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2020.12.02

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.69】「着るよろこび」を前面に 逆風に立ち向かうファッションパワー 2021年春夏東京コレクション

左から:リンシュウ、シュープ、リコール

 コロナ禍の直撃を受け、大半のショーがデジタルを選ぶ中、クリエイターは装う意味やよろこびをポジティブに謳い上げた。フィジカル(実際に来場者を招く形式)のショーはメンズが多かったが、メンズとウィメンズを合同で見せるジェンダーレスな提案が主流に。多様性の主張も強まった。気持ちを穏やかに整えたり、逆に華やかに盛り上げたりといった「ファッションパワー」を押し出しつつ、身を守ったり、ポリシーを語らせたりという「おしゃれ」の多面的な意義を印象づけていた。

◆ハレ(HARE)

 意外感の高いモデル起用でウィットを示したのは「ハレ(HARE)」。メンズもウィメンズもすべてのルックで左右に2人のモデルを並べ、服も似た印象のいわゆる「リンクコーデ」を披露した。ロングスカートやライダースジャケットなど、キーピースは共通させているが、黒と白のように色を大胆にずらして、互いを引き立て合う構図を組み上げている。全くのおそろいではなく、「表と裏」「陰と陽」のようなコンビネーションがかえって絆を醸し出す。

 

 シルエットはボディラインをぼかして、ジェンダーレスなたたずまい。量感がたっぷりしたレイヤードルックがリラックス気分を帯びている。サテン系つやめき素材や透けるオーガンジーをミックス。パステルトーンやネオンカラーを使い、軽やかでポジティブなスタイリングを提案。伸びやかで気負わない雰囲気は、ステイホームでもアウトドアで着やすそうだ。

◆パーミニット(PERMINUTE)

 ストリートカルチャーと縁が深い「宮下パーク(MIYASHITA PARK)」でのショーにふさわしく、ストリートとエレガンスをひねり合わせた。中世宮廷の貴婦人を思わせるようなパフスリーブやコルセット、ビスチェ、バッスルなどをモダンにアレンジ。ワンピースやスカートの装いに組み込んだ。ウエストポーチやバックパックを「着る」感覚でオン。ドレスフォルムにアウトドア感を持ち込んだ。

 

 クチュールライクなドレスづくりと、ストリートワイズなガジェット使いをクロスオーバーさせている。オフショルダーでセンシュアルなムードも演出。ブラトップにジャケットを重ねるずらしも披露。クラシックなムードの装いに添えた、実用的なバッグ類とのずれ加減がかえって新鮮なバランスを生んだ。エレガンスとストリートの交差は今の気分を反映していた。

◆リコール(Re:quaL≡)

 コロナ禍をものともしないアートピースとも映るような独創的なクリエーションは、ファッションの「ワクワク感」をあらためて感じさせた。ノートをバサッと振ると、ライトアウターに変身するギミックにはサプライズが潜む。モデルもデザインも多様性に富み、ノージェンダー、ノーボーダー、ノーフューチャーの挑発性が力強さを感じる。

 

 布をたっぷり使った、入り組んだレイヤードは砂漠の民を連想させる。スーパーサイズの量感をこしらえながらも、あちこちに入ったスリットが、重たさをそいでいる。着物やぼろにも通じる「崩し十二単」のような装いはアジアっぽく土臭い。たくさんのスカーフをまとったようなハンカチーフヘムのワンピースは動きに富む。服とバッグを融け合わせたり、絵を描く際にキャンバスを乗せるイーゼルを背負ったりと、アートを思わせるシュールな遊びも仕掛けた。

◆イン(IHNN)

 淡いピンクのベアショルダー・ロングワンピースで始まり、同じ細ストライプ生地のパンツ・セットアップなどを打ち出し、エフォートレスなムードのコレクション。しなやかな落ち感を帯びたワンピースやセットアップを軸に据えた。ロング丈シャツを組み込んだイレギュラーなスリーピースなどで優美なシルエットを演出。デイリーに着やすいウエアでありながら、素材やディテールで趣を加えている。

 

