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2020.10.09

【2021春夏パリハイライト2】暗い世相を打ち破る明るくパワフルなテーマやカラー がメインに

(写真左から)クロエ、バルマン、イザベルマラン

 今季のパリコレクションは、明るくて強い色使いが特徴的だ。赤はもちろんのこと、ショッキングピンクやネオンイエロー、ミントグリーンやターコイズ。高揚感を与える様々な色が、各コレクションで強烈な存在感を放っていた。景気の減速時には原色が流行するというファッション業界における定説は、今回も守られた形になっている。ただ、ブランドによってその色遣いは様々で、レンジは幅広い。

 

 パリコレクションは他の都市と比べて、斬新なクリエーションで抜きん出ていると評されるが、そればかりが重視されるとビジネスが成立しないという負の側面もあり、そのバランスを絶妙に取ることでパリのファッションビジネスは存続してきた。そしてクリエーション重視ゆえに、一つのまとまった方向性を捉えにくく、今回もその例に漏れていない。そして、個々人レベルともいえる様々な嗜好に対応すべく、多様性も重視されるようになってきたため、益々トレンドがわかり辛くなっている。一昔前だったら、スカートの丈やシューズの形など、大まかではあるものの横並びだったのだが、現在はバラバラのトレンドが点在しているだけで、線で繋げることが出来ないケースが多々ある。

 

 そんな中で、明確ではないものの、今季の傾向を表すキーワードとして、70年代や80年代のヴィンテージ感、パフスリーブやコーンスリーブなどの大袈裟な袖、広くて強い肩のシルエット、ワークウェア・スポーツウェアとクチュールのコントラストが挙げられ、また蛇足ではあるが、時代の空気を象徴するものとしてドナ・サマーの77年の大ヒット曲「I feel love」を加えておきたい。

パトゥ(PATOU)

 ギョーム・アンリがアーティスティック ディレクターに就任し、シテ島のパリ警察署と同じく区画内にアトリエを構えて本格的にコレクションを発表したのが今年の2月。2回目となる今回は、ボリュームあるシルエットのドレッシーなアイテムで構成している。

 

 大きく膨らんだパフスリーブとバルーンスカートの更紗模様のドレスには、ゴールドのハートの大きなアクセサリーをコーディネートし、80~90年代のクリスチャン・ラクロワを想起させた。ボールガウン風のコートは、そのままクチュールライクにするのではなく、トレンチコートの要素を配してモダンに仕上げている。襟にレースを飾ったAラインのドレスや、クロスステッチを刺繍したパフスリーブのドレスなど、田舎風のアイテムを敢えてクチュールの世界にぶつける試みもギョーム・アンリらしい。

 

 ボアを飾ったパンツと大きな襟のジャケットのスーツ、ブロケードに刺繍を施したパフスリーブのラクロワ風ミニドレス、ペイズリーの刺繍を施したミニドレスなど、ヴィンテージ感を漂わせつつ、ギョーム・アンリがこれまでに見せてきたガーリーな要素を加えて若々しく仕上げている。

アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)

 ジョニー・ヨハンソンによる「アクネ ストゥディオズ」は、グラン・パレを会場にショーを開催した。新しい時代の到来に期待しながら、日々の暮らしを向上させられるかを、コレクションを通して考えたという。そうして導き出されたものが、「自己解放、自己変化、自己再生。黄昏、月の出、日の出、満月」といったキーワード。あらゆるものから自己を解放し、自由な時間の流れを楽しむ、という姿勢がコレクションの根幹となっている。

 

 今シーズンは、光が重要なファクターで、光によって多様に表情を変える素材をあしらっているのが特徴。敢えて光沢の無い素材によるアイテムを組み合わせ、コントラストを強調してもいる。ドロップショルダー、オーバーサイズはこれまでの「アクネ ストゥディオズ」の特徴的な作風であったものの、近年は落ち着いたかのように見えた。

 

 しかし今季は再びドロップショルダー、オーバーサイズのアイテムが復活。タイダイのようなグラフィカルなプリントのアイテムが多く見られたが、これは超自然的体験から作品制作を行うアーティスト、ベン・クインとのコラボレーション。モスリンのドレスにはハンドニットのブラを合わせ、ボリュームあるドレスのスリットからはハンドニットのスカートが覗く。

 

 「アクネ ストゥディオズ」らしいバランスの妙を見せながらも、常識に囚われないクリエーションを見せる。自己を解放するという姿勢が、自由な発想に繋がっていることを示すコレクションとなっていた。

バルマン(BALMAIN)

