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2021.10.06

【2022春夏パリコレ ハイライト1】パリコレ開幕 フィジカルショー増加も半数以下にとどまる

 2021年9月27日から10月5日まで、パリ市内の各所で開催されたパリコレクション。今季も膨張傾向は続き、参加ブランドは4つ増えて98となった。

 

 一時は一日に数万人を記録していたフランスの新型コロナウイルス感染者数も落ち着きを見せ、フィジカルなショーを開催するブランドが一気に増えたのは喜ばしい状況である。とはいえ、98ブランドの内ショーを行ったのは37ブランドのみで、半数にも満たない。ミラノコレクションはフィジカルなショーを見せるブランドが6割を超え、プレゼンテーションやカクテルパーティーなども頻繁に行われたようで、その盛り上がり方には大きな差異を見せた。来年はパリも完全復活となるか。それはコロナの行方と政治経済いかんによって大きく変わり、実のところ全く見通しが立っていない。

 

 とはいえ、フィジカルなショーが数えるほどだった前回の3月と比べ、ヨーロッパや北米からのジャーナリストを多く見かけるようになり、2週間程の自主隔離を覚悟の上で渡仏する果敢な日本人ジャーナリストも数名見かけられ、華やかさを取り戻しつつある。

 

 パリ市内の中心部の各所で行われていた合同展示会については、ネット販売に切り替えるブランドが多くなったためか、その数は激減。最大手のトラノイに集約される傾向にあり、街中でバイヤーに遭遇する機会は少なかった。今後はリテールの在り方の変化が、ショー形式を主とするパリコレクション全体にどう影響するかも見守っていきたい。

マリーン セル(Marine Serre)

 マレ地区のカルナヴァレ美術館の中庭にて、プレゼンテーションとムービー上映を行った「マリーン セル」。コレクションタイトルは“Fichu pour fichu”。これまでアップサイクルされた作品を発表することで、サステナビリティを強調してきたが、今季は全作品のうち45%にリサイクルされた素材を、そして45%に再生素材を使用し、今まで以上にサステナビリティの度合いの高いコレクションとなっている。

 

 発表されたムービーのタイトルは「Ostal24」。Ostalはオック語(南フランスの言語)で「家」を意味し、田舎の一軒家の中で最新コレクションをまとったモデルたちが共同生活を送り、料理、ダンス、ヨガ、農耕などを楽しむ姿が描かれ、ブランドとしての自然回帰の方向性を強く感じさせた。

 

 デビューコレクションから見られるシルクスカーフのアップサイクルや、ブランドアイコンである三日月モチーフのプリントデニムのパンツやGジャン、ボディスなどを引き継ぎつつ、今季は目に見えてアップサイクルであることがわかるアイテムが印象的。オランダ由来の刺繍入りテーブルクロスによるドレスや、赤いボーダーの入った麻製布巾によるセットアップ、ハンドレースによるテーブルクロスをあしらったシャツなど、ヴィンテージ感を前面に押し出した作品が目に付いた。

 

 再生糸によるポップコーンファブリックによるドレスや、ポワンテルニットによるパッチワークドレスなど、このブランドとして新しさを感じさせるアイテム群も秀逸。新旧の素材を巧みにあしらいながら、レトロに傾けることなくモダンな装いを提案した。

マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)

 黒河内真衣子による「マメ クロゴウチ」は、“Land”と題したコレクションを発表し、奥山由之が手掛けたムービーを配信した。黒河内の故郷である長野県の県立美術館にて、10周年を記念するエキシビション「10 Mame Kurogouchi」が今夏開催されたが、その準備期間中に自らを育んだ土地や歴史、記憶や情景に目を向けて生まれたのが本コレクションである。

 

 桜など、春の草花からインスパイアされたアイテムは、優しい色合いの中に伝統的な技法を用いているからこその強さも兼ね備えている。コレクションを通して表現されるグラデーションは、京都の職人に依頼したり、着物に用いられる板締め染めを応用したりするなど、複数のテクニックと素材で表現され、それぞれが独自の風合いを見せていた。

 

 レーシーなリネン生地は、蚊帳を生産する奈良県の業者に依頼したもので、重ねたドレスに独自のニュアンスを与える。ジャカードのパイル地で花や春の景色を表現したワンピース、フィルムの糸が流れるような動きを見せるドレスなど、春の幻想を思わせるアイテムが詩的な印象を与える。フォルムとしては一見シンプルではあるが、糸からこだわるこのブランドらしさが全編に渡って感じられるコレクションとなっていた。

ディオール(Dior)

 マリア・グラツィア・キウリによる「ディオール」は、チュイルリー公園内の特設テント内でフィジカルなショーを発表した。

 