 パジャマ風なオールインワンや、ドローストリングス付きのリラクシングなウエアを用意した。デニムのワンピースやパンツ・セットアップは「普段着ドレッシー」のアイコン的アイテム。ステイホームでも気持ちを服で盛り上げたいウイズコロナ生活に迎えたくなる。オレンジと白をキーカラーに選んで、清らかさとポジティブ感をまとわせている。フィッシュネット状の肩掛けバッグがアクティブな気分を添えた。

◆ジン カトー(ZIN KATO)

 クラシックなエレガンスとリラクシングな雰囲気を響き合わせた。得意のレースやフリルなどをふんだんにあしらい、軽やかでエフォートレスな着映えに仕上げている。透かし見せや素肌見せを織り込んで、ロマンティックで涼しげなスタイリングに導く。デコルテ見せや腹見せなど、多彩な肌露出はみずみずしくヘルシー。ケープやグローブでレディーライクな気分を漂わせつつ、太ベルトでめりはりを添えた。

 

 ライトアウターとのセットアップを組んだり、ワンピースの下にパンツを重ねたりと、レイヤードに変化を見せた。ブラトップとショートパンツのコンビネーションや、ティアードやフリンジで起伏に抑揚をつけて着こなしにリズムを添えている。まとめ髪にたくさんのヘアピンをつけたアイキャッチーな演出はハッピーなムード。オールブラックから始まってオールホワイトで終わる構成がコレクションテーマの「再生」を象徴していた。

◆リンシュウ(RYNSHU)

 パリで発表を続けてきたが、東京コレクションの公式日程に参加する形でリアルのランウェイショーを開いた。八芳園の日本庭園をバックに、持ち味のロックテイストを漂わせたルックを並べ、ウイルスに負けないファッションパワーを押し出した。パイソン柄やメタリックラメなど、強いモチーフや色でエナジーを注入。メンズ・ウィメンズの統合ショー形式で、これまで以上にジェンダーレス感を濃くしている。

 

 角の取れたリアルクローズが世界的な主流となる中、主張を帯びた柄や色使いでアグレッシブな装いを打ち出した。きらめきや透け感を織り交ぜて、大人の色香を漂わせている。黒を主体にしながら、刺繍やレースなどで官能的なムードを呼び込んだ。テーラード風のブルゾン、タキシードライクな羽織り物など、多彩なクロスオーバーを試して、装う愉楽に誘った。

◆シュープ(SHOOP)

 公式スケジュールの最後を飾ったランウェイショーは、大木葉平氏とミリアン・サンス・フェルナンデス氏が手がける「シュープ(SHOOP)」が担った。6月のロンドン・ファッションウイークにも参加したデュオはディストピア感を下地にしつつ、希望や再生をにじませるコレクションを組み上げた。メッシュ状の透ける素材で顔周りを覆うフェースシールドは、身を守る「プロテクション感」を立ち込めさせている。

 

 ストリートやミリタリー、スポーツなどのテイストを都会的にアレンジ。マスクを装いに組み込んで、サバイバー感も醸し出している。つやめいたケミカル系素材が近未来ムードを帯びた。ウエストバッグや重ね巻きベルトで腰周りに力感を添えている。パンツの正面にはセンタープレス代わりにジップが走る。テーラードジャケットやフーディーを織り交ぜつつ、遊び心を宿したディテールを盛り込んだ。未来に向けてのかすかな希望や夢を秘めたコレクションだった。

 

 今回の東コレはファッションショーの位置づけを創り手側がとらえ直す機会になった。ショーの手法や形式が工夫されたのに加え、クリエーションそのものにもメッセージ性が強まるような変化がうかがえる。伝わりにくい状況に至ったからこそ、伝えたいことの熱量が増したとも映る。ショーを取り巻く難しい環境はこの先もしばらく続きそうなことから、デジタル、フィジカル、そして両者を組み合わせたフィジタルと、それぞれに思いや体温を高めた提案が見込まれる。着る側が服に求める役割も変化しつつあるだけに、服からパワーをもらえるようなクリエーションを次回以降も期待したい。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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