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2021.12.08
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.77】 おしゃれにアクセル全開 気分はフリーダム 2022年春夏ミラノ&パリコレクション
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2022年春夏のパリ、ミラノコレクションはおしゃれのアクセルが全開に。ジョイフルでフリーダムな気持ちに誘う装いが打ち出されている。多くのブランドが取り入れた、ウエストの大胆な素肌見せが今のムードを象徴する。半年前の気分は「ポジティブな現実逃避」だったが、2年間の沈黙を取り戻す勢いで色と柄がゴージャスに躍った。ミニ丈が盛り上がり、ブラトップやコルセットで身体性を強調。2000年頃のパワーを帯びた「Y2K」ファッションの復活が若返りを促す。同時に、アーカイブを再解釈して、タイムレスな着こなしに誘う提案も相次ぎ、時代や性別、年齢を超えたダイバーシティー(多様性)が一段と勢いづいた。
■パリコレクション
◆ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)
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ルーブル美術館を舞台に選んで、時空を超えた装いを披露した。キーピースは腰周りを過剰に広がらせた、宮廷衣装のクリノリンを思わせるパニエドレス。でも、王朝ルックとは違って、チュール系素材で軽やかに仕立てた。ボリュームを弾ませるボーン入りスカートはヒットを予感させる。吸血鬼伝説に彩られたマントや飾り襟も古風なたたずまいだ。
ビッグショルダーのジャケットが量感を躍らせた。デニムやビーズなど、多彩な質感のマテリアルを操って、スタイリングの奥行きを深くしている。格闘技ブーツ風の編み上げオープントゥ・サンダルが足元をアクティブに演出。創業者の生誕200年にふさわしい、2世紀にまたがる服飾ヒストリーの総集編にまとめ上げている。
◆ミュウミュウ(MIU MIU)
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勢いづく「Y2K」ルックを押し出した。クロップド丈のトップスにローライズ仕様のボトムスを合わせて、大胆にウエストをさらしている。素肌美をまとうヘルシーセクシーの演出で装いをZ世代向けに若返らせた。マイクロミニスカートもキュート。肌見せをプレイフルに健康的なスタイルで打ち出した。
一方、チノパン、ローファーなどを組み込んだネオ・プレッピーも提案しつつ、端を切りっぱなしで処理して、良家テイストを切り崩している。布を切り取るカットオフもあちこちに施した。見慣れたベーシックアイテムから「非日常感」を引き出すアプローチだ。
◆ヴァレンティノ(VALENTINO)
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ストリートクチュールを軸に、ムードはグラマーでクラシカル。つややかなタフタ生地に象徴されるオートクチュール文化をミニ丈ドレスに写し込んだ。ワイドレッグのデニムパンツやゴツめのコンバットブーツも投入。コンテンポラリーに整えている。カラーパレットも若々しい。鮮やかなパープルやネオンイエロー、ライムグリーンが装いにエナジーを呼び込んでいる。
ショートパンツを取り入れた長短ルックが動きを添える。ホルターネックやベアショルダーで素肌見せも仕掛けた。目立った試みはアーカイブの復刻。花柄のロングドレスやタイガーストライプのコートといったシグネチャーをモダナイズ。メゾンらしさを再解釈してみせた。
◆ディオール(DIOR)
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60年代の快活なムードを濃くした。コンパクトなシルエットのミニマルな装いに、キャッチーな原色を交わらせて、レトロモダンな合わせ技に仕上げている。オレンジやイエロー、ピンクなどのパキッとした色が楽観を寄り添わせた。サテン系のファブリックが装いにつやめきを帯びさせている。この春夏の世界的なキーピースになっているブラトップでチラ腹見せ。ボクサーパンツも元気感が高い。
3代目デザイナーを務めたマルク・ボアン時代の「スリムルック」をリモデル。裾広がりのミニドレスに近未来感を込めた。カラーブロッキングやメリージェーンシューズが懐かしげ。テニスドレスも披露した。フリンジで裾を躍らせ、動物モチーフで動感を添えている。ノスタルジーとポジティブを交差させるさじ加減が巧みだ。
■ミラノコレクション
◆プラダ(PRADA)
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布を削り込んで、ミニマルに仕立てつつ、身体性を引き出した。ウエストのくびれ部分を露出して、ヘルシーとセンシュアルを同居させている。ブラカップやコルセットで曲線を強調。シルエットはスリムでコンパクト。ミニボトムスやミニドレスがチアフルで健康的なセクシー感を薫らせた。
正面はミニ丈でも、後ろに長く垂れるトレーンが型破りな立体感を引き出している。サテン系のシャイニー感がクールさもプラス。二の腕にはめるバングルはムードを引き締め、身体性を際立たせていた。ミラノと上海で同時刻にショーを開き、相互にライブ配信する手法が斬新だった。
◆フェンディ(FENDI)
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ナイトプレジャーの復活を前祝いするかのような、70年代ディスコ気分のドレスアップに誘った。ビキニ風ブラトップを取り入れた、構築的なオールホワイトのスーツはパワフルなムード。スリットやシースルーで色香もまとわせている。毛足の長いファードレスは華やかでグラマラス。イラストレーターのアーカイブ柄を、大胆に躍らせた。
斜めストライプもレトロモダン。シャイニーな布を遊ばせ、ゴージャス感を盛り上げている。テーラードスーツは気高いたたずまいに導き、透け感が艶美なレースドレスに手仕事のレガシー(遺産)が息づく。ブランドの歴史を重んじながら、アグレッシブにアップデートしてみせた。
◆ジル サンダー(JIL SANDER)
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パステルトーンのカラーパレットで未来への楽観を示した。シャーベットイエローやペールピンクなどのほんのり色がゆったりフィットのフォルムになじんで、朗らかなポジティブを印象づけている。ボクシーでオーバーサイズ気味のビッグジャケットには、力強さと抜け感が響き合う。端正な張り感を帯びつつ、着余ったのどかさも漂う。
ジャケットに合わせたカラーデニムが着心地よさげ。ワンピースやセットアップにはアニマル柄、ストライプ、ジグザグ模様をビッグモチーフで描き込み、動感を引き出した。襟からつながるスカーフ状の飾りピースがファニーな表情。全体にミニマルと安らぎを自然に調和させている。
◆ヴェルサーチェ(Versace)
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ホットピンクやネオングリーンなどのポップカラーを多用し、鮮明にグラマラスを押し出した。ブラトップはパンツスーツに組み入れて、健やかなセクシーを醸し出している。スカートのスリットは安全ピンで留められ、隙間から肌見せ。トップスのウエスト脇からは素肌をのぞかせている。スリットやカットアウトを多用して、身体性を際立たせた。
キーモチーフはカラフルなシルクスカーフ。ボディーコンシャスなドレスを仕立てたり、頭に巻いたりと、繰り返し登場させた。ブランドロゴやキャップには「Y2K」への目配りが利いている。ビニール質感のビスチェドレスに象徴される、クラス感を備えたブリンブリン気分のおしゃれを印象づけていた。
ポスト・コロナへの期待感を織り込んで、「装うよろこび」のコーラスがきらびやかに鳴り響いた。「Y2K」のうねりはルックを大胆に若返らせ、素肌美へのフォーカスはボディーコンシャスの復活すら予感させる。サステナビリティーへの配慮を背景に手仕事が見直され、アーカイブの掘り起こしにもつながった。ジェンダーレスやタイムレスなどの長期トレンドを保ちながら、パリ・ミラノはポジティブの先へ踏み出し始めた。
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宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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