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2021.05.06
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.73】「ポジティブな現実逃避」へ 気分はレトロフューチャー 2021-22年秋冬ミラノ&パリコレクション
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左から:シャネル、ルイ・ヴィトン、プラダ、フェンディ
2021-22年秋冬のパリ、ミラノコレクションは「ポジティブな現実逃避」とも呼べそうなエスケープ感が漂う提案が相次いだ。レトロとフューチャリスティックが交じり合う形で「コロナ前・後」を表現した。タイムレスで穏やかなムードは、多彩なニットウエアに託され、パフィなボリュームルックが気持ちを和ませる。一方で、ミニワンピースやボディコンシャスなアイテムとのコントラストでめりはりを演出。シーズンを重ねているロングトレンドは表情を変えつつも、さらに継続し、サスティナビリティー意識はパッチワークのようなアップサイクル表現を呼び込んだ。
■パリコレクション
◆シャネル(CHANEL)
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スキーとパーティーという、この1年で縁遠くなってしまった2大プレジャーの装いを、伝説的なクラブを舞台に実現した。キルティングのスキースーツやパフィなジャケットで、華奢感を引き出した。たっぷりボリュームのアウターを脱ぐと、キュートなミニ丈ワンピースや細身のキャミソールドレスが現れる仕掛け。ロングアウターの内側にブラレットやショート丈トップスを着込むという重ね着で量感のめりはりを際立たせている。ツイード生地とシアー素材も響き合わせて、品格と若々しさを同居させた。
ブランドロゴを全体に配した、サロペット風のオールインワンはスポーティーでフレッシュ。ミニスカートはレインボーのマルチカラーで彩った。元気なガールズ気分を乗せたフェイクファーは、ジャケットやブーツにたっぷりあしらった。ポストコロナを見据えて、夜のドレスアップに誘うかのよう。ラメ系のスパークル素材も用いて、「シャネル・ガール」にゴージャス感を寄り添わせている。
◆ミュウミュウ(MIU MIU)
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深い雪山をバックに、登山着とガーリールックを融け合わせた。ボリューミーなスキー服に、サテン生地のミニスカートといった、「アルペン×ロマンティック」の大胆コンビネーション。スリップドレスやブラレットのような官能的アイテムを雪山に持ち込んで、遠ざかった「旅」へのノスタルジーに誘う。フェイクファーをどっさり配したマウンテンブーツはゴージャスでタフ。ダスティーパステルのピンクやグリーン。イエローが雪景色をチアフルに彩った。
ランジェリーに着想を得た、つややかなスリップドレスをセーターとレイヤード。ニットのヘッドピースやフェイスカバーがぬくもりを添えた。登山靴・スキーブーツのようなビッグシューズで足元にボリュームをのせて、愛らしさとタフさを同居させた。クロシェ編みの手仕事感があたたかみを帯びる。アームウォーマー、レギンスなどにもニットが多用され、やわらかいプロテクション感をまとわせている。
◆ディオール(DIOR)
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おとぎ話や童話の世界を連想させるような、ガーリーでミステリアスな装いを披露した。『不思議の国のアリス』や『美女と野獣』などのファンタジーをまといながら、毒っ気を添えて、大人っぽく甘さを遠ざけている。『赤ずきん』を連想させるレッドルックは愛らしく妖しい。ヒロインを象徴するフードをコートに組み込んで、コケットなたたずまいに。幻想的な雰囲気を醸し出して、ポジティブな現実逃避にいざなった。
真知子巻き風のヘッドピースも盛り込んで、クラシックな印象を強めた。ダブルブレストコートやミリタリー風ブーツのようなメンズ由来のアイテムを持ち込んで、フェミニニティを引き立てている。バージャケット、ジャンパースカートなど、タイムレスなアイテムを投入。ハイウエスト、パフスリーブなどは古風な印象のディテール。ベルサイユ宮殿の鏡の間という、究極のリュクスを帯びた空間でドレスアップの快楽をささやきかけた。
◆ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)
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ルーヴル美術館を舞台に古典とモダンをクロスオーバーさせた。古代のギリシャやローマからモチーフを借りて、旅心をかき立てる。つやめいた素材がフューチャリスティックな気分も添えている。過剰なボリュームで遊んだ。オーバーサイズのブルゾンで量感をふくらませ、透けるチュールのスカートで軽やかさを添えている。足元はタフなブーツで強さを演出。タイムレスでジェンダーレスなマルチミックスの装いに整えた。コクーン形のケープも貴婦人テイストと朗らかさを兼ね備えている。
