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2021.07.12

【2021秋冬パリオートクチュール ハイライト】過去への憧れから出発 新時代への期待をコレクションに託すデザイナーたち

 2021年7月5日から8日にかけて、パリでオートクチュール・コレクションが発表された。依然としてデジタル配信が主流ではあるものの、コロナウィルスの新規感染者が1日に2,000人台と落ち着く中、主催のクチュール組合に登録組の中で「ディオール(Dior)」や「シャネル(CHANEL)」など7ブランドが、少数ながらも観客を入れてのショーを開催している。

 

 今季は、参加ブランドが27だった前シーズンから33に増えた。これは新規参入組があったほか、「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」や「エリー サーブ(ELIE SAAB)」などが復帰したため。常に注目を集める「ヴァレンティノ(VALENTINO)」はパリから離れ、今季は7月16日に独自にヴェネツィアでショーを行い、全世界に配信予定である。

 

 公式カレンダーには掲載されていなかったが、ピーター・ミュリエが着任して初の「アライア(ALAÏA)」がショーを開催し、やはりカレンダー外で「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー ™(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH™)」がフィジカルなショーでプレタポルテ・コレクションを発表している。

 

 その他に話題を集めたのが、デムナ・ヴァザリアによる初のオートクチュール・コレクションとなる「バレンシアガ(BALENCIAGA)」。ブランドにとっても53年振りのオートクチュール・コレクションとなった。サカイの阿部千登勢が手掛けるゴルチエ パリのコレクションが、1年の延期を経て遂に披露されたことも今季最注目のトピックだった。

ディオール(Dior)

 昨年よりショートフィルムでコレクションを発表してきたマリア・グラツィア・キウリによる「ディオール」は、今季はロダン美術館の特設会場にてフィジカルなショーを開催した。ローマのルネッサンス期の建築、コロンナ宮殿内の刺繍で埋め尽くされたインド風「刺繍の間(17世紀に制作)」がインスピレーション源の一つとなり、会場には元首相リオネル・ジョスパンの娘でアーティストのエヴァ・ジョスパンが手掛けた「Chambre de Soie(=シルクの部屋)」と題する壮大な刺繍作品を張り巡らせた。刺繍は、インドのムンバイにある刺繍専門校、チャナキヤ工芸学校が担当。

 

 プリーツ、トレーン、手織りのチェーンのディテールを散りばめながら、チェック、ツイードといった素材のバリエーションを巧みに組み合わせて、「ディオール」らしいフェミニンなシルエットに落とし込んでいる。ただクラシカルな作風に終始することはなく、トレンチのヘムを絞ってスポーティに仕上げたり、50年代風のシルエットのジャケットをワークウェア風に変形させたりするなど、各アイテムにはモダニティを演出するための様々な工夫が凝らされている。

 

 軽くてしなやかなツイードのコートには、ツイードの色調に合わせたオーストリッチのフェザーを刺繍したスカートをコーディネートし、マニッシュなキャップを合わせる。ツイードのフレアスカートにはブラトップとメッシュトップスを組み合わせ、マリアが「ディオール」に着任して以来のマスキュリンフェミニンな表現は健在。アイコニックなアイテムであるバージャケットは様々なバリエーションを見せ、袖付けにギャザーを寄せて丸いシルエットに仕上げた比翼仕立てのジャケットや、ベロア素材製のもの、色違いのツイードをパッチワークしたものなどが登場。中でもベージュのオーガンザによるバージャケットは、仕立ての完璧さに目を奪われた。

 

 マクラメ風の装飾を配しプリーツを施したロングドレス、パーツをチェーンで繋いだロングドレス、繊細なシルクガーゼの透けるようなドレスなど、プリーツ素材をあしらったドレスのバリエーションも豊か。最終ルックのマリエは、羽を葉に見立てた刺繍のドレスで、ルネッサンスを想起させる優美さが溢れる作品となった。

シャネル(CHANEL)

 ヴィルジニー・ヴィアールによる「シャネル」は、ファッションに特化する美術館であるガリエラ宮の回廊で、ごく少数の観客を招いてショーを開催した。美術館は7月18日まで、ガブリエル・シャネルの展覧会を開催中である。

