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2021.11.04

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.76】戻ったパワーと熱気 キーワードは「ジョイフル」 2022年春夏ニューヨーク&ロンドンコレクション

2022年春夏ニューヨーク&ロンドンコレクション

 「ファッションショー」が戻ってきた。2022年春夏のニューヨーク、ロンドン両コレクションは景色が一変。前回までとは打って変わって、リアル(フィジカル)のショーが勢いづいた。ワクチン接種の広がりや感染者の減少を追い風に、カラフルな華やぎに包まれた。クリエイターの合い言葉になったのは、ポジティブ(楽観主義)の上を行く「ジョイフル(喜びいっぱい)」だ。

左から:トム フォード、トム ブラウン、アーデム、JW アンダーソン

■NYコレクション

 

◆トム フォード(TOM FORD)

 まばゆいの一語に尽きるショーを披露。スパンコールやラメ、サテンなどのつやめきマテリアルがほぼ全ルックをリッチに彩った。CFDA(米国ファッション評議会)会長でもあるデザイナー、トム・フォード氏は「ポスト・コロナ」に向かうよろこびを、グリッターで歌い上げた。グラマラスな装いにアスレジャー風の軽快感を交わらせている。タンクトップやトラックパンツなどのスポーティーアイテムが登場した。

 

 キラキラ要素がいっぱいの、未来的な着映えでありながら、どこか70年代グラムロック風のエネルギーも帯びる。フューシャピンクやブルー、グリーンなどのネオンカラーがエナジーを上乗せ。シルバーやゴールドのメタリックカラーもゴージャス感を濃くした。ネックレスはゴールド系を重ね付け。ヒール靴もシャイニーなサテンで仕上げている。ボディーラインにフィットさせつつ、ドレープで光沢生地の陰影を深くするシルエットが目新しい。LAセレブ気分をまとった軽やかグラマラスがハッピー感を呼び込んでいた。

◆マイケル コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)

 ブランド設立40周年のコレクションは楽観と自信があふれるようだ。セントラル  パーク内の名物レストランを舞台に選んだランウェイショーでニューヨーク愛を歌い上げた。キーピースはブラトップ。スーツに組み込んで、ヘルシーな色香の漂うルックに仕上げている。ミニ丈ボトムスやベアショルダーで健康的な肌見せを仕掛けた。

 

 黒と白を基調に据えつつ、淡いピンクやスカイブルーのパステルトーンを差し込んだ。スイムウエア風の上下にはシャツジャケットを重ねた軽やかなスリーピースを提案。ペンシルスカートはクラシック感を呼び込んだ。端正なテーラリングがタイムレス感をまとわせる。ニューヨーカースタイルにロマンティック感を上乗せ。パーティーシーンの復活を予告するかのように、スパンコールで飾ったイブニングドレスも披露した。

◆トリー バーチ(TORY BURCH)

 ソーホー地区にオープンしたショップに面した通りで路上ランウェイショーを開き、ファッションウィークの復活を祝った。アメリカンスポーツウェアのレガシーに敬意を示し、軽快でクラシックな装いを打ち出した。シルエットの見どころは、優美なウエストシェイプ。コルセット風の絞りも利かせている。上半身がコンパクトで、裾に向かって広がる「フィット&フレア」のめりはりルックをそろえた。

 

 明るいカラーパレットが開放的なムードを帯びた。バイカラーやトリコロールのカラーブロッキングで装いを弾ませている。チェック柄やストライプ柄もほのかにレトロ。ジャージーやコットンなど、柔和な風合いの素材を用いて、穏やかな風情を醸し出した。ショート丈のジャケットとロング丈のスカートを組み合わせて、量感の起伏を生んでいる。どこかヴィンテージライクなたたずまいは、昔のような「日常」が戻りつつあるよろこびを漂わせていた。

◆トム ブラウン(THOM BROWNE)

 ずっとヨーロッパを発表の場に選んできた「トム ブラウン」の約4年ぶりとなるNYへの復帰は今回の大きなサプライズとなった。これまでもアートと地続きのシアトリカル(劇場的)なコレクションを披露してきたが、今回はギリシャ彫刻を連想させるシルエットを構築。ジェンダーレスの踏み込みも深めている。ウィメンズのキーピースは、ストンとした円柱状のドレス。一見、表面に起伏の少ないミニマルな着映えだが、クラシックなテーラリングのたまもの。凜々しさとノーブル感を兼ね備えている。

 

