PICK UP
2020.12.10
進化する米国・英国のDX事情~ ミクロフルフィルメントセンターの活用と再配送を防止するデジタルサービスとは
※この記事はアパレルウェブ「AIR VOL.40」(2020年10月発刊)の内容を再編集して掲載しております。
各業界が注目するDX(デジタルトランスフォーメーション)。中でも小売業界や物流業界が率先して様々な新しい取り組みを実践しています。今回は米国と英国の事例を中心に紹介します。米国ではノードストローム、アマゾンなどの大手企業が次々と店舗をフルフィルメントセンターとして活用するケースが増えています。英国では、再配達防止の取り組みの一環として新しいデジタルサービスが登場。それらの仕組みについて詳しく解説していきます。
米国では店舗がミクロフルフィルメントセンターに!
リーバイス、ノードストロームの挑戦
「アマゾン・フレッシュ(amazon fresh)」の公式サイトより
スーパーマーケット業界ではオンライングローサリー拡大のため、店舗に小型フルフィルメントセンター(以後、FC)を併設する動きが始まっています。ミクロFCでは商品集荷ロボットを導入することで、人が集荷する従来の方法の6~10倍の速さで集荷をすることが可能となります。ウォルマート、アルバートソンズ、アマゾン他大手企業は、自動ミクロFC開発企業と次々と組みテスト操業を行っています。大型のセントラルFCに比べてミクロFCは顧客に近いため、①配送時間の短縮、②配送費削減の効果が得られ、自動ミクロFCではこれらの効果がさらに高まります。加えて、ファッション業界では避けて通れない返品についても、③商品回収時間が短縮されるため、再販までの時間が短縮されるといった効果が得られます。
ノードストローム、カリフォルニア州ニューアークの自動化フルフィルメントセンターの様子(左)
同施設内で作業をする従業員(右)
ファッション業界では、リーバイスが店舗のミクロFC化を先行しており、今年5月の段階で全米200店舗においてオンラインオーダーの3分の1の出荷が行われました。ただし同社はまだ自動化には取り組んでいません。一方、ノードストロームはコロナ禍で店舗閉鎖中、オンラインオーダーの半数以上を店舗から出荷しました。また同社は昨年12月、カリフォルニア州ニューアークにある倉庫をアッタボティクス社、トンプキンス・ロボティクス社と共に自動化し、サンノゼ地区より迅速に出荷するテストを行っています。ここでは化粧品のオンラインオーダーおよび近隣店舗への商品供給を行い、成果を得られるようであれば今後は他の8か所の倉庫も自動化します。まだ店舗併設ではありませんが、この成果が今後の店舗ミクロFC化戦略につながる可能性を秘めています。
英国の配送業者エルメスは再配送を防止するデジタルサービスを提供!
英国の商品配達事情における課題を解決!
3m x 3mの正方形で配達場所を指定する「What3Words」
「What3Words」のアプリより
住所の代わりに3つのワードが正方形の場所指定となる
英国など欧州の国々では、荷物の配達で発生する問題として「住所は正しいけれどドアが建物に複数あり、配達すべき正しいドアが分からない」や「建物が大きく、住所だけでは配達場所の指定として不十分」などがあり、ドライバーを困らせるケースがあります。特に英国を含む欧州では表札のない家が一般的で、その場合、ストリート名と番地だけを頼りに配達せざるをえません。そこで多数の英国ECサイトの商品配達を請け負う業者「Hermes(エルメス)」は、新しい配達指定サービスのスタートに踏み切りました。
※Hermes(ハーメス)と呼ばれる場合もある
例えば、ロンドンのビッグベン時計台の中心の3ワードは「lease,goad,paused」
英国の配送業者エルメスが打ち出した新配達指定サービスは「What3Words」と呼ばれるサービスで、受け取り側は住所ではなくアプリの地図上で3m x 3mの正方形の場所を受け取り指定場所として選択できます。What3Words自体は元々存在する外部アプリで、住所よりも的確に場所を指定する役割が支持されている地図アプリです。What3Wordsでは、世界を57兆個の3m x 3m正方形に分割し、地図上に3m x 3mのグリッドを表示します。この地図をもとに自分が受け取りをしたいグリッドを選択することで住所よりも正確に商品の受け取り場所を指定するというしくみです。これを利用することで、配達をして欲しい建物の入り口をより正確に指定し、また、置き配として自宅裏の庭を指定することなども可能です。このWhat3Wordsの場所指定は、オンラインで購入した商品の配送業者がエルメスである場合に利用できます。これまで住所だけでは配達場所がわかりにくかった家や建物への配達精度を高めることが期待できそうです。エルメスは英国だけでも、毎年4憶件以上の配送業務をこなしており、大手ECサイトの配送会社としても利用されています。
DXから生まれた店舗の新しい役割
今回取り上げた米国・英国のDX事例の共通点として、テクノロジーを活用し小売店舗や配達現場での無駄な時間やコストをカットすることで、さらなる効率化に繋がるメリットがあります。特に米国においては、依然新型コロナウイルスの感染状況が厳しく、リアル店舗の機能が正常に発揮できていない中で、ミクロフルフィルメントセンターとしての店舗活用は、オンラインオーダー出荷の効率を向上する新たな施策として注目されています。これまでの店舗の物販機能や商品・サービスの体験の場という役割に加え、配送拠点としての機能が加わることで、店舗がECの購買体験をさらに向上させる役割を担っていく期待ができるのではないでしょうか。今回取り上げた内容をヒントに、これからの店舗の役割について今一度見直してみてはいかがでしょうか。