 

 ヴィルジニーは、1880年代のモノクロのドレスを纏ったガブリエル・シャネルのポートレートを目にした時に絵画をイメージし、ベルト・モリゾやマリー・ローランサン、そしてエドゥアール・マネの作品を思い起こしたという。淡い色調で点描画のような風合いのアイテムは、印象派の絵画からインスパイアされたもので、黒のボウをアクセントにした白のサテンのロングドレスは、モリゾを描いた肖像画のイメージ。溢れるような花モチーフのドレスやジャケットが登場したが、秋冬コレクションに敢えて色彩を使ったという。そして、これらはイングリッシュガーデンをイメージしている。ヴィルジニーは、フランス的なものにイギリスの雰囲気を加味することを好み、英国とのゆかりの深いガブリエル・シャネルにもリンクする。

 

 ツイードにスパンコールを刺繍し、色を塗り重ねたかのような風合いのジャケットは、七分袖で丸みを帯びたシルエット。スカートはショート丈のタイトなスタイルから、フェザーなどを刺繍したボリュームあるドレッシーなものまで幅広い。キャミソールとドロワーズのセットアップなど、クチュールコレクションとしては珍しいランジェリースタイルも提案。ビジューボタンを飾ったシャツドレスなど、マスキュリンフェミニンの要素が感じられるアイテムも多く、フレッシュでモダンなクチュールに仕上げている。「シャネル」のアンバサダーを務める女優のマーガレット・クアリーが、ジゴ袖のシンプルなマリエを纏ってショーは終了。

 

 前回はアントン・コービンによる映像だったが、今季はコレクション映像とティザーをソフィア・コッポラが手掛け、プレスキット用フォトをミカエル・ヤンソンが担当。マーガレット・クアリーはそれぞれに出演している。

ジョルジオ アルマーニ プリヴェ(GIORGIO ARMANI PRIVÉ)

 「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」は、パリ市内のイタリア大使館にてフィジカルなショーを開催した。コレクションはピンクからスタートし、コーラル、グリーン、ブラック&ブルーと続き、「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」らしいベージュ、そしてモーヴで締めくくり、明るさを感じさせるカラーパレットで構成。サテンや極細の金属糸を織り交ぜた素材をあしらい、艶やかな輝きを放っている。

 

 液体が流れるかのようなしなやかさを持つ素材のスーツ、光を反射する極薄オーガンザのドレスなど、その独特の光沢は新鮮な驚きを与え、素材の美しさを最大限に引き出す「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」らしい手法を見せる。光沢あるプリントのオーガンザのドレスはクラシカルな美しさを見せる一方、布を幾重にも重ねてボリュームを出した彫刻的なドレスは、「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」の実験的な作品に挑む姿勢を感じさせた。肩のラインが特徴的なブラックジャケットにも、ブルーの光沢素材のパンツを合わせて艶めかしい印象。コーラルとモーヴのルックで締めくくり、最後までオプティミスティックな雰囲気を貫いた。

 

 ショー中盤には、アルマーニクラシックともいえるマニッシュなスーツが登場しているが、その一部は今年1月に「ミラノへのオマージュ」として発表された昨シーズンのコレクションである。「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」のコードが、時代やトレンドに左右されないことを自ずと証明していたのだった。

バレンシアガ(BALENCIAGA)

 アーティスティック・ディレクター、デムナ・ヴァザリアにとって初のクチュール・コレクションは、ジョルジュ・サンク大通りの「バレンシアガ」のサロンにて少数の観客を招いて発表された。クチュール・コレクションの発表は、クリストバル・バレンシアガが退いた1967年以来で、メゾンとしては今季が記念すべき50回目となった。

 

 クリストバル・バレンシアガの構築的なシルエットを、デムナらしいモダンな手法で解釈し直し、マニッシュなスーツやワークウェア、造形的なドレスなどに落とし込んだコレクション。トロンプルイユ(=だまし絵)のシャツ袖がジャケットに付いたテーラードからスタートし、シャツやGジャン、ブルゾンなどのワークウェアをクチュール的に再構成したアイテムを織り交ぜつつ、クリストバル・バレンシアガ作品から引用したドレスで締めくくっている。スーツにはビクーニャやヴィンテージウール、フレスコウール、サテン、ギャバルディーヌなどを使用し、ドレスにはシルクからテクニカルファブリックまでと幅広い。

