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2021.04.15

ZOZOの「YOUR BRAND PROJECT」が実現する、 インフルエンサーとファンが次世代D2Cブランドを共創するプラットフォーム

Text by AIR編集部

「YOUR BRAND PROJECT」のインフルエンサービジュアル

 2020年6月、株式会社ZOZOはD2C事業「YOUR BRAND PROJECT Powered by ZOZO(以下YOUR BRAND PROJECT)」をスタート。「才能やセンス溢れる“個人”とともに『ファッション』の新たな世界を創造」というコンセプトを掲げ、プロジェクト発足から約10カ月が経過した現在、約30ブランドを展開しています。

 

 これまで、ZOZOSUITに始まり、最近展開したZOZOCOSMEなど次々と新しい事業へ挑戦してきた同社。今回の取材では、「YOUR BRAND PROJECT」のブロック長(課長)を務める傍ら、同プロジェクト内で自身も「nimiru(ニミル)」というレディースブランドを立ち上げた藤本 真美氏(以下藤本氏)に、同社が考えるD2Cビジネスとは何か、D2C事業の戦略、そして今後の展望についてお話を伺いました。

「YOUR BRAND PROJECT」のブロック長(課長)兼「nimiru(ニミル)」のディレクターを務める藤本 真美氏

はじめに、御社にとってのD2C事業の定義、そしてD2C事業を発足した背景についてお聞かせください。

藤本氏:

 2018年頃に、プライベートブランド事業を立ち上げた際、アパレル生産関係者の方々にご協力いただいたことで、ノウハウや知識を蓄積できたことに加え、当社が運営するファッションコーディネートアプリ「WEAR(ウェア)」によるインフルエンサーとの関係構築など、社内の連携体制が整った経緯があり、今回の「YOUR BRAND PROJECT」の立ち上げに至りました。「YOUR BRAND PROJECT」とは、ファッションへの情熱や才能に溢れる個々人が、WEARやSNSなどのメディアを中心に情報を発信しながら、ブランドの立ち上げから企画・生産・販売までをZOZOが全面的に支援するプラットフォームとなっています。

なるほど。では、D2C事業を設立するにあたって、ビジネスモデルはどのように組み立てたのでしょうか。参考にした海外D2Cブランドなどがあればお聞かせください。

藤本氏: 

 ビジネスモデルに関しては、特定の企業様をベンチマークするようなことはなく、当社の展開するサービスを通じて培ったノウハウやネットワーク、サプライチェーンなどの強みを生かした独自の体制でD2C事業を開始しています。「YOUR BRAND PROJECT」に近い事業モデルとして、実は2013年頃の「WEAR」リリース時からすでに、「WEAR」で活躍する「WEARISTA」と呼ばれるインフルエンサーと一緒に企画し、コラボ商品をリリースしてきた経験があります。その過程で、アパレル企業様とも協業する場面があり、いくつかの成功事例が生まれたことも、今回の「YOUR BRAND PROJECT」に繋がりました。

WEARのアプリより

「YOUR BRAND PROJECT」の発表から約10カ月が経過していますが、その中で直面した課題、あるいはお客様の反応などにおいて、何か特徴的なことはありますでしょうか?

藤本:

 第1弾の発表時は、複数のブランドの立ち上げが実現し、中にはリリースして5分程で完売したような成功事例もあったので、全体として非常に好調な手応えを感じていますね。中でもものまねタレントの丸山礼さんのブランド「reI’m(リアイム)」や、ジュエリー職人のMI(ミイ)さんなどのブランドでは、ほとんどの商品がZOZOTOWNの売上ランキングにランクインしました。直近ですと、YouTuberのきりまるさんのブランド「onetome(ワントゥーミー)」は、ブランド立ち上げ発表後数日でブランドの公式インスタグラムのフォロワー数が4万人を超えました。リリース前から期待されていたブランドほど、実際の反響も大きかったと思います。

左:ものまねタレント 丸山礼さんのブランド「reI’m(リアイム)」

右:YouTuber きりまるさんのブランド「onetome(ワントゥーミー)」

紹介いただいた事例からすると、「YOUR BRAND PROJECT」は主にインフルエンサーが主体となるビジネスモデルだと思いますが、好調なブランドに何か共通点はありますでしょうか?