 パリの植物園でリアルなショーを開催。両サイドある客席の片側の前から3列までモニターを配し、女優や歌手、ソーシャライツやスーパーモデル、編集者などのセレブリティの名前を表示。ショーが始まると、実際に各人の映像が映し出され、リモートで鑑賞しているかのようだったが、これはあくまでも演出で、ほんの数分の映像を繰り返したり逆再生したりして、実際にライブで映し出されているものではなかった。しかし、コロナ禍の影響を強く感じさせる、印象的な演出となった。

 

 冒頭、フランク・シナトラの「マイ・ウェイ」が流れると、アーティスティック・ディレクターのオリヴィエ・ルスタン本人が登場してイスに座り、80年代に活躍したアマリアやヴィオレッタなどの年輩モデルがモノグラムのアイテムをまとって登場。ファッションの素晴らしさなどを語るインタビュー音声が重なり、ノスタルジックな雰囲気に。今季はピエール・バルマンのピエールのPを2つ組み合わせてBを表現した70年代のモノグラムを多用し、ヴィンテージの要素を強く感じさせた。

 

 デペッシュ・モードやヴィサージのBGMに合わせて、80年代風の大きく強い肩のトップスやジャケットが登場し、ブルージーンズとコーディネートされて、当時を強烈に想起させる。後半にラインストーン使いの「バルマン」らしいアイテム群が登場し、クリスタルメッシュのドレスで幕。メンズやキッズも含めて100点以上で構成し、相変わらずの熱量を感じさせた。

 

 そして、これまで無い演出が多かったが、ファッションキュレーターでパフォーマンスアーティストでもあるオリヴィエ・サイアールと今季よりコラボレーションをスタートさせたことが大きく影響していたようだ。

ケネス イゼ(KENNETH IZE)

 テベ・マググと並び、最注目のアフリカ人デザイナーであるケネス・イゼ。ナイジェリアのラゴスで生まれ、ウィーンで育ったケネス・イゼは、ウィーンの応用芸術大学で学び、2016年に自国に戻りブランドを設立。昨年のLVMHプライズではファイナリストに選出されている。今年2月には、地元の職人の手によって織られた色鮮やかなテキスタイルをあしらったコレクションを発表し、高い評価を得て注目を浴びた。

 

 今シーズンは、自社工場を設立してより一層自由なクリエーションを見せている。フリンジ状に糸を垂らしたボーダーのトップスと色違いのボーダーのパンツのセットアップ、マルチカラーボーダーのジャケットと重厚な織のコーデュロイパンツ、スリーブにバイアスのファブリックをあしらったスーツなど、見ているだけでワクワクするような美しい色使い。パープルの細身のジャケットは、ビジネスパートナーでもあるカール・ラガーフェルド作品を思わせる細身のシルエットで、テーラードのテクニックついてのアピールも忘れていない。メンズも含めて全13点。少数ながらも、再び強い期待感を抱かせるコレクションとなっていた。

クロエ(Chloé)

 ナターシャ・ラムゼイ=レヴィによる「クロエ」は、パレ・ドゥ・トーキョーのオープンスペースを会場にショーを開催した。

 

 ピアスのようなリングモチーフのアクセサリー、スローガンやロゴが並ぶTシャツ、女性の土偶のようなモチーフのペンダントトップ、馬のモチーフのプリント。ナターシャ・ラムゼイ=レヴィがこれまでの「クロエ」のコレクションで打ち出してきたディテールや作風は今季も随所で見られたが、ベーシックな「クロエ」のイメージをモダンにさせるべく、より一層必要不可欠な要素となり、新しい「クロエ」像を完成させていた。

 

 今季は特に、異素材を組み合わせてカットワークでモチーフを描くテクニックを見せてクラフト感を演出。モチーフ・オン・モチーフや意外な色の組み合わせなど、所々にサプライズをミックスしつつ、フレッシュな「クロエ」ガール像を打ち出している。モーヴやオレンジ、赤といった今までの「クロエ」には見られなかった色が登場したのも、時代の変化を感じさせた。

Y/プロジェクト(Y/PROJECT)

 グレン・マーティンスによる「Y/プロジェクト」は、3分割された画面に3体のモデルを配し、2名のアシスタントがそれぞれのルックをデフォルメしていく動画を配信した。

 

 ルックブックを覗くと、袖が波打つレザーのコートや、襟繰りがそっくり返ったトップス、片足が露出したハーフのトラウザーなど、そこにはいつもの「Y/プロジェクト」らしい、歪みを持ったアイテムが並んでいる。しかし、それがどのように形作られるのかは伝わってこない。そこで動画をつぶさに見てみると、ごくオーソドックスなアイテムが、ホックを外して位置をずらすことで見事なまでの変形を遂げる様子が映し出されている。非常に単純な発想ではあるが、強烈な印象を与える稀有なアイデアである。

 

