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2021.06.28

【2022春夏パリメンズ ハイライト1】レイヴ、アメリカ、南国・・・懐古、憧憬、明るい未来への期待が広がる

 2021年6月22日から27日まで、メンズのパリコレクションが開催された。これまで最長でも5日間だった会期が1日延びたのだが、これはデジタル配信のみでショーを行わずとも主催するクチュール組合に登録可能となり、新たに参入するブランドが増えたため。ここ最近のパリコレクションでは、レディース、メンズを問わず顕著にみられる傾向で、コロナ禍によって門戸が大きく開かれたパリコレクションの今の姿がある。

 

 そのほとんどがデジタル配信による発表形式となる中、「ディオール(Dior)」、「オフィシン ジェネラール(Officine Générale)」、「エルメス(Hermès)」といったブランドはフィジカルなショーを開催。

 

 「バーバリー(Burberry)」が今季初参加し、リカルド・ティッシにとっては久々のパリでの発表となった。注目されるマシュー・ウィリアムズによる「ジバンシィ(GIVENCHY)」は、7月2日にオンラインで最新コレクションを発表するため、公式カレンダーには掲載されていない。各ブランドは、それぞれイレギュラーな発表形式を採用し、流動的な状態はしばらく続きそうだ。

 

 この原稿を執筆している時点で全コレクションの発表は終わっておらず、今季の傾向を語るには難しいものがあるが、ロックダウンの解除傾向が見られるもコロナ禍自体は終息していない中、自由だった過去への懐古や憧憬、明るい未来への期待などがカラーパレットやアイテムに顕著に表れているように思われる。その最たる例が「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」。映画「ワイルド・エンジェル」のピーター・フォンダの自由と快楽を求めるセリフが冒頭にサンプリングされるプライマル・スクリームの「Loaded」が流れる中、オプティミスティックで明るいルックが登場した。80年代末から90年代にかけてのアシッド・レイヴを通過した世代には懐かしい「Loaded」とリンクするのが、そのままレイヴの要素を取り入れた「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」。アシッドパーティやレイヴパーティのフライヤーをモチーフにしたロングコートやバッグ類は、思わずニヤリとさせられる。コレクション全体からすると小さな部分ではあるが、古き良き時代にあった自由への渇望と未来への期待感が漂い、前向きなメッセージとして感じ取れたのだった。

ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)

 ユルゲン・テラーによるルック画像と共に最新コレクションを発表した「ジェイ ダブリュー アンダーソン」。現代のヤングジェネレーションと70~80年代のヴィンテージの要素をミックスし、時代感あるチープなインテリアのフラットを舞台に、独特の世界観を描き出している。

 

 70年代に多くの家庭のキッチンの出入り口にかけられていた、ウッドビーズフリンジの暖簾は、ペイントを施してポップアート風のトップスに形を変える。故意にいびつな形にイチゴを描いて編みこんだハンドニット風のプルオーバー、毛足の長い糸を編んだロゴ入り80年代風ニット、グラフィティ風にアレンジしたロゴをあしらったオールインワンなど、レトロだがモダンさも同時に漂わせ、このブランドらしい独特のアンバランス・バランス感。イチゴのモチーフは、リスがイチゴを食べる様子を描いた18世紀の英国絵画からインスパイア。

 

 逸脱したボリュームのバギーパンツや際どいウルトラショーツを併せ、ジョナサン・アンダーソンの言うグッドテイストとバッドテイストを融合させる手法は、どことなく危うささえ漂わせ、若者の繊細さや脆さと連なる。

 

 ベッドルームといったプライベートなスペースで自分自身を称える、というコンセプトもあったという今季は、コロナ禍という特殊な時代にフレッシュさをもたらしつつ毒を注入し、しっかりと新しいクリエーションに昇華させていた。

クレージュ(Courrèges)

 ニコラス・デ・フェリーチェがアーティスティックディレクターに就任して初のメンズコレクションとなる「クレージュ」。3月に発表されたレディースの流れを汲み、“I can feel your heartbeat – Part II”と題した。

