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2020.09.08

顧客のニーズに1着ずつをチューニングする「ザ ミー (THE ME)」のビジネスモデルを紐解く

 東京・神宮前に2020年7月7日オープンした「ザ ミー(THE ME)」は、デジタルと職人技が融合した洋服のカスタマイズ業態です。コロナ禍と言う厳しい環境の下、オープン後約1ヶ月で約150人の顧客が利用しています。業態進化という視点、サステナブルという社会からの要求から、新たなビジネスモデルとして注目されているファッションのカスタマイズ業態。その中でも先進事例といえる同ブランドのビジネスモデルついて、「ザ ミー」プロジェクトマネージャー 前田真太郎氏と内装デザイン・施工を手掛けた株式会社ギャルドの幸村南デザイナーに話を伺いました。

 

 同ブランドの開発は2018年にスタート。「製品の在庫量を持たない仕組を作って、社会全体の量的な負荷を減らしたい」という思いから開発しました。欧米ではサステナブルへの意識が高まる一方、日本では今一つ広がらない当時、開発担当者は「オーガニックなどのサステナブルな素材をどんなに仕上げても、流通在庫が過剰なままでは社会への負荷がかかる」と思っていたといいます。そのため、「ザ ミー」の店頭では在庫を持たず一つ一つ顧客の注文にあわせて生産をするという「究極の受発注」ビジネスモデルを構築しました。保有在庫を持ってサイズ補正をするというマスカスマイゼーションとはそこが大きく異なるものでしょう。

 

 「まずは一枚生産を実現してくれる、賛同して下さる縫製工場さんにご協力頂き、一枚一枚作れる、そして一つ一つの仕様を変更できる仕組の構築に取り組みました」と話しますが、開発段階では様々な苦労があったようです。それでも問題意識のある工場が取り組みを決め、今は10社強の取引工場を持ちます。スーツやシャツなどのオーダー業界と親和性が高い工場だけでなく、婦人服などを得意とする工場とも取り組むことに成功しています。

手に届くプライス、「エバーレーン」に匹敵する原価率を実現

 ターゲットはビジネスパーソンとしていますが、メンズのオーダースーツのブランドでなく、コンテンポラリーなメンズ・ウィメンズ総合ブランドです。洋服のカスマイズというとトラッドやコンサバのブランドやショップが多い中、独特のポジションを確立しようとしています。それはオーダー業界で主流のジャンルでなく、「アパレル業界が持つデジタルテクノロジーを表現したい」という思いから、トラッドでないルックを開発。「どこに行っても気後れしない品位を意識しながら、比較的流行に左右されにくい、かつ洋服が前に出過ぎず本人が主役でいられるよう、シンプルな商品を中心にしている」といい、着用機会の多いアイテムの開発に励んでいます。

 

 そうなると気になるのが販売価格ですが、大手セレクトショップのPB商品程度の価格に抑えており、かつ原価率も高く、“トランスペアレント プライシング(値付けの透明性)”を標榜している米国の「エバーレーン」にも匹敵するビジネスモデルとも言えます。業界の常識からすると不安に思う原価率ですが「セールをしないのでマークダウンロスもないため成り立つ」と踏んだそうです。

業界のプロがナビゲートするノンプレシャーな店舗体験

 「ザ ミー」の魅力はなんと言っても店舗での体験でしょう。オンラインで来店予約をし、会員QRコードを使用しチェックインし、ナビゲーターという販売スタッフのパーソナルサービスを受けることができます。ナビゲーターは、スペシャリティストアの販売経験者だけなく、デザイナーやパタンナー、生産管理など業界のプロフェッショナル経験者を招き入れています。豊富な商品知識と経験で、セルフ購買やオンライン購買では気づきにくい提案も行います。それは、3Dボディスキャナーを使用した精緻な体型データに基づくフィッティングだけなく、「チューニング」と呼ぶサイズ補正により、ゆったり目やぴったり目など好みのスタイルを踏まえたもの。使用テキスタイルなども実物を確かめることができタッチ&フィールへの対応も行うこともできます。

 

 そして従来の小売と異なるのは店舗で決済をしないこと。「“接客=販売員”という印象をお持ちの方が多いので、店頭には一切レジを置かず、「購入をする場所」としての意味合いを思い切って捨てました」と話す通り、顧客は退店後にオンラインで決済をするというスキームを採用しています。すぐに決済できないことに対する不満も一部ではあるようですが、「購入が前提で無い為色々試着して決められる」「商品を持って帰る必要が無い為、前後の予定に影響を与えない」などポジティブな意見も多く、来店客のうち7〜8割は決済に至ります。

 このような店舗での体験を支えるのが店舗環境です。「“Where I come to clear the FOG”をコンセプトに誰しもが持つ、体に合った洋服選びに対するもやもやとした悩みを霧に見立て、その霧が晴れるような場所になってほしいという想いを空間に表現しました」と話す幸村デザイナー。コンセプトとなる霧はお客様の「通過点」となるカウンセリングルームへつながる廊下に表現し、またノンプレッシャーな店舗体験を支えるために、明るい空間、シルバーと木目のコンビネーションでの入りやすさと居心地の良さを提供。また人間のプロポーションをイメージし曲線を多く取り入れました。

 

 日本では初ともいえるビジネスモデルを構築した「ザ ミー」ですが、直営店出店だけでなく同業他社へのビジネスモデルの提供を、将来的に見据えているといいます。まだまだ伸び代のあるカスマイズというニーズ、「オーダービジネスをしたいけれども生産背景がない」という小売業やアパレルへのソリューションという点でビジネスチャンスを感じ取っているようです。

 

 

取材:アパレルウェブ編集部

 

■「ザ ミー」

 

住所:東京都渋谷区神宮前 6-31-11 iori 表参道 2 階

電話番号:03-4233-4000

営業時間:11:00-20:00

定休日:火曜日

店舗面積:248.19 m²

URL:https://the-me.tokyo/

Instagram:https://www.instagram.com/the_me.tokyo/

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