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2020.12.18

中国の「ライブコマース村」の崩壊から得る教訓 技術の加速に伴うコンテンツの同質化問題

アパレルウェブ「AIR VOL.41」(2020年11月発刊)より一部の内容を抜粋して転載しております。

「ライブコマース村」の入口にある看板は、「中国ライブコマース市場の基地」とアピールしている

 10月下旬「独身の日」商戦向けの先行予約販売が開始しました。予約販売の初日、アリババのライブコマース「タオバオライブ」で活躍する有名ライバー(ライブコマースの配信者)が、わずか数時間で約1,000億円を売り上げ、現地でも大きなニュースとなっています。

 

 ライバーはサービスが生まれた当初、都市部に住んでいる人が中心でしたが、物流の発達や技術の進化により、最近は農村部など、その他の地域でも気軽にスタートすることができます。気軽にスタートができるため、人気の副業・起業の試金石・富への近道というイメージが地域問わず人々の間に定着、結果一攫千金を夢見て、ライバーが大量に発生する事態となっています。その結果、中国のライブコマースは競争が激化、類似するコンテンツが大量に発生しています。今回はその過程を紹介しつつ、ファッション企業がコンテンツを配信する上で意識すべき点について考えます。

中国のライブコマース村では月間で約3,000万円売る配信者も

「ライブコマース村」にあるライブコマースビジネスに利用されているマンション

 中国でのライブコマースの歴史を振り返ると、2016年頃から徐々に普及していき、ライブコマースビジネスを始める人が浙江省(せっこうしょう)のとある村に集まるようになりました。人々がこの村に集まる理由は、家賃が安いことに加え、村の周辺に様々な工場が点在し、商品が調達しやすい、物流コストが抑えられるといったメリットがあるからです。

 

 当時は約40軒のマンションが並び、マンションの一室をスタジオとして利用し、数十名のライバーが配信を行っていました。その後、2018年には「抖音(ドウイン=TikTok)」を 使ったライブコマースで、約2,000人のファンを集めて、月平均約200万人民元(約3,000万円)の売上を作る男性のライバーも出現して、話題になりました。彼のライブコマースで最も売上に繋がった商品は、100人民元(約1,500円)以下の生活雑貨で、近くの工場で生産されたものでした。この村の近くには、商品供給に特化した工場が多く、近隣の工場で商品の生産を統一、 生産コストの削減を図ることで、他の地域の工場と比較して約30~40%安価に仕入れることが可能となります。その結果、利益率が高いビジネスとなっています。このライブコマース村、2020年になると、約5,000人のライバーを含め、関係者が約20,000人にまで増加しました。しかし、規模が大きくなるにつれ、2019年頃から様々な問題が浮き彫りになってきます。

ライブコマース村のブーム崩壊は、無人コンビニブーム崩壊と同じ流れ

現地テレビのドキュメンタリー番組より配信者の中には、路上でそのままライブコマースを配信する人が増えている

 2019年頃から徐々に浮き彫りになった問題。それは“ライバーが取り扱う商品の同質化”、“価格競争の激化”、“新規ファン獲得のための広告コストの肥大化”、“家賃の急激な高騰”です。これらの要因が重なり、ライバーは採算が合わなくなり、ライブコマースジネスから撤退する人も発生、ライブコマースの勢いに陰りがでてきます。さらに、2020年の新型コロナウイルスが追い打ちをかけます。職を失った多くの人が転機を求めて村にやってきたのです。浮き彫りになりつつある問題を知らず、一攫千金を狙う人たちがライブコマースビジネスに参入することで、近隣の工場がパンクしました。

 

 ライバーが発注する商品の開発・生産スピードが到底追いつかなかったのです。その結果、どこかで見たことのある類似商品が市場に出回り、多くのライバーが類似する商品を売る状況となりました。取り扱う商品で差別化することが難しいこの状況は、すでに多くのファンを抱える古参のライバーに有利に働き、新しくライブコマースを始めたライバーは多くの在庫を抱えてしまうケースが頻出したのです。こうした、商品の同質化が決定打となり、2020年の9月時点ではマンションの入居率は全盛期の4分の1まで減少。ライブコマース村のバブルは終焉を向かえました。

ドウインの公式サイトより

 ライブコマース村崩壊の原因である商品やコンテンツの同質化は、ドウインが提供する15秒の短編動画のプラットフォームでも発生しています。15秒という短い時間の動画は気軽に見れる反面、視聴者側はじっくりと商品を知ることができません。また、配信者側も短い時間では、配信内容がどうしても似たような配信になりがちです。その結果、配信内容の模倣や同質化が多発し、視聴者側も商品の詳細までを把握することが難しいので、サービスから離脱する現象が起こったので す。こうした背景から、ドウインは先行して国内向けに30分間の動画が撮影できる「中尺動画」の機能を発表しました。

 

 また、この「中尺動画」を動画コンテンツの軸に据え、ライブコマースの質を高めるための支援を惜しみなくすることも同時に発表しています。今後1年間で約300億円の投資を予定しており、質の高い商品紹介動画、ブランドストーリーを伝える動画の制作を支援するとともに、メディアへの露出など、ライバー自身のブランディングにも関わっていきます。

コンテンツの同質化は無人コンビニライブコマースの問題だけじゃない!

