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2020.06.17
【2021春夏ロンドン ハイライト1】初のデジタル・ファッションウィーク開催 ウィズコロナ期に社会問題を訴えるデザイナーたち
ロンドン・ファッションウィークの公式サイトより
2020年6月12~14日、デジタル形式でロンドン・ファッションウィークが開催された。COVID-19感染拡大の影響により、今シーズンは各都市が通常の形式でのファッションウィークを中止し、デジタルプラットフォームを利用した形で行うことを発表しているが、ロンドン・ファッションウィークは他都市に先駆けて世界的にも初のデジタル・ファッションウィークとなるため、7月に予定されているミラノ、パリの動向を探る意味も含めて、大きな注目が集まった。
本来ならこの日程で2021春夏メンズコレクションの発表が予定されていたが、同ファッションウィークでは、メンズ、ウィメンズを問わず、また2021春夏の新作だけでなく、現行コレクションや2020秋冬、アーカイブからの作品紹介もあった。参加者に関しても、34人のデザイナーに加え、ショップ、EC、ファッションスクール、ファッションメディア、アーティストなど様々な分野がコラボ形式で登場した。一方、「バーバリー(Burberry)」、 「ヴィットリア・ベッカム(Victoria Beckham)」、「JWアンダーソン(JW Anderson)」、「クリストファー・ケイン(Christopher Kane)」などのビッグネームは9月にコレクション発表することを表明して不在だった。
内容的には、サイト内の「スケジュール」というコーナーが従来のファッションウィークのような役割を果たし、プログラムに沿ってドキュメンタリーやデザイナーズダイアリー、インスタレーションなどのショートムービーをメインに、インスタライブでのトークセッションやインタビューからミュージックライブやDJセットなど様々な形式の発表がなされた(作品はその後もサイト上で見られるようになっている)。
例えば「ルー・ダルトン(Lou Dalton)」、「ダニエル・W・フレッチャー(DANIEL w. FLETCHER)」、「チャラヤン(Chalayan)」、「クリストファー・レイバーン(Christopher Raeburn)」などは有名誌のエディターやスタイリスト、キューレターなどとのライブディスカッションを行い、「ファーフェッチ(Farfetch)」は中国人インフルエンサー4人がそれぞれ「チャールズ・ジェフリー・ラバーボーイ(Charles Jaffrey Loverboy)」、「アーデム(ERDAM)」、「ロクサンダ(ROKSANDA)」 、「16アーリントン(16ARLINGTON)」にインタビューするという形をとった。これらのディスカッションにおいては、多くのデザイナーがファッションサイクルの見直し、シーズンにこだわらないコレクション発表やスローダウンの姿勢などを語っていたのが印象的だった。
またリサイクルをメインとしたサステナビリティにまつわるメッセージも多い。「マルケス・アルメイダ(MARQUES ALMEIDA)」はデッドストックやリサイクル素材を使った新ブランド、「リメイド(REMADE)」を発表し、その製作風景をドキュメンタリーフィルムに収めたり、「オスマン・ユゼフザダ(Osman Yousefzada)」と「リヴィア・ファース(Livia Firth)」がサプライチェーンやファストファッションにまつわるライブディスカッションを行ったりするなど、多くのデザイナーがこのテーマを取り上げた。
さらに、今、最もホットな話題である人種問題についても触れられており、エドワード・エニンフル英ヴォーグ編集長とサディク・カーン・ロンドン市長が対談してこの問題について語ったり、「チャールズ・ジェフリー・ラバーボーイ」は黒人のミュージシャンによるライブイベントを「UKブラック・プライド」への寄付を募ったりした。
モデルを使ったショー形式での発表が難しい代わりに、デジタルモデルにコレクションを着せたムービーを発表した「スティーブン・ジョーンズ(Stephen Jones)」や、デザイナー自身がモデルとなって自宅で撮影したという「カワケイ(KA WA KEY)」など、ユニークな工夫を凝らした作品もあった。一方、「プリーン・バイ・ソーントン・ブレガッジ(Preen By Thornton Bregazzi)」や「リキソー(RIXO)」、「ナターシャ・ジンコ(NATASHA ZINKO)」など、コレクションピース着用のモデルを起用したショートムービーを発表したブランドもあるが、いずれも自然の中で撮影したかなりエッセンシャルなものだった。
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SHOOP X ASICS PROJECT LOOKBOOK
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SHOOP X ASICS PROJECT LOOKBOOK
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SHOOP X ASICS PROJECT LOOKBOOK
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SHOOP X ASICS PROJECT LOOKBOOK
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SHOOP X ASICS PROJECT VISUAL
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SHOOP X ASICS PROJECT VISUAL
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SHOOP X ASICS PROJECT VISUAL
そして、20秒というシンプルさで「アシックス(ASICS)」とのコラボのスニーカーのムービーを制作した「シュープ(SHOOP)」、日本画家の東園基昭やミュージシャンのTOHJIが同店で扱うアイテムを纏い、その活動をドキュメンタリー風ムービーに仕上げた「グレイト(GR8)」といった日本勢の活躍についても特筆したい。
さて、このような形で構成された理由としては、開催当時まだロックダウン下だったロンドンでは、新コレクションを全ピース完成させることや、無観客ショーなどの大掛かりなイベントを組むことが、物理的にも(多分、気分的にも)不可能であったこともあるだろう。そして、今回のデジタルファッションウィークは、ファッション関係者だけでなく世界中の誰でもが閲覧できるため、コピーされることを防ぐために新作に関する踏み込んだディテールは見せられないこともあるのかもしれない。となると本末転倒と思われるかもしれないが、そもそもこのデジタルファッションウィークの目的には、今回のパンデミアでダメージを受けているイギリスのファッション業界を助けるための寄付を集める目的があるので、閲覧対象をバイヤーやメディアだけに絞るわけにはいかないのだ。
つまりロンドンファッションウィークは、これまでのファッションウィークがデジタル版になったのではなく、全く違う形のイベントだと考えるべきなのだろう。既存のファッションウィークから連想すると、どうしても無観客ショーやフィッティングモデルを交えたプレゼンテーションなどを期待するので、肩透かしを食らったような気になるが、そもそもそういう趣旨ではないと思って見れば、イベント自体はなかなか興味深い。そしてこれまでも服とアートの融合を行ってきたロンドンコレクションだからこそできる技、ともいえるだろう。
ロンドンより早くロックダウンが解除された上、時期的にもファッションウィークがまだ先のミラノやパリは、色々な意味でもう少し余裕があるだろうし、素材やモノ作りの国であるイタリアや、服飾文化に重きを置くフランスはまた別の動きをするのではないかと思われる。が、もしかしたら他都市も今回のロンドンのスタイルを継承していくのかもしれない。7月の他都市のデジタルファッションウィークは果たしてどうなるのか、ファッション界全体がその動きを注目している。
文:田中美貴
■「ロンドン ファッションウィーク デジタル」公式サイト
田中 美貴
大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。