 

 創設者のアンドレ・クレージュによる宇宙服を思わせるようなミニマルで未来的な作風を踏襲しつつ、カジュアルでスポーティな要素を加えてよりモダンに仕上げている。

 

 胸元にロゴを配したパーカには、ロゴを配したジップアップスウェットを合わせ、ブルゾンとスウェットには「クレージュ」らしいビニールコーティング素材のパンツをコーディネート。後半に登場したサークルにカットアウトされたトップスは、1969年のコレクションからの引用で、ラグランスリーブのチェックのコートも、やはりアンドレ・クレージュ作品からインスパイアされたアイテム。

 

 同時に発表されたレディースのプレコレクションでもアンドレ・クレージュのアイデアは見られ、トラペーズラインのミニドレスやスクエアのネックラインなど、ブランドが持つDNAの強さを印象付けたのだった。

バーバリー(BURBERRY)

 リカルド・ティッシによる「バーバリー」は、東ロンドンにあるロイヤル・ヴィクトリア・ドックに位置する再開発中の製粉所跡、ミレニアム・ミルズで行った無観客ショーのムービーを発表した。

 

 オーセンティックな「バーバリー」のイメージを良い意味で裏切るかのように、より一層リカルド・ティッシの側に寄せたコレクション。スポーツウェア、ストリートスタイル、ゴシック、トライバルなどをミックスして、アーティスティックに仕上げている。

 

 アイコニックなトレンチコートは袖が削がれ、ホルターネックドレスのように変化し、ホワイトTシャツをコーディネートしてカジュアルダウン。「ジバンシィ」でも見せた得意のテーラードは、今季はホワイトステッチを入れたスリーブレスのフロックコートやジャケットが登場。袖口からカラーにかけて一枚パネルを加えているのが特徴的。

 

 シースルーのトップスとTシャツ、それぞれに異なるモチーフをプリントして重ね、迷彩のようなイメージに。スリーブレスのトップスや、フード付きのコートには、あばら骨を思わせるベルトが取り付けられている。グロテスクな方向へは導かず、ポップな要素さえ感じさせるコンテンポラリーな「バーバリー」のコレクションとなった。

イザベルマラン(ISABEL MARANT)

 パリジャン・パリジェンヌに強く支持される「イザベルマラン」。これまでのメンズコレクションでは、正統派スタイルに不良っぽさを加えた男性像を描いてきたが、今季は若くてスポーティ、活動的で健康的なアウトドアスタイルを見せて大きな変化を遂げている。

 

 モノグラムカーディガンとダンガリーシャツ、そしてローウエストのホワイトジーンズのセットアップにはヨガマットとウォーターボトルを併せ、ロゴを配したキャップをコーディネート。クーラーボックスとパラソルを持ったモデルは、グラフィカルなセーターとパーカ、そしてショーツを合わせ、リゾートというよりもカジュアルなビーチスタイルを見せる。

 

 インド更紗やイカット、キリムを思わせるエスニックなモチーフを駆使し、このブランドらしさもしっかりとアピール。ロゴを多用し、若い世代が反応しそうなカジュアルでスポーティな作風に舵を切ったかのようにも見えるが、プリンス・オブ・ウェールズチェックのコートやストライプシャツなど、オーセンティックなアイテムもミックしてパリブランドの威厳を十分に残しているところもこのブランドらしい。

リック・オウエンス(Rick Owens)

 昨年のメンズコレクションから引き続き、別宅のあるイタリアのリド島で無観客ショーを開催し、ムービーを発表した「リック・オウエンス」。台湾の音楽プロデューサー、チペットによるノイジーなビートが鳴り響く中、モデルたちはビーチをウォーキング。コレクションタイトルともなった発煙マシーンである“Fogachine”を持つモデルも見られ、中盤からは海に仕掛けられた巨大なウォータージェットが勢いよく噴水し、ショーに華を添えた。

