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2021.07.19

米国発循環型ショッピングプラットフォーム「Loop(ループ)」から見えたサステナブルな消費文化の可能性

「TerraCycle(テラサイクル)」公式サイトより

 米国発の「TerraCycle(テラサイクル)」は、これまでリサイクルが困難とされてきた海洋プラスチックなどを回収し再利用するソーシャルエンタープライズです。現在、世界 20 カ国以上でリサイクルのプログラムを展開し、海洋プラスチックのリサイクルに関しては、世界最大規模のサプライチェーン形成に成功しています。日本でも2013年の進出以来、花王をはじめとする大手消費材メーカーと提携し、化粧品容器などの再利用の推進に注力しています。

 

 さらに2019年には、米国やフランスなど海外市場で先行して、再利用可能な容器を用いた循環型ショッピングプラットフォーム「Loop(ループ)」の展開をスタートしています。Loopとは、繰り返し使用できる容器の提供、回収サービスです。提携企業と、繰り返し使える耐久性のある容器を開発、企業は商品をLoopの容器に入れて消費者へ提供します。そして使用済みの容器はLoopが回収し、洗浄後、再び提携企業で商品を充てんして販売する仕組みを提供するサービスです。

 

 Loopのようなリユース可能な容器を生活日用品の中に取り入れる仕組みが日本でも広がることで、小売企業のあり方や消費者の行動はどのように変化するでしょうか。今回、AIR編集部は、2021年5月に日本で発表された、大手スーパーマーケットチェーンのイオンとTerraCycleとの提携、およびイオン店舗で展開される消費者向けLoopサービスの展開について着目しました。日本での事業展開から見えてきた成果、課題、そして8月31日にオープンを控えるLoopのECサイトの詳細について、テラサイクルジャパン合同会社およびループジャパン合同会社でアジア太平洋統括責任者兼日本代表を務めるエリック・カワバタ氏にお話を伺いました。

テラサイクルでは民間企業だけではなく、自治体とも連携してプログラムを提供

現在イオンなど提携している企業とプロジェクトを進めていく中で、どのような課題に直面し、どのように解決していったのか、具体的なエピソードを交えて教えていただけますか。

 まず、根本的に「リサイクル」の概念について、日本と欧米先進国との間には“大きなズレ”があることを認識できている日本の企業が少ないことが課題の1つです。そのズレとは、簡潔に説明すると、プラスチック関連の廃棄物の処理方法の違いによって発生しています。後ほど詳しく説明しますが、日本の多くのプラスチックの処分は「サーマルリサイクル」といい、欧米諸国とは異なる処理方法を採用しています。

 

 私自身、以前に、環境コンサルティングや環境問題に関わるNPO法人を通じて活動しており、日本ではプラスチック関連の廃棄物のリサイクル率が8割以上という高い水準に達していることを認識していました。そして、日本企業もまた、日本ではすでに高いリサイクル率に成功しているという理由で、弊社のプログラムの必要性を感じてもらえない場面がありました。処理方法に違いがあることを理解していないと、日本はリサイクルにおいて先進国であるという思い込みが発生してしまいます。

 

 ここで、日本が採用している「サーマルリサイクル」について説明します。「サーマルリサイクル」とは、800度以上の高熱でプラスチック関連の廃棄物を溶かし、焼却したときの熱エネルギーを再利用するリサイクル手法です。「エネルギー回収」や「熱回収」とも呼ばれています。しかし、のちにテラサイクル米国本部と情報交換し、私自身も調査を進める中で分かったのですが、この「サーマルリサイクル」では、高熱の処理方法によってエネルギーに変えているだけで、プラスチック関連の廃棄物その物を再利用しているのではないということが判明しました。確かに、環境保護の側面においてメリットもあるのですが、欧米の先進国では、「サーマルリサイクル」をリサイクルとして認めないケースも多く存在します。また、「サーマルリサイクル」を行う過程においては、鉛や水銀、燃焼後に残る灰など毒性の強い物質が生成されることも懸念点の1つです。

 

 このような背景から、日本企業にサービス提案する際には、ビジネスプランの話の前に、まず「サーマルリサイクル」の仕組みや日本におけるゴミ処理の現状に加え、前述した欧米諸国との認識の“ズレ”などを正しく理解していただくように努めています。提案先から理解を得られるまで、時間も労力もかなり要するのですが、このような現状をしっかり把握いただけない限りは問題意識を共有し取り上げていただけないので、現在、取り組みに至っている企業には、データの共有や説明を幾度も行ったことでようやく理解を得て提携に繋がったという経緯があります。

米国テラサイクルの公式ブログでは積極的に環境保護、サステナビリティに関する情報を発信

なるほど、確かに、日本はプラスチック関連の廃棄物のリサイクル方法は世界でも有数国だと思い込んでいました。続いて、Loopの事業について詳細をお伺いします。現在、Loopのプログラムに参加している企業は大手企業が多い印象を受けますが、例えば、リサイクルやサステナビリティに関するノウハウや資金面に比較的欠ける小企業やスタートアップ企業に対して、何か支援の施策はありますでしょうか?