 

 特にユニークな素材使いには目を見張るものがあり、デムナの独自性とアイデアの豊富さには驚かされる。一見クロコダイルレザーに見えるスカートやパンツは、実はコンピュータープログラムでマッピングして手作業で繋いだレザーパッチの集合体。メタリックケーブルニットは、実はアルミチェーンを編んだものだったり、一見パイル地のように見えるバスローブは、実は細かくカットして起毛させたマイクロナイフレザーによるものだったり。

 

 一見フェザーのように見えるコートは、クリストバル・バレンシアガ作品の新解釈によるものだが、実はシルクのパーツを刺繍したもの。羽工房として知られるルマリエが手掛けている。同じく「バレンシアガ」のアーカイブから引用したピンクのボタニカルモチーフのドレスは、刺繍工房ルサージュによるもの。ランプシェードのような樹脂製のハットはフィリップ・トレイシーが担当。そんなオートクチュールらしい作品と、デムナが「ヴェトモン(VETEMENTS)」時代から見せるユニフォームインスパイアのアイテムが絶妙なバランスで融合するクチュールコレクションとなった。

 ゴルチエ パリ(GAULTIER PARIS)

 「サカイ(sacai)」の阿部千登勢手掛ける「ゴルチエ パリ」のコレクションは、「ゴルチエ」本社のパーティルームにて少人数の観客を入れて発表された。昨年1月に自身のショーを終え、毎シーズン異なるデザイナーにコレクションを託すと発表していたジャンポール・ゴルチエ。記念すべき第一回目のゲストデザイナーに阿部千登勢を迎える旨が発表され、昨年7月に発表予定だったが、コロナ禍で延期となっていた。

 

 ゴルチエの過去のコレクションへの敬意を十分に感じさせながら、それらを再解釈して自らのハイブリッドな世界観を表現。その咀嚼と昇華の手法は実に見事だった。

 

 ピンストライプのオーガンザのシャツドレスに、デコンストラクトされたジャケットと「ゴルチエ」コードのコーンブラの付いたビュスティエが合わせられ、インナーにはタトゥーイメージのボディス。そんな「サカイ」とゴルチエの作風が絶妙に融合したルックでスタートした。ビュスティエとスカートのトレンチ風セットアップや、ベビードール風トレンチドレスなど、ゴルチエも好むトレンチインスパイアのアイテムも、ボリュームとシルエットの出し方でしっかりと「サカイ」テイストになっている。ボンバースドレスもコーンブラが付けられ、ケープを合わせてクチュールライクに。

 

 ゴルチエが度々発表してきたアランニットは、解体したヴィンテージパーツを組みわせてドレスに仕上げている。JPGのイニシャルを配したコートは、1994秋冬コレクションのショーでビョークがまとったバックスキンコートからの引用で、こちらはエコレザーとエコファーで仕上げられている。ゴルチエのコレクションで幾度となく登場したリーバイスの解体・再構築も、「サカイ」風にアグレッシブな形で表現。安全ピンでボタンとブレードを表現したミリタリージャケットは、オーバーサイズ&ドロップショルダーに仕立ててサカイらしいモダンなアレンジに。「ゴルチエ パリ」のアイコニックアイテムであるマリンボーダーシャツは、ローエッジのオーガンザのグラデーションで描き、コンシールジップで開閉可能。タータンチェックのシューズを合わせて、やはり「サカイ」らしさが漂う。

 

 今季、多くのルックに合わせられていたセカンドスキンのボディスのグラフィックは、ロサンゼルスに拠点を置く伝説的タトゥーアーティスト、Dr.Wooが手掛けている。それぞれのピースに合わせられたサイハイブーツはピエール・アルディによるもので、2点のみ「ナイキ(Nike)」とのコラボレーションによるスニーカーが登場した。

ヴィクター&ロルフ(Viktor&Rolf)

