PICK UP

2021.01.29

気になっていたあのブランドのいま(D2Cブランド編)

 パンデミックの影響で、多くのD2Cブランドが店舗の営業を停止し、コストカットのために人件費削減に迫られています。そんな中で比較的に安定してビジネスを継続させているD2Cブランドをピックアップし、簡単なブランド紹介と近況をレポートします。

Warby Paker (ワービーパーカー)のアプリのAR技術による試着機能

 D2Cブランドの先駆的存在であるメガネブランド、Warby Paker (ワービーパーカー)は2010年ニューヨークで創業。創業初期はECでの販売のみでしたが、のちに顧客体験を向上するためにリアル店舗も出店、現在は100店舗以上を展開しています。ワービーパーカーではメガネの価格設定を95ドル(約1万円)としており、良質かつ手頃な価格設定が多くのファンを魅了しています。また、顧客がメガネを購入する前に5つのフレームを5日間試着できる無料トライアルや、配送料・返送料が無料といった便利なオプションサービスによる付加価値が評価されています。その他、アプリではAR(拡張現実)の技術を生かしたメガネの試着が可能となっています。

 

 ちなみにワービーパーカーは、2015年、米ビジネス誌Fast Company(ファスト・カンパニ)が発表している「世界で最もイノベーティブな50社」というランク付けで、アップルやグーグルを抑え1位の評価を獲得し大きく注目を集めました。

 

 パンデミックの発生以来、ワービーパーカーは「BUY A PAIR, GIVE A PAIR」というチャリティー企画を立ち上げて、顧客が商品を購入する毎に世界中の教育機関や医療機関へメガネを寄付しています。さらに、ニューヨークにある光学実験室の場所を活用して、医療従事者にN95マスクを寄付する活動も行いました。また、パンデミック期間中のサービス品質を担保するために、アプリのビデオ機能を通じて顧客からのメガネに関する問い合わせにも積極的に対応しています。

「Westfarms mall」に出店したワービーパーカーの店舗

 2020年8月末、ワービーパーカーは複数の投資機関から約2.4億ドル(約250億円)の資金調達に成功し、企業価値が30億ドル(約3,000億円)に上がりました。さらに2021年1月20日、今年の初出店となるミシガン州の「Westfarms mall」というショッピングモールで店舗をオープン。開業に合わせて限定商品も展開しながら、今後はアプリに注力し新機能の実装、出店拡大を進めていくといいます。

Stitch Fix (スティッチ・フィックス)

Stitch Fix (スティッチ・フィックス)のECサイトより

 Stitch Fix(スティッチ・フィックス)は2011年に米国サンフランシスコで設立されたサブスクリプションサービスです。2017年に上場し業績を拡大していますが、その人気の理由はAIによるスタイリング提案です。2019年、スティッチ・フィックスは「バーチャルクローゼットサービス」を提供するスタートアップのFineryを買収。FineryはユーザーのEメールアドレスと連携することで、ユーザーがECサイトで購入した商品のサンクス・メールのデータを検知し、その商品をFineryのアプリに反映します。ユーザーがいちいちクローゼットを探さなくても、Fineryのアプリで手持ちの洋服を確認できるという「バーチャルクローゼット」を提供しています。

 

 スティッチ・フィックスでは、ユーザーに対し、サイズ情報、好みのファッションスタイルや消費習慣などについてアンケートを行っています。収集したデータをもとに、スティッチ・フィックスのスタイリストがユーザーの好みにふさわしいファッションアイテムを提案します。他社との差別化を図るため、現在スティッチ・フィックス内にいる約60人のデータサイエンティストがAIを活用しアンケートデータを分析。分析データをスタイリストに共有しスタイリング提案の品質を高めています。

スティッチ・フィックスの株価推移(Source: Yahoo! Finance)

