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2018.03.09

【インタビュー】「レベッカ ミンコフ」CEOユリ・ミンコフ氏に聞く 未来のファッションリテールのかたち

 米NY発のファッションブランド「レベッカ ミンコフ(Rebecca Minkoff)」のCEO兼共同創業者で、デザイナーの兄でもあるユリ・ミンコフ氏が、小売り業界の課題や今後のあり方を展望する「WWD RETAIL 20/20 FORUM」(米WWD・ルミネ共催)に登壇するため来日した。好みのライティングを選んで試着したり、別サイズ&カラーを追加リクエストできるスマートミラーつきのフィッテイングルーム、購入したバッグに搭載されているQRコードによって、様々な顧客向け特典が受けられるサービスなど、デジタル・テクノロジーを他ブランドに先駆けて取り入れていることでも注目を集める。同ブランドについて、“最もデジタル・イノベーティブなミレニアル・ブランド”と表現するユリ氏に、実店舗の役割や未来のファッションリテールをはじめ、急成長するメンズ市場、日本への再進出などについても話を聞いた。

 

インスタグラムは人生のポートフォリオ

 

 

――「レベッカ ミンコフ」を“ミレニアル・ブランド”と表現している。ミレニアル世代を改めて定義するならば?

 

 ミレニアル世代がそれより前の世代と大きく違うのは、彼らがデジタルファーストで、幼い頃からインターネットに触れて育ってきたということ。育ってきた環境の違いによって、行動に大きな変化が見られる。例えば、前の世代は、母親が通っているお店に自分も通い、お店やブランドへの忠誠心が高い。モールに出かけ、実際に友達に会って影響し合う。一方、ミレニアル世代は、写真を撮り、それをSNSでシェアすることで、ピア・ツー・ピア(pier to pier)で影響しあう。レストランに行けば料理を撮影し、インスタグラムにアップする。お金がない人は、その人がトイレに立った瞬間、その料理を自分が食べたかのように撮影したり(笑)。彼らにとって、友達、パートナー、仕事などを通して自身を表すもの、人生を切り開くためのポートフォリオが、インスタグラムなんだ。

 

 あらゆる体験に対して行動が変化している。晩婚が進んでいるのもその1つだと考える。自身の経験を積むために、結婚年齢は25歳から35歳へと上がり、40歳代で出産をする人も増えている。大学を選ぶにしても、初めて就職するにしても、初めての土地に引っ越しして、デートをするにしても、変化している。新しい自分や文化を見つけたいという情熱とともに、人生にはターニングポイントが訪れ、しかもその行動は変化してきている。私たちは、そうした場面場面に寄り添えるようなブランドでありたいと考えている。

 

 従来ながらのブランドは、例えば、“キャリア女性”“若い人”など、消費者をステレオタイプ化し、それに見合う商品やサービスを提供していた。しかし現在は、ソーシャルメディアを通して、1人の人間がさまざまな側面を持っているということが見える。1つのブランドが1人の人格すべてに合わせるのではなく、複数のブランドがその人のさまざまな側面に応えてあげる時代。世界に情報発信ができるソーシャルメディアの台頭によって、既存の文化がすべて壊されている。そのなかで私たちブランドにできるのは、1人の消費者の中にある数ある人格の1つを鷲づかみにすること。ラックに商品を並べることではなく、消費者の心に居場所を作ってあげることが、今後のブランドのあり方ではないかと思う。

 

 

――デジタル・テクノロジーの導入に積極的だ。投資がかかる分リスクも大きいと思われるが、導入の判断基準は?

 

 ありがたいことに、デジタル技術への投資額は昔に比べて下がってきている。さらに私たちは、最先端のデジタル技術を取り入れているブランドとして認知してもらっているので、テック系の企業が低コストで一緒に仕事をしようとアプローチしてくれる機会も多い。その企業にとっては、ケーススタディとして自分たちの技術を世に出せるチャンスにもなる。だから、皆さんが考えるほどの大金を投じているわけではない。もちろん、デジタル技術をすべての店舗に入れられるかといえば、そうではない。デジタル技術を取り入れたフラッグシップストアと、それ以外の小規模な店舗との差別化は図っていかなければならない。

 

