PICK UP
2021.01.14
ファッションブランドが次々とゲームへ参入する狙いは? ユーザーとのコミュニケーションとヒット商品を生み出すきっかけに注目
イラストレーター兼写真家のKara Chung(カーラ・チャン)が運営する「あつ森」向けの様々なデザインを紹介する
インスタグラムアカウントより
2020年8月のeMarketerの調査によると、米国のデジタル・ゲーマーの数は、米国人口の50%を超える1億7,470万人。全世界では25億人に到達し、平均年齢は30代のアッパーミドルクラスで、これはグッチのターゲット層と一致しているといわれています。昨年3月のパンデミック以降、1日平均7時間をゲームに費やし、仮想商品におよそ1000億ドルを費やしているという調査結果が出ています。
ファッション業界にも押し寄せる「あつまれどうぶつの森」ブーム
Tatcha(タチャ)の公式ページより
日本で長らくトレンドとして注目されている「あつまれどうぶつの森(以下、あつ森)」は、全世界でも最も人気のあるゲームの一つで、北米版「アニマルクロッシング」最新版の「New Horizons」では2,200万個以上が購入されました。ゲーム内ではプレーヤーが「マイデザイン」というアバターに好きな柄や模様の服をデザインし着せられる機能があることから、ファッションや美容ブランドがSNSを通じて「あつ森」向けのデザインの提供に次々と参画しています。
例えば、日本にインスパイアーされた美容ブランドTatcha(タチャ)は、世界的に旅行制限がある中、最新商品を「あつ森」のゲーム上で行うことを企画しました。専門家とのタイアップで「あつ森」のゲーム舞台である「無人島」の細部を構築する他、ファッション・美容系インフルエンサー「クレア・マーシャル」とのコラボを実施しました。彼女は自身も「あつ森」プレーヤーで既にゲーム手順は熟知しており、彼女によってクリエートされた無人島「Tatchaland(タチャランド)」で主催した同イベントでは、インフルエンサー仲間やファンなど、総勢1400人を超えるビジターを獲得しました。一般プレーヤーは、テストラボで製品について学び、トラベルサイズのサンプルを獲得するチャンスを得ることができます。このイベントは20を超えるメディアで取り上げられ、宣伝効果も抜群だったと言えます。
また、ニューヨークを拠点にアパレル業界で活躍する3名で運営されているNook Street Market(ヌックストリートマーケット)というインスタグラムのアカウントは、グッチやミュウミュウなどハイブランドのアーカイブをモデルに制作した「あつ森」向けのデザインを提供し、フォロワー数が一気に増加した事で知られています。ヌックストリートは、Glossierとの提携でピンクのパーカーを提供したほか、前述したタチャでは、ファッションブランド「Alo Yoga(アローヨガ)」と提携した「ラベンダースモークコレクション」の実際の発売時期に合わせ、ヌックストリートマーケットを通じて、「あつ森」向けの仮想コレクションを展開しました。
Dollskill(ドールズキル) | リアルのコレクションに基づいた「あつ森」用アイテムを発信。 |
Ben Sherman(ベンシャーマン) | Animal Crossfitsとの提携によるコレクションの再現。 |
Anna Sui (アナ・スイ) | 2020年春コレクションから「あつ森」向けにデザインの再現。 |
GCDS (ジーシーデイーエス) | イタリア発ストリートウェアブランドのCrossing the Runwayとのタイアップ。 |
Valentino(ヴァレンチノ) | インスタグラム・ストーリーズより20種類のアイテムがダウンロード可能。 |
Marc Jacobs(マークジェイコブス) | インスタグラム投稿からブランドオススメの6種類のアイテムがダウンロード可能。 |
Highsnobiety(ハイスノバイエテイ) | ベルリン発・メンズオンラインメデイア。「Inner Life collection」は「あつ森」用&リアルシーンでも購入可能。 |
Betsy Johnson(ベッツィージョンソン) | ヌック・ストリートマーケットとのコラボで「あつ森」限定コレクションを配信。 |
「あつまれどうぶつの森」向けにデザインを展開しているその他のファッション企業例
冒頭のイメージ写真は、イラストレーター兼写真家のKara Chung(カーラ・チャン)が運営する「あつ森」向けの様々なデザインを紹介するインスタグラムアカウント@animalcrossingfashionarchiveから。当初、同アカウントでは一般ユーザーの作品をピックアップし集めて投稿していましたが、シャネル、フェンディ、サンローランなどのデザイナーブランドと公式パートナーシップを提携し、「あつ森」内でアバターに着せて遊べるデザインを多数提供しています。
仮想の世界と現実をシームレスに統合するブランドの賭け
Image via Gucci
ファッション業界が参画しているゲームは「あつ森」だけではありません。例えば、グッチは昨年、サステナブルコレクション「オフ・ザ・グリッド」のキャンペーンを「ザ・シムズ4」のゲーム内で展開しており、バーチャル上でアバターにバッグパック、帽子、スニーカーなどを着用出来る様にしました。グッチは過去数年に渡ってバーチャルを活用した仕掛けを展開しています。他にも、人気のテニスゲームのアスレチックウェアの制作を行っています。昨年には、ユーザーがデザインした仮想スニーカーを、AR機能を用いてユーザーの見る事ができるプラットフォーム「Gucci Sneaker Garage」を立ち上げました。また、元アディダスのディレクターによってこれらのバーチャルな取組におけるアイテムによって新たな独自の経済圏が生まれ、共有や売買を通じて成長しています。
グッチのようなハイブランドが、リアルのファッションに限らず、バーチャルの領域のアパレル、シューズ、アクセサリーをデザインし始めている背景には、ブランドが今後の10年間を生き残る為に、消費者がますます時間を費やすと予想されるデジタルの世界に統合する必要があると考えるからです。興味深い点は、仮想の世界のアイテムが実際にマネタイズ化されていく事です。前述した「グッチスニーカーガレージ」では、クリエイティブディレクターによってデザインされた、プラットフォーム内のみで利用出来る80年代風のスニーカーを、ユーザー達はAR機能で試し履きをし、オリジナルデザインの追加や、SNSでの共有などを行い楽しんでいます。
今回取り上げた事例から読み取れるポイントは、単に人気ゲームとコラボレーションをすればいいということではなく、ゲームを通じてデジタル上でユーザーとの新たなコミュニケーションを築くという点が重要だといえます。例えば「グッチスニーカーガレージ」の例では、ユーザーに対してブランドと共に商品を作っていくという体験を提供することで、ユーザーのブランドに対する愛着を促進する期待ができると同時に、SNS共有によるUGC(User-generated-content)としてのプロモーション効果も得ることができます。
当面リモートワークや外出の自粛が続き、実際に着用する服はリラックスできるカジュアルウェアが中心となっていますが、多くの人々が仮想ライフの中でコミュニケーションを楽しんでいます。現実には存在しないスニーカーやアイテムにユーザーが希少価値を見出して所有し、一方で、バーチャル上の商品が現実の世界で製品化されるなど、「アグレット」のように現実の世界と仮想世界がシームレス化したファッションビジネスが今後も注目されていくでしょう。今後ブランドは、商品開発の一環に、従来のマーケットリサーチだけではなく、ゲームやバーチャルを通じてユーザーとともにヒット商品を誕生させるというモデルの導入を検討していく必要性があるのではないでしょうか。