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2021.06.29

【2022春夏パリメンズ ハイライト2】アウトドア、クラブカルチャー、ポジティブカラー、ロングパンツ・・・自由への渇望が支えるキーワード

ポール・スミス(Paul Smith)

 “屋外での探検”をテーマにした「ポール・スミス」。ナチュラルで温かみのあるカラーパレットを用いて、色で遊ぶコレクションを見せた。

 

 絶妙な中間色のブラウンは、トスカーナ地方のテラコッタから引用されたもので、グレーがかったホワイトのパテ、赤みがかった粘土色のレッドクレイなど、アースカラーで構成。その対極として、コーラルオレンジやレモンイエロー、ブルーのグラデーションをコントラストに用いている。

 

 大地からインスパイアされた、地・風・水・火の4要素をフォトプリントで表現。ひまわりのモチーフは、インターシャニットやスーツの刺繍、ブルゾンのバックサイドのプリント、シアサッカー製シャツのプリントなどにあしらわれ、コレクションに華を添える。今季は特に素材の軽やかさを意識したといい、シアーなナイロン素材をあらゆるアイテムにあしらい、スーツにはリネンを採用。柔らかいイメージでまとめ、全般的にゆったりしたシルエットを描いている。朝から夜にかけて、日の出、空、夕日などを経て、夜の漆黒を思わせるブラックのスーツでショーを締めくくった。

 

 「ポール・スミス」のアイコンともいえる色鮮やかなストライプ・ボーダーをあしらった、吉田カバンの「ポーター(PORTER)」とのコラボレーションによるバッグにも注目したい。

ロエベ(LOEWE)

 ジョナサン・アンダーソンによる「ロエベ」は、弾けるような鮮やかな色を用いて、夜遊びの楽しさやクラブカルチャーの自由さに着想を得たコレクションを発表。ニューヨークを拠点に活動するドイツ人アーティスト、フロリアン・クルーワーの作品からもインスパイア。くすんだ色調に突如として人工的な鮮やかな色が現れるクルーワーの絵画には、若いジェネレーションの持つ暴力的な毒々しさと危うさが漂い、それが今季「ロエベ」のコレクションと呼応している。

 

 サテンのドレープドレスやカットアウトされたコートからは肌が覗き、見るものをある意味不安にさせる不思議なエロスを漂わせる。アシッドな色合いのメッシュのレイヤーはクラバーのコスチュームを想起させ、メタリックフリンジのセットアップやロープを繋ぎ合わせたパンツ、アニマルモチーフのスパングル刺繍のセットアップは、ナイトクラブのエキセントリックな人々の装いに直結。

 

 背面に打ち出しのメタル製パネルを配したコートや、ひざ下に丸くカットアウトしたニットドレスやレザーのフード付きレインコート、ニットベストを解体して縫い付けたシャツ、それらはとても突飛で違和感すら覚えるかもしれないが、「ロエベ」の技術力とクリエーションのレベルの高さを誇示するアイテムである。

 

 刹那の楽しさに惹かれる快楽主義と、その結果もたらされる虚無感も同時に漂わせる。様々な感情を呼び起こし、抵抗し難い魅力を放つコレクションとなった。

エルメス(HERMÈS)

 ヴェロニク・ニシャニアンによる「エルメス」は、エリゼ宮の家具を管理するモビリエ・ナショナルにてショーを開催した。モビリエ・ナショナルは1930年代に建築家オーギュスト・ペレが手掛けたことでも知られる。今季は石をあしらった中庭スペースに大きさの異なるLEDディスプレイをいくつも置き、様々な角度からモデルたちを追う映像をダイレクトに流すというダイナミックな演出でコレクションを披露。ディテールや全体像はもちろん、ライブで処理をしたグラフィカルな映像も流れ、画期的・革新的だった。手掛けたのは舞台監督のシリル・テスト。

 

 「軽やかさ、リラックス、そして自由の感覚」をキーワードに、これまで以上に柔らかでしなやかなシルエットを見せ、「エルメス」のコードを守りながらウォータースポーツやリゾートの要素を感じさせる開放的なコレクションを展開した。

