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2021.06.24

【2022春夏ミラノメンズ ハイライト1】ニューフォーマル、ノンシャラン&シンプルが中心に

 2021年6月18~22日、「ミラノメンズファッションウィーク」が開催された。イタリアファッション協会のカレンダーによると47ブランドが参加。

 

 イタリアでは感染状況が落ち着いてきたことで、4月末から急激に規制を緩和したためイベントの開催も再開可能となり、またEU域内ではPCR検査の陰性証明やワクチン接種証明があれば、隔離義務なしで行き来できるため、フィジカルでのコレクション発表をするブランドも増えてきた。「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」、「エトロ(ETRO)」、「ジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)」がフィジカルショーを開催したほか、多くのブランドがショールームなどでの展示会を開催。その一方で、「プラダ(PRADA)」、「フェンディ(FENDI)」、「エルメネジルド ゼニア(ERMENEGILDO ZEGNA)」などのビッグネームを始め、デジタル配信を継続するブランドも多かった。デジタル配信の中には、グレン・マーティンスをクリエイティブディレクターに迎え、初のミラノコレクション参加となる「ディーゼル(DIESEL)」ほか、初登場の8ブランドも名を連ねた。

 

 ミラノの街の様子や人々の意識はもうすでにほぼ完全に普通の状態に戻っているだけに、それに比べると、確かにフィジカル発表が増えたとは言っても、思ったよりまだデジタル配信が多かった、というのが個人的な印象だが、コレクション自体は多くのブランドが「自由」や「解放」、「希望」や「喜び」、「旅」、「再出発」というようなポジティブなキーワードを挙げ、復活を祝うムードに溢れた。洋服自体は全体的に軽くて快適、リラックステイストのアイテムが目立つが、それは前シーズンまでのステイホームのための「楽ちんな服」ではなく、外でも中でも着られ、着回しが効いて実用的という部分にフォーカスされている。外に出られるようになったとはいえ、フォーマルの復活には至っておらず、それぞれのブランドがニューフォーマルを提案している状況だ。家の中に閉じ込められていた過酷な経験をし、着飾ることさえままならなかった期間を経た今、ノンシャランでシンプルな雰囲気や、より本質を見つめようという姿勢も見られる。そこには素材の開発やサステナビリティへの取り組みなど、目立たない部分での洋服の進化も感じられた。

ジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)

 イタリアで新型コロナウィルスの最初の感染者が発見されたのが、昨年の2月のウィメンズコレクションの最中のこと。そしてその際にどこよりも早く無観客ショーに切り替える決断をした「ジョルジオ アルマーニ」が、1年半の時を経て今回フィジカルショーを復活した。(安全のために)自らの手で門を閉めたジョルジオ・アルマーニが再び門を開く・・・これはファッション界だけでなく、ミラノにとっても大きな意味を持つもので、招待客の中にはミラノ市長の姿もあった。

 

 そんな同ブランドの今シーズンのコレクションのテーマは”Back to where it started (原点への回帰)”。ショー会場はいつものアルマーニテアトロではなく、同ブランドが最初にアトリエを構えたボルゴヌオーヴォ21番。そんなコレクションは「構築的な束縛から解放される服、無頓着さというよりノンシャランとした考え、進歩の証しとしてクラシックへの回帰を改めて探求する」もので「様々な生活様式が形式的なことからますます離れ、カジュアルなスポーツウェアを圧倒的に受け入れているというスタイル感覚」を取り入れつつ「同時に品位を意識し、適切な感覚を持つということを妥協しない」 デザインがなされていると言う。

 

 ファーストルックから登場する、ネイビーのジャケットとホワイトパンツのジャケパンスタイルに始まり、ジャケットの代わりのジレとパンツのコーディネートやノーカラーやスタンドカラーのシャツジャケットやジップアップブルゾンとパンツのセットアップなどワントーンの品のあるコーディネートが、これまでのスーツ的な役割を果たしている。それと並行してスポーティなルックもたくさん登場。特にバミューダパンツは多く、グラフィカルなパターン、鮮やかなレッドやグリーン、光沢素材、タック入りのモノからドローストリングまで様々だ。草木柄のモチーフのサマーニット、パーカやカーディガンなども登場するが、すべてがとても軽い素材で作られている。

