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2021.09.28

【2022春夏ミラノ ハイライト1】 鮮やかな色彩と煌めきで祝祭ムードに

2022年9月22日~27日、ミラノ・ウイメンズ・ファッションウィークが開催された。トータルで173項目がカレンダー上に並び、フィジカルな形で42ブランド(計65ブランド中)がショーを、56ブランド(計79ブランド中)がプレゼンテーションを行い、カクテルパーティ等のイベントもいくつか行われた。ミラノではかなり感染状況が落ち着いていることをうけて、全体の6割強のブランド、特に大部分の主要ブランドはフィジカルショーを行った。ショーでは招待客をかなり減らし、入場には「グリーンパス」(ワクチン接種、48時間以内のPCR陰性等の証明書類)の提示を必須として、感染防止対策に努めながらの開催となった。

 

とはいうものの、会場外ではパパラッチ大会、道をふさぐ出待ちの人々、われ先にと会場に入ろうとする招待客で当然のごとく「密」が起こり、またかつてのようにショー会場近辺は大渋滞で、ミラノの空気汚染はまた悪化したと言う話も聞いた。復活を祝うムードに溢れた華やかなファッションウィークとなったのは何とも嬉しい限りではあるが、まだパンデミックは決して終わったわけではないのに、それを忘れてしまったような状態には、この後への小さな不安と、結局人間は何も学ばなかったのだという小さな失望が無きにしも非ず、である。

ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)

 ガレージヴェントゥーノにてメンズ、ウィメンズ混合ショーを行った「ヌメロ ヴェントゥーノ」。今シーズンのテーマは“TEMPATIONS”。アレッサンドロ・デラクアはこの“誘惑”という言葉について、「すべきでないことに心が傾くという意味ではなく、常に新しいことを試し、予期しない可能性を開く方法という暗示」だと考えてきたと言う。そしてこのコレクションでは、ハンドメイドでクリエイティビティを表現したいという思いから、伝統的なニット技術に目を向けてデザインを始めたのだとか。ニットは彼がそのキャリアの中で当初から得意としてきたものだが、今回はそこにクチュール感をふんだんに盛り込んで新しいクリエーションに昇華している。

 

 ファーストルックのニットパンツのメンズモデルに始まり、ミニスカート、ブラトップ、アシンメトリーなワンショルダーのミニドレス、長い袖が特徴的なマイクロトップなど様々なアイテムで、かつクロシェ編みからハイゲージまで種類も様々なニットが登場する。

 

 その一方でチュールやシフォンなど透け感のある素材はドレスやシャツ、そしてボディスーツの上にレイヤードされたり、メンズのパンツやバミューダスーツまでにも使われている。またフェザーやフリンジがミニドレスやスカート、ディテールにまで多用されたり、クリスタルビーズドレスやジャケットに施されてゴージャス感を漂わせている。その一方で、「PARADISE」のスローガン入りのアイテムやパーカ、チュールを6層に重ねて裏地のヤシの木のプリントが透けるジャケットなどスポーティでイージーな要素も加わる。

 

 前シーズンに引き続きデコルテ部分や背中が大きく開いていたり、透け感のある素材を用いたセンシュアルな雰囲気は継続しつつ、盛りだくさんに様々な要素が重なった今シーズンは、品の良さと若々しさが共存したバランスを生み出している。

フェンディ(FENDI)

「フェンディ」2022春夏コレクション

 キム・ジョーンズが手掛ける2回目のコレクションであり、観客入りとしては初のフィジカルショーを発表した「フェンディ」。今シーズンのテーマは、60~80年代に活躍したカリスマ的ファッションイラストレーター、アントニオ・ロペス。故カール・ラガーフェルドと共に仕事をしていた時期もある彼は、キムにとっても「常にインスピレーションを与えてくれる存在」で、「先進的で開放的、どんな人も受け入れ、あらゆる人の尊敬を集めていた彼を新たな世代に彼を紹介したいと思った」と言う。