 ヨーロッパの王族の装いを再構築し、独自の世界観に引き込んだ「ヴィクター&ロルフ」。誰もが女王になれ、誰もが王族のように振舞える。しかし、そのための衣装は、毛皮は合成で、宝石はペーストガラスやプラスチック製、ガウンはポリエステルの生地でパッチワークされている。そんなアイロニーを込めたコレクションとなった。

 

 拡大したビジューを刺繍したドレスやコートには、「SIZE QUEEN」や「Princess?  No BITCH, Queen!」など、思わず笑ってしまうスローガンを刺繍したサッシュを合わせてユーモラス&シリアスに。エコファーをパッチワークし、ラフィアをフェザーのようにあしらってボリュームを出したコートや、大きな花のアップリケを配したドレス。バランスを逸した各ルックは、チープなのかゴージャスなのか判然としない。

 

 それぞれのアイテムの手の込み様はクチュールならではで、手仕事の美しさを余すことなく伝えている。その上でのアンバランスさであるためか、心地良ささえ感じさせるから不思議だ。

 

 コレクションはオンラインで発表されたほか、一日だけ招待制でコレクションを披露。会場は、ルイ16世とマリーアントワネット女王に捧げられた歴史的建造物である贖罪礼拝堂で、二人がそれぞれ処刑された後に一時的に安置されていた場所。全てにおいて独特のこだわりを感じさせる今シーズンだった。

フェンディ(FENDI)

 キム・ジョーンズによる「フェンディ」は、クチュールならではの装飾的なドレスで構成されたコレクションを発表した。以前よりメンズコレクションでもコラボレーションをしている「君の名前で僕を呼んで」のルカ・グァダニーノ監督を迎え、ピエール・パオロ・パゾリーニの映画作品からインスパイアされたムービーを制作。ケイト・モス、リラ・グレイス、クリスティ・ターリントン、アンバー・ヴァレッタ等が、ローマをイメージしたセットに建つ建造物のアーチ形の柱をくぐるようにウォーキング。

 

 目を見張るようなディテールとテクニックが特徴的な今季。レトロモダンなグラフィカルモチーフを、アップリケやパッチワークで表現したレザーのフロックコート、蝶貝のスライスを張り付けたオーガンザのシースルードレス、カットした毛皮やレザーを刺繍し、立体的なレースのように表現したガウンやグローブなど、クラシカルで優美なルックが並ぶ。またフェザーを刺繍したAラインのコートドレスや、ビーズで埋め尽くしたグラデーションのベアショルダードレスなど、ヴィンテージ的なシルエットのアイテムも登場。毛足の長いファーを流線形にパッチワークしたロングドレスや、総ビーズ刺繍のボールガウンなど、驚異的なアイテム群も強い印象を残した。

 

 その一方で、ファーのパーツをモザイクのように刺繍してセーター風に仕立てたトップスや、ファーをカットして刺し子のように表現したジップアップブルゾンなど、モダンでカジュアルダウンさせたアイテムも織り交ぜ、キム・ジョーンズらしいバランス感覚の妙を見せている。

 

 ガルーシャにローマ時代のモザイクをフォトプリントしたクラッチバッグや、蝶貝でモザイク風の顔を描いたバッグ、アンフォラ(=甕)を象ったイヤリングやネックレス、ランウェイにもあるアーチをイメージしたヒールのブーツなど、アクセサリー類が更なる「ローマらしさ」を演出していた。

メゾン マルジェラ(Maison Margiela)

 ジョン・ガリアーノによる「メゾン マルジェラ」は、「アーティザナル」Co-Edコレクションを発表。Co-Edコレクションは、男女の別なくしたコレクションで、アーティザナルは「メゾン マルジェラ」の中でも特に高い技術を駆使したものに分類される。

 

 “A Folk Horror Tale”と題した、1時間以上にも及ぶオリヴィエ・ダアン監督によるムービーがYouTube上で公開されたが、ルックブックも全て映像から切り取られた画像で、今季はこのムービーが全ての起点となっている。冒頭に今季コレクションについてガリアーノ自らがインタビューに答え、その後ガリアーノが脚本を手掛けた歴史的ストーリーが展開される。オランダの庶民の服飾史や伝統、イングランド王の伝説を想起させる内容。

