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2021.09.13

【2021ミラノサローネ ハイライト】コロナ禍後初の開催 ファッションブランドも参加

写真左より、ディオール、アルマーニ/カーザ、ヴェルサーチェ ホーム

 伊ミラノで毎年4月上旬に開催される「ミラノデザインウィーク」。家具の国際見本市「サローネ・デル・モービレ」とその時期で市内各所で行われる一連の展示やイベント「フオリ・サローネ」を合わせた、世界最大級のインテリアとデザインの祭典だ。昨年は新型コロナウイルスの影響により中止されたが、今年は通常の4月から延期して9月5~10日に開催された。見本市のほうは今回「スーパーサローネ」と称して、規模を縮小し、インスタレーション的要素の強いものに形式を変えての発表となったが、市内で行われた展示やイベントは、コロナ前を彷彿させるかのような盛況ぶりを見せ、業界関係者の想像をよい意味で裏切る華やかなデザインウィークとなった。そんな中で発表された、ファッションブランドのインスタレーションやホームラインの新作をチェックしたい。

エルメス(HERMÈS)

 毎年、魅惑的なインスタレーションを発表している「エルメス」は、サローネで最も話題になるブランドの一つ。今年もメゾン部門アーティスティック・ディレクター、シャルロット・マコー・ペレルマンとアレクシィ・ファブリによって、コロナ禍による1年半のブランクを全く感じさせない壮大な展示を行った。砂が敷き詰められた館内に、幾何学的模様のカラフルなハンドペイントがなされた5つのボックス型の建物が設置され、それぞれの外観と製品たちが呼応するような感じで作品たちが並ぶ。登場するオブジェ達は、それぞれの製品の素材や質感にこだわって、原材料を生かす形で作られた「手で触れるためにデザインされた製品」なのだとか。紙のマイクロファイバーで作られたシートの柔らかさ、金糸が混ざった白いカシミヤのフェルトの優雅さ、カットストーンを使ったテーブルのピュアさなど、天然素材の質感を強調しつつ、「エルメス」らしいエレガンスと職人技を物語る。

ディオール(Dior)

 前回のミラノサローネから参加し、大きな話題を振りまいた「ディオール」。今回の展示では、同ブランドのシンボル的存在として、ファッションショーのゲストを迎えるために使われていたルイ16世様式のチェア「メダリオンチェア」が、17人のアーティストによって再解釈されたデザインで登場。それぞれの作品が光によって浮かび上がるように演出された、幻想的なインスタレーションが繰り広げられていた。サム・バロン、ナチョ・カルボネル、ピエール・シャルパン、ディモーレスタジオ、マルティノ・ガンパー、コンスタンス・ギセ、インディア・マダヴィ、nendo、ジョイ・ドゥ・ロアン=シャボ、リンデ・フライヤ・タンヘルダー、アタン・ツィカレ、スンジュン・ヤン、マ・ヤンソン、ヨン・ジニョン、吉岡徳仁、ピエール・ヨヴァノヴィッチといった世界中のデザイナーが、それぞれのビジョン、芸術的・文化的感性と独自の創造性で、このチェアをデザインし、同じ椅子が様々なクリエーションによって全く違うモノになっているのが興味深い。

グッチ(GUCCI)

 「グッチ」はミラノサローネの期間を含めた9月5日から17日まで、おとぎ話の世界のようなスペシャルなポップアップショップ 「グッチ カルトレリア」をオープン。イタリアの伝統的な文房具店を「グッチ」が再解釈し、「グッチライフスタイルコレクション」を発表した。同コレクションの根底にある「驚異の部屋」というインスピレーションに基づいて、クリエイティブ・ディレクター 、アレッサンドロ・ミケーレは、伝統的な文房具店と魅惑的な隠れ家の両面を併せ持つ空間を演出。空飛ぶノートブック、自らプレイするチェスセット、おしゃべりをしているように開いたり閉まったりするペンケース、小さな穴から見えるマウスたちが住む「グッチ」の家具付きの家・・・等々、ミステリアスながら、くすっと笑ってしまうようなエンターテインメント性の高い展示で、それを一目見ようと連日長蛇の列ができていた。

アルマーニ/カーザ(Armani/ Casa)

