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2021.06.10
WeChatと店舗だけで急成長するブランド 中国のZ世代を虜にする「十二光年」成長の陰にはOMOの意識が!
アパレルウェブ「AIR VOL.46」(2021年4月発刊)より一部の内容を抜粋して転載しております。
十二光年の店舗
アリババの創業者である馬雲(ジャック・マー)氏は2021年4月、テンセント系列のメディアインタビューの中で、「中国EC市場は高度成長期を経てすでに飽和期に突入、実際にTモールなどの大手ECプラットフォームの成長は鈍化し始めている。今後10年のリテール、ブランドビジネスの成長エンジンは、むしろ店舗体験が先行し、ECやその他の先進的な物流システムと連携して、顧客の購買体験の質を高める」と指摘し、今中国では話題になっています。ファッション業界も例外ではなく、この流れを象徴するブランドが生まれつつあります。
今回は、ECを展開せずZ世代から熱い支持を受けている「十二光年(シア グアン ネン)」というアパレル、雑貨を取り扱うブランドを紹介します。十二光年は、顧客の声に応じる形で、ECサイトや公式ブランドページを立ち上げず、販路を店舗に絞り成長しています。一見すると、80~90年代の手法に回帰したように見えますが、成長の裏にはOMO(Online Merges with Offline)を意識した顧客管理、コミュニケーションがありました。
顧客の願望によって生まれたサブカルチャーブランド
昨年1月に設立された十二光 年は、ターゲット顧客は12歳~25歳のZ世代の女性で、ブランドの特徴としては、漫画やアニメなど二次元の世界、いわゆるサブカルチャーをデザインに落とし込んでいる点です。アイテムの中にはコスプレ衣装もあり、ライブ配信やライブコマースで活躍するコスプレイヤーやライバーが顧客に多くいます。ブランド創業の理由は、創業者であるCarrie氏が元々アニメや漫画などのサブカルチャーが大好きだったことから、自身が大好きなオタク文化を広め、偏見を無くしたいという想いで創業したといいます。創業当時、限られたリソースの中で顧客は何を求めてい るのか?施策の優先順位をつけるべくCarrie氏はまず、WeChat上で公式アカウントを作成し、サブカルチャーを好むユーザーに向けてブランドの運営方針に関するアンケートを取りました。
アンケート結果では、「実店舗に集中して欲しい」という声が多数を占めたことから実店舗にリソースを注力。昨年5月、杭州に1号店を開店し、中国全土からサブカルチャーを趣味とする顧客が殺到したことで現地でも話題になりました。この「実店舗に集中して欲しい」 という回答が多かった背景には、Z世代の消費者を中心に、“購買体験のシェア”を重視する流れが発生しているためです。現地のリサーチャーによるZ世代の消費行動に関する調査では、“購買時に重要と考える要素は?”という質問に対して、“友達と一緒に商品を選ぶ”といった店舗ならではの要素を重要視する意見が多く挙がっています。
コスプレイヤーやライバーがメインターゲットの十二光年
テンセントも出資する十二光年のポテンシャル!
創業当初から勢いがあった十二光年は、昨年の11月に約8千万円の資金調達に成功、さらに今年3月には、テンセントを中心に、大手ゲーム企業、複数の機関投資家から5億円の調達に成功しています。この資金を元に、2021年中に新規直営店舗を30ヵ所で出店すると発表しています。売上は現在非公開ですが、なぜ十二光年はここまで投資家に期待されているのでしょうか?その理由は大きく2つあります。
まず1つ目の理由は、メイン顧客であるZ世代の女性の意向を重視し、店舗での体験をなによりも優先している点です。販路を店舗に絞りリソースを集中することで、店舗でのイベントや内装を充実させています。これだけでは、ひと昔前の多店舗展開と変わりませんが、十二光年の注目すべき点はデジタルのリソースをWeChatに集中させている点です。具体的には、ブランドサイトではなくWeChatに限定して顧客管理や情報発信に取り組んでいるのです。顧客管理に関しては、WeChatに集約することで、公式アカウントのコンテンツを閲覧する際に会員登録が必須となるWeChatの特性を活かし、顧客データを収集し、会員ランクを管理しています。一方、情報発信に関しても、店舗で使えるクーポン券の発行、各店舗入荷状況のお知らせ、カスタマイズサービスなど全てWeChat上で完結させています。このようにWeChatの特性を活かして顧客データを蓄積することで、次のマーケティングに活かしています。
十二光年の WeChat 公式アカウントでは会員管理に関連する機能が豊富
十二光年のWeChat公式アカウントの会員数は、創業からわずか2年で2万人を突破しています。中国では、人口の約8割が1日1回以上WeChatを使用しており、潜在顧客も十二分にいる背景があることから、WeChatによる情報配信に注力したことは、理に適っていると言えそうです。
次に、2つ目の理由は、十二光年のビジネスモデルの核がIP(Intellectual Property)ビジネスである点です。十二光年が取り扱う商品は一般的なアパレルや生活雑貨ですが、人気アニメのキャラクターをモチーフにしたアイテムや、コラボ企画の衣装やグッズが多くを占めます。顧客の多くは「服を買う」というよりも、「自分が好きなキャラクターの関連グッズを買う」という心理を持っています。つまり、アニメやゲーム関連の「コンテンツ」を売るというのが十二光年の本質です。アニメやゲームを軸に、アパレル、雑貨のみならず、ゲーム内の仮想衣装などのコンテンツも展開できる点が、一般のアパレルブランドとの最大の違いとなっています。
成長の裏には80~90年代の多店舗展開+OMO
世界最大のゲーム企業でもあるテンセントと、その他のゲーム会社が「十二光年」に出資した理由もここにあります。提携し特定のアニメのコンテンツをアパレルなど周辺商品に派生させることで、ビジネスを拡大していくのです。今回紹介した十二光年は、ターゲットとする顧客の意向から、ECよりも店舗展開を先行している事例ですが、もちろん今後の展開として、ECを立ち上げる可能性は十分にあります。ただ、これまでの「デジタル上で生まれたブランドはECから先行するべし!」という固定観念を打破している例ではないでしょうか。マーケティング戦略が1周回って、80~90年代の多店舗展開をメインとする戦略と同様にみえますが、OMO(Online Merges with Offline)を戦略の基盤に意識して、顧客の可視化を実現させている点は当時とはっきりと異なる点です。デジタル上(WeChat)に顧客情報を集約させることで顧客情報を一元管理し、顧客ごとに入荷状況のお知らせやカスタマイズサービスを提供することで顧客とコミュニケーションをとっています。
顧客の可視化を重視した上で取り組みを考える姿勢
十二光年で購入した商品を自分のBiliBili(中国版YouTube)チャンネルで披露するライバー
十二光年の事例を基に今回お伝えしたいのは、ブランドを立ち上げる際、顧客とデジタル上で繋がり、顧客を可視化できるのであれば、販路にこだわる必要は無いということです。つまり、顧客を可視化することを優先し、その結果を基に、ECサイトを始めるべきなのか?実店舗を増やすべきなのか?を検討するべきです。グローバルレベルで市場や購買行動は変化し、取り組むべき施策や優先順位も日々左右されますが、いかにデジタルを活用して顧客を可視化し、施策に反映できるか、これらを徹底している企業こそが、今後生き残っていく企業、ブランドの条件ではないでしょうか。