 今季は1960年代初頭から1980年代末まで「ディオール」のアーティスティック・ディレクターを務めたマルク・ボアンのスタイルに言及。特に1961年「スリムルック」に焦点を当て、60年代のシルエットにイメージを求めている。イエロー、グリーン、レッド、オレンジ、ラズベリーといった発色の良いカラーパレットに、ライオンやシマウマなどのグラフィカルなモチーフで彩り、アーティストやデザイナーなどが集ったローマの伝説的なナイトクラブである「パイパークラブ」のイメージを加えている。

 

 60年代から現在まで精力的に作品を発表しているイタリア人アーティスト、アンナ・パパラッチに舞台装飾を依頼し、ボードゲームを思わせる60年代の作品「Il Gioco del Nonsense(ナンセンスのゲーム)」をベースにしたカラフルな舞台に、モデルたちが一斉に並び、一人ずつキャットウォークするという演出で見せた。全て60年代で統一するという徹底振り。BGMは、イタリアのテクノ系プロデューサーであるドナート・ドジーと、シンガーソングライターのエヴァ・ガイストによる生演奏。

 

 いわゆるドレッシーなクチュールのイメージから脱却し、フューチャリスティックでシンプルなシルエットの追求が始まる1950年代から1960年代にかけての流れは、今季大幅にイメージを刷新したキウリの姿と重なる。しかし、レトロに終始することなく、ボクサーショーツやタンクトップといったスポーツ、あるいはユニフォームやワークウェアの要素を加えてモダンに解釈。見事な転換を見せていた。

コシェ(KOCHÉ)

 クリステル・コーシェによる「コシェ」は、皇帝ナポレオンの弟の孫の館だったシャングリ・ラ・ホテルの広間にてフィジカルなショーを開催した。「シャネル(CHANEL)」傘下の羽の工房、ルマリエのディレクターを経験しているコーシェは、これまでにストリートウェアにクチュール的な表現を加えたコレクションを発表してきたが、今季はホテルの豪奢な内装に相まって、更にクチュールの要素が増しているように感じられた。

 

 ピンク、ブルー、グリーンのパステルカラーのセットアップやドレスでスタート。ラメ入り素材のジャケットにはラテックスによる第二の肌を思わせるパンツをコーディネートし、素材の光沢の違いによるコントラストを強調。ネイビーとレースを中心とした白のカラーパレットには、鮮烈なイエローをミックス。大粒のクリスタルやビーズを刺繍し、繊細なディテールを見せている。

 

 出会い系サイトのティンダーとのコラボレーションTシャツには、ヘムにオーストリッチのフェザーを刺繍してドレスに変換。オーストリッチのフェザーをヘムに刺繍したケープやドレス、クリスタルチェーンとリボンを刺繍したレースのトレンチコートなど、クチュールライクなアイテムでショーを締めくくった。

サンローラン(SAINT LAURENT)

 アンソニー・ヴァカレロによる「サンローラン」は、ヴァルソヴィー広場の噴水を覆った特設テントでフィジカルなショーを開催した。今季のイメージアイコンはパロマ・ピカソ。

 

 パブロ・ピカソを父に持つパロマは、1960年代末に蚤の市由来の古い素材をあしらったジュエリーで注目され、80年代にはティファニーのジュエリーのデザイナーに就任し、自らの名を冠した香水や口紅も発表。深紅がパロマの象徴的なカラーとなった。80年代を象徴するファッションアイコンだったパロマだが、彼女のキャリア最初期に「イヴ・サンローラン」のジュエリーを手掛けていたことについて、多くは語られていない。

 

 ハウンドトゥースのゆったりとした広い肩のジャケットには、第二の皮膚ともいえるスラックスを合わせ、強いコントラストを生む。ループ状にドレープを飾ったジャンプスーツには、パロマカラーの大きなコサージュを飾り、大きな金ボタンのブレザーにもパロマカラーのグローブをコーディネート。アーカイブから引用されたフローラルプリントのドレスは、70~80年代のサンローラン作品よりも更にボディコンシャスでエッジーに仕上げられている。

 

 独創性とカリスマ性を兼ね備えたファッションアイコンにインスパイアされた本コレクションは、ヴァカレロが得意とする80~90年代のモダンな解釈とパロマのスタイルが見事に融合し、これまで以上にグラマラスでセクシャル。同時に、「イヴ・サンローラン」の服から匂い立つ濃密な世界観も強調して再現される結果となった。

クレージュ(Courrèges)

 ヴァンセンヌの森の中の広大な野原に白いペイントを施したランウェイを設置し、フィジカルなショーを開催した「クレージュ」。今季はアーティスティック・ディレクターにニコラス・デ・フェリーチェを迎えて2回目のコレクションで、初の有観客ランウェイショーとなった。