 デジタル・テクノロジーを導入したことによる数値的な効果も見えている。スマートミラーを設置した試着室では、40%の消費者がスマートミラーがあるゆえに、試着したい商品を追加リクエストをすることがわかっている。この変化は、私たちのデザインチームにも大きな影響を与えている。どの商品が売れているかは分析できていたが、試着室に持ち込むアイテムを把握できることで、どのアイテム同士を組み合わせるのかという好みも把握できるようになってきた。さらに、私たちの商品の中心価格帯は300~500米ドルだが、試着室に持ち込む商品は、600ドル以上や150ドル以下のものが多いという傾向も見えた。自分たちの作るものをデザインや価格などの面で見直すことにもなり、テクノロジーの導入が、店舗だけでなく、マーチャンダイジングすべてに変革を及ぼしたといえる。

 

 また、私たちのデジタルストアには、最先端のテクノロジーを体験しようと来店する人も多い。1月にNYでリテールイベントがあった際には、私たちの技術を体験したいと、1週間に6,000人もの人が訪れた。テクノロジーをきっかけにブランドを知った人たちではあったが、その月の売り上げの35%は、その人たちによるものだった。

NYソーホーにある旗艦店のデジタル技術を紹介するムービー。
eBayとパートナーシップを組んでいる。

――オンラインストアで取得したデータを活用するような取り組みは行っているか?例えば、購買パターンを掴み、店舗での接客に生かしたり、リターゲティングするなど。

 

 オンラインストアで取得したデータを活用することは、以前から意図してきたことだ。期待値ではあるが、今年の中旬から年末までには、顧客のアイデンティティー(認証)管理する取り組みができそうだ。アプリは有効なツールだが、多くの人はこれ以上アプリを増やしたくないと思っているだろうし、来店するためだけにダウンロードしてもらうのは現実的ではないと考えている。顧客を識別する方法として、従来は電話番号を使っていたが、今後はもっと早くもっと簡単な技術を取り入れたいと思っている。

 

 活用方法としては、来店したタイミングでその顧客を識別し、オンラインストアでの履歴をもとに、その人に合う商品やスタイルをリコメンドする。それとは反対に、試着室での行動をもとに、オンラインストアでのその人に合う商品やショッピング体験を提供することが考えられる。ぜひ次のステップとしてやっていきたい。

 

 アリペイやアップルペイなどが様々な支払いシステムが開発されているが、開発側が、APIを公開することによって、さらにこうした取り組みがやりやすくなるだろう。支払い情報を通して、顧客の行動をトラッキングする。あるいはIDを取得して情報を抽出する。それらはアプリをダウンロードしてもらうことより簡単だ。テック系企業が情報公開したら、積極的に活用したいと考えている。

 

米国のメンズ市場は“Void(空白)”    そこにチャンスがある

 

 

――今回のセミナーでは、メンズファッション市場が急成長していることを指摘するスピーカーも目立った。ユリ氏は、メンズブランド「ユリ ミンコフ」のデザイナーも務めるが、今後のメンズファッション市場をどう見ているか?

 

 「ユリ ミンコフ」は私がデザインを手がけているが、北欧のデザインや建築が好きで、製作のインスピレーション源になっている。また、日本の文化も尊敬していて、(ポケットの裏側に入った青いラインを見せながら)さりげない色の使い方や形の変化に影響を受けている。ウィメンズは、ボーホーやロックをベースにデザインしたものが多いので、コンセプトはかなり違っている。

 

 2016年秋にスタートしたが、バッグもフットウエアもセールスは好調だ。ちょうど今、次のシーズンのサンプルを着ているが、アパレルもあり、サックス・フィフス・アベニューやブルーミングデールズとのビジネスも成長している。私たちのグループはウィメンズが主力で、売り上げも大きいが、来年はもう少し大々的にメンズをプロモーションしていきたいと考えている。

 

 特に米国では、メンズ市場に“Void(空白)”があると感じている。ウィメンズ市場では女性のエンパワーメントをサポートするといったコンテンツがあるが、メンズ市場はそこが空白になっている。メンズの分野にどういうコンテンツを適用するのかは、プロダクトを考えるより重要になるだろう。

 

