PICK UP

2020.12.23

アメリカの人気度調査でルルレモン、ナイキを抜いた アメリカで人気大爆発!中国発ファストファッションSHEIN

アパレルウェブ「AIR VOL.42」(2020年12月発刊)より一部の内容を抜粋して転載しております。

Written by HIRAYAMA SACHIE

SHEINの公式ECサイトより

 アメリカの投資銀行パイパー・サンドラーは、消費の変化をすばやくキャッチするために、次の消費を担うティーンエイジャーの消費マインドや行動を年に2回調査しています。2020年10月に発表された「好きなECサイト」ランキングは、数多くのメディアの注目を集めました。1位のアマゾンに次ぎ、3期連続で2位だったナイキを抜いて、一般のアメリカ人にはなじみのないブランド、SHEIN(シェイン)の名があったからです。実はこのシェイン、アメリカのブランドでも、ヨーロッパのブランドでもない中国発のファストファッションブランドなのです。中国発のブランドがどのようにしてアメリカで、ここまでの人気を集めることができたのか?その要因に迫りました。

毎日新しいスタイル1,000点を投入

アメリカのティーンエイジャーが好きなECサイト(ブランド)

出所:パイパーサンドラー社「Taking Stock With Teens」2020年10月、全米ティーンエイジャー9,800人を調査
支持率の小数点第1位以下は省略

 シェインは中国南京市に本社を置く中国系のファストファッションECです。2008年に創業した同社のことは最近まであまり知られていませんでしたが、2020年11月時点で世界220の国および地区において衣料品や化粧品をECで製造販売するほどの成長を遂げています。サウス・チャイナ・モーニング・ポストによると同社の2019年売上高は28億3,000万ドルで、「誰でもファッションの美を楽しむことができる」を社是に、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、中近東を中心とした若い女性をターゲットにトレンドのファッションを圧倒的な低価格で世界中の消費者に直接販売するD2Cモデルです。商品カテゴリは、レディース、プラスサイズ、メンズ、キッズ、ビューティなど多岐に及び「毎日新しいスタイル1,000点を投入する」がキャッチフレーズとなっています。

 

 同社がD2Cモデルに転換したのは2014年で、SHEINというブランドを立ち上げ、自社ECとアプリでの営業を開始。2019年には世界200以上の国および地区をカバーし、1日の出荷量は300万点を超えました。中国には10,000㎡の倉庫がありますが、オーダー後は商品によって中国、ニューヨーク、カリフォルニア州などから出荷されており、中国出荷だと2~4週間はかかるが、アメリカ国内からだとすぐに配送されるとのことで、提携工場が中国以外にもあり、そこから直接出荷しているようです。

国によって販促や品揃えを徹底的にローカライズ

国により、異なる割引率と秋冬コレクションカテゴリーページ画面の品ぞろえ
左:アメリカ、中央:イギリス、右:フランス

 シェインは主要国向けにそれぞれECを持っており、言語表示や価格をローカライズするだけでなく、サイトの編集や販促、品揃えも国ごとに若干変えています。アメリカ・イギリス・フランスのサイトで比較をしてみましょう。感謝祭前のブラックフライデー商戦では最大80%オフは共通していますが、追加割引として、アメリカでは「オーダー49ドル以上15%オフ、89ドル以上20%オフ、149ドル以上30%オフ」と値引率を大きくしていますが、イギリスでは「45ユーロ以上15%オフ、80ユーロ以上20%オフ」のみの値引率で、フランスは「対象製品全て10%オフ、69ユーロ以上15%オフ、99ユーロ以上20%オフ」と値引率が小さくなっています。

 

 また、アメリカとフランスでは他に1点買えばもう1点は99%オフなどのバンドルセール(まとめ売り)も行っていますが、イギリスでは無料ギフトを進呈しています。品揃えでも秋冬物コレクションページを比べると、アメリカ(写真左)はよりカジュアルなデニムファッションがトップにきていますが、イギリス(写真中央)ではドレスやフェミニンなシャツが、フランス(写真右)ではニットを中心によりデザイン性の高いカジュアルファッションがトップに表示されます。

 