 

 そんなコレクションはアントニオ・ロペスが活躍していた70年代のイメージ、そしてその時代に世界中の著名人が集ったニューヨークの伝説的ナイトクラブ「スタジオ 54」の華やかで開放的な雰囲気を醸し出している。ジェリー・ホールやティナ・チャウ、パット・クリーブランド、ビアンカ・ジャガー、グレース・ジョーンズなど、ロペスをインスパイアした女性たちのエネルギーを、キム・ジョーンズが自信あふれる女性像として描いた。

 

 唇が象徴的なイラストをメインに、ロペスのイラストが、ファーのロングコート、インターシャを施したレザーのコート、レースにビーズを施したドレスやコットンミニドレス、そしてカフタンやオーバードレスなど様々なピースに描かれている。ピークトラペルのジャケットやジレ、スタンドカラーのコートジャケットをブラトップとワイドロングパンツに合わせるパワフルなコーディネーションは、オープニングから続く白のシリーズでも、後半の光沢素材のシリーズでも象徴的に登場する。その一方で、フェザーやレイヤードフリンジのミニドレスなどゴージャスなピースも数多く登場。

 

 それに合わせる小物たちもロペスのデザインは、「バゲット」や「ピーカブー」などのアイコンバッグから、ニーハイブーツにまで生かされる。また「ハンド・イン・ハンド」(イタリア各州の職人が「バゲット」を作る企画)によりピエモンテ州の職人が作った「バゲット」も登場。「フェンディファースト」は光沢のあるレザーのバッグや、樹脂ヒールなど数多くのアイテムが揃った。

 

 ディスコ全盛期の雰囲気溢れるゴージャスでパワフルなコレクションは、4シーズンの沈黙の後、まるでコロナ前に戻ったかのように華やかなファッションウィークを祝うかのようでもあり、今シーズンのトレンドが凝縮している。

ジル・サンダー(JIL SANDER)

 パンデミックが始まって以来、久々にミラノに戻り、フィジカルショーを復活させた「ジル・サンダー」。ショーには使われたことがない新しいビルのガレージ部分を白い壁で覆って作られた、青い光に包まれて長く一本に伸びるランウェイが幻想的な雰囲気を醸し出す。

 

 今回のコレクションで特徴的なのは、固さと柔らかさ、繊細さと力強さ、軽さと重厚さなどの対比だ。これまでもテイストをミックスすることは得意としてきたルーシー&ルーク・メイヤーだが、今回は特に対照的な要素が強調されている。

 

 天然素材に様々な加工を施したクラフツマンシップに溢れた生地が強調され、コットンドリルに様々な加工を施した力強い素材の一方で、ベルベットやシルクなどの流れるような素材も使われる。ショルダーを強調し合わせ部分が斜めにカットされたノーラペルのジャケット、合わせ位置をずらしたジャケット、片方だけ強調されたスカーフ襟のシャツなどアシンメトリーなスタイルも印象的だ。またカフタン風ドレスにロングパンツをコーディネートするなど、縦のラインを強調したコーディネートも多い。

 

 そんな中、ベルベットのコートやディテールに使われていたタイガープリント、大胆な色遣いの太めストライプ、スパンコールで彩られた大きなペイズリーなど、「ジル サンダー」にはちょっと珍しいモチーフやディテールが。または深めのニュアンスカラーとペールトーンが使われる中、これまではあまり使われていなかったようなビビッドカラーで編まれたニットドレスなども登場。

 

 パンデミックの状態が徐々に良くなっている状態や、そして6月に誕生した娘の誕生などによって、より一層高まる明るい未来へ希望をコレクションに込めたと言うルーシーとルーク。かなり雰囲気が変わったように見える今シーズンのコレクションは、色々な意味での新しい始まりをポジティブなイメージで祝っている。

マックスマーラ(MaxMara)