 

 ショーのフィナーレで、ジョルジオ・アルマーニは長年彼の右腕を務めてきたデザイン責任者、パンタレオ・デッロルコと登場。これまで積み重ねてきた貴重な軌跡をあらためて再認識するとともに、ミラノファッション界の復活は、やはり帝王・アルマーニが牽引していることを見せつけた。

ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)

 2021秋冬のウィメンズコレクションでは、90年代テイストに未来的なディテールやデジタルの世界を融合した「ドルチェ&ガッバーナ」だが、今回は2000年代の世界の様々な国の異なるトレンドやスタイルを取り入れたテイストに光を融合し、”DG LIGHT THERAPY”というテーマでコレクションを作り上げた。フィジカルショーで発表された今回のコレクションの舞台セットには、特に南イタリアを中心に、夏祭りの際に設置される「ルミナリエ」というイルミネーションが登場。イタリアの夏祭りは町中の人が外に繰り出して夜中まで楽しむものであり、それを象徴するのが「ルミナリエ」だ。華やかに着飾って外に出かけたくなるような心躍る気分や解放感がコレクション全体に施されている。

 

 まず目を引くのが「ルミナリエ」のモチーフがプリントや刺繍によってそのまま生かされたシャツ、Tシャツ、パンツ、ロングコートなど。これらはしばしばセットアップでも展開されている。さらに「ルミナリエ」を象徴するようなスタッズやスパンコールによる装飾が、ジャケット、ボンバー、ニット、ジーンズなどあらゆるアイテムに施される。こんなきらめき溢れるテイストは、コーティング、ラバー加工、特別なフィニッシュ加工、ダメージ加工、エンブロイダリーといった技法を使ったディテールでも表現される。メタリックスーツや、ラメ入りのスイムウェア、全身に刺しゅうを施したスーツやセットアップに至るまで、実に煌びやかだ。

 

 そこに2000年風テイストとして、トレーニングウェアやボクサーパンツ、レギンスとのレイヤードなどのスポーティテイストや、ローライズのパンツやブロークンジーンズ、ペインティングモチーフなどのストリートテイストも加わる。そして「2000 FASHION」というスローガンが書かれたTシャツも。または、強調されたスリーブを異素材で仕立てたジャケットや、素材や丈がアシンメトリーなジャケットも登場する。そして「ドルチェ&ガッバーナ」らしいアニマルモチーフや、胸元を大きく開けたシャツやポロや透け素材やメッシュ素材やマクラメ刺繍によるセンシュアルなコーディネート、ブラック使いなども健在だ。

 

 光、色、そしてエンブロイダリーやスパンコールを始めとしたクラフツマンシップを駆使した煌びやかなコレクションは、常にパンデミックからの復活を信じて、可能な限りフィジカルショーを行って常にポジティブなメッセージを送って来た「ドルチェ&ガッバーナ」を象徴するような、パワフルで輝かしいメッセージを放っている。

エトロ(ETRO)

 昨年の春夏コレクションでも、いち早くフィジカルショーを復活させたブランドの一つである「エトロ」は今回、エックス・スカロ・ファリーニという旧鉄道用倉庫にて、そこにひかれている線路をランウェイにしてフィジカルショーを発表。映画「スタンド・バイ・ミー」に代表されるように、線路を歩くシーンというのは冒険の旅やエスケープを象徴するが、このセットも“喜びに満ちた恵みの旅”というコレクションテーマを盛り上げる。

 

 そんなコレクションで表現したのはノマディックスピリット。これは「エトロ」の原点回帰でもある。今回は太陽が降り注ぐ土地で行われる考古学の調査心をイメージしているのだそうで、そんな大地のイメージはオレンジ、レモン、グリーン、ブルーなどのビタミンカラーや柑橘系カラーのグラデーションに、考古学のイメージはお得意のペイズリー柄やフラワーモチーフと共に、ミステリアスな太古の壁画や曼荼羅画のようなプリントで表現される。アイテム自体はスーツやテーラードジャケット、タック入りパンツなどかっちりしたものも多いのだが、そのカラーとプリントonプリントに圧倒される。その一方で、テニスウェア風ニットにはコーティングされたメタリックパンツを、フーディにカフタンをレイヤード、ロングジョンにトレンチまたはバギーショーツとのレイヤードといった、先シーズンから続くスポーティなテイストを、コントラストを効かせたコーディネートで見せているのも印象的だ。

