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2018.03.09

トミー・ヒルフィガー氏、マッシュHDの近藤広幸社長らが登壇 小売り業界の今後を展望する「WWD RETAIL 20/20 FORUM」をレポート

Photo: Saito Masayuki for WWD

 デジタル・テクノロジーの急速な発展とともに大きな転換期を迎えている小売り業界。その課題や今後のあり方を展望するセミナー「WWD RETAIL 20/20 FORUM」(米WWD・ルミネ共催)が2月28日、パレスホテル東京で開かれた。会場には、有力アパレルブランドや小売り企業のリーダーたちが多数来場。新しいビジネスモデルで事業を拡大する企業、世界をけん引するフッションブランドによるトークやスピーチが行われ、熱気あるイベントとなった。

 

 セッションで繰り返し聞かれたのが、消費の決め手となるのは、プロダクトそのものではなく、プロダクトの魅力を伝えるコンテンツであること。コンテンツを通じてブランドの価値やインスピレーションを提供し、そこから顧客とのエンゲージメントや感情的なつながり(エモーショナル・コネクト)を深めることが重要であるということ。さらに、デジタル・テクノロジーを活用することによって、それらがより多くの顧客の個々のニーズに合わせて届けられる(マスカスタマイゼーション)時代に向かっていくということだった。

コマースとコンテンツは切っても切り離せない―マッチズ・ファッション・ドットコム

ウルリック・ジェロームCEO
Photo: Saito Masayuki for WWD

 「マッチズ・ファッション・ドットコム」は1987年に英国で創業したラグジュアリーファッションのセレクトストア。2013年にeコマースを開始し、現在は約450ブランド(60ブランドは独占販売)を176カ国に配送できる販売&物流ネットワーク網を構築。豊富なデータベースに基づいたデジタル・マーケティングによって事業を拡大し、約3年前には、プライベートブランド「RAEY」の販売を開始した。

 

 流通やデザインにおける独自の情報分析を生かしてセールスを拡大する同社だが、ウルリック・ジェロームCEOが強調したのは、「コマースとコンテンツは切っても切り離せない」と言う点。顧客は常に新しいブランドを知りたい、触れたいという思いが強く、その好奇心に応えるためのコンテンツ(タッチポイント)を通じ、キュレートしたブランドや商品を伝えることが必要だとした。プロによるスタイル提案やデザイナーへのインタビューなどで構成する編集ページ、カスタマー自身が発信できるオンライン・コミュニティーなどがあり、実際に売り上げ全体の35%がコンテンツ経由であると説明した。

 

 またデジタルでの体験と同様に欠かせないとするのが、フィジカル(身体的な)な体験。ヨガのワークショップや、3時間でソールドアウトした韓国での「ベトモン」販売イベントなどの実例について話した。また、2018年に2店舗目となる実店舗をオープンすることについても触れ、コマースにおいて、「(デジタルなデータベースに基づいた)ロジックと、(フィジカルな体験における)マジックのバランスが大切。実店舗はそのグローバル・ハブとなる」とした。

 

 加えて同社が注目するのがメンズファッションの市場拡大。現在、マッチズファッション・ドットコムでメンズの売り上げは全体の2割ほどだが、今後は3割まで伸ばしたいといい、「かなりの大きな投資」を行うことも明かした。

 

マッチズ・ファッション・ドットコム

私たちはデモクラティックなブランド 常に消費者の声に耳を傾ける―トミー ヒルフィガー

トミー・ヒルフィガー氏
Photo: Saito Masayuki for WWD

 セミナー開催日の2日前に「トミーナウ ドライブ」と題した2018秋冬コレクションをミラノで発表したばかりのトミー・ヒルフィガー氏が登壇。セッションでは、同ブランドがすでに30年の歴史を持つ大型ブランドでありながら、「シーナウ・バイナウ」形式のコレクション発表や、ミレニアルを代表するモデルであるジジ・ハディッドとのコラボレーション、デジタル・テクノロジーの導入など、新しい試みに積極的に取り組む背景や狙いについて話題が及んだ。

 

 1970年代にヒッピー、’90年代にストリート、2000年代にはデジタルという時代の大きな変化を経験してきた「トミー・ヒルフィガー」だが、そのなかでも変わらないブランドの哲学は、デモクラティックなブランドであるということだという。「シーナウ・バイナウ」を取り入れた背景についても、ショーチケットがほしいという消費者からの声に耳を傾けた結果だと説明。多くの消費者は今見たコレクションを半年後の実売まで待つほどの忍耐力があるものではなく、また、半年後にはコレクションそのものが古くなってしまうかもしれないという思いがあったからだと話した。従来の生産カレンダーを組み直し、あらゆるプロセスを早めなければならない難しさはあったが、それでも実行したのは、「情熱を持って100%のものをランウェイで見せたいという思いだった」とヒルフィガー氏。現在は、「シーナウ・バイナウ」経由でウェブサイトを訪れる人が18%に及ぶなど成果を挙げているという。

 

 ブランドの世界観をより深く体感できるデジタルストアのオープンや、AI(人工知能)を搭載したチャットボットの導入など、テクノロジーの活用に積極的であることについて、「ブランドが年を取ることが怖かった。時代の変化と戦いたかった」と明かすとともに、息子や娘たちが、ミレニアル世代の消費に関する情報を常にアップデートしてくれる存在であるとした。

 

