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2021.06.25

【2022春夏ミラノメンズ ハイライト2】フィジカル展示会増加 モノづくりや職人技で魅せるインフォーマルとエフォートレス

 フィジカルランウェイショーこそまだ少なかったミラノだが、フィジカルプレゼンテーションを開催したブランドは前回に比べて一気に増えた。モノづくりや職人技を大切にするイタリアにおいてはやはり、商品を実際に見せることは大事なのであろう。経済的な理由やブランド戦略によって、今後もショーのほうは引き続きデジタル配信にて発表するブランドもあるだろうが、プレゼンテーションに関しては、このまま感染状況が悪化しなければ、どんどんフィジカルなスタイルが復活すると思われる。ここでは特にフィジカルプレゼンテーションを行ったブランドからピックアップして紹介する。

ブリオーニ(BRIONI)

 久々にミラノショールームにてフィジカルプレゼンテーションを開催した「ブリオーニ」。今回のコレクションでは、今の状況に対応したローマ風ノンシャランな装いの再構築を提案。ノルベルト・スタンフルは、伝統的クラフツマンシップと高品質なテーラリングをエフォートレスなシルエットに落とし込んだ。

 

 スーツにもリネンやシアサッカーなど軽い生地を使い、デニムやニットなどのダブルジャケットも登場した。またはジャケットとのコーディネートではシルク、リネンのシャツやニットを合わせたリラックスしたものになっている。ボトムもゆったりした シェイプで、パジャマパンツやロールアップパンツなど、快適かつ実用的。アウターもソフトなヌバックレザーやスエードとリネンの組み合わせ、レジャーウェアは、非常に軽量なテクニカルシルクやシーアイランドコットンなどの高機能素材を使用している。春夏らしいホワイト、ベージュ、グリーン、スカイブルーなどのカラーパレットで展開し、モノトーンやトーンオントーンのコーディネート提案が多くなされている。

 

 また、使用されなかったネクタイのシルク生地を新たな用途のために再染色して作り上げた「サーキュラー・アップサイリング」カプセルコレクションも登場。

 

 イブニングウェアでは19世紀末のジャカード織機で忠実に手織りされたブロケードを使用し、完成までに5カ月を要するという「ヴェロネーゼ」ジャケット、同系色のシルクを多数使用し、手織りで濃淡のグラデーションをだしたファイユ・オンブレ・シルクのディナージャケット、ダブルスプリッタブルのリネンに、非常に軽量なシルクサテンのディテールを施した夏らしく軽い「レッジェーラ」タキシードなど、エフォートレスな中にも「ブリオーニ」らしいラグジュアリーさが漂う。

 

今でこそクラシックテーラリングの代名詞的存在となっているが、創業当時は時代を覆すような革命的ブランドだった「ブリオーニ」。老舗らしいクラフトマンシップを武器に、時代の流れに合わせた新しい着こなしの提案は、実は同ブランドの真骨頂でもあるのだ。

ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)

 デジタルにて約40秒の短い映像も配信しつつ、ミラノショールームでフィジカルプレゼンテーションを行った「ブルネロ クチネリ」。今シーズンのテーマは“Simplicity in Elegance”で、「ステイホーム」を意識したリラックスムード全開だったこれまでの状態から、少しずつ日常を取り戻して社交的な生活を送る過程において、フォーマルへの再リスペクトという部分をコレクションに加えている。それは、再生、再会、日々の言動の共有へと向かう中で、リラックスの中に優雅さと上品さを加えた着こなしの再発見。そしてその際に必要なのがハーモニーやバランスであり、それはシンプルさがあってこそだと「ブルネロ クチネリ」は考える。

 

 その答えとして、フォーマルの象徴であるジャケットやスーツを素材や色で軽く着心地よく仕上げ、ニットやTシャツ、マドラスシャツ、またはソフトなボリュームのトラウザーなどのインフォーマルなアイテムと加えて、仕事だけでなくすべてのシーンで使えるようなスーツまたはジャケパンスタイルを提案する。生地はクラシックなコットンや夏らしいリネンから、絶妙なバージンウールクロスまで天然繊維を使用した軽量で良質な素材で、ベージュ、サンド、オフホワイト、パナマ などのライトなニュートラルカラーに、ごく薄いピンクやライトブルーなどの繊細なカラーも差し込まれている。フィジカルプレゼンテーションではタイドアップはほとんどなかったが、デジタル配信された映像の中ではリラックスしたタイドアップのコーディネートも見られ、リアルなトレンドを発信しつつ常に少しだけ先を行く、同ブランドらしい提案が見られた。

