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2020.06.19

ニューヨークにとっての2020年6月8日

 2020年6月8日は、ニューヨークで新型コロナウイルスの一人目の感染者が発覚したと州知事から伝えられてから100日目を迎えた日でした。ニューヨーカーにとって働き方が一変し、ファッションにおいては店舗が一時休業。人々はそれぞれの人生について色々と考え、様々な悲しみや、ささやかな喜びを改めて認識した100日間だったと思います。5月25日、ジョージ・フロイド氏がミネソタ州ミネアポリスで、白人警察官によって膝で首を押さえつけられ死亡。この周知の事件を発端に黒人差別に対する抗議デモが米国中で行われ、今ではアメリカ国内だけでなく、海外でも抗議デモが行われている国も。

 

 今回の人種差別事件をきっかけに、SNS上でも多くの人々がこの差別問題について考え、学び、話し合い、発言し、行動に移していかなければと考える状況となっています。今、米国の社会全体が人種差別の排除、ダイバーシティの推進に向けて様々な取り組みを行っています。小売業界を中心にいくつかの事例を紹介します。

黒人が運営するビジネスを支援する「15 パーセント プレッジ」

 NYを拠点にサステナブルな靴やハンドバッグなどを展開する「Brother Vellies (ブラザー・ヴェリーズ)」は、2013年にオーロラ・ジェームズ氏によって創設され、伝統的なアフリカンデザイン、カルチャー、タイムレスなラグジュアリーさで人気を博しています。フェアトレードに通ずる物づくりを行う姿勢は個人的にも注目をしています。また、ブラザー・ヴェリーズは、過去に第12回「CFDAヴォーグファッション基金アワード」のグランプリに選出されており、ご存知の方もいるかもしれません。

 

 6月1日、同デザイナーのアローラ・ジェイムズ氏は大手小売企業に対し、「15 Percent Pledge(15パーセントプレッジ)」という取り組みへの賛同の呼びかけを開始しました。取り組みの内容は、「米国での黒人の人口は15%に近いという背景があり、黒人が運営するビジネスを支援するために、最低でも陳列棚の15%のスペースを用意することにコミットすることを求める」というものです。15パーセントプレッジはウェブサイトだけでなく、SNSアカウントも開設。大手小売業に企業に呼びかけると共に、この要求に賛同する嘆願書への参加を人々にも求めています。この取組を呼びかけた大手小売企業の中には、私もよく利用する「Sepohra(セフォラ)」、「WHOLE FOODS  MARKET(ホール フーズ マーケット)」、「Target(ターゲット)」などが含まれています。この呼びかけから約1週間が経過した6月10日、LVMHモエ・ヘネシー・ルイヴィトン傘下で、化粧品や香水、ウェルネス商品等も扱う専門店セフォラは、大手企業の中で初めて「15 パーセント プレッジ」に賛同し、共に小売業の在り方を変えていくことを誓約しました。

 

 この歴史的な第一歩はNYタイムズに掲載され、記事によると、米セフォラは「15 パーセント プレッジ」の創設者であるジェームズ氏を含むアドバイザリーグループと共に変化を実行するとあります。Vanityfair.comに掲載されている記事によれば、レンタルサービスの「Rent the Runway (レントザランウェイ)」もこの取り組みに賛同する事が決定されているとジェームズ氏がインタビューで明かしています。

Sepohra(セフォラ)」が「15 Percent Pledge(15 パーセント プレッジ)」に参加

(15 パーセント プレッジの公式Instagramより)

