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2021.06.30

【2022春夏 パリメンズ ハイライト3】自然との共鳴を謳う日本のデザイナーたち

 2021年6月22日から27日にかけて開催された2022春夏パリメンズファッションウィーク(以下パリメンズ)。パリメンズ常連の日本ブランドも続々と新作コレクションを発表した。デザイナー、ジャーナリスト、顧客のみんながデジタルファッションウィークに慣れてきた中で、ドラマ仕立てにするブランドやドキュメンタリー風に撮影するなど、映像作品の手法がさらに多様化している。日本では緊急事態宣言も解除され、パリには行けないものの、日本で観客数を絞りながらリアルでショーを開催するブランドもいくつか見られた。「ダブレット(doublet)」のデザイナー井野将之は、ショーを開催しリアルタイムで世界に発信することにこだわったという。また「キディル(KIDILL)」を手掛ける末安弘明はリアルだからこそ伝わる力強さがあると、ショーを開催することの意味を語った。

 

 また、今シーズンはサステナビリティを意識したものづくりやボタニカル、アウトドアといったキーワードが記憶に残る。しかしどのブランドもあからさまな見せ方ではなく、演出やアイテム、素材にさりげなく取り入れることで表現していた。それは日本古来の自然と共鳴して生きていくという文化を感じさせ、日本人としての誇りを思い起こさせてくれるものであった。

ダブレット(doublet)

 デザイナー井野将之が手掛ける「ダブレット」は、東京でランウェイショーを行いその様子をパリメンズのプラットフォームでリアルタイムに配信した。会場は東京都三鷹市にあるオーガニック農園。野菜や果物を収穫するメッシュコンテナをシートに使用するというユニークな演出で限られた人数のゲストを迎えた。

 

 爆音と光の演出で幕を開けたランウェイショーは、スピード感とパワーに溢れていた。今シーズンのテーマは“マイウェイ(My Way)”。地球環境に配慮した服は作りたい、でもそれをそのまま前面に出してしまうと行儀よく真面目すぎてブランドとして面白くないと、サステナブルやエコの概念をどこまで「ダブレット」らしい表現に持っていけるかを模索したという。

 

 近年注目を集めているキノコの菌から作られる人工レザー「マッシュルームレザー」を用いたレザージャケットにはキノコのペイントを施したり、コートにキノコ型のボタンをつけたりと遊び心をのぞかせた。廃棄食材を用いた染めも、色んな素材を混ぜることで生まれたくすんだカラーを偶然の産物としてそのまま採用した。

 

 ライダースにはスタッズを使わずにブランドのシグネチャーでもある刺繍でデコレーション。金属を使わなくても強いエネルギーを持つアイテムが作れるということを実践して見せた。年輪のような模様のデニムは古着のリーバイスを重ねて圧縮した素材を使用、またビッグシルエットのジャケットは「洋服の青山」の不要になったスーツを5着ほど解体して再構築するなど、使われなくなった服の積極的な再利用も実施した。

 

 「優等生」ではない表現を求めた結果スタイリングや演出もパンキッシュに、時にヤンキー風な表現となったが、素材だけでなくモチーフにも野菜やフルーツを用いて自然と共鳴するコレクションであった。それは井野デザイナーの「ヤンキーが猫を助けるようなイメージ」という言葉がいちばんシンプルに表している。「コレクションを発表する場所はパリでも東京でも変わらない、自分たちの表現をしていくだけ」と、日本を代表するデザイナーの一人としての貫禄と信念を見せた。

キディル(KIDILL)

 末安弘明デザイナーが手掛ける「キディル」は、映像でコレクションを発表。テーマは“イノセンス(Innocence)”。エキセントリックな外観が内包する、表現者が内に秘めた屈託のない純粋性を末安デザイナーは「精神的なパンク」と呼び、それをコレクションの中で様々なアーティストとコラボレーションしながら表現した。

 

 「グロテスクさとカワイイが共存する点に魅了されてきた」と末安デザイナーが語る英国人グラフィックアーティスト、トレヴァー・ブラウン(Trevor Brown)の印象的なアートワークはブルゾンやセットアップ、メンズウェアの仕立てでデザインされたワンピースなど様々なアイテムに取り入れられた。全体的にオーバーサイズでブランドらしいストリート感を保ちつつ、ルックにメリハリをつけるのはロープアーティストのHajime Kinokoがプロデュースした緊縛のエッセンス。トレヴァーの描く少女性とクリエイティブな意思が宿る緊縛は、固定観念的なエロティシズムではなくアーティスティックな印象をコレクションにもたらした。ボンテージベルトやハーネスのディテールは個々のアイテムでも多用されており、「狂気性」を取り入れることで今シーズンのテーマである“純粋性”を際立たせていた。

