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2017.04.05

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.40】2017~18年秋冬東京コレクション

 2017-18年秋冬・東京コレクションではレイヤード(重ね着)や異素材ミックスが着姿に深みを与えた。動きを演出するクリエーションが広がり、アシンメトリー(非対称)、スリットなどが多用された。SNS映えを意識するニーズもあって、つやめいた生地、トリッキーなディテール、服の解体・再構成にも光が当たった。その一方で英国趣味やテーラーリング手法を取り入れたスーツ、セットアップが増えてもいて、創り手たちはおしゃれの選択肢を豊富に用意してみせた。

 レイヤードに工夫を凝らす提案が目立った。「いき」をテーマに選んだ「まとふ(matohu)」はストライプ(縦縞)柄をキーモチーフに選んで洒脱な着姿に仕上げた。青みがかった紫色のレザーを組み込んだクールなレイヤードも目新しい。パンツルックがジェンダーレス感を引き寄せている。テーマを映して、これまでにも増して垢抜けたたたずまい、裏地に凝った江戸町人の気風も写し込んだ。シグネチャーアイテムの長着(ながぎ)は縦長シルエットの重ね着に生かした。西陣織や袈裟生地などを取り入れて、異素材の質感を際立たせている。気負いを感じさせない、細部へのこだわりにも「いき」のグッドセンスがにじんでいた。

 けたはずれに袖丈の長いエクストラスリーブに代表される「過剰」の装飾表現が落ち着いてきた一方で、視線を呼び込むアシンメトリーが多用された。「ハナエ モリ マニュスクリ(Hanae Mori manuscrit)」はプリーツやラッフルを不ぞろいにあしらってワンピースをドラマティックに見せている。単純に左右で裾丈をずらすのではなく、斜めに流れ落ちるような布の動きがノーブルで叙情的なムードを寄り添わせた。計算されたドレープがつややかな布の陰影を引き出す。袖先が優美に広がるベルスリーブも気品を宿した。新たなマテリアルの発掘に取り組み、寄せ木細工の工芸美をバッグやドレスに写し込んだ

 レザーがキーマテリアルに浮上した。動物愛護やイージーケアが評価されて、ファーに続き、レザーでも人工素材がモードの仲間入りしているのは世界的な流れ。「サポートサーフェス(support surface)」は無用に飾り立てない装いを人工レザーで静かに表現してみせた。強みのカッティング技をふるい、革をまるで薄布のように軽やかに操っている。つややかな人工レザーに箔を貼り、シャイニー感を増幅。目立つ位置にメタリックなファスナーを走らせ、きらめきを呼び込んでいる。ドレープやギャザーは穏やかな起伏をもたらした。奇抜さに頼らない、抑制の利いたフォルムが大人っぽい節度をまとった。

 従来からある服に解体や読み換えを試みるアプローチが広がった。この手法を得意とする「ハイク(HYKE)」はライダースジャケット、フライトジャケット、アウトドアクロージングを軸に据えて、野心的な再解釈を見せた。ミリタリーを前面に押し出している。しかし、ありきたりの見え具合は避けて、フライトジャケットは見慣れたフロントファスナーを消しプルオーバー風に変形。両袖をカットオフしたバージョンも用意した。革のライダースジャケットは襟と袖をオフ。ファスナーは背中に走らせた。武骨なメンズ風味に寄せすぎないで、あちこちから素肌をのぞかせる演出を仕掛けている。ネックウエアやロンググローブなどにもエスプリを利かせていた。

 テーラーリング技法が再評価され、スーツが復活したのは、欧米の2017-18年秋冬コレクションで目立った現象だ。東コレでも「ウジョー(Ujoh)」の西崎暢デザイナーは持ち前の巧みなパターンメーキングを縦横に発揮して、正統派の紳士服をスポーティーフェミニンの装いに仕立て直した。ひねりどころはレイヤード。着丈が長いシャツやコートを組み込んで、重さやかさばり感をそぎ落とした。ロング丈のニットトップスには片側だけに深々とスリットを入れ、レーススカートをのぞかせた。リブ襟のベースボールジャケットとチェック柄のジャケットを同居させた、「ブルケット」とも呼べそうな羽織り物はウィットフルに映った。

 ディテールで目に付いたのは、深いスリットだ。「ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)」はコートの袖にも裾にもスリットを深々と刻んだ。しかもスリットはファスナーで開け閉めできるこしらえ。1枚の服から何種類もの表情を引き出せる仕掛けだ。タキシードのようなワンピースを用意してジェンダーレスに一段と踏み込んだ。ネクタイまで締める念の入れよう。オーバーサイズのアウターや、ステートメントを乗せたキャップも性別をぼかす。コートはマニッシュな仕立てでも、その下に合わせたスカートはレーシーな透け感を帯びている。複数のムードを漂わせるミックスコーディネートが加速したのも今回の東コレの際立った傾向だった。

 上質なベーシックや大人っぽいグッドセンスを打ち出す流れが強まった。顧客との間に安定的な絆を結ぼうと意識するクリエイターは目先のトレンドより、その人らしく着こなせるアイテムを提案するようになってきた。エフォートレスの進化形を示したのは「ハウス_コミューン(House_Commune)」。ネイビーやグレーの無地をベースに、エレガンスとストリートを無理なく融け合わせている。着ていく場所を選ばないパンツスーツ、ドレスのようにまとえるトレンチコートはしなやかなライフスタイルを感じさせる。気負いや堅苦しさを遠ざけつつ、きちんとして見えるテイストは、自立した女性像を印象づけていた。

 デザイナーのポリシーや立ち位置をはっきり打ち出す提案が勢いづいた。バレリーナ経験を持つ幾左田千佳デザイナーのブランドは「チカ キサダ(Chika Kisada)」。バレエのエレガンスとパンクの生命力を交差させている。今シーズンもバレリーナの衣装「チュチュ」を連想させる、チュールを用いたウエアを繰り返し披露した。ブルゾンにもやのようなチュールを重ねたり、パンツにチュールをかぶせたり。トップス裾にもチュチュ風の飾りをあしらった。トップスの上から革ハーネスを加え、フェティッシュな風情に。硬質なレザージャケットには透けるスカートをマリアージュ。青いパーカとチュール、革ハーネスのミックスはパンク風味を帯びている。

 

 全体に感じられたのは、突飛なアイデアや短命なトレンドを仕掛けるのではなく、持ち味やスタンスを作品に落とし込もうとする態度だ。素材の研究が進んだのも歓迎すべき流れ。創り手それぞれのプロフェッショナリズムが東コレ全体の価値をさらに高めていくことに期待したい。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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