 中国系ファッションD2Cというと、Fashion Nova(ファッションノヴァ)、Missguided(ミスガイデッド)が有名ですが、それらのブランドに対してシェインは最近まで静かな存在でした。メディアのザ・ファッション・ローは、シェインについて、「ただ服を安く売るブランドとして知られていて、ライフスタイルブランドとしての訴求をしてこなかった」と分析しています。しかし、シェインもセレブや著名なインフルエ ンサーを登用してのマーケティングに投資するようになり、これによって短期間にティーンエイジャーへの売上拡大を果たしたようです。Instagramには現在1,540万人のフォロワーがいて、他にもYouTubeやTikTokにも投資をしています。インフルエンサーには投稿に対して毎月無料で製品を提供するほか、直接売上増加に貢献したインフルエンサーには通常より高い10~20%のコミッション料を支払っています。またオンラインを通じて世界中でブランド知名度を高めるため、今年は、世界保健機関、ユニセフ、コロナ感染拡大と戦う団体による新型コロナウィルス感染症連帯対応基金への募金をするヴァーチャルフェスティバルを開催しました。

セレブや著名なインフルエンサーを登用してのマーケティングに投資

 歌手のケイティ・ペリー、ラッパーのリル・ナズ・Xほか、女優、ダンサー、TVパーソナリティなどのセレブリティが集まり、4時間にわたって世界中にライブ配信されたこのイベントは、単に開催するだけでなく、10万ドルの寄付も行いました。また、コロナの影響で延期になりましたが、ファッションD2CでIPOを果たしたREVOLVE(リヴォルヴ)も力を入れているコーチェラ・アート&ミュージックフェスティバルの開催も予定していました。しかし、同社も順風満帆でここまで来たわけではありません。2018年にはハッキングによる被害で顧客データ642万件分が流出し、メディアの前に滅多に現れないクリス・スー氏が謝罪するという事件が発生。

 

 今年7月にはイスラム教徒の礼拝用絨毯に似たラグにモスクのような柄をつけた商品を販売しInstagram上で炎上、その1週間後にはナチ党の鉄十字に酷似したペンダントが問題となり、ボイコットの呼びかけも出る中、「今後一切宗教に関わる製品は販売しない」と謝罪しています。一方で、これらのスキャンダルで初めてブランド名を知った人も少なくなかったとのこと。冒頭の調査結果の通り、まだまだ勢いを増している様子です。

デザインから出荷まで3日!?勢いを支える脅威のロジスティクス

 小売流通メディア、リテール・ワイヤーのマネージングディレクターのトム・ライアン氏によると、同社の強みは、①競合他社より十分安い価格による「買いやすさ」、②XLから4XLという大きいサイズが全体の37.2%を占めており「インクルーシブ(包括的)である」、③毎日1,000点の新商品を提供する「新しさ」、④インフルエンサーによる「オンライン大使の存在」だと分析しています。また、ロイターの取材によると、同社のデザインから出荷までの日数は3日間で、ザラの親会社、インディテックスの3週間よりずっと短いとのこと。これらの点から、ザラのような既存のファストファッションに対しても強い競争力を持つと考えられます。ただし、商品のクオリティについては「値段相当でしかない」「生地が非常に薄い」という消費者の評価もあります。またティーンエイジャーやミレニアル世代はサステナビリティ意識が高く、安いファッションを大量消費することへの反発もあるので、今の人気に支えられた成長がいつまで続くのかという問題は残ります。とはいえ、無店舗で中国本社から世界中にECで直接販売するビジネスモデルは、特にロジスティクスとマーケティングの面が注目され、今後あらゆる面で日本でも話題になっていくブランドではないでしょうか。

 

出典:
Retail Wire, ‘Has Shein reinvented teene-tailing’, 2020年10月19日
WWD, ‘Katy Perry, Lil Nas X., Rita Ora to Perform at Shein’s Virtual Concert’, 2020年5月4日
Reuters, ‘China’s turbo-charged online fashion takes on Zara and H&M’, 2020年10月15日

このコンテンツは弊社の会員誌「アパレルウェブイノベーションレポート」の42号から転載しております。

 

会員専用ログインページはこちら

 

AIRの詳細、バックナンバーはこちら

 


AIR(APPARELWEB INNOVATION REPORT)

 

新しいデジタルファッションマーケティングを考えるうえで必ず必要とされる知識や、海外事例、独自のECデータ分析などを盛り込んだ、AIL(APPARELWEB INNOVATION LAB.)会員様向け月刊誌です。

メールマガジン登録