 

 また、先シーズンに引き続きニットは「ルルムウ(rurumu:)」と、ヘアアクセサリは「マルコムゲール(Malcolm Guerre)」とコラボレーションした。

 

 コレクションの映像はパリメンズの公式スケジュールに先立って東京都港区の「草月会館」で撮影し、プレゼンテーションでは限られた人数のゲストも招待された。イサム・ノグチによる花と石と水の広場は純粋性の極地にある場所で、コレクションの持つ力強さとの対比を楽しんでもらいたかったのだという。

 

 先シーズン、デジタルであるがパリメンズの公式スケジュールで発表することで日本国外からの引き合いも増えたという「キディル」。末安デザイナーは、「コロナの閉塞感を経験することでより強いものを出したいという想いが強くなった。リアルのショーの意味も信じている」と語った。

ターク(TAAKK)

 「ターク」はドキュメンタリー仕立ての映像でコレクションを発表。コレクションの構想から実現、そしてその服がランウェイで披露されるまでの過程を森川拓野デザイナーの語りと共に映し出す。そのランウェイは、パリメンズに先立って実際に天王洲アイルの寺田倉庫で行われた。会場の入口にバックステージを設け、セッティングやショーの合間の着替えを見せるという演出で、天井桟敷のようなスペースにシートとランウェイを設けた。

 

 バックステージを観客に見せるのは、森川デザイナーの言葉を借りれば「服がファッションになる瞬間」を見せたかったのであろう。服は着る人がいて成り立つもの。着る人の立場になって服作りをする、それが森川デザイナーの信念だ。

 

 前シーズンに続き、生地の設計段階から様々な素材をミックスさせて、シャツやジャケットが途中で別の素材に切り替わるアイテムを発表。ジャケットの裾に向かってシャツに変化させパンツへのタックインを、そして袖も途中からシャツに切り替わりロールアップを可能にした。リネンのジャケットはウエストから下にかけて光沢のあるナイロンのモッズコートに変化。化繊系素材を多用し、発色の良さと落ち感がコレクションの魅力につながっている。

 

 デザインソースは自然。上空からみた海岸線のコントラストに森林のグラフィックをレイヤーさせたり、花が溶け出してタイダイを描くイメージをプリントとして用いたり、自然のパワーをアイテムに落とし込んでいる。シルエットは細身にシフトしながらもエアリーなイメージで、中性的な印象をもたらした。

ファセッタズム(FACETASM)

 デザイナー落合宏理が手掛ける「ファセッタズム」は“a sight with a kiss”をテーマに、映画監督で脚本家である長谷井宏紀監督のショートムービーでコレクションを発表した。

 

 映像は、監視社会の中でいつでもどこでも見張られている窮屈さを防犯カメラで表現し、それを服で覆って自分らしく生きていくことを示唆するような演出。そしてそんな力強さと軽快さがアイテムでも表現された。風になびくチュールのレイヤード、シャツやブルゾンを幾重にも重ねて着ているかのような複雑なシルエット、潔い切りっぱなしのディテール。

 

 今シーズン多用されたウォッシュドデニムはデザイナーが青春時代を過ごした90年代のオマージュか。今年15周年を迎える「ファセッタズム」。東京ストリートを牽引してきた第一人者の存在感は増すばかりだ。

フミト ガンリュウ(FUMITO GANRYU)

 昨シーズンは「リトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)」のデザイナー山縣良和とのコラボレーションショーを東京コレクションで開催した「フミト ガンリュウ」は、発表の場をパリに戻して映像配信でコレクションを発表。

 

 “compatibility(=互換性)”をテーマに、ブランドらしいモードとストリートの絶妙なバランスとポップなカラーパレットで軽快なコレクションを披露した。今シーズンはワークウェアブランドの「ディッキーズ(Dickies)」、そしてシューズは「コンバース(CONVERSE)」とコラボレーションした。これらのコラボレーションアイテムは日本国内、ブランド公式オンラインストアでの限定販売となる。

オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE )

 「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」は“ヒューマン・アンサンブル(Human Ensemble)”をテーマに、「人間のからだ」を一つの構造物としてその力強さと美しさに着想を得たコレクションを発表。写真家、田島一成氏のディレクションによる映像で、ビジネス、教育、音楽、建築、アートなど、多岐にわたる職種の一般の人がモデルを務め、衣服が持つ普遍性と着る人の個性や多様性を表現した。

