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2020.09.21

【2021春夏ニューヨークコレクション ハイライト】カラフル、ヒーリング、カンファタブルなコレクションが主流に

 新型コロナの感染で、一時は世界一のホットスポットとなったニューヨーク。全米規模では、死者が20万人を越えるという状態で、いまだに感染爆発が収束に至っていない。そのためニューヨークではレストランでの飲食はまだ許可されておらず、公立学校での実際に登校する再開も予定より遅れているという状態だ。

 

 そんななか、ニューヨークファッションウィーク(NYFW)が、9月13~16日の日程で行われた。クオモ知事による規定は、室内なら無観客。屋外でもマックス50人というもの。公式のスケジュールに参加するブランドは75。ほとんどがデジタル配信のスタイルをとった。

ジェイソン ウー(JASON WU)

 NYFWの先陣を切った「ジェイソン ウー(JASON WU)」は、実際のラインウェイを打って、初のコンテンポラリーラインを発表した。観客席はきわめて限られており、椅子はソーシャルディスタンスを取って並べられた。“トゥルムの休日”をテーマにしたコレクションで、ジャングルのように緑が生い茂るなかを歩いてくるモデルの姿は、バケーション感を醸し出す。ルーズなシルエットのマキシドレスや、ストライプのチュニック、カットワークのブラウスなどリゾート感溢れるアトモスフィアだ。色彩もマスタードやグリーンなどオーガニックな色が美しい。

 

 ゴージャスなイブニングガウンで知られる「ジェイソン ウー」だが、コンテンポラリーラインのローンチは、現在の状況によく合っている。

 

 今季、いくつかの展示会はスプリングスタジオで行われたが、入り口では、検温が行われ、人数が制限され、ソーシャルディスが取られるというニューノーマルが施行された。ほとんどのブランドが観客を入れたショーを避けて、CFDAによるRUNWAY360のプラットフォームでデジタル配信をする方法を取った。

 

 デジタルであることの特性を生かして、 「リバティーン(Libertine)」は、CGを駆使した映像美あるデジタルプレゼンテーションを提示。「コリーナストラダ(Collina Strada)」もCGを生かして、出てくるモデルも老女からプラスサイズ、さらにバーチャルな生きものと、独自の世界を見せた。

 

 トレンド全体の流れとして、今季のコレクションはリラックス感がある傾向が見られた。外よりも内にいるムードを反映して、より着心地のよい、そしてサスティナブルな服を打ち出しているブランドが目につく。いくつかのショーを取りあげて、紹介しよう。

アリス アンド オリビア(alice + olivia)

 ステイシー・ベンデットが手がける「アリス アンド オリビア」は“Come dance with us”と銘打って、ダンサーを使ったデジタルプレゼンテーションを配信した。

 

 いつもながらカラフルな色彩展開で、カナリアイエロー、ピンク、エメラルド、ポメグラント、マルチプリントなど、鮮やかなカラーパレットだ。

 

 ステイシーが得意とするボヘミアンルックに、今季はジョガーパンツ、スラウチーなジーンズ、たっぷりとプリーツを使ったサーキュラースカートなど、スポーティな要素が加わり、ボヘミアン・スポーティのテイストだ。なかでもネオンピンクにタイダイ風のプリントを施したシリーズや、ジーンズのサイドを合皮でつないだパンツなど、60-70年代のヒッピーカルチャー、そして80年代のカウンターカルチャーの匂いが立ちのぼる。

 

 ダンサーが踊ってみせるプレゼンテーションは動きやすさも体現してみせ、「アリス アンド オリビア」らしいエネルギーを感じさせた。

アナ スイ(ANNA SUI)

 「アナ スイ」は“ハートランド”とタイトルを打ったコレクションをデジタル配信した。「アナ スイ」は、このロックダウン期間に、多くの時間を家で過ごし、自分にとって家とは何かを考え始めたという。そしてチャールズ・バーチフィールドの自然風景画や、フランス印象派の画家ベルトモリゾにインスパイアされたという。

 

 アーティスティックに焼き上がったパイから始まるプレゼンテーションのフィルムは、一編のガーリー映画のようだ。

 

 アイレットレースやトリム使いのドレス、1966年のチェコスロバキア映画「ひなぎく」のような淡い色彩のピナフォアドレス。マキシ丈のネグリジェドレスなど、ロマンティックなピースが続く。モーヴ、クリーム、ヒスイ色の花柄など、カラーパレットも淡く、儚げだ。そこにタイダイのデニムジャケットやTシャツ、あるいはキルティングジャケットを組み合わせ、足元は靴下にサンダルと動きやすそうだ。

 

 パッチワークやキルト、刺繍、グラデーションカラーでペイントされたレース、クロシェ編みのトリムなど手作り感あるディテールが、アットホームな空気を醸し出す。

 

 サスティナビリティも大きな要素となっていて、古いものから新しいものを生み出す姿勢を打ち出した。過去の「アナ スイ」のサングラスフレームからリサイクルされた再生プラスチックスクラップで作成されたサングラス。あるいはニット生地からリサイクルされたクロシェ編みのハンドバッグ。さらにリサイクルアルミ缶を使った帽子など、よりサスティナブルな素材をコレクションに組み込んでいる。

 

 ガーリーな世界と、手作り感あるサスティナビリティが溶け合い、アットホームなコレクションとなった。

アディアム(ADEAM)

 前田華子が率いる「アディアム」は、24ルックのデジタルプレゼンテーションを、CFDA360のプラットフォームで配信した。

 