スローウェア(SLOWEAR)

 久々にミラノショールームにてフィジカルプレゼンテーションを行った「スローウェア」。同社が持つ4つのライン、「インコテックス」、「モンテドーロ」、「グランシャツ」、「ザノーネ」のそれぞれの新作を展示した。各ラインが今の時代に合わせた提案を行っており、「インコテックス」はリラックステイストを意識して、これまでのスリムなシェイプからキャロットやテーパードなどゆったりめのシルエットを提案。「モンテドーロ」もリラックスやカジュアルを意識して素材は全体的に軽めで、シャツジャケットやデニムジャケットなども登場している。また「ザノーネ」はカラフルな色揃えを展開。解放感に溢れる今シーズンの流れを反映し、赤、オレンジやプラムなどを代表する若々しい色が揃った。「グランシャツ」では、「いろはにほへと」のプリントやアロハプリントなど大胆なプリントも目を引く。

 

 また、2019秋冬から本格的にスタートしたライン「スローウェア テクノサルトリアル」では、スポーティなマテリアルとクラシックなスタイルがミックス。リップストップや、リサイクルポリエステルを使用したウォッシャブルなテクノ素材を使ったフォーマルなジャケットや、一見、プリーツ入りのフォーマルなトラウザーに見えつつ実はゴム使用のものなど、ラウンジウェアとテーラーの間を行くようなコレクションを打ち出した。

サントーニ(SANTONI)

 「サントーニ」はデジタル配信にて、拠点であるマルケ州の自然あふれる丘を舞台に撮影したショートムービー「オリゾンティ」を発表しつつ、ミラノショールームにてフィジカルプレゼンテーションも行った。会場の入口にはムービーにも登場した木のドアが展示されていたが、これは“フォーマルとカジュアルのコードが混在する流動的な日常着の美的再定義”という今回のコレクションテーマに合わせ、フォーマルとカジュアルという2つの世界を繋ぐものとしての象徴となっているのかもしれない。全体の雰囲気は自由でリラックス、それでいて「サントーニ」の本質も生きている。

 

 それを象徴するのがローファーたちだ。「サントーニ」のアイコン的なダブルモンクストラップがローファーに生かされ、過去のシーズンにはフォーマル靴に施されていたニュアンスのあるグラデーションがローファーでも登場する。またスエード、ヌバック、裏地のないカーフスキンを使ったモカシンは、レザーや超軽量ラバーの軽量ソールと組み合わされて、柔らかく軽く仕上がっている。

 

 今シーズンのカラーはマルケの美しさからインスピレーションを受けており、コリーナ(丘)、アストラーレ(星)、 ノッテ(夜)、テラコッタ、パウダーブルー等。そこに「サントーニ」のブランドカラーであるオレンジがソール、ステッチなどのディテールに使われている。

キートン(KITON)、ケイエヌティー(KNT)

 「キートン」は、パンデミックの渦中でも可能な限りフィジカルプレゼンテーションを行ってきたブランドの一つだが、今回もミラノショールームにて実際にコレクションを披露。「WE NEVER STOP」のスローガンと共にグリーンで飾られた会場では、ピアノの生演奏によるミニコンサートも行われ、華やかな雰囲気が漂った。

 

 今シーズンのコレクションでは、素材にもシルエットにも軽さが強調されたミニマルなコーディネートを前面に打ち出し、フォーマルとインフォーマルの間にあるこれからの時代のエレガンスを提案する。デジタル配信されたムービーでは、ジャケットにプリントシャツや超薄手のニットなどをコーディネートしたり、スタンドカラージャケットやコートジャケットをフォーマルジャケットの代わりに使用しているルックも。カラーパレットはホワイト、ライトグレー、ベージュ、ライトブルーなどの柔らかいトーンが多く、その多くが無地なのも全体に流れるミニマルさにつながる。

 

 ミニマルになればなるほど、素材のクオリティや仕立ての良さがより重要になるが、今回は例えば30年前のアーカイブからのウォッシュドシルクや絹紡紬糸シルクなど、シャツの様に軽い素材で作られたジャケットが登場。ウィークエンドや旅を楽しめるようになってきた現状を見据えてか、通常よりもスポーツウェアやレジャーウェアの存在感を感じる。中でもゴルフウェアのラインを強化、またビーチウェアも別のコーナーを作り、カラフルに展開していた。