藤本氏:

 インフルエンサーのフォロワー数や、投稿に対する「いいね」数はもちろん重要な要素ですが、それ以上に、顧客となるファンの方々に対して、どれだけ高いエンゲージメントを生み出せるかどうかという部分がブランドの認知度や反響を大きく左右すると思います。特に重要視しているのが、コメント数とコメントの内容ですね。つまり、しっかりファンとコミュニケーションが取れているかどうかという部分が見極めるポイントとなっています。具体的な数値基準は公表できないのですが、やはり、数百単位でファンとコメントをやり取りしているインフルエンサーのブランドは比較的反響が大きいです。

 

 また、商品企画の段階での「匂わせ投稿」でファンの反応を見たり、アンケート機能を使ってニーズをつかみ、リリース前からブランドの成長をファンに見守ってもらいながら共創していくような動きもあります。加えて、インフルエンサーの個性も非常に大事で、どこでも買えそうな商品よりも、そのインフルエンサーの個性をきちんと表現できている商品が実績を残しています。

 

 ファンとのエンゲージメント率の高さと個性を生かした商品、この2つの土台があるからこそ、ファンの中にインフルエンサーへの憧れの感情が醸成され、コーディネートやライフスタイルを真似したくなるような好循環が生まれて、反響も高まると思います。

ファンとの「コミュニケーション」、「エンゲージメント」といったキーワードが出てきましたが、御社の中で、例えばDMなどを活用してファンと積極的にコミュニケーションを深めるというような考え方はありますでしょうか?

藤本氏:

 基本的に各ブランドのメディアの運営やプロモーションに関しては、各々のインフルエンサーに任せてはいるのですが、当社社でも、顧客からの問い合わせに対応するためにカスタマーサポートと連携をとっているほか、インフルエンサーの方々にはライブ配信を積極的に推奨し、その配信サポートなどもおこなっています。活用するライブ配信プラットフォームは各インフルエンサーが強みを持つものに任せていますが、全体的にインスタライブが多いという印象を受けます。

藤本さんご自身もD2Cブランド「nimiru(ニミル)」を立ち上げていらっしゃいますが、ブランド設立までの流れ、そして現在どのように運営しているのかお聞かせください。

藤本氏:

 nimiruではディレクターを務め、プロジェクト設立当初から生産チームとともに運営しています。ディレクターである私自身の役割は主に、ターゲット顧客設定、ブランドコンセプト、作りたい商品企画の部分を担当しています。私はこれまで服作りの経験がなかったのですが、そういったインフルエンサーさんの立場や気持ちに同じ目線で寄り添い、サポートが出来るように、nimiruでの経験、知見をインフルエンサーにもアウトプットし、生産・販売などの各チーム部門と連携した経験を活かしています。

藤本氏がディレクターを務める「nimiru(ニミル)」

 また、「YOUR BRAND PROJECT」では通常、インフルエンサー、ファシリテーター役となる商品企画チーム、生産チームが一つのチームとなって連携し、ブランドを運営しています。私のチームがインフルエンサーと連携し企画を進め、並行して生産、販売、プロモーションなどマーチャンダイジングの部分を各関連部署とコミュニケーションを取り進めています。

ちなみに、現在「YOUR BRAND PROJECT」で展開しているD2Cブランドはどのくらいありますでしょうか?