 つまり、今の環境の中で男性としてどう行動するか。例えば、父親として、夫として、どうあるべきか。あるいは、食事や対人関係など日常生活の場面において自身がどうあるべきか。そういったことが重要なコンテンツになってくるが、ファッション業界の中でそういった話をしている人はいない。男性自身も、変化するべき時にどう変化していいか迷っている。職場やスポーツ以外の場面でも、色々な役割があるはずなのに、それぞれのオケージョンでどう着飾るべきかがわからない。プロダクトに付随するコンテンツの要素が存在していないことが課題だろう。

 

 来年以降になると思うが、メンズ市場にあるその大きなギャップを埋めていきたいとも思っている。コンテンツの伝え方は、ポッドキャストかもしれないし、インタビュー形式かもしれない。今までの2年間はプロダクトが中心だったが、そこにチャンスはあると感じている。

――日本への再進出の計画は?

 

 日本を含めグローバルに展開していきたいと思っている。現在は米国のほか、香港や韓国、シンガポール、タイ、マレーシアなどに店舗を構えているが、今年は中国に進出し、4店舗出店する。さらに今年の年末は韓国にもう1店舗オープンする計画だ。

 

 中国市場も成長しているが、日本は世界で2番目に大きい市場。ビジネスはぜひ成功させたいが、日本はファッションの歴史も長く競争が非常に激しい。やるべきことは、いいパートナーを探すこと。また、大々的な規模ではなく、1店舗からのスタートだとしても、テクノロジーを取り入れ、個々の顧客に合わせたショッピング体験を提供することだ。前回は、そうした体験を提供できていなかったし、それが大きな学びにもなった。今、再進出のスタート地点に来たと思えるのは、過去の経験を踏まえ、より深く消費者を理解しているという自負があるからだ。自信を持って進出できるだろう。

 

 日本で店舗をオープンした場合、ローカル(日本)の消費者を大切にするのはもちろん、日本に来訪する中国人旅行者への対応も重要になるだろう。現在、韓国やイタリアでの店舗も中国から訪れるお客がとても多い。中国人のお客の好みも研究し、しっかりと心を掴む必要がある。

 

店舗はコンテンツを生み出すショーケース的存在に

 

 

――5年後のリテールの姿をどう予想する?その5年後に向けて、どういったデジタルテクノロジーを取り入れてみたいか?

 

 ストアが担う役割はますます増えていくだろう。注文が入ったら、ディストリビューションセンターではなく、店舗が出荷の拠点として、在庫を出荷することも増えるだろう。また、イベントを開催するコミュニティーとしての役割もある。私たちは毎週のようにイベントを開催しているが、毎回80~100人くらいの女性が来店し賑わいを見せている。

 

 さらに、来店した人たちがインスピレーションを感じ、ソーシャルメディアにコンテンツを投稿できるような場所になるべきだろう。インスピレーションを受けたものを撮影して、家族や友達と共有する。さらに、ソーシャルメディアでの投稿を見て、何万人、何千万人もの人が、「このお店で商品を買いたい」と感じる。インスピレーションや体験を通じて、その人自身がコンテンツを作れるような、ショーケース的な役割だ。

 

 今後デジタル・テクノロジーを取り入れならば、やはりそうしたコンテンツを作るためのものになるだろう。店舗を通じて、世界の人たちをどうつなげるか。日本やNY、LA、韓国をつなぐハブとしての役割をどう発揮できるかが課題だ。店舗に行くことによって、クリエイティブな体験をしたり、コミュニティーの仲間を見つける。あるいは、自分とは違うスタイルの消費者に新しいスタイルのアドバイスをしてもらう。そうしたあらゆる発見の中心地にしていきたい。

 

 デジタル・テクノロジーを通して、世界には何十億という消費者がつながっていくことにも期待している。実際に店舗に行って購買するのはひと握りの人だとしても、その人たちがコンテンツを作って、ソーシャルメディアに投稿すれば、それを見た何百万人もの人たちと、店舗での体験をシェアでき、さらにそれが広がっていく。「レベッカ ミンコフ」の店舗にアクセスできなくても、体験を共有すれば、オンラインストアでの購買につながる可能性があう。そうしたサイクルが生まれることが大切だ。

日本で初開催された「WWD RETAIL 20/20 FORUM」に登壇したユリ・ミンコフ氏
Photo: Saito Masayuki for WWD

「レベッカ ミンコフ」オフィシャルサイト

 

(アパレルウェブ編集部/AIR編集部)

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