数ヶ月で倒産した無人コンビニの「BingoBox」

 今回、ライブコマース村で起こった一連の流れは、過去に取り上げた無人コンビニブーム崩壊の流れと非常に似ています。無人コンビニもライブコマースと同じく、小売市場にとって新しい技術、新しい販売手段でした。また、両方とも簡単にスタートできるという点も事業者にとって魅力的な点でした。例え ば、無人コンビニの場合は“コンテナ型無人コンビニ”のようにすでに製造されていた古いコンテナを改造し、WeChatの決済アカウントがあればスタートすることができます。費用も初期費用は数万円~十数万円で済みます。しかし“コンテナ型無人コンビニ”もあちこちで普及が進み、競争が激化することでブー ムが崩壊しました。

 

 

 無人コンビニもライブコマースも、簡単に始められますがそこに落とし穴があります。実際には早期参入者のみが先行者利益を得て成功しており、後発組のほとんどが、商品の同質化や価格競争といった面で淘汰されていきます。コンテナ型無人コンビニの場合も、コンテナの大きさは決まっており、取り扱う商品にもバリエーションを持たせることができません。その結果、競合との差別化に苦しみ、価格競争に巻き込まれて負けてしまうケースが多かったのです。

 

 いずれの事業においても、小規模ビジネスは淘汰され、最終的にアリババやJD.comなど大手プラットフォームが展開する無人コンビニやタオバオライブなど大手ライブコマースで活躍する専属のライバーが勝ち残っているのが現状です。ライブコマースも無人コンビニもあくまで販売の手段に過ぎません。2つのブーム崩壊から見えてくることは、テクノロジーだけ先行しても、商品やコンテンツが追いつかず同質化を招き、結果として価格競争による敗者が頻出している点です。

 

 

 同質化するコンテンツの問題は、中国に限った話ではありません。ライブ配信サービスに限定しても、SNSやYouTubeなど色々なプラットフォームが登場しており、日本でもスマートフォンさえあれば、誰でも情報を発信して、ビジネスをすることができるのが今の時代です。実際にYoutubeで動画を投稿、生計を立てているユーチューバーやInstagramで大きな影響をもつインスタグラマーも増えています。しかし、これらのプラットフォームでも、数が多すぎるため、コンテンツで差別化することは年々難しくなっています。

変化のスピードが速い今“とりあえずやってみる”がより重要!

相次いで登場する様々なライブ配信サービス

 それでは、すでに流行しているプラットフォームで勝者になっていくにはどうすればいいのでしょうか。先行者利益が失われて、ライバルも多く難しい状況ではありますが、ファッション企業の場合は、何より商品の差別化、魅力や特徴をもう一度考えることが重要です。次にその商品を進める”人”の意味付けも重要な差別化ポイントです。なぜその人が、その商品を進めるのか。こういった意味付けはユーザーの目も厳しくなりますし、同時に差別化につながります。そういった意味では店舗スタッフがユーザー目線でそういった想いを語ることは、企業側でも、ユーザー側でもないちょうどいいバランスになるのかもしれません。そのためにはプラットフォームで活躍しているスタッフをしっかりと評価するなど環境づくりも重要となります。

 

 

 しかし、これ以上に大切な意識として「新しいプラットフォームが出現したらまず試してみる」というのが重要ではないでしょうか。つまり、先行者利益を意識して動くということです。中国のライブコマース事例でも、古参のライバーに有利な状況にあるとありましたが、類 似するコンテンツや商品を売るのであれば、鍵となるのは訴求力です。つまり、フォロワー数の多さが大きなポイントになってきます。当然、ライバルは多いより少ない環境で、自分(自社)の存在をアピールする方が多くのユーザーに存在をアピールすることができるので、そのプラットフォームで、フォロワー数を多く集めるにはどれだけ早くスタートできるか?というのも重要な要素になってきます。

 

 もちろん、周りの状況を見て慎重に動きたい、自社の準備が整ってから万全な状態で使いたい、という姿勢も必要ですが、日々社会が、そして市場が変化する今、一番に優先する意識はスピード感ではないでしょうか。極端に言ってしまうと「○○というプラットフォームで、あのレディースブランドが認知拡大しらしいよ!」という事例や話が世に出回っているタイミングではすで に先行者利益が失われつつあるのです。好奇心が大きな武器となり、情報が生き残る社会が今なのです。集めた情報をもとに“とりあえずやってみよう”と勇気を出して、実行に移せるかどうかが、そのプラットフォームで勝者になれるかどうかの違いではないでしょうか。

このコンテンツは弊社の会員誌「アパレルウェブイノベーションレポート」の41号から転載しております。

 

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