 

 ドローコードのベルト、異なる色と異なる素材を組み合わせたブルゾン、エルメスのアイコニックなモチーフである「モール・エ・グルメット(ビットとカーブチェーンのモチーフ)」をモダンにアレンジしたプリントのポロ、そしてゆったりしたバミューダパンツ。スポーティでエレガント、そして緊張から解き放たれたかのような柔らかい空気感を全体に纏っている。カラージップのバックスキンのブルゾン、パンチングで馬を描いたシャツ、「モール・エ・グルメット」モチーフを透かし模様のように表現したデボレプリントのシャツ、ジグザグのヨットステッチのフード付きパーカ。各アイテムを凝視すると興味深いディテールが目に入ってくる。デイジーを彷彿させるフラワーモチーフ、ピンク、ターコイズなど色を使ったニットアンサンブルやニットプルが、コレクションにオプティミスティックな表情を加え、グラフィカルなチェックモチーフのアイテムとコントラストを生む。   

 

 スポーツウェア、ワークウェアからインスパイアされたアイテムを主軸に、どこを切り取っても「エルメス」らしさが滲む、気負うことのないエレガンスを漂わせるコレクションとなっていた。

ダンヒル(DUNHILL)

  マーク・ウェストンによる「ダンヒル」は“IDENTITIES”と題したコレクションを発表。英国のマスキュリニティを描いてきたオーセンティックなブランドである「ダンヒル」が、各人のユニフォームを再解釈し、新しいアイデンティティを再定義している。

 

 本来ならばリフレクター素材があしらわれるワークウェアインスパイアのブルゾンには、ナイロンの代替素材シルクファイユを配することでより豪華に、よりクチュールライクに仕上げられている。幾通りにも着こなせるコンペンディウム・コートは今シーズンも継続し、今季はベンタイルコットンを使用したコンペンディウム・トレンチが登場。超軽量ナイロンをあしらい、英国軍のフライトスーツと同じ製法を採用している。今季の特徴的アイテムがパンツ。地面に着くほどの長さのスプリットヘムが目を引いた。

 

 ポラロイドを使用するアーティスト、エレン・キャリーの写真作品をプリントしたトップスやジャケットは、彼女の作品が持つ偶発的な美しさがそのまま服の上で表現される。プリントは、オートクチュールに使用される素材、ダッチェスサテンがあしらわれた。

 

 スーツなどの伝統的なユニフォームから、クチュールライクでフェミニンな80年代風のカジュアルウェアまで多様なアイテムをミックスし、バリエーション豊かな構成で様々なアイデンティティを表現して見せていた。

ジル・サンダー(JIL SANDER)

 ルーシー・メイヤーとルーク・メイヤー夫妻による「ジル・サンダー」は、シャビーでレトロなミラノのホテルで撮影したムービーを公開した。「自主性、軽さ、透明性」をキーワードに各人の自由や個性を重視。スポーツウェア、ストリートウェア、そしてワークウェアからテーラードまで幅広いアイテムを組み合わせている。

 

 ワークウェアインスパイアのセットアップは、スズランのようなパールジュエリーを胸に飾り、ブロンズジップをあしらったオールインワンには起毛ウールのネッカチーフをコーディネイトして、どこかにフェミニンな要素を加える。

 

 折り紙のように直線的に仕立てられたジャケットには、丈の長いワークウェアパンツを合わせ、同じく完璧な仕立ての真っすぐなラインのジャケットにはワークウェアシャツをインナーに配し、硬軟のコントラストを見せる。比翼仕立てのシャツにはリフレクターのようなラインを入れ、ジップをアクセントにしたワークウェアパンツを合わせ、ジップをあしらったブルゾンとパンツには古い広告の一部分が刺繍される。

 

 ベースとなる服そのものは、「ジル・サンダー」らしいミニマルでシンプルなシルエットで非の打ちどころがないが、レトロなディテールや強い個性を持つアクセサリー類を加えることで、着る人に独創性や多様性を与えて人々の注意を向ける。そんな密かな遊びを提案した今季だった。

