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2021.07.16

米国経済再開に潜む課題と循環型マーケットの拡大

 米国では、ワクチン摂取を1回以上完了した人の割合が目標であった国民の6割には届かなかったものの、現在は各地で経済が再開し、マスク無しで歩く人々が増加するようになりました。ニューヨークでは、ジムやレストランも収容人数の制限無く再開し、6月末に開催されたプライドパレードや独立記念日の花火大会は沢山の人で賑わい、約1年ぶりとなるイベントを楽しむ人々の様子には感慨深いものがありました。

 

 しかし、地域経済の再開が進む一方、米国市場で深刻な問題と化しているのが、レストラン、倉庫、トラック運転手などいわゆるブルーカラー産業における労働力不足です。ニューヨークの最低賃金は2019年までに15ドルに引き上げられましたが、全米規模では未だその金額を下回る時給で働く人々が多数います。そのような中、Amazon(アマゾン)では、パンデミックによるEC需要増加に伴い、時給17ドルという条件で採用をスタート、さらに入社時のボーナスとしてワクチン接種者には特典を付与しました。しかし反面、厳しい労働条件に耐えられず離職率は高いまま、今もなお人材不足に陥っているといいます。Amazonの時給引き上げを受け、他企業も同様に人件費の引き上げを行いました。賃金の引き上げにとどまらず、米国大手スーパーマーケットのWalmartでは、店内アプリとして使用出来るデバイスの無料支給や、米国老舗百貨店KOHLS(コールズ)では、年末まで働いた従業員に対しボーナスの支給を発表するなど、各社があの手この手で人材確保に奔走しています。

労働力不足の原因とその影響

 今年、米国における5月の求人件数は前月から400万人増加した920万人を超えるまでに上り、2ヶ月連続で過去最高を記録してる。昨年、米国政府は通常の失業手当に加え、週に600ドルの給付金を配布しました。昨年後半からは、給付金額は半減したものの、その支給は9月まで続くと言われています。この政策により、実際には従来の給料より高額を受け取っている人々が多数存在し、その結果、働く意欲を無くす人が急増しているというのが現状です。企業は、労働者不足により営業時間の短縮や生産量の削減をやむを得ず強いられています。それに加えて、船便のコンテナ不足は昨年から未だ解消されていません。主要港で船便が混雑し、コンテナがアジア地区に戻らないことが原因だといいます。そして、最近のガソリン価格の急騰は、ドライバー不足も影響していると伝えられています。このように、人件費に加え、物流や商品価格の高騰、入荷遅延による商品不足と様々な要因が悪循環となり、ようやく経済再開の目途が立ったタイミングにもかかわらず、100%の準備で挑めない状況となっています。

“新しい”物に対する価値観の変化と不動の古着人気

ALDIの店舗

 人件費や物流コストの上昇に伴う商品価格の高騰は避けられません。こういった状況では、消費者の行動にも変化が表れ、例えば食料品はWalmart、ALDI(アルディ)、LIDL(リドル)などディスカウント店での購入が増え、アパレル・ファッション雑貨ではアウトレットやオフプライス店へ客足が向かうと予測されます。中でも特に、リセールや二次流通といった市場の人気が著しく上昇しています。

 

 ファッション業界では常に新しいトレンドを提案していますが、消費者が考える“新しい”とは、“古着からも得ることができる”というように意識が変化してきました。米国再販大手のThredUP(スレッドアップ)の独自調査によると、昨年初めて古着を購入した人は3,300万人おり、その数は今後も増加する可能性があると予測されています。パンデミックを経験した消費者は、節約の意識や環境への配慮に加え、古着の中から掘り出し物を発見する楽しさを見出しているのではないでしょうか。

Z世代をターゲットに!トレンド化する小売企業のリセール市場参入

 GlobalDataによるThredUPが発表した調査内容の分析では、リセール市場は従来の小売市場の成長よりもはるかに早い11倍のスピードで伸びており、2030年までにはファストファッションの2倍に相当する840億ドル市場に上ると予想されています。市場活況を受け、今年6月には、ハンドメイド製品を売買するオンラインストアとして知られるEtsy(エッツイ)が、英国のフリマアプリDEPOP(ディポップ)を16億ドルで買収し大きな話題となりました。Etsyのメインユーザー層はミレニアル世代より上の世代ですが、DEPOPのユーザー層はZ世代が中心で、YouTubeやTikTokなどのSNSを通して、中古品にフォーカスした幅広いコミュニティを持っています。パンデミック時には、モバイルファーストといえるライフスタイルを送るZ世代のユーザー層へアクセスが可能となります。

ELO7のECサイト

 ちなみに、Etsyは最近、ブラジルのEtsyと呼ばれるELO7を2億1700万ドルで買収しました。ELO7のアクティブバイヤーは190万人で、DEPOPと同様にヨーロッパや南米の若者層の獲得に注力しているそうです。

 

 また、米国で340店舗を運営するティーン向けチェーンのPACSUN(パックサン)がリセール部門「PS RESERVE」をスタートしました。特に、Jordan、Supreme、BAPEや、カニエウエストとAdidasとのコラボで人気を博しているイージー・ブーストなどスニーカーを中心に、アパレルやファッション雑貨(80−975ドル)が販売されており、高額商品の多くが販売済みとなっています。現在スニーカーのリセールは世界的なブームとなっており、StockXGoatが市場を席巻する中、なぜPACSUNは参入したのでしょうか。同社は、Instagram250万人、TikTok68万人ものフォロワーを保有し、SNSをコミュニケーションツールとして活用。その結果、パンデミック時にもかかわらず、昨年のEC売上は2倍に増加、全体では7億ドルの売上を記録しました。特に新設されたリセール部門が売上を牽引し、顧客の需要を満たしたことはいうまでもありません。そして、PACSUNは、PIPER SANDLER社の「TAKING STOCK WITH TENNS SURVEY」の2021年春の調査で、lululemonとAdidasを抜き10代の消費者に人気のアパレルブランド3位に選出されました。

Levi’s SecoundhandのECサイト

 その他にも、GUCCIやASOS(エイソス)が高級リセール市場に参入、Levi’sは「Levi’s Secoundhand」の立ち上げ、NIKEは全米8つのアウトレットで再生プログラムを開始するなどリセール戦略のニュースが相次いでいます。ファッションレンタルサブスクリプションのRENT THE RUNWAY(レント・ザ・ランウエイ)の場合は、常に新しい洋服を投入する為に、レンタル品の再販は以前から行っていましたが、パンデミック時には再販数が2倍に急増したといいます。高級ブランドを扱う企業が古着を扱う事はタブーとされてきましたアパレル業界ですが、近年の中古品に対する消費者の意識や行動の変化により、ビジネス拡大のツールとして欠かせない市場となりつつあるのではないでしょうか。しかし、リセール市場への参入が急増している中では、ショッピングのしやすさやスピード、特典といった商品以外のバリューによる差別化が今後の勝敗を分けるカギとなりそうです。

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