 

 ちなみにこのコレクションはクリエイティブディレクターのキーン・エトロがかつて衣装協力をしたこともあり、その思想に影響を与えたと言うイタリアのミュージシャン、フランコ・バッティアートへのオマージュだそう。デジタルでは他の音楽が乗せられていたが、ショーのBGMには彼の名曲「l’era del cinghiale bianco」が使われていた。このタイトルはイタリア語で直訳すると「白イノシシの時代」となるが、これはケルト文化においての、過去に失われた黄金時代を意味していて、白イノシシは女神を象徴したスピリチュアルなものだ。そんなスピチュアルな部分はコレクションのイメージにもつながる。また歌のサビの部分では「白イノシシの時代が早く戻ってくるといいな」というフレーズが繰り返されるが、今回のショーにこの歌を使用したのは、良い時代が再びやってくることへの願いを重ねているに違いない。

エルメネジルド ゼニア(ERMENEGILDO ZEGNA)

 前シーズンは“THE(RE)SET”というテーマで、 内と外、パブリックとプライベートの境のないライフスタイルにおける現代のテーラリングを(再)解釈した「エルメネジルド ゼニア」だが、この「リセット」という考え方は今シーズンも進行中だ。今回は”THE (NEW) SET”というテーマを掲げ、これまでの「再構築」を踏まえて新たなる一歩を踏み出す。時代の変化によるニーズに合わせてテーラリングの技法と構造を再定義した、新しいデザインとシルエットの提案がなされる。アーティスティックディレクターのアレッサンドロ・サルトリは、「このリセットの考えはパンデミックの当初から抱いていており、その後の世界はコンフォートとエフォートレスが重要になるということを見越して続けてきたものです。今回のコレクションのアイデアも、自由で新しい着こなしの楽しむと言うところから始まっています。アウトドアとインドアの境界線のない一日中使える心地よい、エフォートレスな洋服を提案しています」と語る。

 

 ゆえに今回のコレクションでは軽さと流れるようなシルエットが強調されている。アンコンジャケットやシャツジャケット、ノーカラーのオーバーシャツなどに、ニットやUネックのインナーには、ワイドパンツやひざ丈のショーツを合わせる。また、ワークウェアのテイストも入っており、オールインワンのように見えるセットアップやチョアコートやサファリジャケットも見られる。そしてオーバーサイズのフラップポケット、ドローストリングなどのワークウェアの実用的なディテールが、ミニマルなシルエットに映える。全体的にワントーンやトーンオントーンを多用しているのことでもシンプルさが増している。アレッサンドロ本人も「コレクションに登場するアイテムが上下でどんな組み合わせもできて、着回しができるように考えられています。例えば1本のパンツが、コットンセーター、麻のダブルジャケットなど様々なトップに合わせられるのも新しい着こなしの楽しみです」と語っている。

 

 一見シンプルなのだが、そこにはゼニアならではの革新的な生地がふんだんに使われており、コットンのように見えるが実は極薄のベイビーカーフレザーだったり、防水を施したレザーやウォッシュ加工を施したシルクやフェザ ーライトのナイロン、一見リネンに見えるが実はコットンとウールの混紡・・・等々の老舗生地メーカーならではの驚くべき開発力の後ろ盾があることがわかる。

 

 デジタル映像は本社のあるピエモンテ州のマシーノ城公園の「1700年代の迷路」とミラノのIULM大学や見本市会場など現代風なビルで撮影された。カラーパレットにも白や水色、ライトグリーンなどのペールトーンに、黒やネイビー、ダークグレーなどの都会的な色との両方が使われている。このロケーション選びやムービーのストーリーについて、アレッサンドロは「中から外へ、という状況を描くため2つの全く違う場所を選びました。迷路のような空間で惑っている冒頭から、やがて外に出て、最後は『みんなでディナーを』という対照的なフィナーレになっています」と言う。

 

