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2020.12.22

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.70】ヘルシーでエイジレス、夢と現実が同居~2021年春夏ファッションの6大トレンド~

 リアルのファッションショーを見合わせるブランドが相次ぎ、過去にない困難と向き合った2021年春夏シーズンのモード界。しかし、逆風に立ち向かうかのように、クリエーションには楽観が注ぎ込まれた。同時に、凜々しさが押し出され、コロナ禍を乗り越えるパワーを、装いに打ち出した。若々しいムードや、ソーシャルグッドへの共感が盛り込まれ、ファッションの意味をあらためて問い直す節目ともなっている。

◆ホープ・アンド・ネイチャー(Hope and Nature)

 現実が陰りを帯びると、モードは逆に希望やハッピー感を強める傾向がある。「9.11」の後もそうだったように。コロナ禍に襲われた世界に向けて、クリエイターたちが打ち出したのは、ポジティブな装い。平和や華やぎを象徴するフラワーモチーフは21年春夏の合い言葉に。生命力を宿したオレンジやグリーン、レッドのビビッドカラーも装いにパワーをもたらす。

 

 実際には訪れにくくなったリゾート地や海山にまつわるウエアも目立つ。せめて服でだけでも現実逃避するかのように、大自然のイメージが写し込まれた。麻やコットンなどの天然素材を用いて、ナチュラルなムードをまとうクリエーションも相次いだ。マリンルックのセーラー襟も浮上。スピリチュアル(霊的)な力を感じさせるメタリックやシャイニー素材も多用されている。

◆ユースヘルシー(Youth Healthy)

 ファッションが若返ったのは、21年春夏の際立った変化だ。ラグジュアリー感や上品テイストは保ちながらも、Z世代の取り込みを進めた。しかし、子どもっぽくシフトしたわけではなく、大人に若々しい装いを誘いかけたエイジレスの提案に新味がある。ショート丈ジャケットやショートパンツなどで、健康的でコケティッシュな雰囲気を呼び込んだ。

 

 キーテイストは「ヘルシー」。コロナ禍をはねのけるかのように、健やかムードが押し出された。オフショルダーやベアバックでの肌露出はアイコニックな演出。フィッシュネットも投入されている。ストリートはアウトドアにスイッチ。デニムやスポーツサンダルでフレッシュな印象を濃くした。オーバーサイズを生かしたジェンダーフリュイド志向が強まり、ライトアウターやシアーアイテムを重ねる軽やかなレイヤードが勢いづく。

 

◆ドレス・アットホーム(Dress at Home)

 家ごもりがさらに長引きそうな状況を受けて、アットホームのおしゃれが提案された。楽観とロマンティックを兼ね備えた「ホームドレス(家用ワンピース)」が象徴的アイテム。ラウンジウエア、ワンマイル・2マイル服としても着やすいリラクシングな装いが台頭。エプロンドレスやチュニック、ニット・セットアップなどがコージー(居心地のよい)な「ステイホーム」に誘う。

 

 ノスタルジックな雰囲気が癒やしをもたらす。ボヘミアンなコットンワンピース、肩周りを彩るケープレット、ロマンティックな大襟、のどかなパジャマ風セットアップなどが落ち着きを漂わせる。パステルやパウダーカラーも気持ちをほどくかのよう。ヘッドスカーフは顔周りに温かみを添える。ジャージー素材やカフタンの優しげムードはおうちライフに穏やか気分を招き入れる。

◆ミニ・マックス(Mini-Max)

 過剰なデコラティブは避けながらも、クチュール感を眠らせないという、ひねりのあるミニマルファッションが盛り上がる。キーイメージは「どこか違う」。シンプルなシルエットを保ちつつ、こだわりや遊びをマックス(最大限)に忍び込ませた重層的なアレンジだ。襟や袖だけを極端にデフォルメ(誇張)したディテールはその一例。清らかで流麗なたたずまいに、シースルーやカットアウトなどのプレイフルを仕掛ける「硬軟ハイブリッド」が表情を深くする。

 

 有力ブランドはクラフツマンシップ(職人技)を注ぎ込んだ。ミニマルな基本形に、刺繍やクロシェ(かぎ針編み)で特別な手仕事感を添えている。透けるレースやオーガンジーからは静かなセンシュアル(官能美)が醸し出される。スポーツエレガンスを薫らせるノンシャランとしたジャンプスーツもわかりやすい例。スパンコールやサテン、レザーなどの素材もつやめきをプラスする。

◆ソーシャルグッド・アクション(Social Good Action)

 サスティナビリティーの「先」や「上」とも言えそうな「社会的な善」を応援する意識がファッションにも広がってきた。エシカルやエコなどを包み込むような大きな概念。多様性(ダイバーシティー)やフェミニズムなども視野に入れたメッセージを、装いの根っこに据える試みだ。デザインを使い捨てにしないタイムレスの流れにも通じる。感染症の拡大を防ぐマスクと服のセットコーデはソーシャルグッドの一例と言える。

 

 リサイクルやアップサイクルといった素材面にとどまらず、服でポジティブな意志を表現する「ステートメント」が広がる。生き物を犠牲にしない「ビーガン」系のマテリアルを選んだり、メッセージロゴを入れたり。LGBTQ+への共感を示すレインボーカラーはポジティブ感も添える。文化の多様性に連帯するカルチャーミックス、エッセンシャルワーカーを支援するチャリティーなどが一段の広がりを見せる。家族や仲間との絆を確かめるファッション表現も提案されている。

◆アイム・プラウド(I’m Proud)

 誰かにもたれかからないインディペンデントな女性像が共感やリスペクトを集める。カマラ・ハリス氏に代表されるような、強さとしなやかさを併せ持つモダンレディーがロールモデルに。スーツにスニーカーやフラットシューズで合わせるような、型にはまらないジェンダーニュートラルの着こなしがその人らしさを印象づける。

 

 80・90年代流の「パワーウーマン」を、気負わないテイストにリスタイル。体の輪郭を拾いすぎない、エフォートレスなシルエットが軸に。上下おそろいのセットアップや3ピースはオンとオフを自在に行き来しやすい。軽やかシルエットの羽織り物や肩の力を抜いたオールインワンなども多い。芯の強さを服で表現しつつ、アクティブ感やプロテクション意識をまとう装いだ。

 

 

 着て行く場面が減少したことを受けたこともあり、モードはリアルクローズに振れた。継続トレンドのコンフォート(着心地重視)やジェンダーレスなどが「ウエアラブル(着られる)服」へのシフトを後押し。ただ、単なるイージーに移ったのではなく、withコロナが引き出した「意味のあるファッション」という新たなうねりを、それぞれが受け止めて、「着たくなる服」へと昇華している。コロナ禍がファッションの可能性を広げるきっかけにもなった格好で、今後は日常に寄り添う新モードのさらなる盛り上がりが期待される。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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