 またヒルフィガー氏は、同ブランドをラグジュアリーではなく、プレミアムなブランドであると表現。コンセプトやデザインにおいて、アメリカンクラシックでありながらモダンであることにこだわり、商品の価値に見合う価格で提供するブランドであり続けたいと強調した。

2月26日にミラノで発表した2018秋冬コレクション「トミーナウ ドライブ」は、モータースポーツにインスピレーションを得た。
(Photo: Tommy Hilfiger)

ミレニアル・デザイナーによるデジタルネイティブなブランド―レベッカ ミンコフ

ユリ・ミンコフ氏
Photo: Saito Masayuki for WWD

 NY発のファッションブランド「レベッカ ミンコフ」のCEOで共同創業者のユリ・ミンコフ氏(以下・ユリ氏)は、ブランドを形成する要素について、デザイナーのレベッカ・ミンコフ自身が、ターゲットであるミレニアル世代であり消費者とのエンゲージメントが深い点、25歳でブランドを始めたレベッカ・ミンコフのライフステージの変化とともに成長してきたブランドであること、デジタルへの取り組みにおいて最も革新的なファッションブランドだと表現。ブランドのミッションは、消費者とエンゲージしながら価値とインスピレーションを提供していくことだとした。「プロダクト以外でお客様の心を掴むこと。お客様が“わからないこと”に対する恐れをなくすことが大切」とユリ氏。

 

 スマートミラーやRFIDを採用したデジタルストアは、その一環。試着室に入ると、試着するアイテムの商品情報や在庫確認が瞬時にでき、タッチスクリーンでショップスタッフを呼ぶこともできる。さらに、さまざまな着用シーンを想定して照明を選ぶこともできる。ユリ氏は、「それまで試着室に入ると、まるで閉じ込められた囚人のような気持ちになっていた。お客様だというのに自分の要望が伝えられないなんておかしいと疑問を感じていた」と導入の経緯について説明した。

 

 このほか、シーナウ・バイナウ形式によるコレクション発表や、様々なサービス&特典と連動したQRコード付きバッグの販売、デジタル・コミュニティーを通じた女性のエンパワーメントのための活動など、消費者とのエンゲージメントを図る幅広いコンテンツを紹介した。ロイヤル・カスタマーとのエンゲージメントを深めるとともに、デジタル技術や支払いシステムなどを通じて取得したデータを活用し、個々の接客に生かす。「消費者たちはセレブリティーのように扱ってほしいと考える人もいれば、会話をしたくないという人もいる。消費者の行動分析を行いながら、その消費者がどのようなアイデンティティーを持っているのか、そのアイデンティティーに見合ったタッチポイントは何かを掴み、対応していきたい」。次に導入するデジタライゼーションは?という質問に対する明言は避けたが、「消費者が様々な経験を通じて」と話した。

 

 ユリ氏が考える将来のリテールの姿や、今後のアジア進出、自身がデザインを手がけるメンズ・ブランドなど、詳しくはユリ・ミンコフ氏への単独インタビュー記事で。

 

レベッカ ミンコフ

ヴィブー・ノービーCEO
Photo: Saito Masayuki for WWD

 ソフトバンクと提携したことでも話題の米国発「b8ta(ベータ)」は、オーディオやヘルスケア、アウトドア、ペット関連などの製品を展示販売するスタートアップ企業。現在9店舗を運営し、来客やセールスに関する店舗でのデータを出店ブランドにリアルタイムで提供。ブランド側はそのデータにもとづき、価格やサービス内容をリアルタイムで更新することができるというビジネスモデルで事業を拡大している。ヴィブー・ノービーCEOは、老舗百貨店メイシーズとの取り組みによって、新規顧客を取り込んだ例などを紹介。今後はこのビジネスモデルをファッションやビューティーの分野にも広げる可能性を示唆した。

ベータ

(左から)ジュンの佐々木進社長、マッシュHDの近藤広幸社長、ルミネの新井良亮会長
Photo: Saito Masayuki for WWD

 なぜ日本のファッション業界が行き詰まっているのか?という問いに、ルミネの新井良亮会長は、「最も重要なのはフィロソフィーを伝えること。それができず、マーケットの急速な変化に対応できない、人材育成が遅れるといった問題を抱えている経営者が多いのでは」と指摘。ジュン佐々木進社長は、「洋服単体ではなく、価値や体験を通じて消費者自身が知らない自分を発見できることが大切。私たちは、「Fashion Food Fitnes」と3つのFをキーワードに、消費者にとって新鮮なライフスタイルを提供していく」」とコメント。マッシュHDの近藤広幸社長は、「経済は文化のしもべ。という言葉がある。私たちのフィロソフィーに合っているかを見定めつつ、いかに独創的なものやブランドを見つけるかが鍵」と話した。

 

ルミネ
ジュン
マッシュ・ホールディングス

ラナ・ホプキンス氏
Photo: Saito Masayuki for WWD

 英国発「モンパース(Mon Purse)」は、自分好みのバッグをデザイン&カスタマイズできるオーダーメイドバッグのECサイト。セッションでは、創業者のラナ・ホプキンスがサービス立ち上げの経緯を説明。自分だけのオリジナルを持ちたい、ブランド・バッグの大きなロゴが嫌い、といった消費者の声が増えていることなども併せて紹介した。今後の計画として、2週間でデリバリーする新サービス(現在は約6週間)や、実店舗の出店などについても語った。「今後はぜひ日本にも進出したい」という。

 

モンパース

(アパレルウェブ編集部)

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