 今季の動画配信が、これまでのクリエーションへの理解を推し進める形となったのは興味深い。その他にも、ウエスタンブーツを思わせる炎のモチーフにカットされたパネルの付いたパンツやドレス、身頃が二重になったコートやデニムドレスなど、シンプルなフォルムのアイテムも見られ、グレン・マーティンスのバランス感覚を十分に発揮したコレクションとなっていた。

リック・オウエンス(Rick Owens)

 ヴェネツィア隣接のリド島に位置する、カジノとして利用されていたアールデコ建築の前のオープンスペースにて、ショー形式でモデルを使って撮影された動画を配信した「リック・オウエンス」。

 

 ドナ・サマーの「I feel love」のダビーなリミックスをBGMに登場したルックの数々は、ダンテの神曲の中に登場する地獄の川“フレゲトーン”をテーマにしたハードで厳格さを帯びたアイテムで、「リック・オウエンス」らしい革新的なカッティングが見事な立体感を生んでいる。鎧のような強い肩のジャケットにはロボットのようなサイハイブーツを合わせ、ボンディング素材の構築的なトップスには朱色のサイハイブーツをコーディネート。

 

 それらのルックで硬さを出したかと思えば、ピンクのシフォンのドレスやニットが登場し、軟らかさもぶつけて新鮮なコントラストを見せている。全てのモデルにマスクが合わせられ、コロナ禍の現代を主戦場として生き抜く、女戦士さながらの印象を与えた。

イザベル マラン(ISABEL MARANT)

 パレ・ロワイヤルの中庭に広いランウェイを設置し、ダンサー達を交えてエネルギッシュなショーを開催した「イザベル マラン」。モーヴ(ピンクに近いパープル)のコスチュームをまとったThe (LA)HORDEのダンサーたちが登場。暫くして、モーヴのアイテムを着用したモデルたちがランウェイを闊歩してショーがスタート。

 

 BGMはドナ・サマーの「I feel love」のリミックス。パフスリーブのドレスや、パゴダスリーブのオールインワン、このブランドらしいエスニックな刺繍を施したボレロなど、80年代的な雰囲気を強く感じさせるが、ロングブーツを合わせることでモダンなエッセンスを加えている。特にハートモチーフのプリントが目を引いたが、これはロサンゼルスのアーティスト、アンバー・ゴールドハマーとのコラボレーションによるもの。赤のコスチュームのダンサーにバトンタッチして、赤のシリーズへ。フローラルプリントのパフスリーブのミニドレスや、マイクロショーツと造形的なブルゾンのセットアップ、総スパンコール刺繍のワンショルダーのミニドレス、バックスキンのウエスタンシャツジャケットなどが登場。

 

 白とブルーのシリーズでは、ラメを織り込んだプリントシルクのドレープドレス、ベアショルダーのミニドレスなど、変わらず80年代路線。ダンサーたちは互いに抱き合い、「I feel love」が旧王宮のパレ・ロワイヤルに鳴り響く。スタッズを打ったレザーのセットアップや、フォークロア刺繍を施したトップスなどの黒のシリーズと、ラフルを飾ったシルバーラメのミニドレスシリーズでモデルのウォーキングは終了。ダンサーたちが一斉に飛び出して踊り、フィナーレへ。会場は多幸感に包まれ、暫く拍手が鳴り止まなかった。

ロエベ(LOEWE

 今季は実験的な造形美を追求した、ジョナサン・ウィリアム・アンダーソンによる「ロエベ」。かねてから交流のあるアーティスト、アンシア・ハミルトンとコラボレーションし、今季のルックフォトを一枚ずつポスターにし、専用の糊とバケツ、ブラシとハサミなどをセットにしたコレクションを制作。アンシア・ハミルトン自身もホワイトのギャザードレスやブラックのロングドレスをまとってモデル出演し、また様々なメディアを使うアーティスト、ヒラリー・ロイドや、エディ・スリマンのプレスを務めてきたロランス・クランクネシュトなど、様々な女性たちがポージングをしている。

 

 レザーコードを手編みしたカゴのようなドレスは、「ロエベ」らしいクラフト感を強く印象付けるアイテム。中世のコスチュームを思わせるバルーンスリーブの造形的なドレスは、過去と現在と未来を繋ぎながら、その実時代を感じさせない。ノットでアクセントを加えたラメニットのドレスや、バルーンスカートのギャザードレスなどは、新しいディテール、新しいボリュームを打ち出す意欲作。古き良き時代のコスチュームに習いながらも、モダンなシルエットを追求する強い意志を感じさせるコレクションとなっていた。

 

 

取材・文:清水友顕 (Text by Tomoaki Shimizu)

 

2021春夏パリコレクション

https://apparel-web.com/collection/paris

 

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