 

 ファーストルックは、「リック・オウエンス」の男性版ミューズでもあるオーストラリア人デザイナー、タイローン・ディラン・サスマンがバギーデニムパンツとカットアウトタンクトップ、そしてシースルーシャツを纏って登場。ホワイトとオフホワイトというカラーコーディネートは、このブランドとしては新鮮。その後も白が続き、黒やデニムブルー、コーラルオレンジなどが差し色となっている。デニム地は、山足織物のヴィンテージ坂本式自動シャトル織機を用いて倉敷で織られた16オンスのセルビッチデニムと、イタリア製のオーガニックコットンのデニムを使用。

 

 ジップオープンのバギーパンツを合わせた極薄のオーガンジー素材のトップスや、リブを配したシースルーベストなど薄手のアイテムと、重厚感あるデニムとの対比が印象的。Tシャツを拡大解釈したようなフルレングスのドレスやパイソンのジャケット・ブルゾン類、老舗羽工房のメゾン・フェヴリエによるフェザーのジャケットといった素材あしらいが特徴的なアイテムも目を引く。染色していないコットンオーガンジーとシルクシフォンで構成し、構造を見えるように袖を削いだジャケットは、今季アイテムの中でも一つの達成を示したアイテムという。ロボットのような強い肩のスリーブレスジャケットなども含めて、これまで以上にテーラードの充実を感じさせるコレクションとなっていた。

ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

 ヴァージル・アブローによる「ルイ・ヴィトン」は、“AMEN BREAK”と題したムービーを発表。

 

 アーメンブレイクは、ザ・ウィンストンズによる「Amen, Brother」中に登場する、ヒップホップやジャングルの楽曲にサンプリングとして多用されるドラムブレイクを意味し、ブラックミュージックの重要な骨子となるもの。ヒップホップのGZA、ジャングルのDJでプロデューサーのゴールディなど、錚々たるアーティストがキャスティングされたムービーは、やはりヒップホップアーティストでムービーに出演するルーペ・フィアスコの生い立ちと重ねられる。フィアスコの父親はドラマーであり、ブラックパンサー党のメンバーであり、空手教室を主宰して武道の哲学を後世に伝えた空手家でもあった。フィアスコ父子の物語をなぞりながら、「伝承するという概念 – 人から人へ何かを伝え、世代を超越し変革の波動を促進させ、互いに作用しあう」というメッセージが込められた。日本の武道のイメージを挿入しつつ、ブラックアートとカルチャーの壮大な絵巻を描いて見せている。

 

 一方の肝心なるコレクションは、様々なカルチャーミックスの様相を見せた。「ルイ・ヴィトン」のアイコニックなダミエモチーフとチェスのボードのイメージが重ねられ、チェスの駒のディテールやシルエットが導き出されている。クイーンを思わせるロングドレス風綿入りジャケットや、騎士の甲冑を思わせるディテールなどが登場。ダミエモチーフのパターンを組み合わせたコートやジャケットは、アフリカを強く想起させ、武道からインスパイアされた袴風スカートのディテールはトレンチコートに応用され、防弾チョッキ風のベストやスカートは生々しさを覚える。後半のネオングリーンやイエロー、ピンクのアイテムは、80~90年代のレイヴカルチャーやジャングルのパーティを彷彿とさせ、重厚感あるアイテムにポップな華やかさを添えた。鯉のぼりのようなリュックサック、レイヴパーティのフライヤーをプリントしたかのようなウエストバッグ、堆朱風ソールのシューズなど、バラエーション豊かなアクセサリー類も楽しい。

 

 全78ルック。ムービーに勝るとも劣らず、コレクションも壮大なものとなった。

ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)

 「ドリス ヴァン ノッテン」は、ロックダウン前の自由だった時代に思いを馳せながら、オプティミスティックな雰囲気が漂うコレクションを発表。

 