 

 古い新聞を切り抜いて刺繍したブルーのセーターは、アイテム自体に歴史的要素が盛り込まれ、古き良き時代への憧憬を引き起こす。時を経て伝わってきたものへの敬意を込めながら、ガリアーノが培ってきたオートクチュールの手法を用いて新しいものを生み出す、ネオアルケミー(=新錬金術)という新たな概念の提起ともなっている。

 

 今季は3人の作家とのコラボレーションが見られ、先述の新聞紙を刺繍したセーターはシリア・ピムと、ミラーのパーツを繋ぎ合わせたドレスはエレーヌ・ヴィタリとの協業。木製の「タビ」クロッグを繋ぎ合わせた「レチクラ(=ヴィンテージピースを修復・復元してアップサイクルしたアイテム)」の白のラバーウェーダー(=長靴)には、 アナ・ソコロヴァがオランダのデルフト焼を想起させるハンドペイントによるモチーフが描かれている。

 

 8~12倍の布を酵素とストーンウォッシュ加工で圧縮するエソラージュと呼ばれる新たなテクニックを発案し、ゴブランやジャカードを用いて重厚感あるアイテムを創作。また、裏地から別の生地を引き出して変形させるAnonymity of the Lining(=ライニングの匿名性)のテクニックや、オーセンティックなアイテムを削ぎ落して新たなアイテムに変形させるデコルティケのテクニックなどで作り上げられたアイテムも目を引く。その他にも、デルフト焼のモチーフを手刺繍したパーツをファゴティング(ジグザグ縫い)で繋ぎ合わせたスウェットなども登場し、ガリアーノならではの閃きに満ちたコレクションとなっていた。

 

 

 前シーズンと比較してフィジカルなショーが増えたとはいえ、デジタル配信とごく一部の関係者を招いてのプレゼンテーションが依然としてメインとなっていた今季。オートクチュール会期中から新規感染者が再び増加に転じているフランスにあって、以前のような華やかさを取り戻すには暫く時間が掛かりそうだ。

毎シーズンのことではあるが、今季も特に一定の流れや傾向は見られなかった。それぞれを思い起こしてみても、括りがあるようで実のところ見当たらない。

 

 秋冬コレクションにもかかわらず、敢えて明るい色を採り入れた「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」。「シャネル」はイングリッシュガーデンの華やかさを服に落とし込み、それぞれ、今後訪れるのであろう明るく楽しい時代の到来を楽観視していた。

 

 一方、「サカイ」の阿部千登勢による「ゴルチエ パリ」のコレクションやデムナ・ヴァザリアによる「バレンシアガ」は、あくまでも各人の作風を貫いていて、トレンド云々で語れる内容とは異なる。「ヴィクター&ロルフ」もガリアーノによる「メゾン・マルジェラ」も、それぞれの世界観を描いて見せていた。

 

 ただ、一つの傾向を無理矢理編み出そうとすると、それはファッションにおいて基本中の基本ではあるのだが、「温故知新なクリエーション」が挙げられないだろうか。阿部千登勢は「ゴルチエ パリ 」のコレクションに倣い、デムナ・ヴァザリアは「バレンシアガ」のアーカイブからデザインを引用。ガリアーノは一昔前のオランダの庶民の服装を研究し、「ヴィクター&ロルフ」は王族の衣装をイメージした。「ディオール」は17世紀の刺繍を出発点にし、「シャネル」は印象派の絵画がインスピレーションの礎となった。皆、古いものから着想を得ている。それはデザインを生み出すために服飾学校でも学ぶことで、基本に立ち返っているとも言えるのだろうが、基本であるが故に傾向と結び付けて語れる内容でもないのかもしれない。ただ今季は、そんな過去への憧れから出発し、今後やってくる時代への期待をコレクションに託しているブランドが多かったのではないか。ふと、そんな気がしたのだった。

 

文:清水友顕

 

「パリオートクチュールコレクション」2021秋冬コレクション

https://apparel-web.com/collection/paris_hautecouture

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