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2021.10.21

2021年米国ホリデー商戦傾向 オンラインとオフラインを行き来する激戦

 調査会社JLLの最新の調査によると、今年のホリデーギフトには、1世帯あたり平均870ドルを費やす予定とされ、昨年から25.4%の増加が予想されています。さらにこの調査では、買い物客が利用する小売業者トップ3は「Amazon(アマゾン)」(65.6%) 、「Walmart(ウォルマート)」(45.3%)、「Target(ターゲット)」(39.7%) となっており、買い物客の3分の1以上が節約を最優先としていると伝えられています。消費者の予算は通常に戻っているかもしれませんが、一方で小売企業には労働者不足問題が発生しており、その課題に対し、賃金水準の改善、特別ボーナス、授業料のサポートなど各社が様々な特典を提供しています。米国小売業界全体としては、70万人の労働者が不足していると言われています。

 

 さらには、推定50万個のコンテナが西海岸の港で行き詰まっており、商品入荷遅延による在庫切れが懸念されています。「Costco(コストコ)」、「IKEA(イケア)」、「Home Depot(ホームデポ)」、ウォルマートなど大手小売企業では、遅延を回避する為に自社でコンテナ船のリースに踏み切っており、その場合、一つのコンテナ船で800~1,000個のコンテナを運べる利点がありますが、45~90日間のチャーター(貸し切り)では1日あたり13万ドルのコストが発生するとも言われています。一方で、「LEVI’S(リーバイス)」、PVH、「Urban Outfitters(アーバンアウトフィッターズ)」などのアパレル企業では、船便から航空便に変更することで店舗までの配送段階を省略するといった手配をしていますが、いずれにしても商品コストの値上げは避けられない状況です。

ウォルマートの公式サイトより

 今年の感謝祭は、ウォルマート、ターゲット、「BestBuy(ベストバイ)」、「Simon Mall(サイモンモール)」、「Kohl’s(コールズ)」、「Ray(レイ)」などが店舗をクローズすると発表しており、Eコマース主導のホリデー商戦が加速することが予想されています。その状況を受け消費者は、少しでも早い時期にギフトの買い物を済ませることで、郵便荷物の増加による遅れや紛失を避け、確実に商品を手に入れたいという心境が高まっていますが、今季のホリデー商戦に向けて、米国小売企業は一体どの様な対策を練っているのでしょうか?

TARGET(ターゲット)は前倒しのホリデセールでプライスマッチ!

どこよりも早く買い物客を獲得

TARGETのハロウィンキャンペーン(公式サイトより)

 ターゲットでは10月10日からホリデーセールを開始し、商品が棚から無くなる前に購入することを推奨しています。また、消費者が購入後に同じ商品の値下げを発見した場合は、その差額調整を要求することができ、購入後14日以内であれば競合店が販売している値段と同等にするプライスマッチ戦略を発表しています。さらに、ターゲットは過去数年に渡り、店舗をフルフィルメントセンターとして活用するハブモデルの運用に多額の投資を行っており、4つの仕分けセンター(マイクロフルフィルメントセンターとも呼ばれる)を設置することで、顧客の注文や在庫の回転を高速化しています。これにより、迅速で効率的な商品補充とサービスが実現しているのも同社の強みです。前述したコンテナ渋滞による在庫遅延問題に対しては、24時間オペレーションにより、現在はコンテナの50%を夜間に動かすことで在庫を常に稼働し対応しています。

ショッピングセンターが運営するホリデデ  ジタル・マーケットプレース

 ウイスコンシンにあるショッピングセンター「The Corners of Brookfield」(以下、TCOB)」では、小売クラウドソフトウェア企業「Placewise(プレースワイズ)」社との提携により、今年の11いくつかのブランド企業から、ホリデーギフトガイドがフューチャーされ、商品の閲覧、購入に加えBOPISや、モールテナントの返品が一つの場所で行われます。通常、顧客は、テナントごとに個別サイトを訪問し決済しますが、TCOBのデジタルマーケットプレイスでは、これらのエクスペリエンスを統合しており、ショッピングセンター全体でオンラインとオフライン購入の一元化が実現します。2022年末までには「Lululemon(ルルレモン)」、「L.L.Bean(LLビーン)」などを含む全てのテナントが参加する本格的なマーケットプレイスを目指しているそうです。様々なブランドを取り扱うモールサイトのような役割で、忙しい顧客には非常に便利なアイデアと言えます。

