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2020.10.29

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.68】希望に満ちた「新リアルクローズ」 2021年春夏ミラノ&パリコレクション

左から:ルイ・ヴィトン、ディオール、シャネル、エルメス

 2021年春夏のミラノ&パリコレクションは歴史的な変化を強いられた。コロナ禍のせいで、大半のショーはデジタルに置き換わった。しかし、そうした逆風にあらがうかのように、モードの風向きはむしろ楽観寄りに振れた。色と柄が匂い立ち、若々しさが息づいた。ロマンティックなムードやチアフルな気分が軸になり、着心地のよさげな装いが盛り上がった。

■パリコレクション

◆シャネル(CHANEL)

 「シャネル(CHANEL)」はこれまでより格段に軽快でチアフルな装いを打ち出した。ノンシャランとしたネオエレガンスが薫る。シグネチャーのツイード生地セットアップにはスリットが入り、ゆったりしたショルダーラインが気負わない雰囲気を印象づける。ショート丈のジャケットやショートパンツが軽やか。若々しい着映えのパンツ・セットアップが新たなパリシックを象徴。白、黒をベースにしながら、淡いピンクで愛らしさを添えている。

 

 ネオン広告風の「CHANEL」ロゴをダイナミックにプリント。ビッグロゴを全面にあしらい、1980年代気分を呼び込んだ。「5番」の香水にちなんだ、映画のカウントダウン表示ライクな「5」のモチーフも力強い。デニムパンツやバミューダ丈パンツに、クラシックな大襟やタキシードライクな細襟のジャケットを組み合わせ、ファニーなずれ感を引き出している。スーツに代表されるクラシックな装いにリゾート感やガーリーテイストを交わらせ、フレシュにモダナイズしていた。

◆ディオール(DIOR)

 ルーブル美術館に隣り合うチュイルリー公園に大型テントを張って特設会場を設け、「ディオール(DIOR)」はリアルのランウェイショーを開いた。ムードはエキゾチック。ショート丈トップスにショートパンツというセットアップの上から、ロングガウンを重ねた。ペイズリー柄やイカット織、タイダイなどを組み合わせて、オリエンタルな雰囲気を濃くしている。多くのモデルは髪をヘッドスカーフで束ね、フラットサンダルを履いて、アジアエスニック気分を漂わせた。

 

 装いの軸はシャツとパンツとジャケットというメンズライクな組み合わせだ。シャツをチュニックに、ジャケットをカシュクールにといったアレンジを加えて、リラクシングなコンフォートスタイリングに整えている。様々な服飾文化を響き合わせたカルチャーミックスでコラージュスーツを仕立てた。フローラル柄やシースルーでロマンティックな雰囲気を演出。性別や国籍の枠に収まらない、芯の強いノーブルボヘミアンのニュールックを描き出していた。

◆エルメス(HERMÈS)

 「エルメス(HERMÈS)」は強みを持つレザー素材をキーマテリアルに選んで、フレッシュなワントーンの装いを提案。細感を際立たせるストレートでヘルシーなシルエットを多用。両脇や背中で素肌を大胆に露出するカッティングを披露した。バンドゥー(チューブ)トップの上からジャケットを重ねるレイヤードは軽やかで涼やか。直線的なシルエットがクリーンな印象。ベージュ系やモノトーンのニュートラルカラーもミニマルでナチュラルなムードを漂わせる。

 

 ボディラインにフィットしたトップスがほのかにフェティッシュ。マニッシュなパンツ・セットアップにも肌見せを織り込んでいる。ミニボトムスとコートとの丈違いレイヤードが落ち感を引き出した。シンプルさとセンシュアル(官能的)を交わらせ、型にはまらない「NOノーマル」な装いを提案。爪先を覆ったクロッグサンダルが穏やかな足元を印象づけた。新しい解放感を帯びた、自由度の高いコレクションにまとまっている。

◆ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

 パリ公式スケジュールのフィナーレを飾った「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」はLVMHグループが再生を進めている複合施設「サマリテーヌ(LA SAMARITAINE)」で、性別を感じさせない「ジェンダーフリュイド」なルックを披露。複数のタックを入れたトラウザーズや、ダボッとさせたバギーパンツで脚線をぼかした。スケートスポーティーなグラフィティ(落書き)風プリントTシャツ、ポップなマルチカラーのステートメントTシャツはストリート感たっぷり。

 

 シルエットはオーバーサイズ気味で、男女に分けない「ノンバイナリー(non-binary)」の感覚を帯びている。ロング丈コートとミニ丈ワンピースの長短コンビネーションも性別をクロスオーバー。ドロップショルダーのセットアップやノーカラージャケットはスーツのイメージをしなやかに書き換える。花柄を躍らせたモノクロのパンツは、ジェンダーのニュートラルな雰囲気が漂う。コートドレスやニットベストなどクラシックアイテムをテイストミックス。若々しくエネルギッシュで、80年代気分が濃いポジティブなコレクションを送り出した。

