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2021.06.18

米国アウトレットとオフプライス業態に賭ける企業が急増する背景は?

 古くから米国に存在する「クローズアウト」ビジネスは、大きく分けるとアウトレットとオフプライス店に分かれます。自社の在庫商品を販売するのがアウトレットで、複数の小売企業からの在庫や工場で余分に生産しすぎた余剰商品を大幅値引きで仕入れて販売しているのが、オフプライス店だと考えると理解しやすいでしょう。米国では「オフプライスショー」といったクローズアウト商品に特化した展示会も存在しており、著名ブランドを少しでも安く仕入れたい小売店バイヤーが訪れます。その中でオフプライス店の代表格、TJマックスの場合は、特別なトレーニングを受けた自社バイヤーが2000人以上おり、衣料品、ホーム雑貨、食品などカテゴリー別に仕入れを行っています。米国だけで3000店舗を超える圧倒的な店舗数に分配される商品は、「売り切りごめん」方式で、消費者は来店の度に宝探し感覚でショッピングを楽しめるのが大きな特徴です。米国ではワクチン接種が進み外出の機会が増えていますが、消費者はなおも値下げ品や宝探しショッピングを好んでいる状況が続いています。そのような背景を受け、様々な小売企業がビジネス成長の手段としてアウトレットやオフプライスビジネス事業に注目しているようです。

新たな販売領域での成長を狙う小売企業が目白押し!

 米国消費者がディスカウントされた掘り出し物に魅力を感じる状況が続いている中で、オンラインビジネスが普及しつつも、既存の小売スペースを活用したアウトレットビジネスを模索する企業が日に日に増えています。特に、アウトレット業態に新規参入する企業のニュースが話題になっていますのでまとめて紹介します。

Dick’s Sporting Goods (デイックススポーティンググッズ)

Dick’s Sporting GoodsのECサイトより

 本格的な高品質のスポーツアパレル、シューズ、アクセサリーを幅広く取り扱い、全米で730店舗を運営するチェーン店「Dick’s Sporting Goods」では、“ディスカウント”にフォーカスした3パターンのコンセプトストアをスタートしています。昨年オープンした「Dick’s Sporting Warehouse」は、フットウエアやアパレルブランドを最大90%オフという破格値で販売するクリアランスストアです。ロケーションと開催日はポップアップ形式で告知され、消費者に特別な体験を提供しています。また「Overtime by Dicks Sporting Goods」では、既存の店舗で販売している、ナイキ、アディダス、アンダーアーマーなどの人気ブランドを最大75%オフで提供するアウトレットストアです。そして、先日発表された「Going, Going, Gone」は、通年で“驚くべき”価格の商品を提供するオフプライスコンセプトストアです。5月末に、ペンシルバニアとインディアナ州の2店舗をオープンしています。

Williams Sonoma (ウイリアムズ・ソノマ)

Williams Sonomaの店舗

 つぎに紹介するのは、姉妹店にWest Elm(ウエストエルム)、Pottery Burn(ポッタリー・バーン)、PBTeen(PBティーン)などを展開する、インテリア、ホーム雑貨を扱うチェーン店「Williams Sonoma」。モダンでシックなデザインを特徴とするウエストエルムの最新のアウトレット業態は、1900年代初頭に設立された産業施設として知られる、ブルックリンインダストリアルシティ内にあります。かつて、倉庫や製造業者が集まっていた雰囲気を残しつつ、フードホールや雑貨店、アートショップなどが連なる人気スポットです。中でも、Design within ReachABC Carpet&Homeなどが軒を連ねるブルックリン・デザインディストリクト内に、15,000平方フィートのアウトレットをオープンしました。店舗では、サステナブル素材にフォーカスしたクラフトマンシップ溢れる商品が販売されており、ウエストエルムのワークスペースである「メーカーズスタジオ」も併設、実験的な要素を併せ持つストアとなっています。

Best Buy(ベストバイ

Best BuyのECサイトより

 全米956店舗を運営する大手家電チェーン「Best Buy」。数年前までは一切アウトレット業態を構えていませんでしたが、現在は15のアウトレットを運営しています。テレビ、コンピューターなど家電のクリアランス品、返品商品、部分的に傷がついているB品、修理を施した製品などが常に40%オフの値引き価格で提供されています。

Lowe’s(ロウズ)

Lowe’sのECサイトより

 住宅のリフォームに必要な資材や道具を販売している大型ホームセンター「Lowe’s」は、米国とカナダで2,200店舗を運営しています。アウトレットはまだ3店舗ですが、業績の悪い店舗をアウトレットに変換し、輸送中に発生してしまったヘコミや傷のある家電製品の1000種類以上の商品を25~70%オフの値引き価格で提供しています。その他、家電製品のパーツも取り扱う予定といいます。

Amazon(アマゾン)

Amazon OutletのECサイトより

 アマゾンのウェブサイトでは「アマゾンアウトレット」が開設され、アパレル、美容家電、キッチングッズが最大60%オフで販売されています。また、返品や一度使用された商品は「アマゾン・ウェアハウス」という別ページで販売されているのですが、ブルームバーグ誌によると、オンラインとは別に、売れ行きの悪い商品をモールの駐車場やポップアップ店にて大幅値引きして販売するアウトレットやディスカウントストアを開設する案を検討しているといいます。その際、商品は倉庫の在庫から、家庭用品、おもちゃ、キッチン用品、電化製品などで構成され、アパレル商品は含まないと伝えられています。

NordStrom Rackのアプリ

 米国デパートが依存しているオフプライス店のオペレーションとは異なりますが、小売企業がアウトレットを新たな拡大分野として注力している事には違いありません。ノードストロームとメイシーズは新規顧客獲得を目指す手段の一つとしてオフプライス業態に投資しています。ノードストロームはECの拡大に伴い、フルフィルメントセンターの拡大にくわえ、より多くの顧客を自社アプリ「RACK」に誘導する事に注力しています。アプリでは、店内商品のバーコードを読み取ることで、ECサイトでその商品を閲覧し、さらに返品、ピックアップなどは顧客の自宅から近い店舗を選べるというエコシステムの構築が目標とされています。

backstageのECサイトより

 メイシーズのオフプライスチェーン「バックステージ」は出店に注力しており、今年は47店舗の新規オープン、合計で270店舗となる予定です。ほとんどの店舗がフルプライス店内でショップ・イン・ショップの展開となっていますが、独立店舗も2店舗オープンするといいます。また、姉妹店「ブルーミングデールズ」のポップアップアウトレットストアをNYにて試運転すると発表しています。オフプライス業態では成熟した競合店から遅れを取っている状況ですが、ショップ・イン・ショップの展開は顧客の混乱を招き、共食い状態となる懸念もあります。いかに新規顧客を獲得し、誘導していくかが鍵となりそうです。 

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