Y/プロジェクト(Y/PROJECT)

 今季より「ディーゼル(DIESEL)」のアーティスティック・ディレクターも務めるグレン・マーティンスによる「Y/プロジェクト」は、スポーツウェアブランドの「フィラ(FILA)」とのコラボレーションを含めたコレクションを発表。今季はレディースも同時に披露した。

 

 ねじれやたわみを利用した、このブランドらしい視覚効果あるアイテムは健在。ツイストしてボリュームを持たせた幾つものネックホールが開いたセーター、襟が重なったジャケットやシャツ、ストラップを重ねたアシメトリードレス、ハイウエストを垂らしたデニムパンツ。エキセントリックでアンバランスな中に、マーティンスの絶妙なバランス感覚が光る。

 

 そんな摩訶不思議なアイテムの中で、ブランド創設者ヨアン・サルファティへのリスペクトを忘れず、デニムスタイルのレザーパンツや極端なドロップショルダーにしたブルゾンやコートなど、彼が得意としていたレザーアイテムも披露。

 

 「フィラ」とのコラボレーションアイテムは、これまでのスタイルを踏襲するだけでなく、新たなアイデアに満ちている。前立ての横にジップを配したポロシャツ、前身頃が外れて「フィラ」のロゴが見えるブルゾン、襟が二重にも三重にもなったスウェットなど、コラボレーションならではの楽しさと面白さが感じられる。実際に生産され、店頭販売されることを祈るばかりだ。

 

 

 

 

写真左より ジル・サンダー、リック・オウエンス

 今季は、「エルメス」や「ディオール(Dior)」のように実際にショーを行うブランドもあれば、デジタル配信でムービーとルックブック写真を発表するだけのブランド、デジタル配信+ショールームで実際に服を見せるブランドなどもあり、様々なプレゼンテーション形式が見られた。その中でも特異だったのが、「ヴェトゥモン(VETEMENTS)」と「トム ブラウン(THOM BROWNE)」だ。それぞれイメージフィルムのみの配信で、明確な最新コレクションの発表をせず。大いに期待していた分ガッカリ感も大きく、非常に残念ではあった。

 

 服そのものの傾向を思い返してみると、多くのブランドで見られた鮮やかな色が印象的だった。これはパンデミック時代の不景気に起因し、色だけでも明るいものを身にまといたいとする根源的な欲求の現れと言えるだろう。鮮やかな色こそなかったが、「リック・オウエンス(Rick Owens)」でさえダークカラーを控え、ホワイトのアイテムを主軸にしたコレクションを展開し、大きなインパクトを与えた。

 

 アイテムとして気になったのが、地面に着くほど長い丈のダブダブのパンツである。これはストリートスタイルからインスパイアされたものなのだろうが、「リック・オウエンス」や「ジル・サンダー」、そして「ダンヒル」までもが発表していたのには驚かされた。良い年をした中年男性がダブついたパンツを穿いても、果たして美しく見えるのだろうか。勇気を要するチャレンジとなるに違いない。

 

 インスピレーションについては、自由への渇望が見て取れるブランドが多かった。厳格なロックダウン期間を経た現在も、パンデミックは終息する気配を見せない中、次なる時代にクラブカルチャーを重ねていたのが、「ロエベ」、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」そして「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」である。アシッドハウス、レイヴなどのクラブカルチャーの要素を部分的、あるいは全面的に漂わせ、古き良き時代を懐かしみつつ、新たに登場するであろう楽しい時代への期待感を表現。その一方で、「エルメス」や「ポール・スミス」に見られたように、アウトドアや自然を感じさせるコレクションも一つの傾向を示している。昼間のアウトドアと夜のクラブカルチャーという両極ではあるが、「とにかく外に出たい」という欲求がダイレクトに表現されていたと言って間違いないのだろう。

 

取材・文:清水友顕

「パリメンズ」2022春夏コレクション

https://apparel-web.com/collection/paris_mens

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