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2020.06.09

中国ではすでに文化として定着!? 次の時代のスタンダード中国ライブコマースの実態に迫る

アパレルウェブ「AIR VOL.35」(2020年5月発刊)より

上海ファッション・ウィークとアリババの提携に関する告知

 2020年3月下旬、新型コロナウイルスの影響で、中国上海ファッション・ウィークがライブ配信を活用して実施されました。アリババによる全面的な技術支援のもと、アリババ傘下のECモール「Tモール」で、参加するブランドのファッションショーをライブ配信すると同時に「See Now Buy Now」というファッションショーに登場する商品をリアルタイムで購入できる仕組みを展開しました。また、参加するブランドのデザイナーとライブコマースのライバーによる対談やインタビュー番組の配信も実施。デザイナー自ら商品を紹介し、ライブチャットを通して、ユーザーの質問に答えるという試みもありました。実はこのライブ配信を活用したライブコマースは中国で、ファッションを始めとした幅広い分野で日常的に取り組まれています。なぜここまでライブコマースが中国で定着しているのか?その実態と経緯をご紹介します。

ファッションショーからECまで中国のライブコマース文化とは

 世界中でファッション関連のイベントが中止・延期となる中、中国はこのタイミングで完全なるデジタル上の購買体験の提供に踏み出しました。新型コロナウイルスの影響をきっかけに、中国ではライブコマースがさらに普及、新しいECのスタンダードとなりつつあります。上海ファッション・ウィークの期間中、約150回のファッションショーが配信され、初日だけで約600万人の視聴者がライブ配信に参加しました。以前からTモールに出店している「ICICLE」というファッションブランドは、新型コロナウイルスの影響で店舗を休業している中、ファッションショーのライブ配信に参加し、ライブ配信の当日には昨対比121%の売上増を記録しました。このように、店舗の休業をカバーするためにライブコマースの取り組みが過熱しています。今回の上海ファッション・ウィークがスムーズにライブコマースに注力できた理由は、ここ数年中国で、ライブ配信が“文化”として定着しつつあることが一番の要因です。中国のEC市場は、Tモール・タオバオ(アリババ)、JD.COM(京東集団)、ピンドウドウ、WeChatモール(テンセント)が存在感のあるEC、企業として有名ですが、4社ともライブコマースに力を入れています。

ライブコマースを通して、中国の有名なスタイリストとライバーがICICLEを紹介する動画

ライブコマース市場は大手だけでなくスタートアップ企業も存在感を発揮

「快手(かいそう)」のアプリ

 今回はその中のアリババ傘下の「タオバオライブ」と、ライブコマースに特化した新興スタートアップ企業として台頭する「快手(カイソウ)」をご紹介します。「タオバオライブ」は2016年に、ECモールの「タオバオ」のプラットフォームをベースに新たに開発されました。2020年の3月末に発した「タオバオライブ」の運営状況によると、2019年の年間の流通取引総額が2,000億人民元(約3兆円)を突破し、2019年の独身の日セール(11月11日)は当日だけで、流通取引総額が200億人民元(約3千億円)を突破しています。2016~2019年は連続して、昨年比150%以上で流通取引総額は増加しており、ライブコマース市場において中国最大手となっています。

 

 一方、2011年に創立したスタートアップ企業「快手(カイソウ)」も今中国で注目されています。「快手」はもともとGif画像をシェアするSNSアプリでスタートしましたが、2012年にはショートムービーをシェアするSNSへビジネスモデルを転換しました。その後、使いやすさと多彩な加工機能を武器に、ユーザーを順調に獲得していき2019年6月にライブコマースへ参入しました。この「快手」2020年1月の時点では、10~30代の女性を中心にデイリーアクティブユーザーが3億人を突破しており、ライブコマースでは、ファッション、コスメ、健康食品などのジャンルがメインとなっています。また「快手」にはユーザー数以外に大きな特徴が2つあります。

 

 1つはライブコマースの普及に向けたエコシステムの構築にも注力している点です。「ライブコマース大学」という学習プログラムを設けており、ライブコマースへの参入に興味のあるKOL(Key Opinion Leader、特定の専門領域において影響力を持つ個人ユーザー)や企業に向けて、ライバー(ライブコマースを専業として活動するKOLのこと)の育成研修を行っています。そしてもう1つが「MCN(Multi Channel Network)」という取り組みです。MCNとは「快手」が自社のプラットフォームを通して、投資家、ライバー、企業(ファッション、コスメブランドなど)、サプライチェーン、タレントマネジメント会社などをマッチングし、自社も含めたライブコマース業界全体の活性化を図るものです。最近では「快手」だけではなく、MCNに特化した新規参入企業が増加しています。プラットフォームの整備、ノウハウの教育、マッチング精度の向上など、複数の要因が重なることで中国のライブコマースはユーザーにとって身近な“文化”として定着しつつあるのです。

ライブコマースが成熟、人気の職業に「ライバー」が

「薇婭(Viya)」のタオバオライブのお知らせページ

 文化として定着しつつある今、中国ではライバーが理想的な職業として台頭し、若年層の憧れの的にもなっています。「タオバオライブ」において最も「売れっ子」である「薇婭(Viya)」という女性ライバーは2016年からライバーとして活動を開始、2017年には彼女のライブ配信を通じて、5時間で取引額が7,000万人民元(約10億円)を突破したという記録を残し、一躍有名になりました。Viyaは現在も「タオバオライブ」で約230万人のファンを有し、成功したライバーとして認識されています。また、これまでの成功体験を活用し、ファッションブランドやコスメブランドのプロデュース、更に自身で「MCN」の企業を経営しています。彼女がライバーとして成功した背景には、ファッションブランドから家電、日常生活、車など広いカテゴリーで活躍したことがあります。一般的に、ライバーの収入源は、取引額における20%~40%と言われ、商品の販売元企業がライバーへ支払います。中国のメディアによると、中国の若者にライバーという職業が人気な理由の一つとして、自身のファン獲得に向けた努力が、ライブコマースを通じた取引額によって数字として可視化される点にあるそうです。

今こそライブコマースに挑戦!

 新型コロナウイルスの影響から、店舗を休業せざるを得ない状況の中で、InstagramなどのSNSを活用し、顧客の問い合わせに対応したり、ブランドの近況を報告するといった事例が日本でも増えていますが、さらに中国では、お客様との対面接客をライブコマース上で実践することが当たり前となっています。もちろん、この背景には、多くの有名ECが積極的に挑戦しており、ノウハウを教える仕組みが整いつつある。中国はEC化率がそもそも高いなど、中国特有の要因もありますが、デジタルでコミュニケーションをとるという点において、今日本の企業もチャレンジできる取り組みではないでしょうか。機会損失を少しでも防ぐための手段として、この機会にライブコマースを検討してみてはいかがでしょうか。

このコンテンツは弊社の会員誌「アパレルウェブイノベーションレポート」の35号から転載しております。

 

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