 また、6月頃よりセフォラでは、同社の会員プログラム上で貯まったポイントを、黒人のレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クゥイア、そしてHIV/AIDSを持つ人々、ジェンダー(LGBTQ/SGL)を愛する人々に対してのエンパワーメントに熱心な活動を行う公民権利団体「National Black Justice Coalition(ナショナル・ブラック・ジャスティス・コアリッション)」への現金寄付に換算することを可能にしました。例えば、500ポイントを10ドルの寄付金へ交換でき、次は1000ポイント(20ドル)、1500ポイント(30ドル)と、貯まったポイントを寄付できます。私自身、自粛生活が始まってからはビューティー系のサービスを活用する機会が少なかったのですが、早速この取組を通じてポイントを利用し寄付しました。セフォラの専用アプリより、ポイントの交換内容を選択し、購入(寄付)。2クリックのみのシンプルな方法で有意義だと感じられる活動に参加できました。

小売業界の本格的な復興に向けて、オンラインとオフラインのあり方に革新が求められる

「ペトコ(Petco)」の店舗(左)

「アルタ(Ulta)」の店舗(右)

 6月8日はNY市にとって社会経済活動のフェーズ1の始動日でもあり、一部リテールにとってようやく営業再開が許容された日でもありました。しかし、抗議デモの影響で、一部の人が行う略奪や破壊の被害を恐れ、ほとんどのリテールは板などで店舗を覆った状態のままクローズの状況が続いています。飲食店などにおいても、同様の状態の店舗を一部見かけます(マンハッタン、エリアによって様子は異なります)。この日外出してみたところ、アッパーイーストサイド界隈にある、ペット用品の大手「Petco(ペトコ)」もウィンドウ部分は板で覆われたまま、店内入口のみでお客様を迎えていました。ペットを持つ人々にとってペットは大切な家族。こうしたペット用品店はエッセンシャルストアと言っても良いのでしょう。

 

 また、再開を楽しみにしているビューティー大手の「Ulta(アルタ)」は、マンハッタンでは、現在アッパーイーストサイドにしか店舗出店がなく、こちらも同様に窓ガラス全体を板で覆ったままの状況です。ほとんどの店舗がガラスウインドウ全体、もしくは半分以上を覆っている状況です。因みにアルタは、今年の春頃に、メイシーズ付近のヘラルドスクエアに二店舗目をオープンすると期待されていましたが、新型コロナウイルスの影響もあり未だ開店の兆しはみえません。店舗再開に向けては、ブランド、顧客、従業員それぞれにとってどの様な準備が必要なのか先ず考えねばならないでしょう。実際にオープンできたとしても、果たしてお客様が訪れてくれるのかという様々な不安に未だ悩むところが多いと思います。

 

 ソーホー界隈でも、大通りから少し入ったノリータエリアのストリートにある「Everlane(エバーレーン)」 、「Cuyana(クヤナ)」、「Mejuri(メジュリ)」、「Buck Mason(バック メイソン)」、「Naadam(ナーダム)」などのD2Cブランドも、店舗再開のタイミングを掴めずにいると想像しています。(バックメイソンは6/15現在、ニューヨークを含む一部店舗でカーブサイドピックアップを開始しています)このような状況となると地域のコミュニティが大切だと思います。個人店が並ぶ商店街の様に、地域が一丸となってそのエリアを再開発しようという前進の気持ちが必要なのかもしれません。

 

 約3ヶ月間、従来のようなリテールのリサーチや買い物をしていないと、以前とは違った意味で、“これからの店舗はどうあるべきなのか?”と再考しています。新型コロナウイルスが収束傾向にある中、改めて「今」求められるサービスを提供するためには、リアルな世界(店舗)とオンライン双方における改革が必要だと感じています。一消費者としても、ファッション・リテール企業には未来に向けた進化の姿勢を期待したいです。


 

 

R I N A

90年代の米国がネットバブルだった頃に米国にて日本向けのファッションポータル事業にコンサルタントとして関わる。

 

以降、「ファッション」と「インターネット」上で行われるビジネスを中心とした事業に15年ほど携わり、Web製作やディレクション、ビジネスのコンサルタントを行う。現在は米国のファッション事情やトレンド、ファッションとIT関連を中心とした執筆、今までの経験と知識を活かしビジネスサポートも行っている。

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