 

 会場となった野原は、デ・フェリーチェが数年前の夏に友人と共に一晩中踊り明かしたパーティの場所で、その記憶が今回のコレクションの原点となっている。Tシャツにプリントされた「Both of us knowing (二人で知る)」は、その時のノスタルジックな記憶と友情を象徴する言葉であり、会場の野原は観客との時間の共有を象徴する場所となった。

 

 1968年の丸いケープ、1969年の三角のケープ、1995年の四角のケープ、と、アーカイブから引用されたケープのシリーズでスタート。今季の特徴的なフォルムである「ループ」は、トップスやドレス、スカートなど、多くのアイテムに見られたが、これは数年前にデ・フェリーチェが入手した1976年の「クレージュ」のドレスのストラップからインスパイアされたもの。ダイアゴナル(斜め線)・ストライプのワンピースは、1968年のシェブロン(ジグザグ)・ストライプからヒントを得ている。最終ルックのケープドレスは、ピアスのようなリングとアイレットを飾ったストラップを配し、戦士を思わせる力強さを感じさせた。

 

 創始者、アンドレ・クレージュが第一線で活躍していたら、きっと生み出していたに違いないと思わせるアイテム群。そんな「現代のクレージュ」の新しい姿を強く印象付けるコレクションとなった。

ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN) 

 「ドリス ヴァン ノッテン」は、最新コレクションをデジタル配信し、アントワープ郊外のリントで撮影したアルバート・モヤによるムービーを公開した。グレイス・ジョーンズのヒット曲が流れる中、「フェスティバル・オブ・ラブ、喜びの共有、大胆な色と感情の爆発」といったキーワードから導き出される鮮やかなアイテムをまとったモデルたちが登場。

 

 素材とカラーパレットは、これまで通りバリエーション豊か。シャツタイプのジャケットは、キルティングに仕上げてからプリントを施して微妙なプリント残しを表現。ロングスリーブのスモッキングのジャケットには、ギャザーを無数に寄せることでプリーツのような効果を出している。フリンジ状の起毛素材にプリントを施したドレスや、マルチカラーのフリンジ素材をあしらったドレス、リボン状のシフォンを編んだニットなど、表面の凹凸によって絶妙なボリュームを見せるアイテムが目を引く。ステッチをかけて膨れ織りのように表現した素材のジャケットや、プリーツをかけて膨れ織りのように仕上げたケープジャケットなども、それぞれの素材の効果を巧みに用いたアイテム。

 

 街着というよりは、明らかにドレスアップするための服が多くを占め、発色の良いピンクやグリーン、袖口の大胆なボリューム、ジゴ袖を思わせる大きな肩などは、これまでにコラボレーションを実現させているクリスチャン・ラクロワのクリエーションを彷彿とさせる。

 

 マルチカラーのロングフリンジをあしらったドレスを筆頭に、花火をプリントしたコートドレス、ゴールドとパープルのビーズを刺繍したセットアップ、インク染めのようなマルチカラーのロングドレスなど、そのどれもがスペクタキュラー。華やかで喜びに満ちたアイテムで構成されたアイテムをまとい、今直ぐにでもコンサートやパーティへ出かけたくなる、そんなオプティミスティックな世界観を描いて見せていた。

アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS

 ジョニー・ヨハンソンによる「アクネ ストゥディオズ」は、歴史的なハンドクラフトをフューチャリスティックに解釈したコレクションを発表。これまで以上に実験性に富んだ作品で構成している。

 

 バロック建築をイメージさせるプリントのシフォンのシャツには、鞍を思わせるベルトを配したレザーのスカートや、パッチワークのレザーパンツを合わせ、素材の硬軟のコントラストを見せる。シャツドレスとエンボスのレザーコルセット、サテン地とニット、チェックモチーフとランジェリーといったコントラストのシリーズも登場し、今季は両極的で意外性に溢れるルックを揃えた。

 

 後半に登場したコルセットから着想を得たシリーズには、このブランドの実験性を強く感じさせた。裏側の構造を表に出し、袖を付け、スカート部分はコルセットを解体して再構築したかのよう。レースアップのブーツをコーディネートし、ランジェリーをモダンなドレスに解釈し直している。

 

 人が着ることを優先しながら決して逸脱せず、しかし飛び切り新鮮なアイデアで全く新しい服を創り上げるという姿勢は変わらず。「アクネ ストゥディオズ」らしい、強くしなやかなコレクションとなっていた。

 

取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)

 

2022春夏パリコレクション

https://apparel-web.com/collection/paris

 

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