 閉鎖的な場所と外の世界、自然と都会、相反する世界が一体になるという映像は、どんなシーンに対応し快適に着こなせるという今回のコレクションのテイストに連動する。前回に続くサプライズのあるフィナーレもコレクションのテーマにつながり、かつ未来への明るいメッセージを放っている。大人数でテーブルを囲むディナー、そしてバカンスをも連想させるデッキチェアに横たわるシーン・・・つい最近まで他人と共にテーブルを囲むことさえできなかったイタリアにおいては、これは大きな希望を意味するのだ。

プラダ(PRADA)

 ミラノのプラダ財団とサルデーニャ島のカルボナーラ岬の独特で撮影したデジタル映像でコレクションを発表した「プラダ」。

 

 真っ赤な長いトンネルを抜けると、突然美しい海辺に到着するという展開で、これは、都会の現実から夢のような自然の世界へ、現状の様々な制約から解放され、無邪気に楽しんだ子供の頃のような自由で幸せな世界へ・・・といった、希望へのポジティブなメッセージが込められている。

 

 そんなコレクションは全体的にイノセントなムードが漂い、これまでのフォーマルの意識を覆すテイストが提案される。

 

 まずはファーストルックから続く昔の子供が海で着ていたようなシャンブレー生地のショーツのオールインワン。モデルの多くは後ろにプラダの三角ロゴ(それがミニポーチになっているものも)が付いた園児帽のようなバケットハットをかぶり、後半には子供のレインコートのようなフォルムのレザーやコットンポプリンのコートも。そしてこれらにフォーマルなネイビーブレザー、ピンストライプやチェックのジャケットやパンツを合わせるのだが、ジャケットの袖はたくし上げられパンツはひざ上までロールアップ、またはジャケットを腰に巻いたりして、フォーマルアイテムの常識を打ち破るコーディネートがなされる。または、シレというろう加工のバイカージャケットやトレンチ、タートルネック付きのニットケープなど重めのアイテムをショーツやビーチウエアにコーディネートするという自由な着こなしも提案する。足元はラバーソールのダービーや長方形のフォルムのサンダル、スクエアトゥのローファーが彩るが、そこにはソックスを履いているのもイノセントなイメージにつながる。

 

 人魚や錨、タコやバラクーダなどのモチーフが各所に登場し、デッキチェアに使われるようなストライプのシャツやキャンバスバッグなど海に関連するモチーフも多い。レトロな雰囲気のプリントがなされたビーチウエアも多数登場し、そのままボトムとして合わせたり、パンツの下に履いてレイヤードしてコーディネート。タオル地のパーカもある。

 

 イタリア人にとって、ビーチやバカンスは何よりも大切なもの。そこに回帰することは、幸せへの究極のメッセージなのである。

 

 ちなみにプラダ財団はこの映像にも登場したサルデーニャの海を始めとするMEDSEA財団の海洋エコシステム再生プロジェクトを支援している。

ディーゼル(DIESEL)

 今回のミラノメンズでの目玉の一つであり、初めてのミラノコレクション参加となった「ディーゼル」。クリエイティブディレクター、グレン・マーティンスが手掛ける初のフルコレクションを、アーティスト、映画監督のフランク・ルボンとのコラボレーションにより、4つのセクションに分かれた現実と夢の境界線が曖昧になった世界観をショートムービーで描きデジタル配信した。

 深夜にどこかの家でパーティをしているような風景から、都会のストリートへ、そこからエレベーターで移動して、最後にはシンクのフィルターがかかった夢と現実の境がないような空間へ、というストーリーが、ムービーならではの視覚的効果豊かに展開される。そしてこの中で、「ディーゼル」の大胆でアイロニカルな歴史をコンテンポラリーに解釈する、というグレンのコンセプトが描き出される。特にオールジェンダーへのアプローチ、ヘリテージコンポーネント、そして新たにローンチする 「DIESEL LIBRARY」に重点を置く。

 