 袖にバリエーションを与えた。スリーブレスのロングスーツは正統派スリーピースを挑発するかのよう。ほっそりした縦落ちロングドレスは片袖や袖丈違いのイレギュラー仕立て。半袖と長袖が左右で食い違うスリーブや、筋肉モチーフをあしらったトロンプルイユ(だまし絵)など、いたずら心を投入。もともとアート感やウィットが持ち味のデザイナーがホームタウンで本領を発揮したコレクションは「NYFW(ファッションウィーク)復活」も印象づけた。

◆モスキーノ(MOSCHINO)

 ミラノコレクションの常連「モスキーノ」もNYを発表の場に選んだ。かつてのメイン会場だったブライアントパークで野外ランウェイショーを開き、NYにオマージュを捧げた。プレイフルなムードはこれまで以上。子ども用の絵本から抜き出したような動物のイラストをキーモチーフに据えて、ルックをポップ、カラフル、コミカルに彩った。綿菓子を思わせるパステルカラーが多幸感とノスタルジックな気分を醸し出す。シルエットは体の線をきれいに描き出している。

 

 クラシックなスーツをリバイバルし、60年代気分をまとわせている。タイトスカートを軸に、正統派のミニマルスーチングを披露。ファニーで愛らしいアニマル柄が適度なミスマッチ感を生んでいる。ドレスもスーツもミニ丈を押し出し、ブラトップ(ブラレット)とのコンビネーションで健康的なセクシーを薫らせている。ラブリーな色・柄とシャープなテーラリングのミックス感がおしゃれの楽しさを快活に表現。電動車いすのモデルやプラスサイズのモデルを起用していたのも、多様性都市のNYらしい。

◆コーチ(COACH)

 Z世代を意識した、フレッシュで元気な装いをそろえた。明るめのピンクやパステルグリーンといった、ジョイフルなポップカラーで装いにエナジーを注ぎ込んだ。 ハウンドトゥース(千鳥格子柄)やチェック柄と組み合わせて、トラッド感とノスタルジーを響き合わせている。ジャケットとボトムスの同柄セットアップにブラレットを組み込んで、アクティブな着映えに整えた。ベースボールキャップもスポーティーな気分をまとわせている。

 

 ボクシーなカットソー、アノラック風ライトアウター、アップサイクルの膝丈デニムパンツはスケーターカルチャーを感じさせる。オーバーサイズが伸びやかなストリート風味を漂わせた。襟やポケットを描いた、トロンプルイユのTシャツも朗らかな楽観を帯びた。アメリカンスポーツウェアの伝統を受け継ぎながら、NYならではの文化ミックスに整えている。ブランドアーカイブを感じさせる小ぶりのレザートートバッグが装いを弾ませていた。

■ロンドンコレクション

 

◆アーデム(Erdem)

 ブランド15周年のアニバーサリーコレクションをリアルショーで披露した。20世紀初めのエドワード朝を思わせるクラシックな装いを柱に据えた。ロマンティックな細身のロングドレスを、押し花風のくすんだ花柄で包んだ。大英博物館という歴史的な場所を選んで、タイムレスなムードをまとわせた。ドレス全体に刺繍を施し、クチュール感を帯びさせている。襟の詰まったシルエットや、袖先フレア、ロンググローブなども貴婦人テイストをまとわせた。

 

 パニエで腰周りを膨らませたドレスや、コルセット風のウエストシェイプが古風なシルエットを描き出す。ロング&リーンなドレスを、様々なフラワーモチーフが華やがせた。何本もストラップを配して、華奢なイメージを引き出している。ラッフルやプリーツで淑女テイストは保ちつつ、裾にアクションを加えた。コスチューム風の懐かしさとノーブルなリラックスを好バランスで交わらせている。

◆JW アンダーソン(JW ANDERSON)

 アート志向の強いデザイナーらしく、カレンダー写真を使った発表形式を選んだ。時の移ろいを物語るカレンダー自体が困難な時期の終わりを示すシンボルのようだ。タイヤ置き場という殺風景な場所で、官能的なポージングルックを見せ、ロンドンらしいウィットも演出。ボディーラインをしなやかに写し取るストラップワンピースがキーアイテムだ。

 

 ミニ丈の裾に花びら風の特大ペプラムを配して、グラマラスな着映えに導いた。シースルーを多用し、透けるホルターネックの上からビキニ風ブラトップを重ねている。ハンカチーフヘムの白スカートからもビキニショーツが透けて見える。ネオンカラーのストラップサンダルが足元からセンシュアルを感じさせる。

 

 

 素肌見せ、ブラトップなど、身体美を押し出すようなデザインが相次いだ。制約の多い時間を過ごしただけに、「おしゃれのよろこび」を歌い上げる色や柄がルックを彩り、セクシーな演出も増えた。再び発表の場をリアルに得られたことのうれしさは、ルックのあちこちにあふれていた。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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