 今回の「アルマーニ/カーザ」コレクションは、自由に外に出ることを制約されがちな現状において、家の中に沢山の自然を取り込むべく、自然からインスピレーションを得たコレクションを発表した。「アルマーニ/カーザ」には珍しいアニマルプリントのパターンや、花や葉、石の縞模様などを積極的にモチーフとして取り入れ、石や木、紙やコットンなど天然の素材をふんだんに使用している。またスマートワーキング主流の今のご時世を反映した、パーテーションのコレクションや、アウトドアのコレクションも登場した。また、ガーデニング、バーベキュー、カクテル用のそれぞれのセットや、チェスや碁などの小物も充実。コロナ禍によって、どこもコレクションの幅を縮小する中、「アルマーニ/カーザ」はバリエーション、品数とも豊かな圧巻の新作を発表していた。

ヴェルサーチェ ホーム(VERSACE HOME)

 「ヴェルサーチェ ホーム」はドナテラ・ヴェルサーチェとデザインデュオ、ルドヴィカ+ロベルト・パロンバとのコラボによる新作を発表。このコレクションでは特に2021秋冬コレクションにおいてシンボリックに登場していた「ラ グレカ」のモチーフを、シーツやクッションからウォールペーパーまでふんだんに使っているのが象徴的だ。また、チェアやカップボードの足の部分がハイヒールを連想させるものだったり、チェアのカバーには革ジャンを連想させるジップ付レザーを使用するなど、「ヴェルサーチェ」を象徴するファッション的なコードが各所に使われている。格式にとらわれない非同調主義、古典芸術、神話、折衷的な装飾、幾何学的なラインが、典型的なイタリアのセンスと融合した形で取り入れつつ、温かみのあるデザインで家庭的な雰囲気を演出している。

ブルガリ(BVLGARI)

 「ブルガリ」は、ミラノ近代美術館にて、同ブランドのアイコニックなシンボルであるセルペンティの進化をテーマにした展覧会「メタモーフォシス」を開催。中庭に設置された建物では、セルペンティの1948 年の誕生当時から、その歴史を現代的なビジュアルで表現。また国際的アーティスト、アン・ヴェロニカ・ヤンセンズ、東信、ダーン・ローズガールデ、そして建築家のヴィンセント・ヴァン・ドゥイセンが、“メタモーフォシス”というテーマをそれぞれが解釈したインスタレーションを作成。例えば、東信は「エデンの園」からのインスピレーションで、花や植物を使って大きな木を作り、ガラスの床一面にもそれらをしきつめた。またダーン・ローズガールデは「ブルガリ」の本拠地であるローマのパンテオンからのインスピレーションで、ジオメトリックなオブジェを使って光と影の遊びを演出。アン・ヴェロニカ・ヤンセンズは水槽のようなボックス型のガラスを使って反射や光の遊びのインスタレーションを、ヴィンセント・ヴァン・ドゥイセンはシェルターをイメージした、メタリックな板で作られた現代的な空間を繰り広げていた。

トッズ(TOD’S)

 これまでもミラノサローネ期間中にユニークなアートインスタレーションを発表してきた「トッズ」。今回は生産時に発生する端切れのレザーを回収し、アップサイクルのプロセスを用い、パッチワークの技法によってできた一点モノのバッグ「トッズモザイク」の発表と、それを記念して既存の素材から立体的なアート作品を制作することで知られるアメリカの現代アーティスト、ウィリー・コールによる、同社のリサイクルレザーを使って作成したオブジェを発表した。ウィリー・コールは「トッズ」の職人とのコラボレーションにより、レザーや半製品、様々な製品から回収された部材を原材料とし、ゴンミーニのプロトタイプによるチェアなどの芸術的なオブジェを制作。作品は、ミラノサローネ中、ミラノブティックで披露された後、パリ、ロンドン、ニューヨーク、マイアミを巡回する予定だ。また「トッズモザイク」のコレクションでは、数量限定のショッピングトートやポーチ、そしてホームアクセサリーを販売する。

ヴァレクストラ(Valextra)

 ミラノサローネにおいては、これまでも旬のデザイナーたちとアーティスティックなインスタレーションを発表してきた「ヴァレクストラ」。今回は英国人デザイナー、トム・ディクソンとのコラボで、「ブラックライト」と題した彫刻の光のインスタレーションをミラノのブティックにて行った。ジオ・ポンティ、エットレ・ソットサス、アキーレ・カスティリオーニのアーカイブにインスパイアされた「ブラックライト」が、光と影を演出しながら「キアロスクーロ(イタリア語で「明暗」)」カプセルコレクションと、「ヴァレクストラ」のアイコンバッグ「イジィデ」、「トリックトラック」、「バケット」と共に展示された。このインスタレーションはこれから世界中の「ヴァレクストラブティック」に移動して発表される。

 

文:田中美貴

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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