PICK UP

2021.12.09

徹底したローカライズの果てに、頭一つ抜けた存在になるため中国の生鮮食品市場に参入したプラダ!

アパレルウェブ「AIR VOL. 52」(2021年10月発刊)より

 

 2021年9月27日、プラダが生鮮食品市場を上海でスタートさせました。中国現地では、開始まで「フェイクニュースではないか?」など懐疑的な意見が多く、あまり話題になっていませんでしたが、スタートをすると直ぐに大きな話題となりました。ラグジュアリーブランドが高級レストランやカフェを展開する事例は多数ありますが、自社で生鮮食品市場を運営するケースは極めて珍しいです。現地ではこの新事業が、自社のブランド価値を落とすリスクがあると懸念される声もあります。なぜこのタイミングなのか、そして一見本業と関係がなさそうな事業に参入したのか、その理由について迫ります。

徹底的にローカライズされたプラダの市場

 最新の決済資料によると、プラダの2021年1~6月の売上は、中国 市場が前年比+77%となりました。この成長率は世界の中で最も高く、中国市場はプラダにとって重要な市場となっていることが伺えます。プラダを含め、Dior(ディオール)、Gucci(グッチ)などのラグジュアリーブランドが中国市場へ初めて進出してから10年以上経 過しており、ラグジュアリーの市場は拡大しているものの、ブラン ドの施策は同質化が進んでいます。

 

 例えば、中国市場向けの限定商品の発売、WeChatのミニプログラムによるコミュニティの形成、TikTokの中国版「抖音」での情報発信、有名ライバーを起用したライブコマースの活用などです。同質化する取り組みの中、中国で数多く存在するラグジュアリーブランドの中から頭一つ抜けるため、プラダが出した答えは「徹底的に中国の文化、生活に寄り添う」というものでした。そして具体的なアクションとして「生鮮食品市場の運営」という施策で勝負に出ました。

生鮮食品市場内の様子

 プラダが運営する生鮮食品市場は、約2,000平米を超える面積に、約50のブースが同居する市場となっています。1階には野菜や魚介類が並び、2階ではシェフが軽食をその場で提供しています。ラグジュアリーブランドが運営する生鮮食品市場なので、価格が高い商品が並ぶと想像されていましたが、実際には上海の一般的なスーパーマーケットと価格面で大きな差はありません。また、掌決済などの先端技術もなければ、限定販売される商品もありません。それでも開店と同時に多くの人で賑わいを見せ、SNSではプラダのショッパーを撮影した投稿が飛び交いました。

ポジティブなギャップを創出した生鮮食品市場

 「徹底的に中国の文化、生活に寄り添う」を具現化した生鮮食品市場は、今までのプラダからは考えづらい、現地に寄り添うための戦略が採用されています。その戦略とは、一般のスーパーマーケットと同等の価格設定、出店先のロケーションには住宅街を想定しているなどです。まず、価格設定に関してですが、もし今回の生鮮食品市場が高価な商品ばかりを販売する市場の場合、今までのファンは受け入れてくれるかもしれませんが、ファン以外の人々にとってハードルが高い存在のままです。

 

 一般的な市場と大きな差が無い価格設定を意識することで、初めての人もプラダに触れられる機会を創出しています。また、出店先のロケーションや内装にも意図が隠されています。今回の出店場所は、上海の中でもプラダの旗艦店や、高級ショッピングモールが多く存在している地域から離れた、一般市民が住む住宅街の一角です。さらに、昔は大衆向けの生鮮食品市場だった店舗を改装して出店しており、昔の内装を尊重しつつ、プラダの高級感を演出する空間に仕上がっています。プラダは現地の文化や生活にリスペクトを表明しており、ローカライズに対する強いこだわりをアピールしています。

生鮮食品市場で購入した時にもらえる限定ショッパー袋がSNSで大いに話題になっている

 現地、そして中国の人々のプラダに対するエンゲージメントを高めるために取り組まれた生鮮食品市場ですが、本業へのシナジーを生み出す仕組みも裏側では構築されています。それが、プラダのミニプログラムや公式アカウントへの送客です。普段、プラダと接点が無かった人が生鮮食品市場で商品を購入すると支払いの際に利用するWeChatを経由して、ミニプログラムや公式アカウントと繋がることになります。プラダはWeChatを経由して、ブランドの最新情報や限定情報を発信することが可能となっています。

 

 ここまでプラダの新しい挑戦を取り上げましたが、気になるのは現地の反応です。SNSの投稿を見ると、地元の市民にとって、馴染みのある生鮮食品市場の特色を残しつつ、手頃な価格でプラダを体験できることに対し、感謝の声が多く挙がっていたようです。世界的なラグジュアリーブランドが中国の文化、生活に寄り添うために生鮮食品市場を開始したというアクションがポジティブなギャップを創出して、中国の人々の期待を上回っているのではないでしょうか。現時点では、スタートして1週間程度のため、売上に関する情報はまだありませんが、海外企業が中国市場向けのローカライズ施策として、新しい切り口で挑戦した面白い事例に今後も注目です。

メールマガジン登録