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2018.03.21

売上高が初の300億円超え 開業10周年を迎えた「阪急メンズ大阪」

 大阪・梅田に館を構える「阪急メンズ大阪」が今年2月で、開業から10年を迎えた。ファッションビルだった「ヘップナビオ」を居抜きで全館改装し、2008年2月にグランドオープンした西日本初の“メンズ館”だ。ラグジュアリーからデザイナーズ、国内ブランドまで幅広いメンズファッションを集積した同館は、2017年度(2018年3月期)の売上高が過去最高の300億円を超える見通しだ。

 

2&3階フロアがけん引役 客単価は1.5倍に

2階の自主編集売り場「ガラージュ D.エディット」

 従来の「ヘップナビオ」はミセス主体のファッションビルで、2000年代半ばは売り上げが伸び悩んでいた。思い切った刷新の方法はないものかといろいろ検討される中で、有力な候補に挙げられたのがメンズ館構想だった。当時、伊勢丹が新宿にメンズ館をオープンしており、メンズファッションの新しい流れが到来したと、業界の耳目を集めていた。「ヘップナビオ」のメンズ館化に際し、「果たしてしっかりテナントや顧客を集められるのか?」と懸念する声もあったというが、08年2月、地下1階、地上5階の計6層のメンズ館としてグランドオープンにこぎ着けた。

 

 初年度は250億円の実績を残したが、2年目は“リーマンショック”の影響で売り上げが落ち込んだ(そう、2009年シーズンはとてもたいへんな時期だったのである・・)。その後は顧客が増えたこともあり、徐々に売り上げを伸ばしていった。もう一段階、ランクアップする起爆剤になったのが、15年9月に実施した全館規模の改装だ。ラグジュアリー・モード系カテゴリーを拡充し、オーダーサロンを強化したことで、さらに集客力が高まった。2017年度は秋冬に寒くなったことも後押しし、300億円超という過去最高額を達成する見通しになった。インバウンド客は30%増、全売上の約8%を占めている。

 

 全館の売り場面積は約1万6,000平方メートル。個性派百貨店、京都の藤井大丸とほぼ同じ規模である。1つのコンセプトでまとめるにはちょうどいい規模感なのだろう。客単価は毎年、上がり続けている。開業当初と比較すると、約1.5倍になっているようだ。来館客数も増加傾向にあり、理想的な推移だったようである。

 

 今年度(2017年度)のけん引役になったのが2階、3階フロア。15年9月の改装で強化した部分だ。日本初の「クリスチャン ルブタン」のメンズ業態、西日本初の「ヘルノ」「バーク」などを導入し、ラグジュアリー、モード系ブランドを拡充した効果が表れた。また、シャツやネクタイ、シューズなど洋品類を集積した編集売り場も3階フロアに負けず劣らず健闘した。コンテンポラリー系の地階、国内ナショナルブランドが集積する4階も堅調な推移だった。「クールカジュアルスタイル」の5階は少々、苦戦した。

 

 

“ナイスガイ・メイキング”でおしゃれな男性客が増加

1階の洋品売り場も着実に伸びている

 「10年ひと昔」と言われるが、「阪急メンズ大阪」を取り巻く環境の変化を見ても、開業当時と現在とでは、隔世の感がある。オープン当時は世間の男性諸氏をおしゃれにするべく、“ナイスガイ・メイキング”というコンセプトの下、ファッションに関心を持つ男性客の開拓に力を入れていた。それまでの百貨店顧客と言えば、奥さんに代表される女性がお父さんの着る物を購入する“代理購買”が主流だったし、今も大半がそうである。「阪急メンズ大阪」では、この代理購買から脱却し、自身で着るものは自分で選び買うという、ファッション意識を持った男性客を増やそうとしたわけだ。

 

 開業から10年間で一番変わったことは、「おしゃれな男性が圧倒的に増えたこと」だと、「阪急メンズ大阪」の猿木哲郎店長は説明する。「顧客の感度がとても上がっているので、その期待に応えられるような商材を提案する必要がある」(猿木店長)。それを裏付ける動きが、ブランド絶対主義が薄まってきていること。自分のスタイリングを確立した顧客が増えたことで、自身に合うブランドを探すという購買動向に変わりつつあるようだ。自主編集売り場の売り上げが伸びていることもその証左と考えられる(後述)。

 

 主要な顧客層は40‐60代男性で、30代が減っている。その半面、まだ規模は小さいが20代前半の若い客層も増加傾向にある。15年9月の改装で拡充したラグジュアリー・インターナショナル系の利用が多いという。「インスタグラムなどネット、SNSの普及で露出度が増して、高感度ファッションの敷居が低くなってきているのでは」(猿木店長)と分析する。

 

 好調なブランドは、前述のラグジュアリー・モード系に加えて、「グッチ」「バレンシアガ」「ルイ・ヴィトン」などが伸びている。そのほか、「ベルルッティ」「モンクレール」「ジバンシィ」「ベルサーチ」「ロエベ」「ストーンアイランド」など、枚挙にいとまがない。開業当初から店舗を構える「トム フォード」もずっとがんばっているという。

 

 そのほか、自主編集売り場も業績を伸ばしている。2階フロアのデザイナー系や新進のブランドを扱う「ガラージュ D.エディット」や、4階のカジュアル系ブランドを集積した「サード スタイル」、地階の「スティルアッシュ」などが健闘している。全館に占める自主編集売り場の売上比率は約25%にまで高まっている。自主編集売り場では“買い取り品”を増やし、リスクを持って販売する比率も増えているようだ。「全て買い取りというわけではないが、当初に比べるとその精度は高まっている」(猿木店長)。

 

 今後も“ナイスガイ・メイキング”というコンセプト――おしゃれな男性客を増やすという基本姿勢に変わりはないという。課題はラグジュアリー・インターナショナル系“頼み”になっていること。「国内系ブランドが伸び悩んでいるので、再度強化していきたい」(猿木店長)という。

 

 


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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