 あくまで「特例」という前提ですが、Loopのプログラムの初期費用がネックとなっている場合、企業規模によっては負担を減らすことを検討するケースもあります。その場合、公的機関による助成金などではなく、弊社独自のスキームで行っております。また、よりLoopのプログラムに参加しやすいよう、Loopへの参画を検討する企業がサプライチェーンを切り替える際は、容器メーカーなどのサプライヤーも紹介しています。従って、サステナビリティに関する情報収集や設備投資という側面からみると、サプライチェーンを見直し生産インフラを自社で保有する場合に比べ、Loopのような資源循環モデルを採用した方が、取り組みにかかる時間も投資コストのハードルも下がり、結果として確実にサステナビリティの取り組みを前進させることができると思います。

Loopの仕組み

御社では今後、リセール事業に関する独自のECサイトを立ち上げる予定だと伺いましたが、事業戦略について詳細をお聞かせください。

 Loopは、日本だとリアル店舗での取り組みが先行しているのでその印象が強いかもしれませんが、実は、米国、英国、カナダなど海外ではECサイトがメインのビジネスモデルとなります。ECサイトをメインとしていたLoopが、小売店と提携することで販路を広げているというように理解をしていただければと思います。Loopはあくまで回収、洗浄、再充填、販売をするプラットフォームですので、販路はECサイトに限定せず実店舗展開も行っていきます。今後は、ブランドサイトなども販路の選択肢の一つとなっていくと思います。

「プラットフォーム」というキーワードがありましたが、柔軟性が高いという特徴から今後リセール事業で拡大するカテゴリーはどういったものを計画していますでしょうか?

 アパレルやスポーツ用品のほかに、現段階ではできるだけ多くの種類の商品を揃えることが目下の取り組みとなります。ただ、Loopを使ってみようか検討している消費者の方が手を出しやすいように、例えば飲料など、日常的に使用頻度が多く、金額がそれほど高くない商品も充実させていきたいと思っています。

いよいよ8月31日にLoopのECサイトがオープンすると聞いていますが、消費者はどのように利用できますか。また、オープンに際して、参画企業を誘致する際にはどのような課題がありましたか?

 まず、消費者について、今回のオープンではまず実証実験として、東京都内にお住まいの方を対象に、3,000世帯の第一次受付を開始します。応募数が3,000世帯を上回る場合は抽選とさせていただきます。さらに、8月には第二次受付を実施し、対象を神奈川・千葉・埼玉まで拡大、2,000世帯を募集する予定です。参加手順として、参加希望の方には専用サイトにアクセスの上、個人情報などを入力していただき、後日応募の結果をメールで連絡するという流れとなります。

 

 7月中旬現在、参画企業としては、資生堂様をはじめ、アース製薬様、ネイチャーズウェイ様などのメーカー企業が決定しております。本サービスの課題点としては、損益分岐点を突破できる程度のボリュームゾーンに突入し利用実績を残さないと、十分な経済効果が生み出せず、Loopのみならず、各パートナー企業も厳しくなってしまう点があります。なるべく早くユーザー数や対象地域を拡大していきたいと思います。

8月31日にオープン予定のLoopのECサイト

ECサイトの運営を通じて、例えば購買データの活用などがあるかと思いますが、Loopのミッションであるサステナビリティの推進に向けて、ECサイトをどのように今後のサービス展開に活かしていくのでしょうか。

 ECサイトを運営し得られる購買データは、もちろん今後の商品拡大にあたって重要な指標を提供してくれると思います。ただ、我々が見失ってはいけないと考えているのは、Loopは決して「売ったら終わり」というサービスではないということです。提供した容器に入って商品が販売され、使用済みの容器は返却されると、再び商品が充てんされて再販される、このような循環=“Loop”を継続していく必要があるということです。その意味では、従来のような「売れるためにはどうするか」という利益重視の考え方ではなく、この再利用システムを通じてどのようにユーザーにとっての利便性と満足度を向上させ、維持していけるかということが重要です。ですので、購買データはもちろん重要なのですが、販売を目的としたECサイトと同じ仕組みではないことをご理解いただければと思います。

最後に、今後の展望をお聞かせください。

 これまでの“エコ”や“環境に優しい取り組み”というのは、例えばゴミの分別など、消費者に何らかの負担を強いることが多かったと思います。その反面、Loopはこれまでのライフスタイルを変えることなく参加いただけるため、参加のハードルが低いというのが一つのメリットです。ただ、「売って終わり」というビジネスモデルではないため、お客様のフィードバックが大変重要となってきます。その意味で、Loopは企業や消費者など多くのステークホルダーが協力して「ごみを無くす」取り組みを推進できるプラットフォームだといえます。当面は、ECサイトオープンに際してトライ&エラーの期間が続くと予想していますが、一日でも早く日本全国にLoopのサービスを拡大して行きたいと思います。

まとめ:

 

 ここ最近、国内ではSDGsやサステナビリティに関する情報が普及し始めたとはいえ、インタビュー冒頭で述べられた「サーマルリサイクル」の例のように、ゴミ処理に関する「常識」が実は日本独自のもので、世界的にみると国際基準とは程遠く、ある種日本独自のガラパゴス化が進んでいると実感しました。改めて、サステナビリティや環境保護に関する“正しい”知識や情報の普及が求められているといえます。行政、自治体、民間企業、教育機関はいかに生活者に伝え、そして国際基準に沿った正しい知識がどこまで受け止められているのか、その実態を早急に把握すべきだと思います。

 

 また、Loopのビジネスモデルでカワバタ氏が度々強調していた「売って終わりではない」というサステナブルな考え方を実現するには、消費者が購入後に、容器を返却するという行動を無理なく継続できるかどうかがカギを握っていると思います。Loopは店舗とECのサービスの拡大を通して、我々の消費行動を循環型にシフトするインフラとしての可能性を秘めていることから、今後期待したいサービスの1つです。

 

テラサイクルジャパンの公式サイト:https://www.terracycle.com/ja-JP

LoopECの専用サイト:https://loopstore.jp/

公式Facebookページ:https://www.facebook.com/terracyclejapan

公式Twitterアカウント:https://twitter.com/terracycleJp

 

取材:AIR編集部

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