 一方、「キートン」のオーナーファミリーの三代目のヴァルター&マリアーノ・デ・マティスの双子兄弟が提案するのスポーティブランド「ケイエヌティー」も、フィジカルプレゼンテーションを開催。今シーズンは「UC01」、「UC02」というエスクルーシブラインが登場。これらは、ブレザーのようなクラシックさを備えたボンバーとフーディで、ジャケットの代わりとしてフォーマルにも使える新しいスポーツウェアの提案だ。本コレクションではコットンパーカやラグジュアリーナイロンのブルゾン、カシミアのトラックスーツなど、スポーティなデザインに上質さがにじみ出る。今シーズンの注目色として各所に効かせたオレンジも特徴的だ。また、今シーズンからロゴが変わり、よりスポーティなイメージに。このロゴはDNA構造をモチーフにしており、ファミリーの繋がりを象徴している。

 

スンネイ(SUNNEI)

 昨年スタートした新ライン「キャンバス リアリティ」のフィジカルプレゼンテーションを本社ショールームで行った「スンネイ」。色や装飾をつけていない状態で作られたサンプルに対し、バイヤーが素材や色、柄などを自由に選べるカスタマイズシステムで、売れ残りをなくして廃棄物を減らすためのサステナブルな考えから生まれている。

 

 今回はこのシステムをオンラインで個人的オーダーにも広げ、専用のデジタルプラットフォームから色やプリント、その他ディテールをカスタマーが選び、それに基づいてオリジナルなアイテムを2週間で作り上げるというサービスを開始。

 

 ショールーム内には、カラーサンプルやアクセサリーパーツが並べられ、大スクリーンでは3Dアバターがカスタマイズして作られた商品を着ている映像が流れている。今シーズンからニットウェアもカスタマイズオーダーが可能になり、Peso Bagもラインナップに加わった。またサボ、ヌンチャクバッグのようなアクセサリーの新作も追加されている。

 

 デジタルで配信でのそのユニークな映像がよく話題になる「スンネイ」だが、今回の映像は、見ている人がショールームの中をスマートフォン画面から見ているような仕掛けになっていて、プレゼンテーションをヴァーチャルで体験できる。

ヴァレクストラ(Valextra)

 今後は、よりメンズコレクションを強化する方針の「ヴァレクストラ」はミラノブティックにてフィジカルプレゼンテーションを開催。同ブランドのアイコン的なバッグたちに、新しい機能が加わったり、新色、または新サイズが登場した。

 

 「トリックトラック」や「Vラインバンバッグ」はストラップを調整することでクロスボディにも、手持ちにも使え、多機能を重視している。リサイクルファイバーで作られた「ニューキャンバスバッグ」も登場。「ボクシーバッグ」はラップトップサイズとA4サイズにバリエーションが広がった。折り紙からのインスピレーションで小さくたためる「ポリエドイカ」バッグもアーカイブから復活。その他、「ポケット」、「Bトラコッリーナ スリム」、「プレミア」、「アヴィエッタ」など、「ヴァレクストラ」の名品たちがモダンにアップデートされている。

ムーレー(MooRER)

 ミラノショールームにてフィジカルプレゼンテーションを行った「ムーレー」。今シーズンのコレクションでは、自然と都会という2つの異なる世界の色のニュアンスの比較がインスピレーション源となっている。そんなカラーパレットはパプリカ、ハバナ、ブラウンなどの大地の色、カーキ、シダーなどのカムフラージュ、デニム、コバルト、スカイなどのジーンズのような色味、マラカイトグリーン、グレーなど、自然の大切さを再認識して緑を生かしたシリーズ、そしてブラック、アスファルト、ホワイトなどのアーバンカラーという、5つのブロックに分けられている。

 

 同ブランドのアイコニックなアイテムであるダウンに、デニムのポケット、ニットのショルダーや前立て、襟やウエスト、袖口などが使われたボンバージャケットや、防水加工を施したテクニカルファブリックを使用したダスターコート、ブーダンキルティングのパッド入りパーツとナッパパッチで装飾されたニットスリーブのバイカースタイルジャケットなど、素材の研究とディテールへの細かいケアがなされている。

 

取材・文:田中美貴

「ミラノ」2022春夏コレクション

https://apparel-web.com/collection/milano_mens

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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