定が大きく異なる観は強い。商業施設も地域間競争――と言われて久しいが、距離感と人口が充分の関東に比べると、関西の方がその競合も激しいのではないか。以前、関西出身のSPA企業の社長に聞いた話。「関西では100%の力を出さないと売り上げを確保できないが、関東ではその半分の力で売り上げを確保できる」らしい(今は状況が変わっているので、関東でも厳しいのかも知れないが)。

 

 久しぶりに吉祥寺の街を歩いたら、こんなコラムになってしまった・・。頭の整理にもなったので、良しとしようか。それにしても、所変われば、である。商業施設の在り方も東と西でずいぶん異なるようだ。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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