藤本氏:

 「YOUR BRAND PROJECT」でZOZOがゼロベースで企画から生産まで手掛けるブランドは約20前後です。また、ZOZOTOWNに出店している既存のブランド様にインフルエンサーを紹介し、「ブランド×インフルエンサー」というコラボレーション事業で生まれたブランド数が現在約10ありまして、両方を合わせると現在は約30ブランドを展開しています。

「YOUR BRAND PROJECT」では現在約30ブランドを展開

今後もブランド数を拡大していくと思いますが、具体的にどのような戦略を描いていらっしゃいますか。

藤本氏:

 まずはWEARで生まれたインフルエンサー、もしくはInstagramやYouTubeなどのSNSで活躍しているインフルエンサー、そしてアパレルブランド様とのコラボ企画の3軸を中心に、当社の生産背景を生かし、できるだけ多くの「インフルエンサー商材」を拡大していきたいと考えています。

 

 また、「YOUR BRAND PROJECT」を募集した際、同プロジェクトに参加する為にWEARを始めた方もかなり多く、そういう意味では、「YOUR BRAND PROJECT」を通じて、WEAR、ZOZOTOWNにとっても好循環を作れていると思います。

投資という角度からD2C事業についてお聞きします。御社では、現在ゼロからブランドを手掛けている割合が多いと思いますが、例えば今後、勢いのあるD2Cブランドを買収することでD2C事業全体のスケールを拡大していく、というような構想はありますでしょうか?

藤本氏:

 現時点で他ブランドを買収して成長するというような構想はありません。プラットフォーマーとしてのビジネスモデルをベースとし、前述した「ブランド×インフルエンサー」の成功事例を積み上げることでブランド数の拡大を目指していきたいと考えています。「YOUR BRAND PROJECT」のプラットフォームを通じて、すでに活躍しているアパレルブランドにポテンシャルのある新たなインフルエンサーを紹介することで、さらに面白い企画を生み出していくというのが、おそらく今後のメインの動きになると思いますね。

なるほど。近年、アパレル各社や一部メディア関連の企業がD2Cブランドをプロデュースするケースが増えています。その中で、どのような差別化を図っていくのでしょうか?

藤本氏:

 どこでも買えるような商品ではなく、インフルエンサーの個性を十分にファッションに落とし込んだ商品生産に引き続き注力していきます。また、強みである、顧客の多種多様な体型やサイズのニーズに対応する「マルチサイズ」という、ZOZOSUITで得た100万件以上の体型データを生かした「インフルエンサー×マルチサイズ」の展開でも差別化を図っていきたいと考えています。D2Cブランドの中でも、顧客に対して、デザインや個性の追求に加え、サイズ課題の解決を限りなく訴求できるところが「YOUR BRAND PROJECT」の強みだと思います。

ZOZOのマルチサイズの公式ページより

最後に、サステナビリティにおける「YOUR BRAND PROJECT」の考え方や取り組みをお聞かせください。

藤本氏:

 「YOUR BRAND PROJECT」では、例えば素材選定の時点で、和紙素材、土に還る素材を起用するブランドもいくつかあります。環境に配慮した素材の利用を前提に事業を進め、また生産体制においても商品を作り過ぎないよう受注生産の最適化を目指し、今後も試行錯誤しながら改善していきます。

まとめ:

インフルエンサーとファンがブランドを共創する次世代のD2Cブランド

 従来のD2Cブランド展開においては、中間マージンの排除、商品の品質、機能性といったビジネスモデルや商品軸にフォーカスされてきましたが、今回「YOUR BRAND PROJECT」の取材で見えてきたのは、次世代D2Cブランドでは、商品軸がベースにありながら、インフルエンサーとファンとの間の相互コミュニケーションが起点となり、ブランドを共創する時代へ突入しているということです。「YOUR BRAND PROJECT」というプラットフォームを通じて、インフルエンサーが一方的に感性や情報を発信するのではなく、ファンとしっかりコミュニケーションをとることで、ブランドが育っていくのをファンが見守るような関係性が生まれ、ブランドコミュニティが醸成されています。今後も「YOUR BRAND PROJECT」の最新動向に注目していきたいと思います。

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