 コレクションの主役になるのはやはり、同ブランドのアイコンであるデニム。ノーウォッシュからケミカルまでさまざまなウォッシュが施された、ハイウエストやミディアムライズの5ポケットデニムのパンツ、マイクロショートパンツやクロップトタイプ、そしてカウボーイブーツやポインテッドトゥのブーティと 一体化したものまでが登場。さらにブラックデニムやホワイトデニム、そしてむら染めのような効果によってパターンが描かれたものも。また「ディーゼル」のデッドストックデニムを再利用したものや、アップサイクルされたジャージー素材のカットソーを染色して、新しいジャンパーやボンバージャケットも登場する。そして「DIESEL」のロゴがエンボス加工されたデニムシリーズ、デニムのピースをアシンメトリーに組み合わせたシリーズ、プリントやスモークカラーのオーガンジーピースなど、3D効果やシルエットのデフォルメなどの大胆な遊びにグレンらしさが映えている。

 

 今回のコレクションのトピックでもある「ディーゼル ライブラリー(DIESEL LIBRARY)」はジーンズやシャツ、トップス、 スカート、ショーツなどジェンダーレスで長く着用できるデニムウェアを特徴とし、購入頻度を減らし長く着ることができる永久普遍なワードローブを提案するサステナブルなプロジェクトだ。 イタリアの経済界において、「ディーゼル」の創始者レンツォ・ロッソが率いるOTBホールディングスは、一ファッション会社どころではない大きな影響力を持っており、そのような会社がサステナブルな取り組みを重視することは大きな意味を持つ。

トッズ(TOD’S)

 今シーズンの「トッズ」は、今回のコレクションは”Tod’s Under The Italian Sun”というテーマでデジタルにてコレクションを発表。トスカーナのスヴェレートにある、建築家のマリオ・ボッタの設計によるカンティーナ・ペトラで撮影した映像により、トスカーナの田園風景をふんだんに生かしたイタリアらしい情景が繰り広げられた。そしてモデルには、俳優のソール・ナンニとメレディーン・ヤクビ、ミュージシャンのロレンツォ・スット、歌手のテオ・イザムバーグ、モデルのヨンホンというそれぞれ国籍が違う個性的な5人が登場。

 

 コレクションの今シーズンのインスピレーション源は昨年逝去した伝説的カメラマン、ピーター・ビアード。NYとケニアを拠点に活動し、60年代からサバンナを撮影し続けると同時にNYのナイトシーンにも出没し女優やスーパーモデル達とも浮名を流した彼の、冒険に満ちたサファリやコロニアル的なテイストと都会的な雰囲気をミックスしたレジャーテイスト溢れるコレクションに仕上がっている。

 

 全体的はオーセンティックな定番アイテムで構成されているのだが、ナイロンの軽いトレンチコート、パッチワークのウインドブレーカー、厚めのポロニットやサファリジャケット、シャンブレーのシャツとトラウザーのセットアップ、パラシュートパンツなど、プロポーションや素材でリラックス感や機能性を生み出す。そしてこれらのコーディネートは着回しできるように考えられているのだとか。

 

 そしてディテールにはカジュアルな遊びが加えられている。特に「トッズ」の十八番であるレザーは、スエードのブルゾン以外はディテールに使われていいて、例えば、ゴンミーニのレザーエルボーパッチがついたキャンバス地のジャックバイカー、またはレザーのパッチポケットがついたTジャケット、シャツの縁取り部分などにもレザーの要素が効いている。またプリーツのジャケットからドローストリングに至るまで、エレガントな要素もスポーティな要素も混在している。

 

 小物類では、ウィンターゴンミーニが春夏シーズン向きの軽いタッチで登場し、厚底のデザートブーツやチェルシーブーツ、ラバーソールのサンダルやペニーローファー、ナイロンとレザーを重ねてコントラストの効いたカラーコンビネーションの新作スニーカー、ドッツランなど。ピーター・ビアードに因んだTのモチーフのついたカメラバッグや前出のライオンのモチーフを施した大きなバックパックやキャンバス&レザーのウィークエンドバッグも。

 

 クリエイティブディレクター、ヴァルター・キアッポーニが重きをおく、ノンシャランなスタイルとクラフツマンシップの融合。ヴァルター本人が「幸か不幸か、旅に出れない現状で、職人たちとより多くの時間を過ごすことができた今回のコレクションでは、職人技のクオリティがよりデザインに共鳴していると思います」と語る今回のコレクションは、高品質で上品なスポーティウェアという、次の時代の新しい選択肢を提案している。