伝統的な手仕事技を惜しみなく注ぎ込んだ。古典彫刻のモチーフや女性の横顔を写し込んで、時空を越えた。手描きの動感と、デフォルメしたブランドロゴを交わらせて、カルチャーミックスの表情に。テーラードの端正さにポジティブな色・柄を組み合わせて、プレイフルな着映えに仕上げている。ミニ丈ワンピースやパフィジャケットでアクティブな装いに。ガーリーとスポーティーを響き合わせ、ポストパンデミックを予感させる前向きなエスケープに導いていた。
■ミラノコレクション
◆プラダ(PRADA)
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ミニマルとグラマラスが交じり合うハイブリッドな装いを打ち出した。すっきりしたシルエットのコートを、サイケデリックなネオンカラーで彩った。手袋には鮮やかな色が配され、強めの差し色に。フェイクファーもカラフルに染め上げ、サスティナブル素材として迎え入れた。フェイクファーはストールでも多用。肩から落として、正面で押さえるまとい方がエレガンスを添える。
マニッシュなスーツはしなやかなボディスーツと組み合わせ、正統派テーラードとシャープなスポーティムードを融け合わせた。シグネチャー素材の再生ナイロンとジャカード編みの幾何学柄を交差させて、レトロとフューチャリスティックを響き合わせている。相反するテイストや方向性が引き合わされて、スリリングな楽観を醸し出していた。
◆ヴァレンティノ(VALENTINO)
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マニッシュなジャケットとタイトなミニスカートが凜々しくクールな「ロマンティックパンク」の着映えに導く。黒の上下と白シャツのウエストアウトでまとめた、マイクロミニ丈のルックがキュートでパワフル。ロングアウターを重ねて、長短の丈違いレイヤードを組み立てた。白シャツは横に広がった大襟がシャープな印象を添えた。菱形の編み目が目を惹くネットウエアを重ねて、隙間越しの重層的レイヤードに。
透ける生地とのクロスオーバーでセンシュアルなムードをまとわせた。優美なケープをキーピースに据えて、古風なレディー感を帯びさせている。レースやニットの風合いをクチュール技法でフェザーやフリンジ風に際立たせた。ポインテッドトゥ・ハイヒールと厚底ロングブーツの混在にもフェミニニティとタフ感が漂っていた。
◆フェンディ(FENDI)
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新アーティスティック ディレクターに就いたキム・ジョーンズ氏がウィメンズのレディ・トゥ・ウェア(プレタポルテ)コレクションを初披露した。ブランドの原点に立ち返るように、ファーとレザーの魅力を引き出している。キャメルやブラウン系をキーカラーに据えて、ワントーンの装いを組み上げた。ハイネックのクロップド丈ニットでお腹をチラ見せ。ショートパンツとロングコートを合わせて、長短の丈違いレイヤードを演出。全体にスリーク(細身でしなやか)なシルエットに整えている。
一方、ファーコートは量感がたっぷり。毛を短めに刈り込んだり、シャギーに遊ばせたりと、ファーの風合いを生かしている。コート裾にフリンジをあしらって、動感を加えた。ブラトップにレザージャケットを重ねるコーデではコントラストを強調。伝統的なイタリアンエレガンスを、上質素材と職人技でリアルクチュール仕様にモダナイズしている。
◆ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE & GABBANA)
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90年代テイストをたっぷりまぶしつつ、フューチャリスティック感を打ち出した。サイケデリックなマルチカラーに楽観を写し込んでいる。ミニ丈ワンピースに透明フィルムを重ね、つややかケミカルな見え具合に。メタリックブルーの手袋と靴は宇宙飛行士服ライク。ロボットモデルまで披露した。フェイスシールド風のゴーグルにもテクノロジー感が漂う。
ネオンカラーのレオパード柄はナイトクラビングに誘うかのようなゴージャスさ。ロングネックレスもジャラジャラ垂らしてリズミカルに。肩パッド入りのパワージャケットは90年代のシンボル。オーバーボリュームのアウターでジェンダーレスに。ステートメント的なロゴ使いで90年代気分を呼び込んだ。100を優に超えるルック数で引き出しの多さを証明していた。
長期トレンドが色濃く残ったものの、全体のムードは、ポストコロナへの期待感を込めて、楽観に向かった。コンフォート(着心地)やコージー(居心地よさ)重視の流れはニットスーツをトレンドアイテムに押し上げた。ハンドクラフトや伝統文化の再評価にはタイムレス志向の盛り上がりがうかがえる。一方で、プレイフルな装いが増え、花柄や人工ファー、スキールック、70年代ツイストも勢いづいている。コロナ禍に奪われた「装う楽しさ」を再び取り戻そうとする試みはパリとミラノに本来のパワーが戻る兆しとも見えた。
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宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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