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2020.05.29

IT、ICTを生かした新しい切り口の顧客サービス

 新型コロナウイルスの影響で出されていた自粛要請が、一部の地域でようやく解かれるようになってきた。関西のアパレル関連企業や商業施設でも、営業を再開するところが徐々に増えている。物理的な顧客との触れ合い――対面での接客ができなくなった自粛期間だが、ITやICTを生かした新しい切り口の顧客サービスも模索されるようになっている。

自社アプリを活用した囲い込み策――チュチュアンナ

チュチュアンナの「おうち時間」提案

 最初に言葉の定義を明確にしておくと、ITは「Information Technology」の頭文字で、主に「情報技術」と訳される。ICTは「Information and Communication Technology」の頭文字を取った略語。ITとほぼ同義だが、“Communication”の一語が入っており、より人とのコミュニケーションを意識した情報技術と言える。アパレルや商業施設が取り組んでいる顧客サービス向上のためのITとは、厳密にはICTを指すと考えていいだろう。

 

 大阪市内に本社を置く、レディスの靴下やインナーを企画・販売するチュチュアンナ。屋号が「チュチュアンナ」の実店舗が主力だが、そのほか自前で開発したモバイル向けアプリケーション(アプリ)を活用し、実店舗の販売強化や顧客の囲い込み、ECの拡販にも取り組んでいる。これはコロナウイルスが発生する前からの施策で、直近ではアプリのダウンロード数が260万人に達している。

 

 アプリのダウンロードは、顧客の来店頻度を高める効果につながっている。接客を通じて、店頭スタッフがアプリを紹介するケースが多いようだ。ダウンロード後の顧客へのアプローチは、過去の購買履歴や属性を基に決定している。

 

 またこのアプリは、ECサイトへ顧客を誘導することにも役立っている。最も利用頻度が高いであろう割引など「合理的価値の訴求」にとどまらず、消費者のニーズをとらえた商品提案――例えば、「家トレ」(自宅・自室でのトレーニング)や「お家時間」(自宅で過ごす時間)というシーンに適した商品、人気モデルによるコーディネート紹介などが人気だ。

 

 4月8日以降の自粛期間に、ECの利用客が飛躍的に増えたという。店舗が閉鎖されたことで、買い物がしたい顧客がECへ一気に流れ込んだ形だ。多くの店舗数を抱える「チュチュアンナ」は、リアル店舗に訪れていた顧客数も多く、ECへの流入は大きいようだ。

 

 成功事例の1つが、先にも少し触れた「お家時間」という提案。同社のサイトでは「誰よりも可愛い、おうち時間。」と題し、自宅で過ごす時に最適な商品を紹介した。アプリの展開により、売り上げは着実に増えている。「当社とのタッチポイントが増え」たほか、「チュチュアンナ」というブランドを「想起してもらえる確率が上がる」(広報)ためだと分析している。

ファミリア、体感型イベントをオンラインで初開催

ファミリア、顧客向けの体感型イベント「プレママフェス – for the first 1000days -」(リリースより抜粋)

 神戸発の子供服メーカー、ファミリア。コロナ禍を受け、顧客向けの体感型イベント「プレママフェス – for the first 1000days -」をオンラインで初めて開催している。期間は5月23日から31日までの9日間。同社のオンラインショップおよび公式インスタグラムで提供している。

 

 対象は出産を控えた妊婦。出産に必要な準備やママ・パパになる人を対象にしたインスタライブによるセミナー、オムツの使い方などを紹介する内容だ。もちろん、その関連商材も併せて提案する。

 

 ファミリアもチュチュアンナ同様、リアル店舗が主体だが、神戸本店などが5月19日から時間限定でようやく営業を再開した。代官山や広尾の店舗は休業を継続している(5月22日時点)。

 

百貨店なども順次、営業が正常化へ

 緊急事態宣言の解除を受けて、在阪の百貨店も順次、営業を再開しつつある。阪急阪神百貨店は5月21日から、時間を短縮して営業を再開した(11時開業、19時閉店)。都市部の店舗については週末を休業にする。旗艦店の1つ、阪急うめだ本店では店舗の入り口と出口を分離して、「三密」を避ける工夫を凝らしている。現段階では、「従来の営業体制にいつ戻るかは未定」(広報)とのこと。状況を見ながら、随時方針を発表していく構えだという。

 

 近鉄百貨店は同月18日から、関西一円(大阪、奈良、和歌山など)の営業を再開した。10時開店、19時閉店が基本で、週末も営業する。大丸松坂屋百貨店は同月19日から、営業を再開した。大丸心斎橋店や梅田店、京都店、神戸店などで平日のみ、時間を短縮(11時から18時)して営業する。

 

 なお主なファッションビルでは、エストは22日から営業を再開した。天王寺ミオは時間短縮で営業中。ディアモール大阪は時間短縮で、同月16日から営業を再開した。ルクアは全館規模で休業中だったが、25日から限定的に営業を再開した(主に物販テナント。飲食テナントの大部分は休業を継続)。運営スタッフのテレワークも継続しており、当面は現在の体制での営業を続けるようだ。なお、ルクアは自社サイトにおいて、「おうち時間」の特設ページを展開中だ。出店するテナントの情報をまとめ、発信している。

 

 百貨店やファッションビルも、ICTを活用した顧客サービスの事例はあるが、自粛明けというタイミングもあり、この辺りは今後、落ち着いた段階でまとめられたらと考えている。ともあれ、ようやく通常に戻り始めた関西の流通現場。引き続き、新しい動きを追いかけたいと思う。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

 

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