フェンディ(FENDI)

 今回のコレクションでは、これまでのミラノショールームから「フェンディ」が本拠を構えるローマの「イタリア文明宮」にて場所を移して撮影された映像をデジタルで発表。昼から夕刻、そして夜に至るまでのローマの風景と共に、コレクションが浮かび上がる。アーティスティックディレクター、シルヴィア・フェンディは「このような状況の時に、ユニークな視点から世界を眺めたことが、私たちの認識を変え」「日中ローマの空のやわらかな色彩があまりにも美しいので それを今回のコレクションの焦点にしたいと思いました」と語る。

 

 そんな柔らかく、リラックスした雰囲気がコレクションに反映されている。カラーパレットはレモン、ライム、アイスブルー、ラベンダー、ピスタチオなどの繊細なパステルカラーとトラバーチン、チョーク、グラファイトやスレートなどのメタルなイメージとミックス。ワイドパンツやオーバーシルエットのジャケットなどフォルムも全体的にゆったり。エアリーなトレンチコートや、ポプリンのシャツ生地や軽いカシミヤ織布のシャツなどにもライトな雰囲気が漂う。でもそんな中で目を引くのが胸の下の辺りで大胆にカットされたマイクロミニ丈のウール、またはナイロンオーガンザで分割されたジャケットや、マルチポケットがたくさんついたマイクロショートのショーツだ。それは長いロックダウンでの閉鎖的な状態から自由で解放的な世界に向かう様子を象徴的に意味しているかのよう。同様にアシンメトリーなフォルムのニットや、まるでウィメンズのような細いウエストチェーンのジュエリーポーチやパースペックスのクラッチになったバゲットなども、着こなしの自由を表現しているのかもしれない。

 

 さらに手描き風のロゴ、そして「フェンディアース」と 題する地形をシミュレーションする抽象的なモチーフも登場。ペン用ポケットやイヤーポッド用の仕切り、セレリアステッチ、ミスマッチなジャカードの襟やストライプのコットンの袖を特色とするスタイルなどディテールでの遊びも見られる。そして足元には「フェンディ フロー」スニーカーが進化し、バックル付きのサンダルと、パステルのスリッポンニットスニーカーが登場。ロゴのバックル付きの柔らかなスエードのデザートブーツは、プラッシュやセレリアステッチを施したフラットフォームの ダブルストラップサンダルが。「アリーナ(ARENA)」とのコラボのスイミングのゴーグルとキャップも登場する。

 

 初期のサイエンス・ フィクション映画へのオマージュ、かつローマの風景に捧げる壮大な叙情歌ともいえる映像は、「フェンディ」本社のアーチ形のひとつひとつの窓にモデルたちが並ぶなか、脈打つ光となってフィナーレを迎える。それは確かなもののない現状が、光に導かれていくというポジティブなメッセージなのかもしれない。

エムエスジーエム(MSGM)

 「エムエスジーエム」はトスカーナの海辺で撮影され、DJロレンツォ・センニによる「カノン・インフィニート(永遠のカノン)」という曲をのせたデジタル映像にてコレクションを発表。

 

 写真家スティーブン・ミルナーの「ザ・スピリチュアル・グッドタイム」シリーズに登場する、1990年代らしい青い波と夕日に包まれるブリーチ・ヘアーのサーファーたちもインスピレーション源の一つ。そんなスティーブンの写真のイメージは、映像の中でモデルたちが水に飛び込んだり水辺に寝転がることで濡れた状態の服が頻繁に登場する様子に通じ、また、水彩プリントが水の中で広がるようなニュアンスのあるプリントや、太陽の下で自然に変色したような新しいタイダイ「Solarized dyes」などのアイテムなどにも活かされてる。

 

 全体的に海のイメージが広がり、レーザープリンターでイラスト化したサメや、リアリスティックに描かれたカニや魚、モヘア織りのマーメードなど海のモチーフやマリンイメージのストライプが各所に使われたり、ポプリンやコットン素材のジャカード・シャツ&バミューダ・パンツ、セーラーパンツやダイバーを連想させるリクラのレギンス、フィシャーマンズコートなどが登場する。そしてこれらのアイテムがオレンジ、アプリコット、イエロー、グリーン、ライトブルー、ライトパープルなどの「エムエスジーエム」らしい明るくカラフルな色遣いで仕上げられている。

