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2021.11.26
令和で生き残る企業の経営方針とは?
フルカイテンが提唱する“粗利第一の経営”
「世界の大量廃棄問題を解決する」をミッションとして掲げ、小売業界向けに在庫分析クラウド『FULL KAITEN』を提供しているフルカイテン株式会社。『FULL KAITEN』は在庫を分析することで、在庫の効率を上げるサービスとして、アパレル業界で導入企業数が増えています。また、代表取締役の瀬川 直寛氏はサービスを提供する中で、多くのアパレル企業が、縮小する日本の市場に対して危機感を抱いていないことに気づき、経営層に向けて“売上第一”から“粗利第一”への改革を提唱しています。今回は縮小する市場の中で、なぜ“粗利第一”の改革がアパレル企業に必要となってくるのかをリモート取材しました。
Q:日本の市場が縮小しているのはなぜなのでしょうか。
A:縮小市場は“人口の減少”と“高齢化”そして“消費支出の減少”が影響しています。まず、“人口の減少”ですが、2019年は年間で約53万人減少しています。この現象は突然発生したものではなく、毎年約50万人のペースで発生しており、2025年以降は年間で60~100万人が減少すると言われています。
また、“高齢化“も進んでおり、2030年には人口の3分の1が65歳以上の高齢者になります。更に各年代の消費支出(可処分所得)も減少しており、15年前と比較すると、最も減少幅が大きい40代後半~50代の世代では1ヶ月あたり6.2万円減少、他の世代も数万円単位で減少しています。ここまで大きくネガティブな変化が発生することが明確になっている今、何も手を打たなければ、アパレル業界でも多くの企業が淘汰されるという危機感を私は持っています。
Q:今までの経営手法のままでは、生き残ることが厳しいということでしょうか。
A:そうですね。現在のアパレル小売の市場規模は8~9兆円と言われていますが、企業規模としては、年商数十~数百億円の企業が多いと思います。この規模の経営者に「厳しい時代がもう来ている」とお話をしても、「自分たちの売上規模からすると、まだまだ市場全体の規模は大きいので、縮小の影響は受けない」と言う方もいらっしゃるのが現状です。しかし、考えてみてください。仮に、彼らのターゲットが30代の女性だとすると、その年齢層の人口も高齢化などが重なり減少していくことは確定しています。そうなると、数十億~数百億円という売上を何もせず維持できると考えることは、いささか楽観的ではないでしょうか。今後、自分たちのビジネスモデルとブランドの立ち位置をどうしていくのか?本当に危機感を持って経営していかなければならない時代に突入しているのです。
Q:“危機感を持った経営”これはどの様な経営を指すのでしょうか。
A:意識として“売上第一”ではなく“粗利第一”へ変革することを提唱しています。バブル崩壊前は、何もせずとも在庫の多くをプロパー価格で消化できていたので、在庫を多く用意して、売上と利益を積み上げていく戦略が正しく、いかに欠品させないかが重要でした。しかし、バブル崩壊後に経済成長は終わり、経済環境の悪化が度々起こりました。そうなると当然、プロパー価格で多くの在庫を消化していくのが難しくなり、従来の物量ありき、在庫を多く積んでいく戦略から、粗利率を高めていくため、在庫をしっかりコントロールする戦略への変革を迫られています。
Q:“粗利第一”の経営へ改革するため、在庫がポイントになるとのことですが、具体的にどの様なアクションが求められるのでしょうか。
A:まず、粗利第一の経営というと「とにかく在庫を減らす」と考える人がいますが、それは違います。在庫量を単純に減らすだけでは売上と利益が落ちてしまうためです。この理由は、先ほどお話した、従来の物量ありきの戦略から脱却できていない話に繋がるのですが、これまで多くの企業は大量の在庫を用意し、その中から偶発的に出現するヒット商品によって売上と利益をつくってきたからです。そのため「利益を残す力=プロパーで商品を売り切る力」が落ちているのです。
この状態で在庫をいきなり減らすと、当然ながら売上も利益も減少します。ですので、まずは今ある在庫で、利益を残す力を付けていくことが必要です。つまり、偶発的に出現するヒット商品に頼るのではなく、売り手側で在庫をコントロールした戦略、商品で利益を稼ぐということです。このノウハウを蓄積させてから在庫を減らしていくというステップを経ることで、事業をシュリンク(縮小)させることなく、粗利経営に変革することができます。
Q:在庫をコントロール、可視化することで、プロパーで商品を売り切る力を身につけるのですね。
A:その通りです。例えば、何万種類もの商品を扱っている企業だと、分析らしい分析ができている商品は上位10~20%程度です。でも、この上位の商品は何もせずとも売れるわけですよ。本当に分析、アクションが必要となる商品が、上位10~20%の次に来る商品群です。これらの商品をしっかりと分析、把握することで、余計な値引きをせず、プロパーで販売するアクションをとることができます。
瀬川氏が代表を務めるフルカイテンの『FULL KAITEN』は在庫を可視化、売上予測を実現させている
Q:プロパーで売り切る力を身につけることで、粗利とキャッシュフローが改善され、これからの時代を生き残ることができるのですね。
A:生き残るという意味では、もう1つ重要な意識があります。それは“顧客体験の価値を引き上げるための投資”です。私は日頃から「スタッフへの投資・還元、商品への投資、そしてお店づくりへの投資をしましょう」と経営者の方々に呼びかけています。例えば、商品に投資することで、商品の付加価値や品質が向上します。毎日の様にブランドや商品が誕生し、顧客のブランドへの期待値も上昇している今、生き残るためにはブランド、商品の価値を引き上げていくことが必要不可欠です。そのために先行投資をしていく必要があります。そこで投資の源泉となるのが粗利益となります。「“売上第一”の経営から脱却して、“粗利第一”の経営に舵を切ることができるか?」今、多くのアパレル企業が岐路に立っていると思います。
プロフィール
フルカイテン株式会社
代表取締役 瀬川 直寛氏
慶應義塾大学の理工学部(研究テーマ:天然ガスの熱力学性質に関する予測モデル)を卒業後、外資系IT企業、日本のスタートアップ数社に勤務。その後、2012年5月にベビー服を販売するECサイトで起業。ECサイトを運営中、在庫が原因で3回の倒産危機を経験、この経験から在庫分析クラウド『FULL KAITEN』を着想。2017年11月から小売業・卸売業に対して『FULL KAITEN』を提供中。
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瀬川直寛:@FkSegawa
会社公式:@fullkaiten