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2020.10.10
【2021春夏パリコレ ハイライト3】デジタルとフィジカルの二本立てのパリコレ 存続を賭けて練り出す数々のアイデア
(写真左から) ルイ・ヴィトン、エルメス、シャネル
2002年2月末から開催された先シーズンのパリコレクションは、コロナ禍により最終日をキャンセルせざるを得なかったミラノコレクションからの流れで、既に不穏な空気をまとっていた。最終的には一切滞りなくコレクションは閉幕したが、それから程なくしてロックダウンがスタート。その影響で、6月末のメンズコレクション、7月のオートクチュールコレクションは全てデジタル配信となったことは記憶に新しい。
その後、フランスの新規感染者数は落ち着いたかのように見えたが、バカンスシーズン明けにその数は一気に跳ね上がり、現在は3月、4月の状況よりも明らかに悪化している。
そんな中、10月4日に「ケンゾー(KENZO)」の創設者である高田賢三氏がコロナウイルスに感染して逝去したというニュースが入ってきた。今年の1月にホームインテリアライン、「ケースリー(K三)」を始動させ、元気な姿を見せていたため、正に青天の霹靂だった。ケンゾー社を1993年に買収したLVMHのベルナール・アルノー会長、「ケンゾー」の現クリエイティブ・ディレクターのフェリペ・オリヴェイラ・バティスタ、パリ市長のアンヌ・イダルゴ、果てはエマニュエル・マクロン大統領まで追悼のメッセージをアナウンス。パリとファッション業界は一気に追悼ムードとなったが、ショーがほとんど行われず、盛り上がりようの無いパリコレクションに更に影を落としたことは否めない。
今季はデジタル配信と実際のショーの二本立てでやり過ごしたが、今後、ワクチンが開発されない限りこの状況は好転しないはずで、ファッション業界はその存続をかけて様々なアイデアを練っていかなければならないのだろう。一条の光を見出せるかにかかっている、そんな切迫した空気を寒空のパリで感じ取ったのだった。
イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)
近藤悟史による「イッセイ ミヤケ」は“UNPACK THE COMPACT”と題したコレクションを発表。コンパクトにまとめたり、畳めたりできるアイテムで構成している。
ウレタン素材のトップスは、前後のジップを外すことで2つのパーツにまとめることが可能。丸みを帯びた造形的なワンピースやセットアップは、ジップを外すとパーツごとに分けることができる。ショルダーバッグに収納可能なコートやフーディなども登場。コードを外すとパーツに分けられるハンカチヘムのワンピースは、素朴さを帯びてギリシャ・ローマ的な雰囲気。華やかなフローラルプリントのパーカーは、明るくてフレッシュな印象を与える。
当然ながら、畳んだり丸めたりできるプリーツアイテムも充実。シンプルなグレーの無地から、マルチカラーのグラフィカルなプリントまで、バリエーション豊かだ。アーティスティックで大胆な意匠のニットドレスも魅力的。
最後は、様々なモチーフを組み合わせた、コードで結び合わせるアイテムが登場。その色合いとポップなモチーフに、このブランドらしいオプティミズムを感じさせた。
ニナ リッチ(NINA RICCI)
カリブ海出身でオランダを拠点に活動するリュシュミィ・ボターとリジィ・ヘルブルーの二人による「ニナ リッチ」は、アフリカの風景を交えながらアフリカ系モデルがポーズジングする動画を配信。1948年に販売され、ブランドのアイコンともなっている香水「レール・デュ・タン(L’air du temps)」の瓶のイメージから発展させたコレクションを発表した。
香水瓶のキャップ部分のトリのモチーフは、抽象的な水彩風のトリと、グラフィカルなトリのプリントとなり、異素材ミックスのドレスや背中の開いたドレスに仕立てられている。
今季は、ドレスやジャケットの背中部分にノットを配しているアイテムが多く、オープンにして開放的な印象のものも見られた。
