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2022.01.06
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.78】ジョイフルで健やか 心躍る色と柄、生命力を装いに~2022年春夏ファッションの6大トレンド~
2022年春夏シーズンのコレクションでは、パーティーシーンの復活を予言するかのように、色と柄をジョイフルに躍らせた。素肌の露出を増やして、健やかなビューティーの価値をあらためて語りかけている。長い時間軸を見据えた装いとして、服飾文化をロングスパンでとらえ直す試みも広がっている。その一方で新たなおしゃれの担い手を呼び込もうと、Z世代向けの提案を押し出してルックを若返らせた。ソーシャルグッド意識の高まりに目配りして再利用やロングライフへの取り組みをアピールしているのも新シーズンの目立った動きだ。
◆ジョイフル・パーティー(Joyful Party)
まるでパーティーに繰り出すようなハッピー感を押し出したアグレッシブなモードが帰ってきた。気分はジョイフルでエモーショナル、そしてプレイフル。これまでの楽観を突き抜けて、グラマラスなまでにあでやか。装う愉楽を色や柄で打ち出し、生命力や解放感をまとう。全体を包むキートーンは「ポスト・コロナ」を願う気持ちだ。
ブライトカラーのワンピースや、総柄のパンツといった、パンチの利いた装いが勢いづく。ドレッシーニットやソフトスーツもしなやかな華やぎを添える。ラメやサテン系のきらめき素材がパワフルな着映えに誘う。ネオンカラーやオレンジ、イエロー、ピンク、グリーンも彩りをパワーアップ。トロンプルイユモチーフやストライプ柄がファニーなスパイスを投入。おしゃれパーティーは今までの2年間を取り戻す勢いだ。
◆ボディー・ヘルシー・センシュアル(Body Healthy Sensual)
健康的なボディーラインや素肌を強調する装いが盛り上がる。「ヘルシー×セクシー」の掛け算的な味付けだ。エロスを遠ざけた、センシュアル(官能的)でありつつ、リュクスでスポーティーなムードが新しい。象徴的な演出はチラ腹見せや、ミドリフ(横隔膜)丈のクロップド丈トップスをキーアイテムに使った着こなし。肌露出がフレッシュな着映えを生む。
肌見せスポットはウエスト以外にも、オフショルダーやベアバック、カットアウトで広がる。深めのスリットはレッグラインをシャープに演出。アンダーウエアを最も外側に着るスタイリングも現れた。「セカンドスキン」と呼ばれるボディースーツは新趣向のボディーコンシャスだ。タンクトップ・ワンピースやホルターネックが身体性を強調。ウエストシェイプを利かせたシルエットも復活しそうだ。
◆Y2K・カムバック(Y2K Come-back)
2000年頃のLAセレブ風ファッションを指す、ガーリー寄りの装い「Y2K」が華々しくカムバックを果たす。キーテイストはチアフル、パワフル、ユースフル。かつてのLAセレブはアッパー感があったが、ネオ・Y2Kでは元気感がアップ。Z世代を意識した、若々しくアクティブなムードが持ち味だ。
ミニスカートやミニ丈ドレスがコンパクトなシルエットを切り出す。ショート丈ジャケットやベスト(ジレ)も小気味よい着映え。ブラレット(ブラトップ、バンドゥ)はチャーミングな部分肌見せを叶える。ボトムスの主役はローライズ。かつての「腰穿き」よりもクリーンな着こなし。ブーツ、厚底靴、グラディエーターサンダルが足元に強さやタフ感を添える。パフスリーブやティアードなどのディテールは装いに初々しいムードをもたらす。
◆クラフト・オーセンティック(Craft Authentic)
ミニマル寄りの装いが表情に深みを増す。シルエットはスタンダードでありつつ、素材やディテールにツイストを利かせるのが新テイストの見どころ。ウィットやユーモアを忍び込ませて、コンサバティブな見え具合を遠ざけている。ビジネスカジュアルの広がりを受けて、スーチングが進化。ブラトップを組み込んだ新顔のスリーピースも試される。
コンフォートを望む意識を背景に、エフォートレスでノンシャランなウエアが支持を広げる。性別を問わないブレザーが復権。スラウチなスリークシルエットが広がる。アシンメトリーな丈違い袖や波打つスカラップ裾で動きをプラス。刺繍やクロシェ編み、レースがハンドクラフト感を寄り添わせる。ストラップ靴、彫刻的シューズは足元にドラマを仕掛ける。
◆タイム・ワープ(Time warp)
過去にも1980年代あたりの焼き直しは相次いだが、タイムレス志向を追い風に、新シーズンでは時間軸が格段に広がる。もはやイメージソースは無限。ヨーロッパの王朝時代まで引っ張り出されるほどだ。「ウイルス禍がなかった時代」を懐かしむ気持ちから60、70年代もリバイバル。時代感が入り乱れ、クラシックとトラッド、レトロが交差、同居。ヒストリーの多様性がタイムレスなムードを呼び込む。
スカートの腰からヒップにかけてを過剰に膨らませるボーン入りパニエは王朝の貴婦人を思わせる。ウエストを絞るコルセット、背中側の床に垂れるトレーンも復古。60、70年代からはフレアパンツ(バギージーンズ)が再来。プレッピーやウエスタンも息を吹き返す。モチーフではチェック柄(ハウンドトゥース、ギンガム)、ポルカドットが有望だ。
◆ナチュラル・コンシャス(Natural Conscious)
SDGsやサステナビリティー、エコの流れを受けて、自然とのつながりを深める動きが一段と強まる。遠出を封じられてきた反動も手伝って、海や山へのリゾート気分が濃厚に。天然繊維を用いたナチュラルな風合いも支持を得る。アップサイクルは加速し、デッドストックや古着の掘り起こしが進む。スタイリングのムードはチル(まったりくつろぐ)やコージー(居心地よさ)などが重視され、リラックス感が強まる。
以前から続くアウトドア、ワークウエア、スポーツのテイストは勢いが続く。ビッグアウターやチュニックでのどかなシルエットに。スイムウエアを街着に生かす提案も登場。スポーツサンダル、ビーチサンダルも街に飛び出す。花柄、植物モチーフが装いにピースフルな生命感をまとわせる。
全体にエナジーや多幸感が注ぎ込まれ、ファッションのよろこびを歌い上げる。ロングトレンドのジェンダーレスやシーズンレスはさらに浸透。スタイリングの自由度が高まる。コロナ禍の現実は先行きに不安を残すが、「ポジティブなおしゃれから時代をプラスに切り替えていこう」と呼び掛けるかのような提案は、期待感も込めて広く受け入れられそうだ。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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