 テーマは、“日本の夏”。明治記念館の美しい緑を背景にしてモデルたちが歩いた。白の繊細なスカートに、カーキ色のルーズなシルエットのポンチョを合わせたファーストルックは、今季のムードをよく表している。夏の着物である「浴衣」をイメージして、コットンとクレープ、さらにポリエステルを使ったニューリネンなどの涼しげな素材を用いた。

 

 白で統一したオーバーサイズのニットにフリルのスカート、ゆったりしたシルエットに裾に襞飾りを施したフーディのドレスにはワイドパンツを合わせた。パフスリーブやトランペットスリーブなど、袖に意匠を凝らしたピースも多い。パンツはワイドが多く、サイドの切れ込みもエアリーな印象だ。カラーはカーキ、白、ブラックなどのベーシックカラーに、真紅、オレンジなどの鮮やかな色が差しこまれ、ソフトブルー、ネイビーのストライプも涼しげだ。緑に映えるブリージーなコレクションの提案となった。

前田華子が率いる「アディアム」は、24ルックのデジタルプレゼンテーションを、CFDA360のプラットフォームで配信した。

 

 テーマは、“日本の夏”。明治記念館の美しい緑を背景にしてモデルたちが歩いた。白の繊細なスカートに、カーキ色のルーズなシルエットのポンチョを合わせたファーストルックは、今季のムードをよく表している。夏の着物である「浴衣」をイメージして、コットンとクレープ、さらにポリエステルを使ったニューリネンなどの涼しげな素材を用いた。

 

 白で統一したオーバーサイズのニットにフリルのスカート、ゆったりしたシルエットに裾に襞飾りを施したフーディのドレスにはワイドパンツを合わせた。パフスリーブやトランペットスリーブなど、袖に意匠を凝らしたピースも多い。パンツはワイドが多く、サイドの切れ込みもエアリーな印象だ。カラーはカーキ、白、ブラックなどのベーシックカラーに、真紅、オレンジなどの鮮やかな色が差しこまれ、ソフトブルー、ネイビーのストライプも涼しげだ。緑に映えるブリージーなコレクションの提案となった。

セオリー(Theory)

 「セオリー」は“Theory Now”と銘打って2021春夏コレクションをデジタル配信した。都会的なオフィスウェアとして認識される「セオリー」だが、今季はぐっとソフトでリラックスした表情を見せた。

 

 ウィメンズは、ニットのトップスにニットのマキシスカート、ボルドーのジャケットの下はサテンのとろりとしたロングドレス、ニットのパンツ、ドローストリングスのカーキのスカートといったように、カンファタブルなイメージだ。オンライン会議でもきちんと見えながら,同時に外で働く時にも機能するファッションといえそうだ。なかでも白いプリーツつきのワイドニットパンツに、白のブルゾンの組み合わせは、カンファタブルで洗練されているという美学を体現している。

 

 メンズも同じく軽やかで、ブルゾンや、ストラクチャーのないジャケットにパンツ、そしてそれにTシャツを合わせたり、足元はサンダルを合わせたりするカジュアルオフィスルックを提案してみせた。ニューノーマル時代を感じさせるコレクションといえるだろう。

トム フォード(TOM FORD)

 CFDAの会長を務めるトム・フォードだが、このコレクションに取りかかった時は、ロックダウンの最中だったと語る。彼の創作ノートによると、1ヶ月間家にこもり、服も着がえず、ファッションは冬眠すると考えていた。ロックダウンが解除された時に友人に会うと、少し周りもおしゃれを取り戻していて、ようやく希望を感じたという。その“幸せな時への希望”が、今コレクションのテーマであり、「私たちを気持ちよくさせる服」を希求したと語る。

 

 イメージソースは、70年代のパット・クリーヴランドと、アントニオ・ロペスのイラストに求めた。その言葉の通り、70年代のバイブを感じさせる、華やかでスリークなアニマルプリントやフローラルプリントに圧倒される。胸元を大きく開いたシャツをパンタロンに合わせたり、滑らかに流れるような風合いのドレスだったりと、官能的だ。

 

 パンツも「TOM FORD」のロゴがついたパジャマパンツでゆったりとしている。ゆったりしたネオンピンクのセーターに,同色のサテンパンツなど、色彩パレットも鮮やかだ。カフタンもキイピースとなっていて、グラマラスでありながらも、レイドバックでリラックスしたカリフォルニアの空気を感じさせる。

 

 メンズは、なんといっても目を引くのが、カラフルが花柄のパンツだ。花柄のパンツやジャケット、フューシャピンクのセーター、ニュートラルカラーの革ブルゾン。明るく小粋なピースが展開する。

 

 70年代のバイブに、90年代「グッチ(GUCCI)」全盛期の「トム フォード」色も打ち出し、全体的に驚くほど、オプティミスティックな気分を感じさせる。新型コロナによって暗く落ち込んだ世界から、ファッションの明るい明日を希望する。今季のコレクションは、「トム フォード」の「生の賛歌」なのだろう。

 リアルなランウェイや展示会に比べると、どうしてもデジタル配信ではインパクトは薄く、素材感も伝わりにくい。それでもなお各ブランドが世界観を打ち出すべく工夫しているのも伝わってきて、ニューノーマルのなかで模索しているのが感じられた。全体としては、リラックスして、明るい色合いが多く、人々がカンファタブルで、ヒーリング要素のあるファッションを希求しているのを感じる。

 

■ニューヨークコレクション

https://apparel-web.com/collection/ny

 

取材・文:黒部エリ(Text by Eri Kurobe)

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