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2021.10.04

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.75】ユーモアやアートで普段の装いに非日常感~2022年春夏東京コレクション~

 ベテランと若手の両方が持ち味を示した東京コレクションとなった。注目を集めた理由の一つはカムバック組。「ホワイトマウンテニアリング(WHITE MOUNTAINEERING)」は「Rakuten Fashion Week TOKYO」の特別企画「by R」として、約9年ぶりに東京でショーを開いた。「ヨシオクボ(yoshiokubo)」も約5年ぶりに復帰。最終日は「カラー(kolor)」が「by R」枠でのフィジカルショーを電車ジャック形式で開き、東コレを締めくくった。オンラインで発表するブランドが多い中、若手やメンズ、ユニセックスブランドはフィジカルショーを相次いで開き、それぞれの強みを打ち出し、東コレらしいカオスを感じさせる多様でコアな構成をアピールした。

◆ミカゲシン(MIKAGE SHIN)

 アートピースを思わせる「作品」を披露したのは、「ミカゲシン」だ。出掛ける機会が減り、着る側のおしゃれ意識が縮こまる中、あえて造形美を打ち出した。アシンメトリーなフォルムに解体・再構築の技法を持ち込んで、イレギュラーな造形を組み上げている。腕の出どころがトリッキーなシャツや、ひじから先に布を余らせたブラウスを披露。大胆なカットアウトを施したトップスは健やかに素肌を露出してみせた。

 

 サマーレイヤードを軸に据えて、異素材同士のマッチングを試した。複数のアイテムが見え隠れする重層的な重ね着スタイリングが趣を深くしている。トップスに施した大胆なカットアウトは、ヘルシーな肌見せを演出。多彩なプリーツスカートが気品を漂わせた。ブラレットとロングスカートといった「異素材、異ムード、異バランス」の組み合わせが冴えていた。

◆スリュー(SREU)

 アップサイクルに強みを持つ「スリュー(SREU)」にとって、今のサステナビリティートレンドは追い風だ。デニムのセットアップや、ミリタリー調ミックスコーディネートなどで、得意技の古着リメイクを発揮。トレンチコートもソフトシルエットに変形させている。古着リメイクにはカジュアルなイメージがあるが、今回のコレクションはこれまでよりも大人シック寄りに整えられ、「アップサイクルクチュール」のムードを帯びて見えた。

 

 黒でまとめたパンツルックや、「きちんと感」の高い白パンツなど、大人使いしやすい装いが用意された。アップサイクル服の枠を超え、ストリート感と落ち着きが響き合うグッドバランスがこなれ感を呼び込んでいる。ワッペンや文字ロゴがルックをにぎやかに彩った。プリーツスカート生地を部分的に組み込んで、立体感を添えている。サステナビリティーがブームになる今、以前から取り組んでいたからこそ、エコにもたれかからないプライドを示していた。

◆ホウガ(HOUGA)

 出掛ける機会が減り、おしゃれマインドも冷え込む中、着飾るよろこびを歌い上げたのが「ホウガ(HOUGA)」だ。フリルやラッフルをどっさり盛り込んだ、気分の盛り上がる服を押し出した。大襟と飾りスリーブでワンピースをデコラティブに華やがせている。ギャザーやドレープもふんだんにあしらって、ロマンティックなムードを濃くした。

 

 流れ落ちるようなラッフルが起伏と流麗さを印象づけた。正面の前立てを折れ曲がらせるといった、ウィットフルなディテールを随所に配している。装飾美と着心地を両立。ストレスフリーのデコラティブルックに仕上げた。キッズの装いを、大人仕様で整えたのは、素敵なアイデア。ドレッシーなウエアをそのままサイズダウンし、家族リンク・コーディネートを提案している。

◆ネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS)

 持ち味を鮮明に打ち出すデザイナーが相次いだ、今回の東コレにあって、パンクロック気分を濃いめにまとったのは、音楽プロデューサーの渡辺淳之介氏がデザイナーを務める「ネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS)」だ。ウイットや茶目っ気も増量。ベートーベンやモーツァルトといったクラシック音楽家の顔に、ロックバンド「KISS」風のペイントを施したモチーフを投入し、ファニーな雰囲気を呼び込んだ。

 

 チェック柄シャツやフーディーなどの見慣れたアイテムを、パンキッシュなスタイリングに組み入れた。フーディーにはプリーツスカートを引き合わせ、ストリート×フェミニンをミックス。パンクのお約束的ディテールのファスナーを多用して、ハード感も添えている。ブランド名を略した「NAP」のロゴはキャッチーにあしらった。指先まで隠す超ロングスリーブのスウェットトップスは意外性を帯びた。恒例になっている、麺類を食べながらのランウェイウォークは、BiSHのアユニ・Dがカップ焼きそばを食べながら登場し、期待を裏切らなかった。