 

 今シーズンの「エムエスジーエム」男子は「中断された夢の中で生きている、時と空間から離れた自然のまま放置された島に漂着したジェネレーション」を描いているのだそうで、コレクションには肩の力を抜いたノンシャラン、そしてロマンティックでノスタルジックな雰囲気が感じられる。

チルドレン オブ ザ ディスコーダンス(Children of the discordance)

 今シーズンもミラノコレクションでコレクションを発表した「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」は”Progress”というテーマのデジタル映像を配信。

 この“progress”という言葉はデザイナーの志鎌英明が、高校生の時に出会い、音楽活動をしていた時の曲名の一つだとか。映像はダンスクルー「KING OF SWAG」によるストリートダンスで、ランウェイだけでは伝えられない、踊りが持っている静と動、そして躍動によって、服が持つシルエットの深い部分を、映像を通じて伝えるということに重きを置いたと言う。

 

 コレクションのインスピレーションは、日本の着物のテキスタイルとアメリカのネイティブアメリカンのテキスタイル。着物文化のクラシックな柄や生地をどれだけ自然にコレクションに反映できるかを模索している中で、同時にネイティブアメリカンの作る民族衣装やテキスタイルと着物の柄に共通点を感じたところから始まっており、二つをクロスオーバーさせることで、テキスタイルデザインやグラフィックデザインを進めていったと言う。

 

 そこにはトライバル柄や、ネイティブ柄、着物の家紋から影響を受けて作成したオリジナルのテキスタイルが使われ、一見クラシカルなモザイク柄やクロス柄、ノイズのようなツイード調の織り柄にはパッチワークを施すことにより力強さが加わっている。

 

 様々な意味での前進、発展を願い、古き良きものを現代的に前進、発展していくということが根底にあるというコレクションは、パンデミックの後の開放や自由を唱えるブランドが多い中で、パンデミックが人々に気づかせた本質的なものや、それを将来につなげていくという別の側面をえぐっている。

ジエダ(JieDa)

 今シーズンもミラノコレクションにデジタル映像で参加した「ジエダ」。今回のコレクションは、都市の地下世界を撮影した写真家、内山英明による写真集「JAPAN UNDERGROUND」から着想を得たと言う。それは「太陽光の届かない地下の暗闇から広がる⼈⼯光が印象的で、未知なる世界からこんなにも綺麗な光が⽣まれていることに驚き、魅了された記憶から始まっている」のだそうで、現在の抑制される社会や⼈間の感情を地下世界に投影し、溢れ出す光を描いている。リフレクターや貝ボタンが放つ光や、濡れたような質感のタフタ素材が地下社会の岩や土を表現する。地下世界をルポルタージュする探検家のイメージだというコレクションには、全体的にワークウェアのテイストが漂い、パッチポケットが付いたジャケットやシャツ、ロールアップしたパンツやバミューダパンツ、そしてワントーンのコーディネートが特徴的だ。

 

 自然の森の中から始まり、無数の証明が光る長い通路、閉鎖された空間でフィナーレを迎える映像は、他のブランドが閉鎖的な空間から外へ、というストーリーを描く中で、相反するようにも見える。が、それは「現在起こっている回避できない様々な事象により、他⼈や社会に不寛容になったり、⾃⼰防衛のために本能的に⾃我を抑圧するかもしれず、それはまるで地下の暗闇のようにも感じられるが、地下には⼈の⼿による⾊彩が存在し、そこに広がる強く鮮やかな光を明るい未来と捉え、希望を込めたコレクション」なのだとか。これは完全に家に閉じ込められ絶望的な状態で生きてきたがゆえに、今100%の開放を求めるヨーロッパと、ある程度の自由を持ちながらも自制とハーモニーで小さな希望をともし続けながらパンデミックに対応してきた日本との差なのかもしれない。

 

取材・文:田中美貴

「ミラノ」2022春夏コレクション

https://apparel-web.com/collection/milano_mens

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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