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2020.05.27
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.66】クラシック回帰進み、サバイバル感濃く~2020-21年秋冬ファッションの6大トレンド~
宮田理江のランウェイ解読 Vol.66
2020-21年秋冬のファッショントレンドは「守り」に入った。コンサバティブ(保守的)という意味ではなく、それぞれのブランドが持ち味を守り、着る人を防護するようなプロテクションウエアを提案したという二重の意味だ。不安の時代を見越したかのようなダークムードが基調になる一方で、グラマラスな裏トレンドも浮上。ウイルスと共生する時代に、おしゃれの楽しさをささやくことも忘れてはいない。
◆バック・トゥ・ザ・クラシック(Back to the Classic)
復古調のタイムレスな装いが一段と盛り上がる。以前からの継続トレンドだが、エレガンス重視のレディーライクなテイストが濃くなる。基本の軸は英国のヴィクトリアン調やエドワーディアン調。ウエストをシェイプした、英国紳士服風のシルエットがリバイバル。アイテムの面でもテーラードスーツにスリーピースが登場。シャツ&ネクタイのプレッピー風マニッシュルックも打ち出されている。
淑女テイストを帯びたケープがクラシック回帰を印象づける。ガウン(マント、ローブ)も歴史を巻き戻すかのよう。正統派レディーのイメージをまとわせる小物では、ひじまで覆うロンググローブ(オペラグローブ)が目新しい。ビッグボウ(リボン)やピエロ風のビッグカラー(襟)、ボリュームのあるパフスリーブなどのディテールにもクラシック感が宿る。縁取り付きの胸飾りは王朝文化を薫らせる。アクセサリーではパールが主役に。古くささを避けて、モダンに整えるのが来季の手つきだ。
◆サバイバル&プロテクト(Survival and Protect)
地球規模の災厄に見舞われる中、ファッションにも「身を守る」という機能を求める気持ちが強まってきた。ウイルス以外にも気候や治安などの不安要因が多く、不穏な時代に備える人たち「プレッパー(Prepper)」の気分が写し込まれつつある。プロテクト(防護)意識を象徴するのは、ハードな見た目のボリュームアウター。全身を包み込むようなブランケット(毛布)アウターにも「守り」のムードが漂う。
サバイバルモードはアウトドアやミリタリーとつながる。戦場のコンバットブーツまでおしゃれアイテム化する。量感の豊かなアウター類もパフィに表情を変えた。タフ感の強いレザーはコートのキーマテリアルに昇格。つやめき素材のラテックス、PVC(ビニール)も出番が増える。リフレクター(反射材)やイエローといった、パワー、警戒などのニュアンスを帯びた表現も広がりそうだ。
◆リモデル、リボーン、リフレッシュ
(Re-model Re-born Re-fresh)
制服に代表される、なじみのある装いを新テイストでひねり返す試みが広がる。決まり切った居場所をずらす「シーンフリー」の発展形だ。基本の方向感は若々しく、いたずらっぽく。高校の制服ルックを取り入れた「モダンユニフォーム」は鮮度が高い。コンサバティブなウエアにカットアウト(くり抜き)のようなディテールで意外感を盛り込む工夫も増える。
1970年代のパンクロック、90年代のグランジを写し込むような、ロングフリンジの提案が相次いだ。単なる焼き直しを避け、踏み込んだ「再生」を試している。軍服に由来するトレンチコートはドレッシーに変形させた。ベビードールやフェイスベールといった、フェティッシュ感を宿すアイテムも濃度を落として持ち込まれている。オーソドックスな見え具合のチェック柄には、伝統的なイメージを揺さぶるアレンジが加わる。
◆アンチトレンド(Anti-Trend)
(左から)HERMES、LOEWE、JIL SANDER、AGNONA
流行に左右されない「スローファッション」が支持を広げつつある。追い風になったのは、「反トレンド」志向のサステナビリティー。レトロやヴィンテージの雰囲気を帯びたタイムレスな装いが定着へ。年齢やシーズンにとらわれないロングライフのおしゃれも加速。クラシック感重視の流れと同調して、着る側が「自分流スタンダード」を探る動きに、ブランド側も応えようとしつつある。ポリシーや哲学を求められるようになってきたことを受けて、本来の「立ち位置」を再確認する姿勢が目立っている。
それぞれのブランドならではのオリジン(原点)に立ち返る動きが一段と進む。スーツのテーラーリングが示すように、技法や素材でもオリジン志向が強まっている。歴史的なイメージを求めて、英国やフランスの宮廷服飾文化にも見直しが広がった。透けるシアー服を重ねる着こなしはオールシーズン仕様とエレガンス感を兼ね備える。紳士服風ベストを差し込むような着方は伝統をねじり返すかのよう。柄はチェック柄、ペイズリー模様がタイムレス感を寄り添わせる。
◆ダークフューチャー(Dark Future)
(左から)BALENCIAGA、VALENTINO、MIU MIU、MARNI
時代を先読みするクリエイターたちは、暗いムードを見通していたかのように、不穏で不安な雰囲気でコレクションを覆った。ユートピアの反対にあたるディストピア(Dystopia)感を帯びた装いの基調色はブラック。鈍いつやめきを宿すガンメタル、ダークメタリックも多用されている。レザージャケットやロングブーツとの組み合わせは映画『マッドマックス』の世界観に接近。タフでこびない「強い女」のイメージも立ちのぼらせた。
プロテクト意識とも共鳴する格好で、警戒感とデカダンス(退廃的)が交差する。ゴシックや近未来ムードも入り交じって、装いがダークトーンに。レザーコートや黒っぽいアウターが沈んだニュアンスをまとわせる。コンケープドショルダーやスリット、ビスチェやコルセットなどのウエストを強調したデザインで強さとセンシュアルな気分を帯びる。ハーネスやチェーンなどの小物・ディテールも危ういムードをはらんでいる。
◆グラムロマン(Gram Roman)
(左から)DRIES VAN NOTEN、Dior、FENDI、MSGM
主流トレンドの逆を行く裏トレンドが同時進行するのがファッション界の常だ。クラシック・正統派志向が本流となる一方で、グラマラス・ロマンティック傾向も勢いづく。混迷の時代に、夢物語で幻想をもたらすかのようなファニーシルエット、グラマーシェイプを提案。トリッキーな「遊び」も仕掛けている。
もこもこ起毛のボリュームアウターにはきらめくフェミニン寄りマテリアルで合わせて。ロングフリンジやアンフィニッシュが動きを加え、歩くたびにスウィング。巨大なパフスリーブは甘くサプライズな見え具合。ポケットはキーディテールに昇格。男性的なネクタイも首周りを彩る新ツールとして浮上。色はフェミニン度の濃いパープルやピンクが台頭。ジュエルトーンやメタリックは装いにグラム感を添える。
気候変動や国家対立、分断・格差など、既に見えていた不穏の気配を落とし込んだウエアが目に付く。危機に立ち向かう「攻め」の姿勢を打ち出した結果、クラシック回帰とサバイバル意識という、今の時代感にマッチしたテイストが呼び込まれた。ファッションを取り巻く状況の様変わりは避けられそうにないが、どんな事態を迎えても、創り手のポジティブな態度は、着る人に寄り添う、次のモードを指し示してくれそうだ。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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