◆ディーベック(D-VEC)

 アウトドアやユーティリティーはますますモードとの親和性を高めている。釣り用品の「ダイワ」から生まれたブランド「ディーベック」はフィッシングルックを街中に融け込ませた。オーバーサイズのアウターがエフォートレスなたたずまい。ドレーピーなカシュクール服はたおやかでのどか。ポンチョのような羽織り物は風をたっぷりはらむ。ガウンライクなジャケットは共布ベルトで締め、落ち感を際立たせた。

 

 フィッシングウエアのアイコン的なディテールの張り出しビッグポケットがジャケットにアウトドア感を宿らせた。キーピースのフィッシングベストはジャケットの上から重ねている。巻きスカート風のボリューミーボトムスがフェミニンな風情。裾がスーパーワイドのジャンプスーツや、袖先を余らせたトップス、ペーパーバッグウエストのボトムスなど、プレイフルなアイテムを連打。スポーティーとイージーの適度なずれ加減がこなれ感を生んでいた。

◆ベッドフォード(BED J.W. FORD)

 「ベッドフォード(BED J.W. FORD)」は庭園をランウェイに選んで、植物モチーフを随所にあしらったコレクションでナチュラル感を印象づけた。70年代ヒッピー風のイージーさと水彩画ライクなやわらかいニュアンスカラーが同居。グラデーション配色とボタニカル柄と相まって、自然体のムードを醸し出した。様々なパターンの花柄が気負わないムードを引き出している。シアー素材を生かした透かしレイヤードも植物モチーフと好相性を発揮していた。

 

 ネクタイはわざとルーズに巻き垂らして、ノンシャランとした気分を表した。Tシャツに重ねたロングタイは伸びやかな表情。ディテールは随所に工夫を凝らし、たとえば正面の打ち合わせはシューレース風に仕立てた。ジャケットのボタンに添えたのは、服と共生地の花飾り。チューリップハットやニット帽はネオヒッピーの顔つき。足元にはローファーのほか、スニーカー、サンダルなど、多彩なシューズを迎えて、着こなしの味わいを深くしている。

◆ユーシーエフ(UCF)

 新鋭クリエイターたちが集まって2014年に立ち上げた「ユーシーエフ(UCF)」は白一色と黒一色で押し通した。素材感とシルエットを際立たせる狙いで以前から貫くワントーンスタイルだ。クールでありつつ、デコラティブな着映えという、相反する持ち味を両立。ボリューミーでドラマティックな量感に、シャーリングやギャザー、ジップ使いなどのディテールを交わらせ、動感を引き出している。

 

 軽やかな風合いのおかげで、たっぷりフォルムでありながら、しなやかな着映え。黒のトップスは正面のウエスト周りに三角形の穴を開けて素肌を露出し、ヘルシーセクシーを薫らせた。多彩なドレープのおかげで、布の表情が際立っている。白のケープ風セットアップはクラシックな装いに導いた。ブラレットや超フレアパンツなど、アイキャッチーなアイテムを組み込んで、立体的なスタイリングに仕上げている。

◆セイヴソン(Seivson)

 台湾から初参加した「セイヴソン」は、大胆な解体・再構築を試みた。ジャケットはデコルテから上を省いて、スリップ化を施し、ブラトップのような形にトランフォーム。ひじの内側をくり抜くようなカットアウトをあちこちに加え、部分肌見せを仕掛けた。ブラトップを生かした多彩なレイヤードは若々しいムードをまとわせている。

 

 タイツのようなストレッチ素材を巧みに使って、ソフトボンデージのような見え具合に整えた。トレンチコート風のフレアドレスはミリタリー要素をセンシュアルに味付け。サロンスカートとパンツのハイブリッドはたおやかでアクティブ。帽子とマスクを一体化したマスクハットはウィットフルなアイテムだ。Tシャツの正面には台湾へのワクチン提供に感謝するメッセージ「THANK YOU JAPAN WE ARE FROM TAIWAN」と大きくプリントした。

 

 

 不安定な状況はまだ先が見えにくいが、東コレに参加したクリエイターは、着て行く場所を探したくなるような非日常の装いを用意した。ユーモアや遊び心を注ぎ込んで、気持ちが弾む服に仕立て、おしゃれをすることによって、自ら気持ちを盛り上げていくような提案だ。それぞれのブランドの強みを押し出すアプローチは、コアなファン育てを意識しているように見える。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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