スカート部分に異素材をはめ込んだストラップドレスや、カラーブロックのドレスなど、風に流れるようなシルエットが特徴的だが、これらは全てレール・デュ・タンの瓶から着想したもの。リュシュミィ・ボターとリジィ・ヘルブルーの二人は、自らのブランド「ボター(BOTTER)」を運営しているが、若いデザイナーならではのモダンでグラフィカルな解釈が興味深い。
ヨウジ ヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)
日本人デザイナーで唯一、実際にショーを開催した山本耀司。会場となったパリ市庁舎内のホールには、山本耀司にしか描けない白と黒の造形美を誇るドレスの数々が登場した。
ノットがアクセントになっているコンビのドレスは、一見ギリシャの女神風ではあるが、メンズのファブリックを組み合わせることで、それとは違う独特の空気をまとっている。洗いを掛けた薄手のファブリックによるドレスは、ドレープやノットでアクセントを描きながら、想像を超える未知のフォルムを形作る。絶妙な柔らかさを漂わせるテーラードも目を引き、細身のシルエットではあるものの、着やすさを感じさせた。
後半のワイヤーをあしらったシリーズは、その造形的な美しさをさらに強調。真鍮製のワイヤーで無造作に形作られたクリノリンが荒々しくのぞくドレスは、破壊的ながらも新しい美の側面を引出し、新鮮なショックを与える。
ワイヤーで固定されたパーツと風になびくスカートのヘム。その動きの違いが強いコントラストを生む。全体を通しても硬軟のコントラストがあり、強弱のリズムが生まれ、それが見る者を魅了するコレクションとなっていた。
エルメス(HERMÈS)
ナデージュ・ヴァンヘ=シビュルスキーによる「エルメス」は、パリ市営テニスコートを会場にショーを開催した。
ピッタリと身体を覆う目の細かなニットトップと、レザーのスカートでスタート。シンプルかつ機能的なルックだが、トップの背中は大きく開き、センシュアルな要素を加えている。パンチングレザーをあしらったボレロディテールのディアスキンのトレンチコートは、筒状に巻かれた襟が特徴的で、このアイデアはニットプルやバックスキンのコートにも応用されている。グラフィカルなペイズリーのスカーフプリントのミニ丈ワンピースや、ホースビットをプリントしたパジャマスタイルのパンツを合わせたセットアップなど、伝統的なモチーフが登場。特に後者は全面がブチ(刺し子)になっていて、独特の布の動き、風合いを見せていた。今季は、全てのモデルにサボタイプのサンダルをコーディネイトし、開放的な側面を加えているのも特徴。また、軽やかなニュートラルカラーパレットの中に差し色として発色の良い赤を効果的に使用し、アクセントとして強い印象を残した。
後半に登場したのが、光を反射するパーツをあしらったドレスのシリーズ。一見樹脂製のようだが、実はスライスした水牛の角を革のパーツで繋いだもの。実験的な労作で、ナデージュ・ヴァンヘ=シビュルスキーの革新的なアイデアと、アトリエの高い技術が見事に融合したアイテムといえる。
スポーティなワークウェアを基調にした、カジュアルかつエレガントな作風はこれまで通りだが、エルメスらしさとモダニティがこれまで以上に増幅した印象を与え、新鮮な美しさを放っていた。
バレンシアガ(BALENCIAGA)
デムナ・ヴァザリアによる「バレンシアガ」は、コリー・ハートの1983年のヒット曲「Sunglasses at night」のBFRNDによるカバーをBGMに、夜のパリの街を歩くモデル達を捉えたPVのような動画を配信。コレクションは、これまで通り市井の人々の様々な装いからインスパイアされている。テーラード、スウェットのセットアップ、スポーティーなパーカー、トレンチコート、綿入りのブルゾンなど、街中でごく普通に見られるオーソドックスなアイテムは、ドロップショルダーにしたり袖の太さを誇張したり、肩幅を大きくしたり、独特のひねりが加えられている。
「バレンシアガ」のロゴの入ったファブリックをリボン状に割いて羽のようにあしらったケープや、ブーツを開いて身頃にあしらったレザーのブルゾン、チェーンを繋いだドレスなど、クチュールメゾンらしい高度なテクニックを要するアイテムもミックス。
