PICK UP

2020.10.22

アマゾンとウォルマートがアパレルに注力する理由とは

 McKinsey&Coによると、新型コロナウイルスの影響もあり、米国における今年の年間のアパレルビジネスは20~30%減少しており、更に来年は前年比10~25%の減少が予測されています。パンデミック以前からの傾向でもあった、新たなライフスタイルへの関心、価値観の異なる次世代の消費文化をさらに加速させる形となりました。

 

 米アマゾンでは、食料品とアパレルの二つのカテゴリーに注力する中で、PBの展開、サードパーティー企業の販売、男性向けのパーソナルショッピングサービスをスタートし、月額4.99ドルで好みのスタイルに合わせてパーソナライズされた服をキューレートするサービスを行っています。これは、STICH FIX等のサブスクリプションに類似しており、7日間の試着期間中は送料・返品送料がともに無料となっています。

 

 同社がアパレル展開に注力する中でなかなか着手できていなかったのが、高級ブランドの販売です。これまで、偽物商品を販売するサードパーティーの業者を特定し排除することが困難で、高級ブランドのもつイメージを保つ事が難しい場合もあることから、ブランド側の賛同が得られませんでした。そのような最中、9月に発表した「Luxury Store」では、同社のプライム会員限定として、オスカデラレンタのコレクションの販売をスタートしました。「LUXURY STORE」では、高級ブランドを取り扱う他の競合ECサイトとの差別化を図るため、専用モバイルアプリで「VIEW IN 360 TOOL」というバーチャル試着機能を設けています。「VIEW IN 360 TOOL」を利用することで、着用モデルの体型や肌のトーンを自身に近くなるように変えることができ、ユーザーは洋服のフィット感やドレープなどの着用感を360度見る事ができます。ユーザーにとって、実際に自分が着用するイメージを可能な限り見ることができる点は、非常にユニークで効果的と言えます。

 

 パンデミック以前より、デパートやモールの来客減少や新世代の消費行動の変化は、アパレルの売上に影響を及ぼしていました。加えて、コロナ禍におけるストア閉鎖や経営破綻が続く現在の状況においては、このサービスは販路を広げる為の施策として注目されています。アマゾンによる「Luxury Store」の発表のわずか1週間後、競合ウォルマートも、PBによるアパレル戦略を立ち上げました。

ウォルマート、サステナビリティを取り入れたアパレル「Free Assembly」をスタート!

「Free Assembly」売り場の様子

 米ウォルマートは、Jクルー、オールドネイビー、ボノボスで経験を積んだファッション小売業界のベテラン、Dwight Fenton(ドワイト・フェントン)主導による、アパレルの新PBブランド「Free Assembly(フリーアッセンブリー)」の立ち上げを発表しました。同社のコアとなる顧客層は低所得者層であることから、この新ブランドでは比較的、低価格帯の商品を展開しています。具体的には、9~45ドルの価格帯のベーシックアイテムを含み、既存の洋服に自由にミックスや組み合わせをしながらファッションが楽しめる男性・女性向けのモダンファッションブランドを目指しています。

 

 初のコレクションでは、レディース30型、メンズ25型を展開し、セーラスタイルのパンツや90年代風のハイウエストジーンズなど、ミレニアル世代のクールガールの定番ともなっているボヘミアンテイストやユーティリティインスパイアを取り入れたコレクションを発表しています。また、低価格帯では困難とされてきた、環境に優しいオーガニックコットンやリサイクルポリエステル素材を導入しており、最大22まで対応の幅広いサイズ展開も特徴となっています。現在は、ウォルマートの一部店舗で販売を開始し、今後は200店舗まで取り扱いを拡大すると発表しています。今後、同社がアパレルを強化していく中においては、VMDの向上、感染対策に配慮した試着室など店舗における工夫に加え、前述のアマゾンが導入したバーチャル試着といったデジタル施策の実施や展開に期待していきたいと思います。