 

 再生ポリエステル100%の糸を使用したプリーツ素材をベースに、プリーツを直線や斜線で取り入れることで多様な表情を生み出している。砂の混ざった絵の具で色を付けた背景に人間の体を幾重もの曲線で表現したプリントは、曲線のしなやかさを引き立たせ、コレクションに華を添えた。

 

 また、「ワクワ(WAKOUWA)」との共同シューズプロジェクト第四弾のローカットシューズもお披露目。左右で色違いの仕様で、配色の鮮やかさが春夏シーズンの気分を盛り上げる。

ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)

 「ヨウジヤマモト」無観客のランウェイを撮影した映像でコレクションを発表。少しセピアがかったような色調や時々モノクロの静止画でルックを見せることでブランドの世界観を表現していた。

 

 ショー前半は、影に光が差し込むような黒と白、もしくは黒と赤のコントラストが印象的なルックが登場。アシンメトリーなディテールや素材ミックスで複雑なレイヤードに見せながらも個々のアイテムのナチュラルな素材感で軽やかさを演出した。

 

 後半は鮮やかなフラワープリントやペイントを施したニュースペーパーモチーフなどでパンキッシュかつ華やかなイメージを描き出した。今シーズン特徴的なのは短めのパンツ丈だ。アイテムではハーフパンツやキュロットのような裾が広がったミドル丈のパンツも登場。軽やかな素材で歩くたびに揺れる様子が軽快な印象をもたらした。

ヨシオクボ(yoshiokubo)

 「ヨシオクボ」は“ウォリアーモンク(Warrior Monk)”をテーマに映像でのコレクション発表を行った。“ウォリアーモンク”とは自衛武装した僧兵の意。そのテーマに沿って撮影の舞台は東京都渋谷区の「法雲寺」。本堂でお経を唱えるシーンから始まり、背景にずっとお経が流れる中、モデルたちが本堂への階段を上っていく様子を映しだした。

 

 スポーツウェアをベースに袈裟頭巾や法衣のような、かつての僧兵が纏った装束の要素をプラス。わらじをイメージしたようなスポーツサンダルも印象的だ。オリジナルのカモフラージュパターンは竹をモチーフにしており、日本文化をモダンなスポーツミックスで提案する「ヨシオクボ」らしさが前面に出たアイテムと言える。

カラー(kolor)

 「カラー」は先シーズン同様メンズとウィメンズを同時に映像で発表。トラッドとスポーツのミックスでエレガントなカジュアルスタイルを見せた。ポロシャツやチルデンニットをブランドらしいカラーミックスで表現。

 

 そこに合わせるショートパンツやロングのプリーツスカートは艶のある素材でドレスアップの要素を加えた。メンズではジャケットの裏地にメッシュを使ったり、ウィメンズではドレスの下にスポーツレギンスを合わせるなど、美しさと快適性の共存を実現した。

メゾン ミハラヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)

 「メゾン ミハラヤスヒロ」は、ドラマ仕立ての映像作品でコレクションを発表。テーマは“Usual”でメンズ、ウィメンズの同時発表となった。ブランドらしいレイヤードやコラージュのような素材ミックスでミハラ流“Usual(=普段)”を描きつつ、映像の舞台はモデル以外誰もいない空港で非日常と日常のコントラストを表現しているようだ。

 

 今シーズン特に印象的だったのはデニムアイテム。アームが大きく前に寄ったディテールのジャケットや、あえて歪んだパターンを用いたジャケットなど個性的なスタイリングをさらに引き立たせていた。

ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)

 「ホワイトマウンテニアリング」は、広大な丘陵で撮影された映像でコレクションを発表。ミリタリーやスポーツのアイテムを基調に、今シーズンは紋章モチーフのエレガントさとボタニカルプリントの爽やかさをプラスした。

 

 ノーカラーのジャケットがバリエーション豊富に展開されていたのが印象的。また、ブラックやカーキのダークなカラーパレットの中に突如現れた鮮やかなブルーのカモフラージュパターンはよく見ると海をモチーフにしている。今シーズンはブラウンやベージュ、オレンジなどのアースカラーも登場し、ブランドらしい力強さは残しつつ、自然に溶け込む柔らかさも表現した。

 

「パリメンズ」2022春夏コレクション

https://apparel-web.com/collection/paris_mens

 

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