 このように、高精度なAIを生かしたパーソナライズスタリングのビジネスモデルが、在宅消費の後押しもあり、同社のEC事業に大きく貢献しています。これまでに蓄積されたスタイリング提案のビックデータを活用することで、ユーザーのファッションの好みに合わせた約600万通りにも上るコーディネートを提案することに成功しています。さらに、スティッチ・フィックスによるスタイリング提案の差別化のポイントは、スティッチ・フィックス上にある商品に限らず、外部の商品も合わせて提案ができる点です。つまり、スティッチ・フィックス上の既存の商品とユーザーのクローゼットにある洋服に合わせて、新作商品や未登録ブランドの商品の提案もできることがユーザーから大きく評価されています。この強みを生かして、2020年第三四半期には約24万人の新規ユーザーの獲得に成功、会員数は約380万人までに増加しました。EC事業が好調な背景から、2021年1月26日時点における同社の株価は、2018年上場当時よりも500%増、過去最高を記録しまた。

Casper(キャスパー)

「The Dreamery」の様子

 Casper(キャスパー)は2014年にニューヨークで設立したD2Cマットレスブランドです。従来の「マットレスは店舗でしか購入できない」という常識を打ち砕き、ECサイトで簡単に購入ができ、かつ100日間の無料トライアル期間と10年保証といった付加価値を提供することで多くのファンから支持を集めています。キャスパーは創業当時より、ECサイトによる直販ということから商品と梱包方法に工夫を施しています。マットレスのスプリング(ばね)を無くし、真空パックで圧縮することで極限まで持ち運びやすくするという革命的なこの手法は業界内でも大きく注目されました。「良質な睡眠時間をお客様に実感して欲しい」という理念のもと、その後は店舗も展開し、さらに直営店とは別にコンセプトストア「The Dreamery」をニューヨークで開業。ここでは、ブランドの世界観を表現し、顧客に本物の睡眠体験を提供することに注力しており、同社のマットレスを使った40分間の睡眠体験ができます。

「Sam’s Club」のECサイトでもキャスパーの商品が販売されている

 しかし、キャスパーは2020年1月に上場したものの、デジタル広告などの先行投資が膨らんだことによって、経営の実態と市場や投資家の同社への期待との間に乖離が生じ、一時的に株価が低迷しました。そこで、パンデミックの影響も緩和する目的もあり、同社はECと直営店舗以外の新しい販路の開発に踏み切ることで、積極的に多くの小売企業と協業を強化しています。2020年8月、キャスパーは「Sam’s Club」、「Ashley Home Store」、「Denver Mattress」といった寝具、家具、マットレスの小売店と提携、これらの企業が持つ米国の中西部地域の店舗網を活用し、各店舗の売り場でキャスパーの商品を販売しています。これにより、これまでアプローチ出来ていなかった中西部地域の新規客層の開拓に注力しています。また、2020年11月にはNordstrom(ノードストローム)とも提携し、ノードストロームのECと店舗でキャスパー商品を展開しています。当面の間は、ニューヨークを含む大都市以外の地域における小売企業との提携を強化し、販路を拡大するといいます。

まとめ

 

 ワービーパーカーとスティッチ・フィックスはそれぞれ、アプリ新機能の開発や、AIを活用したパーソナライズスタリングで差別化を図ることに成功。一方、キャスパーは新しい販路を開拓するため小売企業と提携し、リアルの売り場で知名度を広げる手法を取っています。これら三社の共通点として、非常事態の渦中においても、ユーザーのニーズを見失うことなく、むしろ自社の看板商品・サービスの質にさらに磨きをかけることで、顧客の信頼を勝ち取っているといえます。いま一度自社の顧客のニーズに改めて着目し、限られた資源の中で選択と集中をしていくべきではないのでしょうか。

 

参照サイト:

 

https://techcrunch.com/2020/08/27/warby-parker-valued-at-3-billion-raises-245-million-in-funding/
https://seekingalpha.com/news/3642275-stitch-fixplus-29-after-earnings-smasher-strong-guidance
https://newsroom.stitchfix.com/

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