Free Assembly (Walmart)の公式サイト

Walmartの公式サイより :ThredUpの商品

トレンドに敏感な若年層への様々な取り組み

 ウォルマートでは、ここ数年間、アパレル分野で様々な投資を重ねてきました。オンライン上では1000以上のブランドを追加し、最近では、ニューヨークの究極のクローゼットとしてかつて人気を博したセレクトショップ「SCOOP(スクープ)」を買収し復活させました。買収にともないスクープのニューロゴでは、”NYC”が除外されています。また、ウォルマートはこれまでも、「Shoebuy(シューバイ)」 、「Modcloth(モドクロス)」、「Bonobos(ボノボス)」などのオンライン企業の買収を通じて、顧客体験の改善、品揃えの大幅増加を行い、都会的で裕福な新規顧客を得ようと試みていますが、シューバイとモドクロスはその後売却、ボノボスは販売継続しているものの利益を得るまでには至っていないといった経緯もあります。

 

 そのような中、同社はオンラインに特化した再販サイトとして人気を集めている「ThredUP(スレッドアップ)」との提携を発表し、業界を驚かせました。同社のプレスリリースによると、ウォルマートの顧客は、スレッドアップが展開する75万点にも及ぶ、レディース、キッズ、アクセサリー、カバン、靴などの中古品を購入する事ができ、さらに、ウォルマートのその他の商品同様、購入金額35ドル以上で送料と返品が無料になると発表しました。これは、スレッドアップのストアには無いサービスの為、ウォルマートのオンラインストアへの誘導や、商品の同時購入といった効果が期待できます。スレッドアップでは、コーチ、ケートスペード、マイケルコースなどのハイブランドも展開しているため、これまでの様々な投資と比べると、客層のバジェットと要望にフィットしたプランだといえそうです。

ワンストップショッピングの利便性を狙う!

ターゲットのモバイルアプリに、カーブサイドピックアップなど新しい機能が追加されている

 コロナ禍で消費者は、店頭への来店をなるべく控えている傾向にあります。一方、オンライン購入やカーブサイドピックアップなどの利用が増えているとはいえ、食品購入に関しては、まだまだ店頭に足を運ぶ人は多い様に思います。そこで、感染リスクや店頭で並ぶ頻度を減らす為にも、ウォルマートやターゲットを利用することで、食品購入のついでに日用品やアパレル商品の購入を一度の来店で済ませる消費者は多いです。

 

 ターゲットでは、現在展開している41のPB商品のうち、19がアパレルとファッション雑貨となっており、それぞれのブランドに特徴のあるテイストとコンセプトを落とし込むことで、新規顧客の獲得に成功しています。同社の8月1日締めの第2四半期の既存店の売り上げは、前年比で24.3%増と記録的増加となった事が発表されました。客数は4.6%、客単価は18.8%と共に増加しており、前年同時期に20%減少したアパレルのカテゴリーでは二桁増の快挙となっています。成長の背景には様々な要因がありますが、食品を強化している点と、ワンストップでショッピングが可能となるストア形態は非常に強みがあるといえます。特に同社のモバイルアプリ「CIRCLE(サークル)」では、購入金額の1%キャッシュバック、セール品が一目でわかるストアマップ機能、デジタルクーポン、ショッピングリスト機能、カーブサイドピックアップ、同日配達といった様々なサービス特典を設けており、ユーザーから好評を集めています。また、アプリや自社クレジットカードの人気に加え、ここ数年では、全てのカテゴリーにおいて、商品ラインナップを充実させたことが消費者の支持を得た大きな理由ではないかと思います。ウォルマートの客層と比較すると、ターゲットでは、中級クラス以上の都会的なミレニアル層を狙ったスタイリッシュな商品構成が売り上げ増に繋がっているようです。

若年層を魅了するアパレル成長の課題

 ウォルマートが展開するアパレル商品のほとんどは、5~30ドルの価格帯が中心です。前述した新ブランド「フリーアッセンブル」は、既存のアパレル商品よりは若干高価格帯であり、かつファッション界のベテランを起用し環境に配慮したクールなデザインは、従来の商品とは段違いだと伝えられています。しかし、実際に店頭の商品を見てみると、既存の商品とほぼ変わらないディスプレイで魅力的というには程遠く、ターゲットと比較してもVMD面での改善が課題だといえます。一方、オンラインストアの改善やバーチャル試着などといった最新テクノロジーの導入や、同社がもつ4000店舗以上での販売展開の可能性を秘めていることは、今後のこのアパレル分野の成長が米国小売店の成長の鍵となるといえるかもしれません。

メールマガジン登録