アシメトリーのデボレのモスリンドレスは裂けがいくつも見られ、鎖帷子のミニドレスにはスリッパを合わせられ、ロゴの入ったフーディはダメージが強調されている。おぼろげで粗いドットの、PARIS FASHION WEEKの文字がプリントされたフーディも意味深長。デムナ・ヴァザリアらしいアイロニーを感じさせた。
パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)
ジュリアン・ドッセーナによる「パコ ラバンヌ」は、エスパス・コミーヌでショーを開催した。これまで通り、様々な素材をあしらい、ランジェリーの要素や西洋服飾史に登場するようなコスチュームの断片をミックスしている。
ブラのウレタンを入れたドレスやトップスには、メタリックレースやアニマルプリント、ビジュープリントのシルクをあしらい、モチーフ・オン・モチーフの色濃いスタイルを提案。レザーのブラカップのレーストップには、ビジュープリントを施した鎖帷子のパンツを合わせて、このブランドらしさを強調。
PVC製のナポレオンジャケットが登場したが、ナポレオンジャケットなどの時代がかったコスチュームは、クリエイティブ・ディレクターに就任した当初からジュリアン・ドッセーナが提案してきたもの。
創始者のパコ・ラバンヌへのオマージュともいえる、樹脂と金属製パーツを組み合わせたロングドレスには、クリスタルのビジューが飾られ、チェーンのドレスには様々な大きなスパンコールが踊る。様々なエレメントが組み合わされ、重ねられ、積み上げられて濃密になっていく。万華鏡のような世界観を描くコレクションとなった。
ジバンシィ(GIVENCHY)
クリエイティブ・ディレクターのポストをクレア・ワイト・ケラーから引き継いだマシュー・M・ウィリアムズによる「ジバンシィ」は、若いデザイナーらしいストリートスタイルとクチュールハウスのエレガンスをミックスしたコレクションを発表。
マシュー・ウィリアムズは、イリノイ州出身の34歳で、ファッションについて就学経験の無いまま、ファッションビジネスに身を投じて成功。カニエ・ウエストのブランドに関わり、レディ・ガガのコスチュームをデザインして、2015年に自身のブランド「アリクス(ALYX)」を設立し、2018年よりパリコレクションに参加。その後「ディオール(Dior)」や「モンクレール(MONCLER)」など、様々なブランドとコラボレーションし、最も注目されるデザイナーの一人となっていた。
コレクションに目を向けると、エッジーさが前面に出たアイテムが多く見られる。メッシュの上にアシメトリーのパネルを重ねたトップスと二重袖になったジャケットは、本コレクションのアイコニックなアイテム。クロコの型押しのブルゾンや、カーフレザーのパーカーなど、レザー使いも目を引く。特にペイントがひび割れたようなレザーは様々なアイテムであしらわれ、独特の風合いが目新しい。ニットテープを繋いだロングドレスや総刺繍のデニムジャケットは、「ジバンシィ」らしいクチュールライクなエレガンスを漂わせている。チェーンストラップのドレスには、錠前モチーフのストラップのミニバッグをコーディネート。太いチェーンと錠前は今季アクセサリーのキーモチーフでもある。
今後、メンズコレクション、そしてオートクチュールコレクションでどのようなブランド展開をしていくのか期待したい。
ロック(ROKH)
韓国出身のロック・ファンによる「ロック」は、眼前に砂丘がそびえる野原をモデルがウォーキングする動画を配信。コレクションタイトルは“Night Wanderer”。自粛期間中にランサム・リグズ著の「ハヤブサが守る家」を読み、テキサスのオースティンに滞在していた幼少時に夜一人で出かけた時のスリル感を思い出し、未知の場所へ移動する時の喜びと驚きを服で表現しようと試みたという。