 「マックスマーラ」はボッコーニ大学にてフィジカルショーを開催。以前も会場として使ったことはあるが、特に今回ここを選んだのはきっと、今シーズンの「マックスマーラ」がイメージしたのが、小説「悲しみよ こんにちは」の作者、フランソワーズ・サガンであり、同作の主人公セシルだったこともあるだろう。この小説は当時18歳の作者が、大学入学試験に落ちてバカンスに行けなかった気晴らしに、快楽主義的で魅力的なバカンスを空想して描いたデビュー作だが、そんな作者サガンの気楽なビートニク・シックや、物語の中での主人公セシルのイメージがコレクションの中に生かされている。

 

 クラシカルなワークウェアながら、それはポプリンのフィッシャーマンズスモックだったりダブルフェイスカシミアのワークマンジャケット、またはノーウォッシュデニムのセットアップといった質の良い素材で再現されたものだ。スーツやセットアップ、クラシックなレザートレンチのインナーにはブラトップやマイクロ丈のランニングを合わせたり。時々登場するハーネスのようなアクセサリーやチャンキーなクレープソールのサンダルでも小さなやんちゃぶりを表現しているかのようだ。そして会場の観客席にも使われていたデッキチェアのようなストライプキャンバスのアイテムも登場し、ノスタルジックなバカンスを連想させる。

 

 そんな中にフェザーのミニドレスやフェザー刺繍のついたシフォンやニットのボディコンシャスなロングドレスなど甘さやフェミニンさも加えている。デイタイムも夜のお出かけにも使えそうなアイテムがたくさん揃っていて、これは今シーズンのトレンドとも言えそうだ。

 

 エレガントなバッドガールを描いた今回のコレクション。創業70周年を迎えた「マックスマーラ」の創業当時の顧客だったブルジョア階級の女性たちは、現代、素材や仕上げは上質ながら実用性と遊びを求める女性へと変貌したということか。

ブルマリン(Blumarine)

 TENOHAにてフィジカルショーを行った「ブルマリン」。ニコラ・ブロニャーノは2000 年代のポップシーンと、そこで活躍した女性アイコン達のグラマラスでインパクトのあるスタイルからインスピレーションを得て、セクシーで生意気、そしてグラマラスな女性像を描いた。ブリトニー・スピアーズとパリス・ヒルトンのカジュアルなポップグラマーだった前シーズンのコレクションをさらにパワーアップし、透け感と肌見せでセクシーに、かつネオンカラー&ビーズ使いでにヴィヴィッドに演出した。

 

 ウエスト部分を露出するマイクロ丈のトップスや蝶のモチーフのブラトップ、ワンショルダーやベアトップのドレスたち。またはお尻が半分見えそうなマイクロショーツや超ローライズのデニムやカーゴパンツ。シフォンのスリップドレスやフリルシャツなど透け感のあるアイテムも満載だ。その一方で再利用ミンクの襟付きガウンやエアブラシで染色されたブルゾンなどヘビーなアイテムも登場する。そして「ブルマリン」のシンボルであるバラのモチーフや、アニマル柄、そして刺繍やビーズで装飾されさらに華やかに。

 

 今シーズン、カラフル&キラキラムードは全体的に多いが、「ブルマリン」の場合、(ニコラの就任以来の流れを見ると多分)トレンドに関係なくブランドの個性として定着しつつある様子。これからもぶれずに突き進んで欲しいものだ。

エトロ(ETRO)

 「メガワットコート」という巨大倉庫にてフィジカルショーを行った「エトロ」。真っ暗で無機質なこの会場とは対照的に、ヴェロニカ・エトロは「70年代の喜びに満ちた神秘主義や精神的な目覚めをインスピレーション源に、夢を追い求め、人生を楽しもうとする若いジェネレーションを描いた」と言う。

 

