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2021.03.31

本来のデパートの役割を担う 米国大手スーパー、「Target(ターゲット)」の2021年のビジネス戦略

1年間で10億ドルの売り上げを達成したPB「オールインモーション」

 全米で1900店舗を運営する大手スーパーチェーン「Target(ターゲット)」は、昨年パンデミック禍でありながらも異例の成長を遂げた勝者のひとり。その要因は、必要不可欠なプロダクトを扱っているリテーラーという幸運な側面だけではなく、同社が2017年から行ってきた店舗とECへの70億ドルの投資を含め、数年にわたり準備を進めてきた戦略の成果だといえます。今年3月に発表された同社のプレスリリースによると、2020年の第4四半期の売上は昨対比20.5%増加の150億ドル、総売上は924億ドルに達し昨対比19.3%増加という好業績を記録しています。そして2021年は、店舗の改装を加速させ、ECを強化する為、数年間に渡る40億ドルの設備投資計画を発表。この投資プランをもとに、同社の2021年のビジネス戦略を見ていきたいと思います。

地域とニーズに沿った新規出店と改装

 昨年は30店舗の新規出店に加え、都心部や大学のキャンパスなど、密集した郊外のコミュニィのニーズを満たす為の小型店舗を29店舗追加出店しました。今年はこのペースを加速させ、年間30~40店舗出店するとのことです。従来は、ストアサイズ、内装ともにほぼ同様に展開されていましたが、今後は、ニューヨークやロサンゼルスなどの都心部では小型店舗、ブルックリンなどの都心に近い郊外では中規模サイズの店舗と、客層やその地域のスペースに合わせてストアデザインを差別化していくようです。

 

改装後のコスメ売り場:明るめのウッドフロアに円形の什器

 従来のターゲットやウォルマートの店内といえば、通路を挟んで左右に等間隔の陳列棚が並ぶ一律のデザインでしたが、スペースに余裕のある大型店舗では、通路間のパーテーションを取り除き、より視覚的に魅力のある店舗へと変化しています。先に掲載した改装後の写真では、円形の什器に何種類ものサンプルサイズのコスメやトレンドのフェイスマスクが陳列されています。さらに今年は、このフロアとは別に、「ULTA Beauty(アルタビューティー)」のミニショップを100店舗のターゲットで導入。格上げされた魅力的な品揃えと仮想試着ツールGLAMlabに代表されるデジタル戦略を駆使したサービスでオムニチャネルを強化し、顧客の美容ニーズに対応しています。

「ULTA Beauty(アルタビューティー)」のミニショップのイメージ

(公式ページのプレスリリースより)

 このようにターゲットは今後、ディスティネーションストアとしての役割と、ワンストップショッピング体験の利便性とを兼ね備えたストアになっていくでしょう。今年はホリデー商戦に間に合うよう150店舗を改装し、2022年には年間200店舗以上を完成させる予定。今後追加される新店舗では、安全性、利便性に重点を置き、非接触機能が導入されます。

フルフィルメントサービスとラストマイルへの補充機能

 昨年は多くの顧客が、同日配達やカーブサイドピックアップなどのサービスを利用し、とりわけ食品の購入が増加しました。この状況を受け、今年は生鮮食品、冷蔵・冷凍食品のさらなる品揃えの充実が報告されています。また、現行のデジタル戦略が改善され、ターゲット専用アプリの利用により、顧客は車を降りることなくパーソナライズされたショッピング体験が可能となります。例えば、受け取り準備完了の通知や、本人以外の家族や別のゲストが注文を受け取る際の許可などが専用アプリを通じて可能となります。

パンデミック時も営業を続けるきっかけとなった食品売り場。

客層の75%が食品を購入する

 そして、ミネアポリスにある本社では、仕分けセンターと呼ばれる施設にて、店舗をハブとしたフルフィルメント業務を拡大する為のテスト運営が行われています。仕分けセンターでは、地元の店舗が受けたオンライン注文商品を、効率的な配達ルートに仕分けします。これにより、店舗における仕分け作業の負担がなくなり、代わりに注文処理の時間とスペースが増え、同時に運送業者の負担も軽減できます。結果として、顧客への配達が迅速になり、ラストワンマイルのコスト削減に繋がります。今年度は同様の仕分け施設を5店舗増設予定、さらに、今年はデラウエアとシカゴに配送センターを開設、2022年には東海岸と西海岸の沿岸地区をサポートする配送センターの開設を予定しています。

消費者が新しいものを発見する場所に!

PB戦略から見えてくるもの

 前回、ターゲットのオリジナルアクティブウエアブランド「オールインモーション」が、コロナ禍でありながら、発売から1年で10億ドルの売り上げを達成したことをお伝えしました。その他にもターゲットでは、10種類の自社ブランドで年間売上がそれぞれ10億ドル、そのうち4ブランドでは売上20億ドルを超えています。

 

 莫大なマージンを生み出す特徴を持つのがPB商品ですが、ターゲットでは客層をよく分析した巧みな展開が行われているように思います。例えば、2019年より発売開始している食品のPBブランド「グッド&ギャザー」は、人工甘味料、着色料などを一切使用しない自然素材で作られ安全なうえ、値段も手頃で、取り扱いアイテム数は2000を超える人気ブランドです。

食品のPBブランド「グッド&ギャザー

 一方、今年4月に新発売が発表された「Favorite Day(フェイバリット・デイ)」は、スナック、キャンディー、ケーキ、ナッツやアイスクリームなど700種類以上の贅沢なデザート商品を展開するブランドで、中でもパンデミック禍で新規獲得した中・高所得層に向け、レストランレベルの高品質な味を追求し差別化を図っています。このように同じカテゴリでも、価格帯や客層のニーズに合わせてブランドを差別化し展開しています。このほか、シャンプーや洗剤などの日用品、消耗品を含めたアイテム全般において、同様に客層を意識した価格帯の異なるPBを展開しており、リーズナブルでも安心できる商品を求める客層と、多少値が高くても付加価値を重視した商品を求める客層の両方をカバーしています。

男性用ケア商品サブスクリプション「Harry’s」の商品をフィーチャーしたフロア

 また、人気ブランドとのタイアップは今後増えていくことが予想されています。メンズ売り場では、有名なサブスクリプションブランド「HARRY’S(ハリーズ)」の商品がフューチャーされています。これは、同カテゴリで、髭剃り用のシェービングフォームやシャンプー、石鹸などを展開する「Dollar Shave Club(ダラーシェイブクラブ)」と比べて値段は若干高いですが、ハリーズのアイコンである象のロゴ人気に加え、そのこだわりの世界観がターゲットの客層にはマッチしているようです。

年間売上が20億ドルを超えるキッズ向けPBブランド「Cats&Jack(キャット&ジャック)

今秋までに500店舗で販売予定の「Levi’s for Target」では、

アパレル・ホームグッズなど100型展開

 ターゲットによるアフターコロナを見据えた店舗改装、そして顧客のニーズを捉えた魅力ある品揃えは、消費者が新しい商品を発見するための場となり、これは本来デパートが担ってきた役割を打って変わっているのかもしれません。米百貨店・デパートのJCペニーメイシーズなどの撤退跡地に、ターゲットが入れ替わりで出店していく可能性も十分に考えられるのではないでしょうか。

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