■ミラノコレクション

◆プラダ(PRADA)

 ミウッチャ・プラダ氏とラフ・シモンズ氏が共同クリエティブディレクターを務める形でのファーストコレクションは、今回のミラノ最大の関心事となった。ファーストルックから繰り返し登場したのは、細身の90年代風パンツルック。新たな「プラダ」のユニフォームと位置づけるかのように、正面のネックライン下には、見慣れた逆三角形のブランドロゴを配置。白や黒といったベーシックカラーでミニマルなリアルクローズを打ち出した。

 

 ロングケープのようなライトアウターは、ボディーに巻き付けたうえで、ケープのように腕を出し、ショールのように正面で握って留める着方が斬新。トップスにはあちこちに穴がくり抜かれて、レイヤードルックを組み立てた。幾何学的なアートモチーフや「echo! echo!」と描かれたステートメントメッセージも目に留まる。オーバーシルエットやフーディーで90年代風を現代流に解釈。ポインテッドトゥのキトゥンヒール・ミュールが足元に強さとフェミニンを同居させた。

◆ヴァレンティノ(VALENTINO)

 これまでのパリから、母国のミラノへ発表の場を移した「ヴァレンティノ(VALENTINO)」はフレッシュでロマンティックなコレクションを打ち出した。アクティブからドレッシーまで、テイストは広め。ミニ丈のショートパンツルックやミニドレスも押し出して、軽やかな着映えに。デニムパンツも披露し、ミニマルでカジュアルな装いに生命力が宿るようなムード。シグネチャーのスタッズサンダルが足元に力強さを呼び込んだ。

 

 楽観を印象づけたのは、大ぶりのフラワーモチーフ。グリーン、レッド、オレンジなどの鮮やか色ドレスもエモーショナルにボリュームをまとった。透けるシフォン素材や、花柄を生かしたレースがエアリーなムードをまとわせている。ロングドレスにもシースルー演出を大胆に取り入れ、官能美を漂わせた。ドレープやティアードをたっぷりあしらって、ゆったりとしたフォルムをアピール。シャツワンピースのようなウエアラブルアイテムも投入。クロッシェ編みや刺繍が手仕事のぬくもりを寄り添わせていた。

◆フェンディ(FENDI)

 貴婦人の休日ルックにふさわしい、ノーブルで清らかな装いを、「フェンディ(FENDI)」は披露。白やアイボリーを軸に、クリーンなムードを醸し出した。シャツワンピースやタンクトップワンピースに透けるベールを重ね、フェミニンムードを演出。バッグにも透かし模様を取り入れ華やかに。レースやオーガンジーで仕立てられたドレスやスカートで、上品でエアリーな夏スタイルを提案。

 

 ふくらはぎを覆うソックスにはスクールガール気分も漂う。窓枠のモチーフがどこか懐かしげ。ロング丈のスプリングコートや半袖のワンピースはクラシックなたたずまい。着物風の幅広スリーブもレディーライク。ピンクやオレンジで手とバッグ、足とシューズの色を合わせた差し色テクニックがアイキャッチーな魅力を添えた。次の2021-22年秋冬からはキム・ジョーンズ氏がウィメンズを引き継ぐので、創業家3代目のシルヴィア・フェンディ氏が単独で手がけるのは、今回が最後となる。

◆ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)

 ファッションの享楽性を歌い上げたのは「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」。極彩色のパッチワーク・ハーモニーを奏でて、あでやかさの極みをランウェイに躍らせた。フローラルをはじめ、水玉模様、アニマル柄、ストライプなど、様々な色のモチーフを、まるで千代紙や万華鏡のようなクレージーコラージュで交わらせた。「カラフル」ではとても言い足りないほどのマーベラス感がハッピームードも呼び込む。

 

 装いの快楽をフルパワーで表現した。パッチワークのほかにも、ブロケード(刺繍)、レース、アップリケなど、多彩な針仕事を生かして、職人技を詰め込んだ。デザイナーの故郷であるシチリア島の服飾文化を受け継ぐ「手仕事のサステナビリティー」が息づく。地域から世界へ広がる「グローカル」な提案が故郷への敬意と愛着を示す。マニッシュな広襟ジャケットで凜々しい着映えに。ミニドレスやデニムパンツを組み込んで、若々しさも盛り込んだ。

 

 パリ&ミラノは運営面でコロナ禍の影響を強く受けたが、その一方で長い封鎖期間はクリエイターたちにモードの存在意義やブランドの特質、地域の服飾文化などを深く考える機会を用意したようだ。彼らが導いた結論は、ポジティブで着やすく、希望に満ちた「新リアルクローズ」。場面に服を合わせるのではなく、自分らしさを表現し、快適に過ごすためにまとう、いい意味でセルフィッシュな装いという「ファッションワクチン」が処方された両コレクションだった。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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