 そんなテイストは、「エトロ」らしいペイズリーやフラワーモチーフ、ウォールペーパーのようなオプティカル柄やストライプなど様々なパターン、そしてビタミンオレンジ、エメラルドグリーン、キャンディピンク、ブライトイエローなどエネルギッシュな色で表現される。

 

 ワイドロングパンツやクロシェ編みのミニトップ、プラットフォームサンダルなど70年風の要素を入れつつ、サイクリングショーツやレギンス、パッチワークを施したトラッキングパンツなどスポーティテイストも盛り込んでいる。テーラードジャケットにブラトップを合わせたり、マニッシュなシャツにサロンスカートを合わせるなど、テイストミックスの遊びも見られる。さらにメタリックやスパンコール使ったミニドレスやジャケット、ゴールドのベルトやスタッズ付きのケージサンダルなど、キラキラと輝く要素もふんだんに使われている。

 

 リラックス着が王道だったロックダウン中にも、自由に着飾る提案をして元気を与えてくれた「エトロ」。ファッション界全体が復活を祝うムードになった今シーズン、「エトロ」はさらにギアを一段階上げ、よりパワフルでエネルギッシュなコレクションを展開した。

エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)

 1981年に誕生し今年40周年を迎えた「エンポリオ アルマーニ」はアルマーニ/テアトロにて、3シーズンぶりに観客入りのショーを開催した。40年の歴史を観客たちと共に振り返るべく、同ブランドのこれまでの軌跡を語る画像や映像をモンタージュしたショートムービーが流れた後、ショーがスタート。

 

 今シーズンのテーマは“Elsewhere”。それは境界線を作ることなく飛んで他の場所へと移動する、ブランドアイコンのイーグルを連想させる。またはルールに縛られないノンシャランでエレガントなスタイル、国境を越えた異なる文化からのインスピレーションを投影し続けた「エンポリオ アルマーニ」自体を暗喩しているのかもしれない。

 

 コレクションにはそんな40年の総括ともいえるアイコニックなスタイルが登場し、軽やかさ、流れるようなカッティング、絶妙な色合いの具合で表現される。ウィメンズでは、軽やかなダスターコートやジップパーカ、ウエストを締めたフェミニンなドレスやジャンプスーツ、ソフトで流れるような素材のパンツ、帯のようなベルトや水彩画のような淡いプリントなどが登場。メンズでは、アルマーニらしいデコンストラクションを活かしたテーラージャケット、軽い光沢素材のシャツジャケット、チュニックシャツやノーカラーのジャケットなどは東洋的な雰囲気を醸し出す。

 

 そんな中、ウィメンズではスパンコールをちりばめたミニドレスや鮮やかな色使いを施したジャケットやパンツ、スカート、または素材面ではしわ加工されたニット、透け素材のスカートやオーバードレスやパンツとレイヤードするなど、今シーズンらしいアイテムや素材が登場。メンズでは光沢素材で仕上げたカーゴパンツやトラックパンツや、デニムパッチワークのテーラードジャケットなど、クラシックとスポーツが共存する現代的な提案も。

 

 ショーの最後には、「エンポリオ アルマーニ」に携わってきたジョルジオ・アルマーニの姪、シルヴァーナ・アルマーニと、メンズの時にも最後に登場した長年の彼の右腕のレオ・デロルコが、ジョルジオ・アルマーニと共に現れて観客に挨拶した。

 

 「エンポリオ アルマーニ」は40周年を記念し、「The Way We Are」キャンペーンを行う。その一環として、ショーの後には「アルマーニ/シーロス」にて同名の展覧会のオープニングイベントが行われた。ここには一流フォトグラファーたちが撮ったキャンペーン写真や、アイコン的ピースが飾られているが、そんな過去の作品は今も全く古さを感じさせない。そしてこのブランドがずっとそのスタイルを変えることなく守り続けてきたことがよくわかる。

 

 

取材・文:田中美貴

https://apparel-web.com/tag/miki-tanaka

 

2022春夏ミラノコレクション

https://apparel-web.com/collection/milano

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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