米国最大のハンドメイド商品販売サイトは拡張現実ハウスでお買い物

ETSY HOUSEの公式サイトより

 ハンドメイド商品や中古商品を販売するECサイトETSY(エッツィー)は、The Boundary社との提携で、サイトから厳選された商品で飾られたデジタルハウス「エッツィー・ハウス」をホリデー戦略としてテストしています。この仮想空間ハウスでは、エッツィー・デザイン賞を受賞した家具やアート作品などが展示され、実物大のレンダリングと360度画像を備えており、買い物客は昨年リリースしたARツールを併用することで、自宅にいながら商品を閲覧しカーソルを動かして製品情報を取得、購入まで進むことができます。今年の3月以降、エッツィー以外にも、「Shopify(ショッピファイ)」、「L’Oreal(ロレアル)」、「David Bridal(デイビッド・ブライダル)」、エイソス、アマゾンなどもARショッピングツールを発表しており、リモートショッピングの盛り上がりも予想されます。

顧客とのコネクションが成長の鍵!実店舗に賭けるD2Cブランド

KNIXのストア

 今年9月に上場を果たした「Warby Parker(ワービーパーカー)」、同じくIPOを申請した「Allbirds(オールバーズ)」などD2Cブランドにおける共通点は、今後の成長戦略として店舗出店に注力している点です。ワービーパーカーに関しては、既に100店舗以上を展開していますが、より安価な商品を提供する類似したD2Cブランドによって若年層向けの新たな選択肢が浮上していることを受け、従来のSNSによる宣伝だけでは十分といえず、顧客との関係を築ける店舗での体験が不可欠となっているのです。この状況を受け、他のD2Cブランドにおいてもホリデー商戦に向け同様の傾向が見られます。

 

 例えば、Z世代に人気のアンダーウェアD2Cブランド「Parade (パレード)」が今年の夏にロサンゼルス、ニューヨーク、オースティンなどで開催したイベントは、25万人のInstagramフォロワーに宣伝され、ワイルドフラワーの装飾や軽食の提供とともにサマーコレクションが販売されました。また、同ブランドは11月にオフラインでの存在感を高めるべく、ニューヨーク・ソーホーでのポップアップを予定しています。また、カナダ発のアンダーウェアD2CブランドKNIXも、実店舗拡大をテストしており、今年の秋、サンタモニカ、サンディエゴ、サンフランシスコの3店舗を新規オープンしました。店舗出店は家賃や人件費などコストが発生しますが、実際の商品に触れる機会を提供し、顧客との直接的なコミュニケーションを通じて顧客ニーズを発見することで、競合との差別化にも繋がるのです。

店舗とデジタルの役割の逆転

 店舗での体験をオンラインで、またオンライン上での体験を店舗で実現するというように、顧客の利便性を重視したハイブリッドリアリテイの構築が必要になっているようです。例えば、自宅にいながら、ARによる試着、販売員によるスタイリングやアドバイス、ライブのファッションショー等、店舗の役割とオンラインの役割が逆転しながら存在している、ハイブリッドなショッピング体験が確立しつつあります。

 

 また、InstagramやPinterestなどSNS上で商品を発見し購入するという消費行動が一般的になりつつあり、よりパーソナライズされたコンテンツを配信することで、存在すら知らなかった商品を消費者に訴求することが可能となります。消費者にとって発見する喜びは、単なる偶発的な興味を掻き立てるだけでなく、自分が本当に欲しい商品に出会えます。一方、ブランドにとって、消費者のSNSの投稿傾向などから顧客ニーズの予測が可能となるのが最大のメリット、今季のホリデー商戦では様々なテストモデルが試されそうです。

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