 タイトルは“Greetings from Antwerp”。アントワープという街にオマージュを捧げながら、「再び共に楽しめるであろう未来を、コレクション制作を通して一足先に思い描いてみたかった」という。ルックブックとムービーは、3日間にわたって市内の象徴的な56カ所でロケを敢行。ムービーでは、アシッドハウス・レイブ世代のテーマソングともいえるプライマル・スクリームの「Loaded」をBGMに、近々やって来るはずの楽しい時代の未来の服を見せつつ街を紹介する、まるでポストカードのような仕上がりとなった。  

 

 デザインチームのスマートフォンに保存されていたパンデミック前の個人的な写真や、イザ・ゲンズケとロバート・ラウシェンバーグといったアーティストによる写真作品からインスパイア。カモフラージュ、ルーベンスやブリューゲルといったアントワープゆかりのアーティストによる絵画作品、1970年代にデザインされた街のAのロゴなどもモチーフとして各アイテムを彩る。

 

 裾が地面に着いてたわむほど丈の長いバギーパンツと、ややオーバーサイズのジャケットやブルゾン。リフレクター素材によるカモフラージュプリントのブルゾンやワークウェアインスパイアのブルゾンは、ドロップショルダーと太いスリーブで全体的に丸みを帯びる。全てがルースフィットでリラックス感を醸し出している。夜景・風景写真や銅版画をグラフィカルに組み合わせたシャツは、やはりルースなショーツに合わせられ、リゾートウェアを想起させる。明るくて優しい、着心地の良さそうなルックが最後まで続いた。

ディオール (Dior)

 キム・ジョーンズによる「ディオール」は、ラッパー・プロデューサーであるトラヴィス・スコットとのコラボレーションによるコレクションを発表。1947年にクリスチャン・ディオールがファーストコレクションを携えて渡米し、立ち寄った都市の一つがテキサスだったことから、「ディオール」とテキサスとの繋がりを意識。テキサス出身であるトラヴィス・スコットとコラボレーションするに至ったという。コレクションタイトルは、スコットのレーベルである「カクタス・ジャック」にちなみ、“カクタス・ジャック・ディオール”と名付けられた。ショー会場はフランス軍事博物館に建てられた特設テントで、ランウェイにはクリスチャン・ディオールのグランヴィルの生家のバラと、スコットのホームタウンであるヒューストンの砂漠のサボテンのイメージをミックス。

 

 流れるような柔らかなラインを見せるスリムコート、ハイウエストで細身のアームホールからフレアになったスリーブのジャケットなど、多くのテーラードが1956年の「ディオール」による「アロー」ラインからインスパイアされている。身頃の高い位置で留める「テイラー オブリーク」はより一層フォーマルに仕立てられ、スポーツウェアとのコントラストを強調。それらのフェミニンなシルエットのアイテムに、特徴的な「ディオール」のロゴがプリントされたTシャツや、ジャックの文字に変化したモノグラムのニットプルなど、スコットのセンスが付加されたアイテムが重ねられる。ヒューストンの地形や「カクタス ジャック」のキャラクターなど、スコットならではのモチーフをあしらったニットアイテムも登場。定番の「サドル」バッグはダブル仕様となり、頑強なハンドルが取り付けられて全く新しいアイテムに変化。今季は、ヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌとのコラボレーションによるサボテンのファインジュエリーも目を引いた。

 

 中盤に登場したハンドペイントのシャツは、アーティストであるジョージ・コンドとのコラボレーションによるもので、オークションに出品され、その収益は奨学金として次世代のクリエイティブな才能の支援に生かされるという。

 

 クチュールメゾンである「ディオール」というブランドを意識しながら、様々なエレメントを重層的に組み合わせて新しいクリエーションを生み出す。キム・ジョーンズの力強い創作姿勢は変わらないが、今季はこれまで以上に見所の多いコレクションとなっていた。

 

取材・文:清水友顕

「パリメンズ」2022春夏コレクション

https://apparel-web.com/collection/paris_mens

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