レザーのハーネスをコーディネートした、レースの襟のヴィクトリアンドレスでスタート。プリーツブレードを飾ったプリーツスカートには、ブラトップとレースの襟を配し、ゴシックなムードを演出。ネコを抱える宇宙人のようなイラストがプリントされたセットアップも、フォルムだけ見るとヴィクトリアンスタイル。イラストは、80年代風のダークなイメージを描くLAのアーティスト、パーカー・ジャクソンとのコラボレーションによるもの。パウダーピンクのモスリンドレスや、パフスリーブのレーシーなトップスなど、ガーリーなアイテムも交えるが、チェーンやハーネスでダーク&ヘヴィに仕上げている。
得意とするトレンチコートは、今季はスカートとビュスティエのセットアップや、タータンチェックの2ピース、パフスリーブのコートドレスとして登場。タータンチェックは、その他にもパフスリーブのドレスやコートなどに多用されている。
ギンガムチェックと小花のプリントやブランドのロゴと葉のプリント、あるいはカーペット風のジャカードの花のプリントのアイテムが最後のパートで登場したが、ハーネスやチェーン、リング付きの首輪などをコーディネートして、最後までダークさを保ったままだった。
シャネル(CHANEL)
ヴィルジニー・ヴィアールによる「シャネル」は、グラン・パレにハリウッドサインのような大きな「シャネル」の文字を設置したランウェイでショーを開催した。
ドロップショルダーのツイードジャケットと、深いスリットのスカートでスタート。ピンクをアクセントカラーにして、春夏コレクションらしい爽やかな印象。パウダーピンクのツイードジャケットには、「シャネル」のチェーンを思わせるラインをスパンコールで表現したショーツと、大きな花のスパンコールを刺繍した「シャネル」のアルファベットを配したジレとTシャツをコーディネート。小花プリントのティアードドレスや、ワンショルダードレス、ホルターネックドレスなどは、オーソドックスながらもカッティングの美しさが際立つ。
ピンクやブルーのウォッシュデニムは、オーバーサイズで80年代風。メタリックレザーとツイードのコンビのブルゾンやネオンプリントのアイテムも、そのまま80年代を彷彿とさせた。
イングリッシュレースのジャケットを合わせたギピュールレースのドレスや、羽を飾ったロングドレス、ツイードを刺繍で表現したタンクトップを合わせたドレスなど、美しい素材あしらいのアイテムが続く。最後は、「シャネル」の文字とカメリアをグラフィカルにプリントしたシースルー素材のアイテムで幕。デイウェアからイヴニングまで、壮大なバリエーションを、一点一点高い技術で丁寧に仕上げて見せたコレクションとなった。
ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)
ニコラ・ジェスキエールによる「ルイ・ヴィトン」は、本社前にある旧百貨店のラ・サマリテーヌを会場にショーを開催した。2005年に改装工事のためにクローズして以来の初お披露目となる。会場内はグリーンバックの幕が貼られ、ライブストリーミングの映像上ではグリーンの部分に1987年のヴィム・ヴェンダース監督作「ベルリン・天使の詩」のシーンが重ねられた。
80年代風のスローガンプリントのニットプルと、タック入りパンツのセットアップをまとったアンドロジナスなモデルでスタート。ロゴプリントのスポーティーなワンピースには、オーバーサイズのコートが合わせられる。トップ部分はスリムで、ボトムとアウターはルース、というスタイリングが今季の特徴。
アウターはテーラードから、スポーティーなワークウェアまでバリエーション豊か。全てドロップショルダーのオーバーサイズで統一されている。大きな亀甲スパンコールを刺繍したドレスや、リフレクター素材に水滴のようなモチーフをプリントしたセットアップなど、ニコラ・ジェスキエールらしい新鮮な驚きを与えるアイテムは健在だ。
今季は特に女性らしさを前面に出すのではなく、レディースであることを意識させない、性を曖昧に見せていた点が興味深く、ダイバシティーを強く感じさせる未来的なコレクションとなっていた。
取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
2021春夏パリコレクション